54 赤い荒野の野盗団
新章です。
真っ暗な空に赤い火の粉が舞っている。建ち並ぶ家々は燃え上がり、風が無いので炎は蝋燭の火のように、真っ直ぐに吹き上がっている。
広場には皮鎧を着込み、長身でバランスの取れた体格をした男が、抜き身の片手剣を下げて仁王立ちになっていた。年齢は三十歳前後であろうか。
彼の整ったハンサムとも言える顔が、炎の明かりを受けて赤く見えるのであるが、その赤さは火のせいだけではなく、全身に血を浴びているせいである。
よく見れば彼の周囲には、切り裂かれた遺体と焼死した遺体が幾つも転がっている。
「お頭!」
半袖の獣の皮でできた鎧を着た男が走り寄って来た。筋肉隆々の大男であり、彼の得意の得物らしく、長い柄の先に巨大は鉄の塊の付いたハンマーを担いでいる。
「首尾は?」
尋ねられた大男は血で真っ赤になったハンマーを前に出し、左手の親指を立てると、自分の喉を水平に切る格好をした。
「こっちは皆殺しにしましたぜ!」
「うむっ。良いぞザルバン!」
お頭と呼ばれた男は満足そうな笑みを浮かべた。
「お頭こそ、見事なお手並みですな」
辺りに倒れている遺体を見渡してザルバンが唸る。お頭の得意技は、片手剣と火魔法である。
「ラーバイン様!」
次に細身の腕が異様に長い男が現れ頭を下げた。お頭の名はラーバインと言うようである。
この男の武器は、長い取っ手の先に鎌が付いた形をしていて、背中に二本背負っている。
「ジュベル……首尾は?」
「はい。皆殺しにしました。残りの住民はドーベルが追い立てて、まだ火は回ってはいませんが、出口の無い北側へ追い詰めています」
「良いだろう! 上手く行ったな。火が向こうへ回れば、この村の住民は蒸し焼きだ」
炎の明りを浴びて、ラーバインは両方の口角を吊り上げた。
「お頭ー!」
次に現れたのは下っ端の者であるらしく、粗末な鎧に赤い鉢巻をしている。どうやら鉢巻きで敵味方の区別をしているらしい。
下っ端の男はラーバインの前で片膝を立てて頭を下げた。
「お前は見張りの者だな……まさか!」
「へい! バーンズ帝国の中隊が丘の向こうに現れました。到着するまで余り時間はありやせん」
中隊と言えば五百~千人の部隊である。
ラーバインは舌打ちをした。
「遊び過ぎたか……奴ら思ったより早かったな。少しばかり殺し損ねたが撤退だ。ザルバン! ジュベル! 皆に引き上げの合図を出せ! 集合場所は先に決めた通りだ」
頭を下げた二人は、命令を実行する為に無言で走り去った。
ラーバインは燃え上がる炎に目をやる。
「面白くて楽な仕事だぜ! 野盗のように金を集める面倒もねえ。とにかく手あたり次第、殺せば良いだけだからな……良い仕事を回してくれたもんだ……不死教団」
笑ったラーバインは片手剣を鞘に納めると、燃え盛る炎を背に走り去ったのであった。
リンバイ村は、高さ六メートル近い木製の塀に周囲を囲われた村であった。人口は三千人であり、点在する『赤い荒野』の村の中では、大人数の村になる。
ウィローン率いる隊が門に近づくと、門の横の物見櫓から声が掛かった。
「そこで止まれ!」
隊は停止し、ウィローンの代わりに傭兵のリーダーが前に出て行った。
傭兵リーダーは物見櫓の者と会話し、門の横のくぐり戸が開くと、槍を構えた兵士が数人現れた。兵士は正式なバーンズ帝国の兵士ではなく、恐らく村に雇われた傭兵であろうと思われた。
『赤い荒野』はバーンズ帝国領に含まれるが、辺境であり、各村に駐屯兵を置く代わりに、税を少なくし傭兵を雇うように勧めていた。
傭兵組合は世界中に広がっていて、世界には五大傭兵団という団があり、どこの傭兵も五つ組織の内の、どこかの傭兵団に属している。
国同士の戦争が起きた場合、傭兵は契約によりどちらかの国に雇われる。契約はどこまで戦うかとか、細かい取り決めがしてあって。例えば場外の戦いだけで籠城戦は行わないとか、城壁が落ちるまでとか、王宮に敵兵士が侵入するまでとか決められていて、その時までは命を懸けて戦うのであるが、その後は負けた方の傭兵は、平和的に戦場を去ることになっている。
興奮して収拾が付かなくなる場合もあるのであるが、その時はその戦争に関わっていない、五大傭兵団のどれかが仲裁に入り、両軍が死ぬまで戦うような悲惨な結果に、ならないように目を配らせている。
