【そんなに筋トレ出来ないよぉ!!】
僕と井上と賢治の3人は入院した由美さんの見舞いに来ていた。
「ゔぃ~ちっ,にぃ~いっ,さぁ~ん……」
「賢治、あと80回!!」
「腹筋100回なんて絶対無理だよぉ〜!」
病室でマイペースに振る舞う井上と賢治。
「どの過ぎた運動不足で内臓の筋肉まで弱るなんて、全く呆れるわね‥」手術の傷をさすりながら由美さんは弱々しく笑った。
賢治の腹はプヨンプヨン。おまけに筋肉量は極貧レベル。
たるんだ生活とともにたるんだ内蔵。内臓下垂のせいで圧迫された腎臓に激痛を伴い大騒ぎ。
そんな賢治は病室で井上に筋トレをさせられていた。
コンコン、
「糸倉さん、調子はどうですか?おいこらお前ら、病室であまり騒ぐなよ」それは回診に来た吉田先生だった。
「ちょっとお腹診ますよ。まだ抜管する(チューブをとる)には早いかな。まだ無理はしないでくださいね」
ようやく術後の痛みのピークを越えた由美さんだが、腹膜炎を起こし腸が破けていたせいでまだドレナージ(体内に貯留した膿瘍や血液や惨出液などを管などを留置し体外に排出させること)をしていた。
「賢治、背筋とスクワットも100回だかんな~」
「そんなに無理!絶対無理ぃ!」マイペースに騒ぐ井上と賢治。
「お前らうるさいから他でやれよ」
お腹を切った由美さんは今腹筋に力を入れれば激痛だ。
「いいわねぇ、私も早く腹筋出来るようになりたいわぁ。」
「まさか内臓下垂で救急に駆け込んだ研修医ってお前か?」
「なんで吉田先生まで知ってるんですかぁ。嫌だなぁ‥」賢治は情けない顔をした。
「検査結果見たぞ。健康体のくせに何言ってんだ。ちゃんと体鍛えとけよ。医者は体力勝負だからな!」
「でもリハビリだって毎日続けられてこそ意味があるわけじゃないですかぁ。これじゃ3日ももたないよぉ〜」
確かに。急に無理してもリバウンドしては意味がない。
「まぁ、ほどほどにな」そう言うと由美さんの診察を終え吉田先生は病室を後にした。
「そういえばあんたたちに聞きたかったのよ。夜中の見回りの人かしらね。なんか“カコーン、カコーン”って響く音を鳴らして歩いてるみたいなんだけどあれって何?なんか気になって眠れなくて‥」
「え? 何それ‥。夜の見回りとか静かに回るのがルールただよ?」
「え、嘘!あれって看護師さんとか警備の人の音じゃないの???」
「それって昨日だけっすか?」
「ううん、私が入院してからずっとよ‥」
そう言うと由美さんは急に不安そうな顔をした。実は由美さんはお化けとか会談とかそういう話が大嫌いなんだ。
慣れない入院生活。ただでさえ心細い病院で不安で眠れないなんてとんでもないことだ。