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【 僕らのたまり場 カフェ・フェルマータ 】

グ――――、キュルキュルキュル!!


賢治と井上の腹が豪快に鳴り響いた。

「翔、腹減った!早くフェルマで飯にしようぜ!」

「へいへい」

美しい満開の桜を前にまさに花より団子。僕は呆れながらも、ふたりと一緒に桜並木を抜けいつもの‶たまり場″へ向かった。


カランカラ―ン!ドアの鐘が鳴り響いた。

「ジョージ、ただいま〜」

店に入ると、フワっと香ばしいコーヒーの匂いに包まれた。


大学の付属病院の裏手にあるこのカフェは、僕の叔父、糸倉(いとくら) 譲二(ジョージ)のお店。

僕の長年のバイト先でもある。


〝Cafe Fermata(カフェフェルマ―タ:通称フェルマ)〟

僕の亡くなったおじいちゃんが始めたお店で、年期の入った店内はちょっと古臭いがレトロな雰囲気がいいと、最近ではすっかり若者に人気になっていた。

お気に入りの曲を聴きながらゆっくりコ―ヒ―を楽しんでほしい、音楽とコ―ヒ―が大好きだったおじいちゃんのそんな想いがつまった店なんだ。


「ちわ―っす!マスター、腹減った~」井上と賢治はいつものカウンター席に腰かけた。

「お、来たな新米ドクターズ!お前ら今日からお医者さんデビューだろ? 初日のお勤めはどうだった?」

お調子者のジョージはいつものバカでかい声で言った。


「残念ながら今日はオリエンテーションだけっすよ。それよりマスター、飯、飯!!」

「もう腹ペコすぎて死んじゃいそうですぅ〜」

井上と賢治は騒ぎ立てた。


「あいよ!でも悪いがちょっと待ってくれ」

大量のテイクアウトでも受けたのだろうか。

たいして混んでないのにジョージはやけに忙しそうだった。


「ジョージ、いいよ。みんなの分は俺が作るから」僕はスーツのジャケットを脱ぐといつものように店のエプロンをひっかけた。


「翔、俺はナポリタンいつもより大盛で!」

「翔ちゃ~ん、俺はペラペラたまごのオムライス大盛りでぇ~♡」

「はいはい」高校の時からずっとこの店でバイトをしている僕にとってこの店の定番メニューを作るのは朝飯前。


僕らは医学部入学当初から卒業までの6年間、講義が終わるとこの店に集まっていたんだ。コイツらのナポリタンとオムライスも今やどれだけ作ってきたかわからない。


僕は不意に懐かしくなり当時のことを思い出した。


入学当初、実は僕は賢治や井上のことがあまり好きではなかった。賢治なんて清潔感のかけらもなければ完全不真面目、授業は全部寝ているしレポートは全部僕の丸写し。井上は授業中も含め四六時中麻雀のことばかり考えていて、テストを落としまくっては僕に泣きついてくるような奴だった。


あまり騒がしい人付き合いが苦手だった僕は、授業が終わればスッと同級生から離れこのフェルマで心穏やかに過ごていたが、コイツらはいつの間にか押しかけてくるようになってしまったんだ。


6年という長い大学生活。僕らにとっては全力で駆け抜けた青春時代だった。笑って泣いて時には大喧嘩もした。色々なことがあったけどこの店はそんな僕らの医学生時代の青春が詰まった場所なんだ。


「翔ちゃん、オムライスちょっ早でお願いねぇ〜♡」

「はいはい、わかってるよ!」

急かす2人を前に僕は気合を入れてシャツをの袖を捲り上げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【 下腹部の痛み 】


* 2週間ごとの更新予定となります

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

当小説の内容、文章を無断で転載することを固く禁じます。




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