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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
古き王の遺構編
30/304

30 魔物との戦い

 通路の突き当りの扉は、鋼製の巨大な両開き戸であった。完全に開けば横三メートル、高さは三メートル五十センチほどの広さとなる。


 賢治が前に出て、扉に片耳を当てて気配をうかがっていた。


 大魔王である彼に気配を伺う能力など無い。代わりにどんな魔物が潜んでいたとしても、どの様に不意打ちされても、全て余裕で蹴散らす武力がある。

 しかし、それらの魔物を、一々賢治が処分していたのでは意味がない。勇者一行がやるからこそ意味があるのである。


 (大魔王様。扉の向こうの広間には、何の気配もございません)


 彼の代わりに気配察知に優れている、妖精姿のカノンが耳元で告げた。


 「気配は感じられないので……開けます」


 自分が感じたように言いながら、片方の扉に手を掛け、手前に引くと巨大な扉はゆっくりと開いて行った。

 すぐさま《光球》が内部に飛んで行き、広間を明るく照らし出しす。


 「こりゃあ、ひでえな」


 賢治に変わって最初に足を踏み入れたハールデンが顔をしかめた。


 首が千切れた馬が、胴体に荷駄車を付けたまま壁際にひっくり返っている。手足の千切れた死体が散乱し、頭の潰れた死体と、立っている状態で踏み潰されたであろう死体もあった。


 それらの全ての死体には、食い荒らされた跡があった。


 「殺した後に食っちまったようだね……手ごたえがありそうな相手じゃないか」


 死体を見渡したメリッサの口角が吊り上がっている。


 「ケンジさん、姉弟の姿が見えません。少なくとも彼らはここで殺されてはいないようですね」


 賢治にロビンが尋ねた。賢治は先ほどから広間全体を入念に見渡している。


 ロビンだけでなく一行の全員が賢治の推理に期待している。これまでの経験で、誰もが賢治の的確な判断能力を疑っていない。


 これも又、当然であるが大魔王に状況を見て推測する特別な能力はない。大魔王は思った通りに行動し、気に入らない全てのものを、力ずくでねじ伏せれば良いのである。

 彼が静かに周囲を見渡しているのは、現状を分析して耳元で推測を話している、カノンの声を聞いているのであった。


 ゆっくりと周囲を見渡した賢治は、何度かうなずくと、自分が状況を分析したかように話し出す。


 「荷駄車があるところから見て、オリのような物に姉弟を閉じ込めて、ここまで連れて来たようです」


 賢治はそう言って広間の中央にある、檻が置かれていた場所の跡を指差した。そこにあった物は引きずられた跡があって、奥に見える扉まで続いている。


 「恐らく檻を運んで来た者はここで全員が殺され、檻は魔物が引きずって奥に運んだのでしょう。状況から見ても、魔物は『遺構の守護者』と呼ばれる強い魔物であり、死体の破損の様子から、パワー系の魔物と推測されます」


 「なるほど、流石はケンジ殿。その通りでござろうな。感服致したでござる」


 ジェームズが腕を組んで何度もうなづく。


 「姉弟を拉致し、我々を誘き寄せようとした者は、全滅したと見て良いでしょう。檻が壊されたならば姉弟も危ないので、先を急ぎましょう」


 賢治は奥の扉に向かって歩き始めた。





 幾つかの部屋を通り抜け、左右に小部屋のある通路を進んで行く一行の正面に、惨劇のあった広間と同様の、巨大な鋼製の両開き戸が見えて来た。

 広間から続いている、檻を引きずったであろう床の傷は、その扉の奥に消えている。


 ここまで魔物は一切出て来ていない。恐らく地下三階は『遺構の守護者』だけの縄張りなのであろう。

 賢治が扉に片耳を当てて、内部の気配を探っている(格好だけ)。


 「気配がありますね……皆さん、戦闘態勢は良いですか? 開けますよ」


 「いつでも良いぜ」


 手甲に鉤爪を装着したハールデンが、頭を左右に倒して、首の骨を鳴らしながら答えた。

 賢治はゆっくりと扉を開いた。


 《光球》に浮かび上がった扉の向こうには、三十メートル四方ほどの広い部屋が広がっていた。天井高は十メートルほどである。

 床には幾つかの石棺が並んでいたが、全ての石棺のふたが開いていて、中には砕けてしまっている石棺もあった。


 広間の奥の右横には、引きずって来られた檻があった。何度か壊そうと叩かれたのであろうか、天井の鉄板が曲がってしまっていたが、それでも壊れずに持ちこたえたようで、鉄柵の向こうに姉弟の姿が見えた。


 そして、広間の中央に立って、こちらを見降ろしている巨大な魔物が居た。身長は約三メートル。見事な筋肉の鎧に覆われた体格で、右手には棍棒のような石製の武器を提げている。

