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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
初陣編
62/304

62 野盗団壊滅

今回で、この章は終わりです。

 バーンズ帝国の辺境巡回隊を率いるホベック中隊長は、神出鬼没の野盗団『毒牙党』に翻弄され、悔しい思いを味合わされていた。

 こちらと思えば、あちらに現れ、ことごとく裏をかかれ、その度に辺境の村を蹂躙されている。このままでは帝国の威信は地に落ち、彼も左遷されることは目に見えて明らかでる。


 帝国としても辺境巡回隊を増やしたいところではあるが、領土の北東の地は魔王の国と接している為に、この地方へ派遣する、余分の兵力は無いのであった。


 (ひょっとすると、情報が漏れているのでは無いか)


 自分たちの動きを、野盗団に知らせる者が居るのでは無いかと、疑ってしまう彼であった。


 「ホベック中隊長殿!」


 前を行く小隊長の一人が戻って来た。


 「何だ」


 「はい。左の方の地平線に、大型の魔物の姿を発見しました」


 「何だと! すぐ見に行く」


 小隊長と共に巡回隊の先頭へ向かったホベックは、報告の通り地平線で動いている、黒い大型の魔物らしき姿を確認した。


 「発見したからには、放って置くわけにも行かんな……追って行って退治することにしよう」


 旅人や外で仕事をする村人と、魔物が遭遇する危険があり、現在、巡回隊が向かっている方向とは違うが、そのまま捨て置く訳には行かなかった。

 幸い魔物の動きは遅いようであり、追えば追い付けると判断した。


 こうして辺境巡回隊の八百名は、黒い魔物を追って進行方向を変えたのである。





 簡単に追い付けると思っていたホベック中隊長であったが、思っていたよりも黒い魔物の移動速度は速く、距離は縮まらなかった。


 「むむっ。どうしたことだ! 追えども追えども追いつかん。仕方がない、今回は諦めるとするか」


 「いえ中隊長殿、魔物が立ち止まったようです」


 「本当だ! 良し移動開始」


 こちらが動き始めると、再び相手も動き始める。こんなことが何度も繰り返され、ついには黒い魔物の姿を見失ってしまったのであった。


 「クソ! 馬鹿にされた気分だ!」


 腹を立てたホベックであったが、魔物の代わりにこちらへ向かって来る、人の集団を発見したのであった。

 幸いこちらは、見晴らしの良い小高い丘の上であり、相手より早く気が付いたのであった。


 「全員、頭を下げて、隠れて待機しろ!」


 近づいて来る集団をじっくり観察すると、規模から言っても、それは探し求めていた野盗団『毒牙党』の本隊に違いないと確信した。


 「何と言う行幸だ! まるで、あの魔物が我々を導いてくれたような奇跡だ」


 きっと偶然に違いないが、あの黒い魔物が、この場所まで誘導してくれたような気分であった。

 これは神がもたらした幸運である。もしも、あの黒い魔物を追わなければ、彼ら巡回隊は、見当外れの場所へ向かっていたはずである。





 およそ百人近い集団が、赤い大地の荒野を横切っていた。荷物を積んだ荷駄車が十台ほどあって、カルラッチの歩く隣りの荷駄車には、敷物の上に女が八人寝転がっていた。


 カルラッチは元フォーガ町の町長であった。リンバイ村で選別に掛けられ、頭目のラーバインが、フォーガ町の詳しい地図を描かせようと思い、殺されなかったのである。

 あれから数日が経っている。毎日夜に地図を書いているが、もう完成も近かった。


 (地図が完成すれば、私は用済みで殺される)


 カルラッチはそう確信している。地図製作以外に、彼を生かしておく理由は無いのである。


 彼は隣を進む荷駄車に乗っている女を横目で見た。その中に見知った顔があった。ソレイユと言う名の女で、最初はダンチェフと名乗った作曲家の、娘であると紹介されたのであるが、実際は彼の愛人であり、今は村から連れて来られて、毎晩、野盗の相手をさせられているのである。


 他に乗っている女同様、疲れ切っていて、振動の激しい荷駄車の上でも、死んだように眠っている。濃い化粧も落とさずにそのままで、やがて使い古されて捨てられる運命なのであろう。


 自分も彼女と同じ運命である。何としても逃げ出さねばとカルラッチは思う。逃げるには自力で逃げ出さなければならない。助けは絶対に来ない。一度でも野盗と行動を共にすれば、どんな理由があっても捕まれば死罪となるのである。





