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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ドラゴン編
97/304

97 現れたドラゴン

新しい地図を公開しました。

daimaoukenjiで検索して下さい。

 ロブール川はローブ湖を水源として、バーンズ帝国と、フィリギア王国の国境を流れる川である。

 そのロブール川の河口近くに、漁業と痩せた土地での農業を営む、ジーバと言う名の寒村があった。


 ジーバ村の北には草木が僅かしか生えていない岩山があり、岩山の向こうの深い谷を越えた先には、ロブール川まで続く肥沃な土地が存在した。

 村の産業は漁業と農業であり、わずか数人存在する猟師もいたが、岩山を越えて谷の先にある、獲物も多い肥沃な土地を目指す者は居なかった。


 それには訳があった。


 岩山にはアーグラという名の、地下の穴に住む魔物が存在したのである。六本足の非常に硬い皮膚を持つアーグラは、蜘蛛のような姿をしていて足を伸ばせばニメートルほどの大きさである。


 日光や火の明かりを嫌い、穴の中か夜にしか行動しない。三十匹~五十匹単位の集団で住むアーグラは、それぞれの集団が、岩山のあちこちに縄張りを持って生息している。

 岩山は食料の少ない場所であり、彼らは縄張りに入って来た生き物を、地下に張り巡らせた穴を移動し、執拗に狙うのである。


 ……もう一つ、猟師が肥沃な土地を目指さない訳がある。


 それは、その肥沃な土地には、ロブールドラゴンが住んでいるからである。最大全長が十メートルにもなる、蜥蜴トカゲに似たロブールドラゴンは、昔からこの土地に少数の個体が住んでいてその名前で呼ばれている。


 肥沃な土地が、数十年に一度の割合で獲物が減る時があり、その時は競争に敗れた個体が、餌を求めて岩山を越えて村までやって来ることもあった。

 その時は、流石に貪欲なアーグラも、恐れて穴からは出て来ないそうである。


 たいていは単体で現れ、暴れ回った後に帰って行くのであるが、遥か昔に三体が同時に現れ、南東の港町ターズまで進んだことがあり、その時は多くの一般住民と兵士が命を落として撃退したと記録されている。


 ……そのような危険と隣り合わせのジーバ村であるが、よそで生きて行く手段を持たない者は、しがみ付くようにしてこの村で生きていた。

 当然であるが、そんなギリギリの生活では、他人を助ける余裕はない。自分が生きて行くだけで精一杯なのである。





 ここは周囲を高さ五メートルの防壁で囲まれたジーバ村である。日が落ちれば屋外の通路に外灯などの設備は無いので、村の中は急速に闇に包まれる。今夜は雲の多い天気になりそうであった。


