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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
孤独な勇者編
39/304

39 襲撃

 勇者ロビン一行の、砦の試練をこのまま続けるか諦めるかの選択は、急遽、続ける方向に決まったのであった。

 しかも、賢治が外れ、勇者アシュトーンが一行に加わることになると言う。


 (大魔王様……。話が思わぬ方向に決まってしまいましたが、いかが致しましょうか)


 話し合いが成されているテントの隅に、腰を降ろしている賢治の耳元で妖魔カノンがささやいた。


 「決まったものは仕方があるまい。面倒ではあるが、私が姿を隠して守ってやることにしよう」


 そうつぶやいた賢治であったが、カノンは首を振った。


 (大魔王様のお手を煩わすことはございません。今から私が砦に行って、中の魔物を全て退治して参りましょう)


 事もなげに、カノンは口にしたのであるが。


 「辞めよ。それでは勇者一行の成長にはつながらない。苦労して試練を超えるからこそ、彼らは成長できるのだ。我らはその試練の過程で、不慮の事故で勇者が死なぬように手助けをしてやれば良い」


 (そ、そうでございましたな。流石は大魔王様でございます。私の浅墓な考えをお許し下さい)


 妖精姿のカノンは頭を下げるのであった。




 「そうと決まれば、俺は今からマースの街まで行って来ることにする」


 立ち上がったアシュトーンが言った。


 「何だ。何か足らぬものがあるのか?」


 ハールデンが尋ねる。


 「砦の秘密の通路の鍵と地図だ。ねぐらに隠してあるんだ。……あと、俺がロビン一行に加わると、教会にも届けを出しておく。まあ、返事を待っちゃいられないから、事後承諾になるかも知れないがな」


 ロビン一行を見渡し。


 「砦の魔物は、今回は被害が広がらない内にあっさりと引き下がったが、あの程度の損害ならば、今までの経験から、一週間後くらいには再び攻勢を仕掛けて来ると予想できる。砦の魔物が外に出て、中の守りが手薄な時が侵入のチャンスなんだ。その時こそ俺たちは、秘密の通路を通って砦に侵入し、砦の主を倒すんだ」


 「分かりました」


 ロビンがうなづく。


 「戦いが始まる前には帰って来るつもりだが、遅いようなら先に行って、隠れて待っていてくれ。集合場所は砦の西の端の、森が始まっている辺りだ。その城壁の一画に隠し扉があるんだ」


 マースの街からこの戦場まで、馬車で急いで六日の距離であった。軍に代え馬を用意してもらえば、馬車の倍の速さとして、最速で六日で往復は可能であろう。


 「遅れるなよ」


 ハールデンが念を押す。

 笑みを浮かべたアシュトーンは。


 「遅れるものか! 長年、積もりに積もっていた鬱憤うっぷんを、ようやく晴らせる時が来たのだ。……お前たちには感謝している。もう、酒に逃げていた生活とはオサラバだ」


 親指を立てたアシュトーンは、踵を返すとテントを出て行ったのであった。

 見送ったハールデンは、テントの隅に座っている賢治に視線を向けると。


 「ケンジ! そう言う訳で今回は、お前の出番は無えな。隠し通路の入り口で待っていてもらおうか。駄賃には、ガラクタで良いなら拾って来てやるからな」


 そう言ってカラカラと笑ったのであった。





 アシュトーンは辺境伯軍に事情を話し、馬を用意してもらうことになった。軍の中には彼をよく思わない者も多かったのであるが、新しい勇者と組んで砦の主を倒す計画は魅力的であった。

 最近のアシュトーンは戦いの無い時はマースに帰り、酒場で飲んだ暮れていることが多く、裏社会の者たちとの噂も絶えなかったのであるが、これまでの実績も考慮された結果である。


 但し、裏では『今度の勇者も、アシュトーンの計略に嵌って、全滅するのでは無いか』と辛辣しんらつなことを言う軍の幹部も、一人や二人では無かったのであった。



 ------伝書鳩による連絡により、要所要所で『代え馬』が用意されている道を、アシュトーンは寝食も惜しんで、ひたすら馬を走らせたのであった------





 予定より早くマースの街へ到着したアシュトーンは、まずは教会へ駆け込んだ。夕暮れが近づいている時間帯であり、教会の中に一般の人々の姿は無かった。


 「神父は居るか!」


 必死の形相のアシュトーンに驚いた受付係りは、彼を事務室内の応接室へと通した。彼は良い意味でも悪い意味でも、マースでは誰もが知る有名人である。

 時間の惜しい彼が応接室の椅子に座り、派手に貧乏ゆすりをしていると、この教会の責任者である六十代の神父が現れた。背の高い穏やかな眼差しをしていて、アシュトーンとは顔見知りである。