 丘の上に潜む巡回隊の近くまで『毒牙党』が近づいて来て、相手の顔立ちまでハッキリ分かる距離になった。

 ホベック中隊長のそばに、背をかがめて小隊長がやって来た。


 「中隊長殿。荷駄車の一つに女性が数人乗っているようです。いかが致しましょうか」


 (何で、それを聞くのか?)と、ホベックは眉を寄せて嫌な顔になったが、小隊長は真面目まじめな顔つきで彼を見詰めている。


 「お前は私に、どうせよと言うのだ。まさか、助けるべきだと進言するのか?」


 問われた小隊長は口ごもった。助けようとすれば、当然ながら女には人質としての価値が出る。待ち伏せて、一気に急襲する訳にも行かなくなる。


 ホベックは小隊長をにらんだ。


 「良いか。一度でも野盗と行動を共にした者は、理由の如何を問わず死罪だ! この不文律は変えられぬ!」


 小隊長は自分でも馬鹿なことを尋ねたと思い、額に汗が浮かぶのを覚えた。

 ホベックは口調を変えると。


 「もし、助けたとしても、あの女たちに行く場所があると思うか?……女を憐れと思えば、自分の部下に犠牲が出るぞ、良いな。余計なことは考えず、私の襲撃の合図を待て」


 小隊長は吹き出した汗を拭い、無言でうなづくと、自分の持ち場へ返って行った。

 ホベックは去って行く小隊長の背をにらみながら。


 「全く。いらんことを言いおって」


 ホベックも口には出さないが、気持ちは小隊長と同じであった。女たちは誰一人として、望んであそこにいる訳では無いであろう。たまたま運が悪くて、荷駄車に乗らねばならぬ運命となったに違いない。

 女以外の同行している者の中にも、殺されぬ為に、嫌々ながら行動を共にしている者もいるに違いないのだ。





 「どうやって逃げる。……いつ逃げる」


 そんなことを考えながら歩いていたカルラッチであったが。


 「うぎゃぁーっ」


 集団の先頭の方から凄まじい絶叫が上がった。


 「えっ!」


 魔物でも出たのかと周囲の者も前方を見る。

 荷駄車に乗っている女の何人かも、目を覚まして気だるげに半身を起こす者もいた。


 「うわーあぁー!」


 「いてえーっ!」


 次々と叫びが上がる。

 見る間に『毒牙党』の前方の集団が倒れて行く。見上げれば空を覆い尽くすように矢が飛んで来て、野盗たちは次々に倒れて行くのであった。


 何が起きたか理解できないカルラッチは、最初は他人事のように呆然とたたずんでいた。そんな彼の周囲にも矢の雨が降り注ぎ、すぐ隣から悲鳴が上がったのであった。


 「ぎゃあぁーっ!」


 そこに至っても、目の前の出来事が現実と思えないカルラッチは、口を開けた顔のまま、隣りの荷駄車の上で悲鳴を上げている女を見ると、それはミレイユと名乗っていた女であった。

 胸に矢を受けていた。


 「助けておくれーっ!」


 カルラッチと目が合ったミレイユは、彼の方へ手を伸ばしたのであるが、次の瞬間に喉と左目に矢を受け、崩れるように荷駄車の上に倒れた。


 これは悪夢に違いないと、現実から逃避したカルラッチであったが、左肩に焼け付くような痛みを覚え、見ると矢が突き立っていた。


 「いでーえ!」


 痛みに叫びながら、荷駄車の影に飛び込んだのであった。


 「帝国の巡回隊だ! 逃げろ!」


 周囲の野盗が叫んでいる声が聞こえ、身を隠した荷駄車の上に、矢が何本も突き立つ音がした。

 荷駄車の上に寝ていた女たちは、既に全員が射殺されたようで悲鳴も上がらない。


 (逃げなければ殺される)


 焦ったカルラッチであるが、走って逃げおおせるほど、自分の体力に自信はない。


 (どうする!)


 迷っている間にも、近くで片手剣を打ち合う剣戟の音が聞こえて来た。巡回隊が斬り込んで来たようである。

 走って逃げて行く野盗の姿も見えたが、彼らは矢の標的となって、次々と倒れて行った。


 カルラッチは知らなかったが、この時、襲われた『毒牙党』の人数は約百名。急襲して来た帝国の巡回隊は八百名である。圧倒的な人数差であり、待ち伏せをされた野盗に勝ち目は無かったのであった。


 剣戟の音が近づいて来た。今さら走り出しても矢を撃たれるか、背から斬られるしかない。 

 ここに至っては、身分を大声で名乗って助けを乞うしかないと考えた。必死である。


 「いたぞ!」


 帝国の正規兵の皮鎧を着た兵士が、盾にしていた荷駄車を回り込んで現れた。手には槍をたずさえていた。


 「お助け下さい! 私はフォーガ村の町長でカルラッチと申します。リンバイ村で捕らえられ……」


 そのように一気に説明してしまおうと、言葉を準備していたカルラッチであったが。

 実際は「おた……」まで叫んだ時には、腹に槍を突き込まれていた。問答無用である。


 (えーっ!)