傭兵リーダーは自分の傭兵団の証明書を見せ、ウィローンの身分証明書も添えて出している。ウィローンはフォーガ町の駐屯軍の司令官を放り出して来ているが、まだ正式に軍の身分を剝奪されている訳では無い。
話が付いたらしく、傭兵リーダーが来るように合図をしている。門の扉も開き始めた。
四十二人のウィローン隊は、無事に門を潜って村中へ入った。傭兵リーダーがウィローンの横へやって来ると。
「ウィローン殿! リンバイ村に寄ることにして正解でした。村に雇われている傭兵が言うには、最近、この辺り一帯を凶悪な野盗団が荒しているそうです」
「野盗団か」
「はい、『毒牙党』と名乗っているそうで、人数は百人ほどいるそうです」
「百人か……かなりの規模の野盗団だな」
駐屯軍の司令官をしていただけに、ウィローンも野盗団の知識はある。普通の野盗団は二十人くらいの規模であり、多くても五十人を超える集団は滅多に居ない。
それは人数が多くなるほど、仕事はやり易くなるが、何をするにしても集団で動くのは発見され易く、何と言っても大人数を食べさせて行くのは難しいのである。
「このような僻地で、それほどの数の野盗団がいるとは不思議だな」
ウィローンの知る常識では考えられない。
「数日前に近くの村が襲われたそうで、野盗に村に侵入され、家に火を放たれて、住民が半数近く殺されたそうです」
「酷いな……村は傭兵を雇っていなかったのか」
傭兵リーダーは頭を振ると。
「三十人いた傭兵も皆殺しだそうです。下手をすれば住民も皆殺しになるところだったそうですが、たまたま近くに、巡回中のバーンズ帝国の中隊がいたそうで、村の全滅だけは免れたようです」
「……不幸中の幸いか」
二人が話していると、村中から十人ほどの住民らしき集団が現れ、ウィローンの方へやって来た。
集団の中から白髪頭の年寄りが前に出て来る。
「旅の方。私はリンバイ村の村長のベーレスと申します」
ベーレス村長は頭を下げた。
ウィローンも前に出ると。
「私が隊の代表のウィローンだ」
「おお! 頼りになりそうなお方だ」
ベーレス村長は何度も頭を下げる。
ウィローンは腕はともかく、体格は良くて見た目も男前である。
「用事があって、バーンズ帝国の首都に向かう途中だ。村に二・三日泊めてもらうぞ」
村長は再び頭を下げると。
「お代は必要ございませんので、二・三日と言わず、出来るだけ長く逗留して頂けないでしょうか」
「…ん?…」
「既に聞かれたと思いますが、近くの村が凶悪な野盗に襲われ、住民の半分が無残に殺されております。今は旅をするのは危険でございます。しばらく村に泊まって頂いて、野盗が居なくなってから旅を再開することをお勧めします」
「村長……お代はいらぬと言ったが、その代わり我らにも村を守って欲しいと言うことだな」
「はい。その通りでございます」
ベーレス村長は頭を下げる。
ウィローンは考えた。
イスター王国からの追っ手は、まだ来ないであろう。早くバーンズ帝国の首都に行きたい焦りはあるが、道中で百人の野盗団に襲われては助からない。
「分かった。話に乗るより仕方が無いな……だが、いつまでとは約束できんな。安全と判断すれば、直ぐにも村を立つことになるが良いな」
「結構でございます」
村長はじめ、周りの村人たちも安堵の表情を浮かべている。
「今の村の戦力は?」
「はい。傭兵が五十人、自警団が百五十人でございます」
ウィローンは考える。籠城戦は攻める側は、三倍から五倍の戦力が必要であるのが常識である。村の戦力は自分たちを加えれば二百四十人となり、その他に三千人の村人から有志を募れば五百人の戦力にもなるであろう。
野盗『毒牙党』の人数は百人足らずという。戦いに気づいたバーンズ帝国の、巡回隊が来るまで持ち応えれば良いので、負ける要素はない。
帝国の領地の村を守った実績が加われば、亡命するにも有利に働くに違いない。むしろ自身にとって好都合と言える出来事なのかも知れない。
先々のことを考え、笑みを浮かべるウィローンであった。
新しい白地図も公開しています。
先の話の分も含めて公開していますので、後で変更する可能性もあります。
https://ameblo.jp/daimaoukenjiです。




