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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
海神の祠編
86/304

86 海の首飾り

 【『海神の祠』の台座から、『海神像』が消えた!】


 それは衝撃的な事実として船主組合に伝えられた。

 『海神像』が台座にあってこそ、アーバス近海の海は平和が保たれているのである。『海神像』の不思議な力は、アーバス近海に魔物を近づけない効果を持っているのである。


 その効果がすぐに消える訳では無いが、魔物は徐々に陸地に近づき始め、商船の発着は元より、漁業も壊滅的打撃を受けることであろう。


 船主組合の組合長であるグレインは、体面にこだわる男では無く、緊急事態であると捉え、直ぐに冒険者組合に『海神像』の捜索願いを出したのであった。

 同時に、一般の腕に覚えのある者にも、賞金を懸けて『海神像』を捜索させることにした。


 ……しかし、それは『海神像』が消えたことを、港町アーバスの全住民が知ることとなり、町はちょっとしたパニックに陥ったのであった。

 もし、『海神像』が台座に戻らなければ、海運業と漁業で賑わうこの町の生活が、一変することになるのである。


 アーバスの冒険者組合からは、その時点で最強と言えるDランク冒険者のチームが三つ組まれ、早速、『海神の祠』の地下へと送り込まれ、冒険者の他にも、賞金目当ての町の腕自慢や、噂を聞いて他所からやって来たチームが地下へと潜って行った。


 それだけのチームが探索に向かった以上、早期に『海神像』は見つかるであろうと思われていたのであるが、予想に反して像は見つからなかった。

 なぜならば祠の地下ダンジョンは、思いの外、広範囲に枝分かれして広がっていて、深い部分に居る魔物は強敵であったのである。


 地下へ向かったチームのいくつかは、装備の変更や補給の為に地上に戻り、再び地下へと向かったのであるが、そのほとんどが無事に帰還することは無かったのであった。


 特にDランクの冒険者で構成された三チームが、帰還の予定日を過ぎても帰って来ない事実が判明すると、今度は誰も地下へと向かう者は居なくなった。

 賞金は欲しいが、命には代えられないからであった。





 「誰も探索に向おうというチームが現れないのか!」


 船主組合のグレイン組合長は、真っ赤な顔をして両手で机を叩いた。

 机の前では、報告を行った職員たちが震え上がっている。


 「チッ!」


 舌打ちしたグレインは、唾でも吐きそうに顔をゆがめた。


 「こうなれば俺が行くしか無いか!」


 腕に自信のあるグレインは、若い頃から海の魔物と何度も命懸けの戦闘を経験していて、代々船主の長であるグレイン家の長男に生まれていなければ、冒険者になっていたと、いつもうそぶいているほどで、実力は折り紙付きである。

 

 「ちょ、ちょっとお待ち下さい。流石に組合長が行かれるのは不味まずうございます。組合長に何かあれば、船主組合どころかアーバスの町が立ち行かなくなります」


 職員が慌てて止める。


 「ハッ! 俺が死ねば息子がいる。弟二人も補佐するだろう。誰も行かないなら、俺が行くしか無いであろうが!」


 グレインの身内には、十六歳になる跡取り息子が居る他に、現在は体調不良で療養しているが、四十五歳の弟アルビンと、四十一歳の末弟ゲイルがいる。


 『竜神像』を台座に戻すことは焦眉の急である。今のところ定期船に支障は出ていないが、大型の魔物が泳ぐ姿が確認された報告は入っていて、その内、船が襲われる事件が起きても不思議ではない。


 「それでも、しばし! しばし! お待ち下さい! 組合長が行かれるのは絶対に承認できません」


 グレインは肩をすくめると。


 「ならば何か別に、良い方法があるとでも言うのか」


 机の前に居並ぶ職員を見渡した。

 ‥‥職員たちは何か言いにくそうな顔になっている。


 「ほう。何か案があるようだな。言って見ろ」


 「は‥‥い」


 全員が口ごもったが、最古参の職員が皆に押されて前に出た。


 「賞金を……」


 「賞金額を上げよと申すのか? それは一度行ったであろう。それでも命の方が大事と、誰も地下へ行く者は現れなかったではないか」


 「いえ、賞金を辞めて、誰もが賞金以上に欲しいと思う物を、成功報酬とすれば良いかと、愚考するのでございますが」


 「はあ? 金以外に命を懸けてでも、欲しく思う物など……まさか?」


 思い当たったのか、グレインの目が見開かれた。


 港町アーバスで、代々大船主であるグレインの『海星屋』では、海の安全の為に命を張って死亡した当主も多い。

 そんな命懸けの貢献をした『海星屋』には、先祖の数名が何度か海神からの贈り物を授かっていた。

 屋敷の奥に祭ってある海神の神棚に、いつの間にか『海の首飾り』が置かれていたそうである。


 「まさか? 『海の首飾り』を報酬にせよと申すのか?」


 流石にグレインも息を飲んだ。首飾りは先祖から受け継いだ『海星屋』の宝である。


 「うーむ……」


 目をつむったグレインは、腕を組んで天を見上げ、その前に並んだ組合職員たちは、息を潜めて組合長の決断を待っている。

 賞金では無く『海の首飾り』が報酬になれば、世界中から命を懸けても、祠の地下へ潜るチームがやって来るであろう。

 ただし、問題は時間が限られているということである。


 グレインは、ゆっくりと目を開いた。


 「差し迫った非常事態だ、海神様も許して下さることであろう。『海の首飾り』を報酬としよう。……但し、首飾りは四本しか存在しない。通常チームは五人であろう。それでも良いか?」