 日付が変わろうとする時刻、ロシェとハリスの兄弟は自宅から外へ出た。兄のロシェは十六歳。弟のハリスは十四歳である。二人とも金髪で幼い顔をしている。


 ロシェは出て来た自宅を振り返って見上げた。屋根も壁も薄い板を打ち付けただけの粗末な建物である。間取りも寝室と居間と水回りだけであった。

 母親は数年前に病気で亡くなっていて、父親は猟師をしていたが獲物は少なくて、貧しいジーバ村の中でも、最底辺の生活を送っていた。


 その父親は十日前に、狩りに出たまま帰って来なかった。少しでも大物を狩ろうと、岩山にある僅かな森へ向かうと話していた。

 その辺りはアーグラが棲んでいる危険な場所である。


 兄のロシェは弟を見た。


 「ハリス。父さんはもう帰って来ない」


 弟のハリスは涙を溜めて無言でうなづいた。

 父親が持って出た食料は五日分であり、生きているなら、ずいぶん前に帰って来ていなければならない。


 このような寒村で、十六歳と十四歳の二人が食べて行ける仕事などは無い。備蓄してあった食料は底を尽き、兄弟ともに三日間、水以外は何も腹に入れていなかった。


 「自分らが生きて行くだけで精一杯なこの村では、誰も助けてくれる者は居ないんだ。分かっているよな」


 真剣な表情で兄に見詰められ、ハリスがうなづく。


 「このまま黙って死ぬか……死なない為に、他人を殺して生き残るかだ。俺もお前も生きて行くことを選択した」


 ロシェは、昨夜、何度も話し合って、二人で決めた結論を口に出した。

 彼の腰には父親のものであった片手剣が差してある。弟のハリスは短刀を懐に隠している。そして二人とも黒いリュックサックを背に負っている。


 二人は今から強盗を働こうとしていた。


 できれば見つからずに他所の家に侵入し、食料と金を奪い、夜の間に村の防壁の外へ出て、逃げるのである。

 夜に村の外に出るのは非常に危険であるが、このまま何もせずに自宅に居れば、体力は直ぐに落ちて行き、強盗をする力も気力も無くなって、死を待つより外なくなる。兄弟はその前に行動を起こしたのである。


 「良いかハリス。決めた通り、見つかって騒がれそうになったなら、俺がる。俺は躊躇ためらわない。生きる為なら何だってやるぞ」


 勇気を絞り出す為に、自分に言い聞かせるようにロシェは口に出して言った。


 「……そして、お前は手を出すな。良いな」


 念を押した。出来るならば弟に殺人を犯させたくない。


 押し入る標的の家は、三軒隣の老夫婦が住む屋敷であった。彼らの家とは違って二階建ての立派な建物である。

 村に入植する者は滅多に居ないが、老夫婦は十年ほど前に越して来ていて、付き合いもほとんど無い。仕事もしていなくて、小金を持っているのであろうと噂されていた。


 二人は闇に紛れて、老夫婦の家の近くの物陰に移動した。気配を伺って大丈夫であると確信すると、建物の裏手に回った。そこには裏口がある。


 「行くぞ」


 ロシェは別に持って来たバールを手にした。田舎なのでたいていの家に鍵は掛かっていないのであるが、もしも鍵が掛かっていた場合はこれで無理やり開けるのである。


 ロシェとハリスの兄弟が、決意して飛び出そうと構えた時、近くで大音響が鳴り響いたのであった。


 「ドドォーン! ドーン!」


 空気と地面が揺れ、二人は慌てて再び物陰に身を隠した。


 (何だ! 何が起きたんだ!)


 轟音は二人が出て来た自宅の後方の、村を囲う防壁の方から聞こえて来た。


 「どうしたー! おーい!」


 何ごとが起きたのかと、表通りを松明を手にした村人が数人走って行く姿が見えた。


 「ドォーン! ドォーン! メキメキ!」


 ついには防壁が壊れるような音まで伝わって来た。





 眠っていた男は、大音響と地響きを感じて家を飛び出した。月は黒雲に覆われて村の中はうす暗い。


 何とか僅かな月明りと、通りの左右の家から漏れる明かりを頼りに、音の聞こえた方へ走って行くと、彼と同じように走って行く村の住人が見えた。

 中には松明を手に走っている者の姿も見える。


 「どうした! 何の音だ!」


 音が響いているのは、村の周囲を囲っている北側の防壁であった。防壁は太い丸太を切って来て、地面に並べて立てたものであり、横木を繋いで補強してあるのだが、音のしている部分は根元が腐って悪くなっていて、近い内に交換する必要があるヶ所であった。