 「これは勇者殿。慌ただしきご様子ですが、いかがされましたか」


 アシュトーンは立ち上がり、ロビン一行と交わした話を、手短に説明したのであった。


 「手続きは直ぐに致しますが、私の一存では許可は出来かねますぞ」


 話を聞いて顔を曇らす神父であったが。


 「ああ、構わない。全ての責任は俺がとるつもりだ。今やらなきゃ砦の主を倒すのは、いつになるか分からない」


 「勇者同士が手を組んだ話は聞いたこともありませんが、ルールを破っている訳ではございませんので、最終的に許可は出るとは思いますが」


 「俺は砦を奪還できて、勇者ロビンに迷惑が掛からなければどうでも良いんだ。とにかく俺が責任はとる! では神父さん、後は頼んだぜ」


 慌ただしく告げると、時間を惜しむようにアシュトーンは去って行ったのであった。

 そんなアシュトーンに、神父は一抹の不安が胸を掠めるのを覚えたのであった。




 「……出て来たぞ」


 教会から出て来たアシュトーンを、向かいの通りの奥から、うかがう影が二つあった。


 「砦で魔物との一戦があったと聞いたが、もう帰って来たのか……まあ良い。待つ手間が省けたな。早くやった方が、レオール組長も枕を高くして眠ることができるだろうからな」


 「そう言うことだ。行くぞ。直ぐに暗くなる。見失うんじゃねえぞ」


 二人はアシュトーンを追って小走りに走り始めた。





 裏通りを急ぎ足で進んだアシュトーンは、もう何年も借りている古い建物の自分の部屋に入り、小刀を取り出すと床に敷かれた石板の一枚をめくった。

 そこには砦の抜け道へ続く隠し扉の鍵と、地図が隠されていた。地図の所々に付いている染みは、死んだ勇者の血の跡である。


 「お前の無念は必ず晴らす……俺の命に代えてもな」


 つぶやいたアシュトーンは、それらを腰袋へ仕舞うと、きつく紐で縛ったのである。

 立ち上がった彼は部屋をぐるりと見渡した。ベッドとテーブルと椅子が一つ置かれた、殺風景な部屋である。

 砦の中で死ぬつもりは無いが、何となく、もう、この部屋には帰って来ない予感がしたのである。


 「ふっ、酒に浸っていた俺は馬鹿だったな」


 首を振って自嘲気味に笑うと、直ぐに唇を結んだ彼は、後も見ずに部屋を出て行ったのであった。

 砦が見える丘ではロビン一行が待っている。彼は戦いが始まる前に帰らなければならないのだ。時間的には往路を飛ばして来たので多少の余裕が出来ていた。



 階段を下りて、路地裏をしばらく行ったアシュトーンは、通り過ぎた脇道の路地の奥から悲鳴を聞いた。

 既に月が出ている時間であるが、路地裏にはほとんど月明りは入って来ていなくて、脇道の細い路地は更に闇が濃かった。


 悲鳴を聞いて、そのままにしておくような彼ではない。引き返して暗い細い路地を足早に行くと。路地を出た小さな空き地に、月に照らされた二つの人影があった。


 「声を出したって誰も来ねえよ。怪我したく無きゃ有り金、全部置いて行きな」


 「わ、分かりました。命だけはお助け下さい」


 脅しているのは背が高くて人相の悪い、一目で破落戸ごろつきと分かる男である。

 脅されている方は背が低く、服装から見て商人のようである。この場所にどこからか迷い込んだのか、それとも引きずり込まれて連れて来られたのであろうか。


 路地裏では良くある風景であり、アシュトーンは何度も同じ様な目に会っている、被害者を助けた経験があった。


 「おい!」


 後ろから声を掛けられた男は驚いたようで、飛び上がるようにして振り向いた。そして自分に声を掛けた相手を観察した。


 「な、何でえ。脅かすんじゃねえ!」


 声を掛けて来た相手が一人と知って、少しは安心したようである。


 「お助け下さい!」


 脅されていた商人風の小男が、隙を見て脅している相手の脇をすり抜けたのである。


 「あっ! 畜生!」


 手を伸ばしたが小男には届かず。彼はアシュトーンの後ろに駆け込んだのであった。


 「どうする」


 ずいとアシュトーンが前に出ると、男はその分、後ずさった。


 「こ、この野郎! 俺が誰だか知っているのか! ああっ!」


 男は凄んだのであるが、腰は引けていて逃げ出す体勢になっていた。


 「誰だか知らんが、このまま消えるなら許してやっても良いぞ」


 アシュトーンが前に出る構えを見せると、男は諦めて逃走に掛かった。


 「覚えて居ろ!」


 変わり映えの無い陳腐な捨て台詞を吐くと、男は脱兎のように闇の中に消えて行った。


 その時、咄嗟とっさに身をひねったアシュトーンであったが、左腰に鋭い痛みを感じたのであった。

 彼の後方に隠れていたはずの小男が、闇の中に走り去って行く姿が見えた。


 己の痛みが走る左腰を見たアシュトーンは、そこに深々と小刀が突き立っている光景を見た。


 「やられた!」


 相手は始めて見る二人であった。最初から組んでいて、彼の油断する瞬間を待っていたのであろう。

 直ぐに裏社会の二つの組の名前が浮かんだが、どちらにやられたのかは分からない。


 「クソッ! こんな大事な時に、今まで馬鹿をやっていたツケが回って来るなんて」


 小刀を抜こうと思ったが諦めた。抜けば血が止まらなくなるであろう。幸いにも咄嗟にかわしたお陰で致命傷にはなっていない。


 「……医者に見せてる時間は無いな」


 こんな時であるが、アシュトーンは笑みを浮かべた。

 こうなったのも、日頃の自身の素行の悪さに原因があったことは身に染みて感じた。


 「責任は、取らなきゃな」


 彼は小刀を押さえると、幽鬼のような顔で歩き始めたのであった。

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