 「勿論でございます」


 職員がうなづく。


 「首飾りは貴重なものでございます。たとえ四本であろうとも、世界中から優秀なチームが名乗りを上げるでしょう」


 「分かった……直ぐに『触れ』を出せ! 但し『海神祭』までは、あと、ひと月と少ししか無い。祭りの一週間前までに像が見つからない場合は、俺自らが地下へ潜るぞ。……その時は誰も反対するなよ」


 グレインは、その場にいる全員を見渡した。

 像が見つからない場合は『海神祭』は行えない。グレインは命を懸けて責任をとるつもりなのである。





 その日の夜。


 アーバスの港が一望できる丘の上に、古い料亭を改造した洒落た屋敷があった。

 その屋敷の一室では、テーブルを挟んで二人の男が座っていて、二人の前には豪華な肴と酒が置かれていた。

 人払いが行われていて、部屋の周囲には誰も居ない。


 「どうぞ」


 酒を注ぐのは『海星屋』の二番番頭のシュリフである。年齢は五十二歳。小男で頭は禿げ上がっている。

 酒を注がれた男は杯を口に運び、半分ほど飲むとテーブルへ置いた。

 その杯に再びシュリフが酒を注いだ。


 「そうか、今回は兄貴は祠に潜らないのか……代わりに『海の首飾り』を懸賞に出すとはな。首飾りは我が家の家宝なんだがな」


 つぶやいたのは『海星屋』の主人のグレインの、末の弟であるゲイルである。


 「はい。ですが大旦那グレイン様が地下に入らないのは、怖気づいた訳ではなく、職員の懇願を聞いただけで、このまま『海神像』が見つからない場合は、『海神祭』の一週間前には、自ら地下へ向かうと、おっしゃっられております」


 「そうか、それなら良い。兄貴はきっと地下に潜ることになるだろう……そして、帰って来ないことになる」


 笑みを浮かべたゲイルは杯を口に運び、置いた杯に再びシェリフが酒を注いだ。


 「お前も飲め」


 うなづいたシェリフが自分の杯を差し出し、ゲイルが並々と酒を注いだ。


 「大番頭オーキスが賊に襲われて死亡した。……その内、お前が大番頭に昇格だ。……兄貴が死ねば息子が当主に座り、二番目の兄アルビンと俺が息子の補佐に回ることになるが、アルビンは今は病気療養中だ……これも、その内、死ぬだろう」


 「……はい。例の無味無臭の微弱な毒を、水に混ぜて治療薬と共に飲ませております。まさか、水の方に、時間を掛けて死に至る毒が入っているとは、誰も気が付きますまい」


 「ふふふ」


 二人は同時に杯をあおった。


 「兄貴が二人とも消えれば、残った息子などどうにでもなる。時化しけの日に海に出て、船から落ちて死ぬなど良くある話だ」


 「はい」


 「俺が当主となれば、お前にも十分な礼をさせてもらうぞ」


 「楽しみに致しております」


 二人は肴に口を付けた。


 「ところで、台座から『竜神像』を奪った『不死教団』の者たちは、大丈夫なのであろうな。祠の地下に潜伏しておるのであろう? 魔物は像があれば近づかないであろうがな」


 周囲には誰もいないのであるが、ゲイルは声を潜めて尋ねた。


 「はい、食料と水は、地下へ向かう探索者の中に、手の者を紛れ込ませて届けておりました。一時、探索者が途切れてしまい、補給をどうしようかと焦りましたが、この度『海の首飾り』が報酬となり、再び志願する探索者が現れ始めましたので、問題は解消されました」


 「そうか、それなら良い……ところで、『不死教団』の方は信用できるのであろうな? 噂で聞いたのだが、イスター王国の方で、依頼者の名を暴露した者が出たと聞いたが」


 シェリフは首を振った。


 「その噂の真実は、『不死教団』の信頼を落とす為に、イスター王国がデマを流したとのことでございます」


 「そうなのか?」


 「はい」


 シェリフはうなづく。


 「国の為政者にとって、暗殺組織などあってはならないものでございますから、あの手この手で評判を落とそうと、考えておるのでございましょうな」


 「ふむ。それを聞いて安心したぞ」


 安堵した顔で、杯を口へ運ぶゲイルであった。





 ……イスター王国で調査を行っているアガシス司祭は、上手く偽の噂を流して、世間の情報操作を行っているようである。

今年もよろしくお願いします。


時間が取れなくて、更新が遅れていて申しわけないです。

来週くらいからは、やる気スイッチを入れて、元通りになると自分に期待しています。

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