 目はほとんど開いていなくて、耳元まで裂けた口の周辺は、真っ赤に染まっている。それはあの広間で食い荒らされていた者たちの血で間違い無いであろう。


 「おおっ! 良かった! 姉弟は無事のようですね!」


 「何でえ! 棺のふたは開いちまってるじゃねえか!」


 ロビンとハールデンが同時に叫び、お互いの顔を見合わせた。


 「……も、もちろん、姉弟の無事が一番だ! 良かったなロビン!」


 ハールデンが当然と言った顔で、言い直した。


 魔物は中央から動かずにこちらを凝視している。逃げ出そうとすれば追いかけて来るかも知れないが、当然ながら勇者一行は逃げ出すつもりは無い。


 「旦那! 行くぜ!」


 「心得こころえた!」


 ハールデンとジェームズが恐れも見せず、左右に分かれて魔物に近づいて行く。それに、やや遅れて中央からメリッサがロビンと共に前に出て行った。

 従者である賢治は、入り口の扉のそばで全体を見渡している。


 「カノン……あの魔物の種類は分かるか? ……強いのか?」


 (始めて見る種族でございます。ですが体格から言って、予想通り力で押すタイプのようでございます……強さは……)


 妖精姿のカノンは、可愛らしい仕草で首を傾けると。


 (良く分かりませんが、この程度の魔物ならば、彼らに任しても問題はなかろうと思われます)


 そう分析したのであった。


 妖魔カノンも賢治の足元にも及ばないとしても、魔物としては十分に強者である。カノンと、その魔物の実力は天と地ほど離れている為に、弱いことは察知できるが、どれだけ弱いかを正確に把握することは出来なかった。


 カノンは少しだけ前に出た。万が一の場合は勇者に怪我が無いように、助けなければならないからである。


 ……歪んでしまった檻の中で抱き合っている姉弟は、《光球》の光の中に現れた人間が誰であるか気が付いた。あの親切な旅人一行だったのである。


 先ほどまで檻を壊そうとする魔物に、生きた心地もしなかったのであるが、折角助けに来てくれた旅人であるが、バーロンと食客の最期を見ただけに、彼らも同じ運命をたどるのでは無いかと、別の心配をしなければならなかった。


 ----------


 魔物は左右から近づいて来る人間を見比べた。瞬殺して食べ散らかした人間たちと違って、自信に満ちている様子がうかがえる。

 同時に襲われた場合、手に余るかも知れない。そうであれば、どちらかに襲い掛かるべきなのであるが、正面から近づいて来る人間も不気味である。

 正面から来るのは性別は女であり、人間種族では戦闘力に劣るはずなのであるが、警戒しなければならないと本能が告げていた。


 「ガオォーツッ!」


 魔物は両腕に力拳を造って叫んだ。

 相手をひるませるつもりであったのであるが、女の横を歩く子供らしき人間が反応しただけで、他の者は何の反応も示さなかった。


 魔物は益々警戒した。


 魔物が警戒して襲い掛かることを躊躇っている内に、ハールデンとジェームズが攻撃範囲に入ったのであった。


 「おりゃあ!」


 「むん!」


 示し合わせでもしたかのように、僅かな躊躇も見せずに、左右から同時に魔物に飛び掛かった。


 魔物は左右の腕を振るって、鉤爪カギツメの拳と刀を弾いたのであったが、ハールデンもジェームズも二刀流である。残った方の拳と剣が魔物の左右の脇腹をえぐった。


 「グエッ!」


 防御力には自信があった魔物であったが、自慢の硬質の皮膚をあっさりと切り裂かれた上に、正面の女から飛んで来た雷系初級魔法の《電矢》を胸に受け、フラフラと後退した。

 特に打ち合わせた訳では無いが、三人の勇者の仲間の連携は見事である。


 一瞬で三連撃を食らった魔物は、倒れまいと両足を踏ん張って持ちこたえた。まさか、自分に傷を負わす強い人間が存在するとは思ってもいなかった。魔物は戸惑っている。

 そこへ左からハールデンが飛び込んで来た。魔物は右手を頭の上に叩き付けて、地面に倒そうと振り下ろした。


 「ガハッ!」


 腕を振り下ろす途中で、顔面に衝撃を受けた魔物は一瞬であるが停止した。顔面に受けた衝撃はメリッサの《電矢》であった。


 懐に飛び込んだハールデンは、上から叩き付けて来た魔物の右手首を左の鉤爪で受けると、右手の鉤爪を魔物の鳩尾みぞおち辺りに突き込んだ。


 「グフッ!」


 激痛に声を上げる魔物を無視し、懐に入りながら魔物を背負うと、一気に投げ飛ばしたのであった。

 身長は魔物の方がハールデンより八十センチほど高いのであるが、体格差を物ともしない、鮮やかな変則の背負い投げであった。


 宙を飛んだ魔物が、背から石棺を砕いて地面に落ちると、ほとんど同時に、胸の上に飛び乗ったジェームズの二刀が、左右から喉に突き込まれていた。


 血が噴水のように吹き出し、ジェームズは素早く飛び下がって血が掛かるのを避けた。


 「ロビン!」


 ハールデンが叫ぶより速く、駆け寄ったロビンが瀕死状態の魔物のあごに、片手剣を突き込んだのであった。

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