⑰愛
「ねえ、快ちゃん最近おかしくない?」
もうお忘れかも知れないが、麻生快あそうかいには敦子あつこさんという年上の彼女がいた。
ふあいなる・りせったーずという大嵐に翻弄されて、満足に社会生活は営めていなかったが、彼女とは別れていなかった。
昼下がりのカフェで、二人はちょっと遅いランチを食べている。
「快ちゃん、何か悩んでるし、隠してるでしょ」
「あ、いやそんなことは」
「わかるよー近くにいれば。でも変に心配し過ぎてもウザイでしょ」
敦子さんの気持ちは、痛いほどわかった。
でも秘密を打ち分けるわけにはいかない。というかオレはもう半分はこっち側の住人ではないのだ。
「辛いけど、言えないんだ」
「うん、よっぽどの理由なんだね。無理にとは言えないけど……」
敦子さんは大きくため息をつき
「でも、こっちも辛いわあ」
すくいあげたパスタは、絡みあいながら、フォークの隙間をするりと落ちていった。
「どうしても教えてもらえないのかなーー」
敦子さんは、わざとおどけた風に言った。
「これを言うと、身に危険が及ぶんだよ」
「それは、私に? 快ちゃんに?」
「どっちもだよ」
敦子さんは長い溜息をついて、ゆっくりとティーカップの紅茶をすすった。
「それでも、できれば快ちゃんと一緒に苦しみたいなア」
ここまで言われては、もう引くことはできない。
「わかった、奴らと交渉してみる」
「奴ら? それって交渉するものなの?」
「やってやるさ」
勝算は全くない戦いだ。なにせあのクーミンたちだ。
身震いがしてきた。
「なあに快ちゃん、ビビってんの?」
「そんなことは……」
オレの口を塞ぐように、二人はそっとキスをする。
それから長いキスをする。