 現場に到着すると、思った通り悪くなっている防壁が揺れていた。

 彼の横に村人が数人駆け付けて来た。誰もが不安な面持ちで揺れる防壁を見上げている。


 「ひょっとして、奴がやって来たのか」


 声には焦りが感じられる。


 「間違いない……油断していた。防壁を早目に修理しておくべきだった。何とか耐えてくれ!」


 後悔しても、もう遅い。

 彼らが祈るように見つめる中で、大木の数本が根元から折れ、村の中へ倒れて来た。


 「ああ! 家が一軒、潰れてしまったぞ! あそこは猟師の家じゃ無いか。確か子供が二人いるはずだ!」


 叫んだが見ているだけしか出来ない。壊れた防壁の向こうから巨大な目玉が現れ、こちらを見たのであった。


 「で! 出た! ロブールドラゴンだ!」


 ドラゴンは壊れた防壁に、体当たりを始めたのであった。






 「うわぁーっ! うわわぁー!」


 つい先ほど、音の方へ向かって行った松明を持った村人が、今度は慌てて逆の方へ逃げて行く姿が見える。


 「出たぞ! ロブールドラゴンだ! ドラゴンが出たぞ! 防壁が壊された! 逃げろ、食われるぞ!」


 誰かの叫び声が聞こえた。ロシェとハリスは暗闇の中で顔を見合わせた。

  

 数十年に一度くらいの割合で、ロブールドラゴンという蜥蜴トカゲに似た魔物に、村が襲われる話は、子供の頃から聞かされていた。経験の無い彼らには、どこか遠い世界の出来事のように聞いていたのであるが、それが現実に今、起こっているのである。


 数十年前、村が襲われた時は、防壁を盾に守り切ったようであるが、先ほど聞いた音は壁が壊れる音であった。


 「ぎゃー! 逃げろー!」


 表通りはパニックになっているようで、多くの人が逃げて行く。音がした方の空が赤くなったのは、どこかの建物が壊されて、火事が起きたのかも知れない。


 「ハリス! きっと老夫婦はこの騒ぎで家を逃げ出したはずだ。今なら見つからずに食べ物が奪えるはずだ! 行くぞ!」


 ドラゴンが、どこをどう襲っているかは分からなかったが、危険ではあるがチャンスは今であると思い、二人は物陰を飛び出して裏口へと走った。

 幸運にも裏口に鍵は掛かっていなかった。


 思った通り飛び込んだ家の中に人の気配は無かった。ドラゴンと聞いて、何も持たずに慌てて外へ逃げ出したのであろう。奥の居間は蝋燭が点いたままで明るかった。

 裏口から入った直ぐ横には、地下へ降りる階段が付いていた。壁に燭台があり、蝋燭の火が灯ったままである。


 「しめた! ついて来いハリス!」


 燭台を手に階段を降りて行くと、予想した通りそこは食糧庫であった。棚が何段もあって肉や魚の乾物と、芋などの野菜も乗っている。

 二人は芋を口にくわえると夢中で食べながら、背負って来たリュックサックに、食料を詰め込み始めた。


 「ハリス。重いものは詰め込むなよ。走れなくなる」


 弟は芋を頬張りながらうなづいた。

 ロブールドラゴンは近くで暴れ回っているらしく、地下の食糧庫にまで振動と叫び声が聞こえて来る。

 もしもこの瞬間に家が崩れれば、二人は生き埋めである。


 そんな恐怖を感じながら、兄弟は必死でリュックサックに、食料をあらかた詰め終わると。


 「後は金だ。家の中を探すぞ!」


 「でも兄ちゃん。ドラゴンが……」


 弟が不安げな顔になった。ロブールドラゴンの叫び声は直ぐ近くで聞こえている。

 ロシェは弟の肩に両手を置いた。


 「分かってるハリス! これは賭けだ! このまま村を出ても、結局、途中で魔物に襲われて二人とも死ぬかも知れない。上手くどこかの町に行き着くまで生き延びたとしても、金が無くてはやっていけないんだ。ここまで来たなら、一か八かだ。死ぬ時は一緒だ!」


 「……分かったよ兄ちゃん」


 「うん! 手分けして探すぞ!」


 二人は食糧庫から階段を駆け上がって行った。


 ……そして、慌てて家を飛び出したものの、後から思い出し、危険を冒して大切な物を取りに帰って来た老夫婦と、鉢合わせすることになったのである。

生き物の究極の目的は、生きること、子孫を残すこと。

それ以外に何がある?


自分が生きる為に、他人を殺すのは、正義か悪か!


何だ。この重い命題は?

と、思いつつ書いて行きます。


ほぼ、いつも飲みながら書いていますので、気楽に読んで下さい。

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