⑲敦子、喪失
「申し訳ないが、やっぱり、言えないんだ……」
オレは敦子さんに、謝ったんだ。
だってそうするしかないだろ。
「うん、分かってる。もうわがまま言わないよ」
敦子さんは急に
冷静に、そう、言うんだ
「ごめんね」
「いいんだよ」
モーニングのトーストを口にすると、敦子さんは
楽しそうに、そして寂しそうに微笑んだ。
「でも快ちゃん、突然いなくなったりしたら寂しいな」
えっ
なんでそんな風に思うの?
「……どうして」
「いや、何となくわかるよそれくらい」
そうだよな。一緒にいること多いから伝わるのかも。
「それでね、私も会ったんだよ、あの人たちに」
えっ
「あの、クーミンさんたちにね」
からだじゅうの力が抜けて、自然とぶるぶると震えが止まらなくなった。
「エッ、な、なんでそれを」
「あのね、わたし祈ったんだあ。快ちゃんと同じ境遇にしてくれませんかってね。ずーっとずーっと祈ったんだよ」
そうすると、どうなる。
「そうしたらだんだんクーミンさんたちが、見えるようになってね」
「な、なんてことを……」
「でもね、やっぱり快ちゃんみたいにクーミンさんたちの仲間になるのは無理だって」
「そ、それは……」
やはりそれは無理なのか。
「それでね、まさか死んじゃう訳にはいけないから、生まれかわることにしたんだ」
な、何を言ってるんだ。
「生まれ変わればさ、記憶は無くなるにしても、ワンチャン快ちゃんに会えるかーも知れないでしょ」
なに明るく言ってんだよ。
「や、やだよ」
「うん、いいの。もう決めたもん」
「今からでも止めてやる」
「ダメだよ、もう契約しちゃったもん」
「な、なんてことだ」
オレは頭を抱えてうずくまった。
「快ちゃん、星の王子さまのはなしって知ってる?」
こんな時何を言い出すのか。
「……ばくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その一つの星のなかで笑うんだ。だから、きみが夜、空をながめたら
星がみんな笑ってるように見えるだろう」
オレは少し時間をおいて、本の言葉をおもいだそうとした。
「……ぼく、きみのそば、はなれないよ」
「だああいせええいかあああい!」
そして敦子さんは、まるで一本の木が倒れでもするように、しずかに倒れました。