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【 緊急手術 憩室炎と癒着 】

下腹部の痛みを訴えていた妻の由美さんを心配してジョージは電話をかけていた。

「もしもし由美か? ……え? え? あ、はい……、はいそうですが……」


由美さんにかけたはずが、なぜか電話の相手は由美さんじゃなさそうだ。ジョージの妙にあらたまった言葉遣いに僕と井上と賢治は首を傾げた。




ブーーーッ、ブーーーッ、ブーーーッ! 

ズボンのポケットに入れていた僕の携帯が震えていた。


「なんだろ、父さんだ。仕事時間中に珍しいな…」

着信はこの大学病院に勤務する内科医である僕の父だった。


「(ピッ)……もしもし、父さん?どうしたの?」

『翔、実は今救急から連絡がきて、由美さんが急性腹症(腹部の急性炎症)で大学に運び込まれたんだ』


「えっ!?」

唐突な父さんの言葉に一気に胸がざわついた。


緊急手術オペになるかもしれないんだ。お前今どこにいる?こっちに来れるか?ジョージには病院から連絡がいったはずだけど、店があるから付き添うのは難しいだろう。父さんも診療があるからお前が付き添ってくれると助かるんだが…』


「由美さんが緊急手術?」

隣りで聞いていた井上と賢治も顔を見合わせた。


父さん曰く炎症部位が穿孔した(穴が開いた)ようで今はCT検査の結果待ちとのことだった。


「わかった。今フェルマだからすぐ行くよ」

僕は慌てて店のエプロンを脱ぎ捨てた。



「翔、由美が……」

ちょうど病院との電話を終えたジョージの顔は心配でひどくゆがんでいた。


「ジョージそんなに心配すんなよ。ひとまず俺が行って様子見てくるから」

そう言って僕は店を手伝える賢治にジョージと店を任せ、急いで井上と店を飛び出した。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


僕らが駆けつけると時間がとれたのかオペ室の前で僕の父さんが待っていた。


「突然呼び出して悪いな。今ちょうどオペ室に入ったところだ」

「おじさん、由美さんアッペ(盲腸炎)っすか?」井上が父さんに聞いた。

「いや、憩室炎けいしつえんだな。CT見るか?」


憩室というのは消化管(主に大腸)にポコポコとできた風船のような小さな袋で、盲腸炎のように異物や糞石などが原因で二次的な細菌感染により化膿性の炎症を起こすことがある。


僕らはCT画像を覗き込んだ。膿瘍を形成し(膿をためて)パンパンに腫れあがった上行結腸部の憩室が破れ炎症が腹腔へ。対象的に健康的なヒョロヒョロっとした虫垂がきれいに見えていた。


「なんでこんなになるまで我慢したかなぁ」井上はため息混じりに言った。

「痛みの感じ方は人それぞれだからな。由美さんも“ こんなことになるなんて”って驚いてたよ」

僕はCTを見ながらあることに気が付いた。

「あれ?ねぇ、もしかして…由美さんって右の卵巣とって(切除して)るの?」

「ああ、若い時に右だけとったみたいだな」父さんが言った。

僕は由美さんに手術歴があることすら知らなかった。

「本当だ。ってことは癒着があるかもしれないってことか…」


井上の言った癒着とは一度手術した部位などに起こるもので、本来はくっついていない部分が炎症などのためにくっついてしまうことだ。癒着があっても、特に症状がなければ普段は問題ないが、手術するとなると話は別だ。癒着部位を慎重に剥がしながらとなると手術の難易度が格段に変わってくるのだ。


過去の卵巣摘出手術の方法はわからないが、右下腹部の手術歴があるということは当時の術後の癒着も十分に考えられる。


通常スムーズなら1時間ほどで終わるオペでも、腹膜炎を起こしていたり癒着があればオペ時間もかなり変わるだろう。


同じような手術でもその時々の条件によって難易度やリスクが変わってくる。そんな現実を僕らは突きつけられた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【 病院検査 年齢というリスク 】


* 2週間ごとの更新予定となります

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

当小説の内容、文章を無断で転載することを固く禁じます。


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