 自分の身に起きたことが理解できず、驚愕に目を見張った次の瞬間には、激痛が彼を襲い、更に数本の槍を胸に腹に突き込まれていた。


 「おい! あっちにもいるぞ!」


 口をパクパクしているカルラッチから、槍を引き抜いた兵士たちは、次の獲物を目掛けて駆けて行ってしまった。


 (私の……話を聞いて下さい……私は、悪く無いです)


 そう叫び続けているつもりのカルラッチであったが、実際には声は出なくて、口を動かしているだけであった。

 そうしている間に、カルラッチの口は動かなくなり、女の遺体の乗った荷駄車に背を預け、彼は目を見開いたまま死んでいたのであった。


 ……その光景を青い空の上から、可愛らしい小さな妖精が見降ろしていた。


 (流石は大魔王様……本当に見事な策略でございます)


 満足げにうなづいた妖精は、主人の元目掛けて飛び去ったのであった。

 

 この後。しばらくしてバーンズ帝国より、『毒牙党』の幹部を含めた全ての者が、討ち取られた連絡が各村に伝えられ、住民たちは枕を高くして眠ることが出来るようになったのであった。





 レベン村の宿屋の一室で、勇者一行は村から出された豪勢な夕食を頂いていた。『毒牙党』の頭目と幹部を倒したお礼である。


 美味しい料理と酒を前にしても、ハールデンの機嫌は悪い。理由はロビンが頭目と幹部を倒した懸賞金を断り、他の被害を受けた村の復興に回すように、村長に願い出たからであった。


 「チッ! 少しくらい頂いても良いじゃねえか」


 ロビンに聞こえないように、小さな声で愚痴をもらしている。


 「それにしてもロビン殿。刀法《斬魔》は完璧でござった」


 ジェームズが弟子の見事な初陣を、喜んで杯をあおっている。


 「けっ! 金が入らなかったのに、どいつも目出度めでたい奴だぜ」


 喜ぶジェームズの姿に舌打ちしたハールデンは、横で静かに酒を飲んでいるメリッサに視線を向けた。

 配下の六人を《凍土》で無惨に殺した直後は、興奮が冷めやらない様子であったが、今の彼女は何か物思いにふけっている。


 「どうしたんでえメリッサ。野盗を惨殺……じゃなくて、逃さずにやっちまって、気分が良いんじゃねえのか?」


 問われた彼女は「ふっ」と息を吐くと。


 「本当に私が殺りたい相手は別にいるからね。今、そいつのことを考えていたのさ」


 「そいつは誰だ。そいつも野盗なのか?」


 「……同じようなものさ。私は湖に浮かぶ島で育ったからね。私が会った時は、奴は湖賊こぞくだったよ。右のこの辺りの頬に、大きな傷があるんだ」


 そうつぶやいた彼女の目に炎が宿り、その異様な迫力に、ハールデンは思わず身体を震わせたのであった。





 「通って良し!」


 イスター王国のフォーガ町の検問を通り、隊商が街の中に入って行った。隊商はバーンズ帝国からやって来た隊であり、このフォーガの町で品物を売り買いする予定であると言う。


 たった今、検問を通って行った隊商の後ろ姿を、見送っている兵士に同僚の兵士が近づいた。


 「今行った隊商に、何か問題でもあったのか?」


 聞かれた兵士は首を振り。


 「いや、書類に問題はない。袖の下も普通より多く頂いたしな……今夜は奢るぞ」


 「それはありがたいな。……で、何が気になることでもあったのか?」


 兵士は頭を掻くと。


 「今の隊商に付いていた、傭兵のリーダーが気になってな。アガシスと名乗っていたが、優男なんだが強そうに見えたな……右頬の大きな傷は迫力があったぞ」


 そう言って肩をそびやかしたのであった。




 フォーガの町中に入った隊商の荷主が、隊商の用心棒である傭兵の元へやって来た。普通は雇っている荷主の方が主人であるのだが、荷主は傭兵リーダーに頭を下げた。


 「アガシス司祭様。この後、どの様に致しますか?」


 「そうだな。まずは宿を決めて、お前は商人組合に挨拶した後は、普通に商売を始めるんだ。俺は数人連れて、酒場で聞き込むことから始めるとしよう」


 指示を出した彼は、右頬の大きな傷を撫でた。これは彼の癖であるらしい。

 男は『不死教団』の司祭のアガシスであった。


 「面倒なことをしてくれたな。何か手掛かりがあれば良いが」


 アガシスはつぶやいた。


 依頼者の名を口に出した、教団の暗殺者はすでに死んでいて、原因を探るには、目撃者を探すところから始めなければならないのである。

次回より新章です。


メリッサの深い闇の話は、その内、語られます。

ジェームズの過去は、もう少し先になりそうです。

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