表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
従者誕生編
3/304

3 仲間選抜

 勇者ロビンが『勇者の仲間を募集』する少し前、肩の上を飛ぶ妖精に化けた妖魔カノンを連れた大魔王ケンジは、『キアーラの酒場』へ足を踏み入れた。


 例の如く酒場へ入って来た賢治に視線が集中した。深く帽子を被っていて顔は見えないが、鍛え上げ均整の取れた肉体は、ただ者ではない雰囲気である。

 それでも武器は木刀を下げているだけであり、戦士には見えなくて、魔法使いや僧侶にも見えず、あえて推測するならば武闘家であろうか。


 ライバルとなるかも知れない居合わせた武闘家と、妖精に興味のある者以外の視線が無くなると、賢治はカウンターへ向かった。物知りのカノンから、勇者の仲間になる為には、酒場へ登録が必要と教えられていた。


 カウンターの向こうにいるバーテンダーへ声を掛けた。


 「登録したいんだが」


 「はい。では、これに必要な事項をお書きください。登録料は金貨一枚でございます」


 バーテンダーは慣れた手つきで書類をカウンターへ置いた。金貨一枚は夫婦が半月ほど暮らせる金額であり、戯れで登録するには出せない金額であり、登録する者の本気度が分かるのである。

 若い男は用意していた金貨を一枚カウンターへ乗せた。


 バーテンダーは妖精に目をやり、次に書類に必要事項を記入する若い男の様子を観察した。


 妖精はミルダでも珍しいものではあるが、初めて見るものでもない。人と契約して様々な幸運をもたらす不思議な生き物であり、契約者から奪うことは出来ず、契約者が死ぬと消えてしまうので、その妖精は契約者だけのものである。

 若い男の姿を見る限り、肉体は理想的に鍛えられていて、誰もが思ったように、彼も若者は武闘家であろうと推測した。


 職業欄に若い男のペンが動くと、そこに書かれた男の職業は《僧侶》であった。


 「えーっ!」


 バーテンダーは思わず叫んで口を押えた。最も想像外の職業だったからである。

 若い男は更にペンを動かしはじめた。職業は二つまで登録できるからである。



 その時、別のカウンターで激しくガベルが打ち鳴らされた。それは勇者が現れ、勇者の仲間募集が始まる合図であった。

 短い沈黙の後、酒場全体から爆発するような大歓声が巻き起こり、興奮したバーテンダーは、若い男が二つ目に何の職業を書いたかも確かめずに、承認の判を押していたのであった。





 勇者から、希望するメンバーの職業が書かれた書類を預かったバーテンダーは、マイクを持って酒場の中央へ出て来た。

 既にテーブルも椅子も隅に片付けられ、いつもは消してある、天井の魔力の通っていない光る魔石にも明かりが点けられ、バーテンダーの前に明るく広い空間が出来ていた。


 「さて、『勇者の仲間募集』に居合わせた幸運な皆様。……久方ぶりに教会に認定された我ら人類の英雄の名は、ロビン様と申されます」


 「ワーッ」と歓声が上がる。

 歓声が静まるまで少し待ち、バーテンダーは後を続ける。


 「ロビン様は恒例により、我が酒場で仲間を募集され、人類の敵である魔王退治に出発されます。皆様も勇者様の仲間となられ、永遠に語り継がれる英雄となられることをお祈りいたします。……まず、募集される一人目の職業は……」


 ……全員がしんとなって発表を待っている。


 「一人目は。武闘家!」


 固唾を飲んで見守っていた者たちから「ワーッ」とか「アーッ」とか、歓声とも落胆とも取れる声が聞こえたが、圧倒的に落胆と、それに続く溜息の方が多かった。

 それと言うのも、つい先ほど酒場に入って来た大男を見ていたからである。


 「さあ。我こそは勇者の仲間に! と思われる方は前に出て下さい。複数の場合は腕を競って一人になるまで戦って頂きます。但し、殺人はご法度で失格となります」


 バーテンダーが周囲を見渡したが、前に出て来た者は一人・・しかいなかった。出て来た男は自分の名前が書かれた登録書をバーテンダーに渡した。


 「さあっ。他にいないか! いないのか! ……魔王を討伐すればその名は永遠に英雄として、歴史に刻まれることになるぞ! さあ! どうした!」


 しきりにあおるバーテンダーであったが、誰も前に出て来る者は居なかった。

 その様子を確かめながら、唯一前に出て来た大男は余裕の笑みを浮かべていた。男はハールデンであった。


 (相手が悪いや……)


 (ミルダ中の武闘家どころか、王国中探しても奴に勝てる者は居ないぞ)


 (奴は手加減無しだ。戦えば半殺しにされる)


 (奴め……普段は他所で飲み歩いて暴れているはずなのに、最悪のタイミングで酒場に現れてくれたな)


 悔し気なささやきが周囲から漏れたが、凶悪な暴れ者と名高いハールデンと、腕を競おうと言う者は現れなかった。


 バーテンダーはガッカリとした表情で、登録書に書かれた一人目の、勇者の仲間の名を呼んだ。


 「勇者の仲間! 一人目は武闘家のハールデン!」


 「ウワァアー!」


 溜息と冷やかしめいた歓声と、最後に怨嗟の声が上がった。


 「この世の終わりだぜ! あんなカス野郎が勇者の仲間に選ばれるなんて!」


 「ちっ! 強けりゃ良いのかよ! 日頃の行いを評価しないなんて、この選抜方法は片手落ちだぜ!」


 「可哀そうだが、あの少年勇者は終わりだ。ハールデンに良いように使われて、最後は犯罪者になるに違いない」


 武闘家で登録している者は、苦虫を噛み潰した表情で背を向けると、やけくそになって、ぬるくなった麦酒を飲み干すのであった。



 「さて、二人目の職業の発表だ! 二人目は……戦士!」


 観客の非難の声を無視してバーテンダーは続ける。


 「オオゥーッ!」


 太い歓声と床を踏み鳴らす振動が伝わり、ぞろぞろと十人ほどの皮鎧を着込んだ、体格の良い男らが前に出て来た。


 「さあ! 勇者の仲間選びはこうでなくちゃ面白くない!」


 バーテンダーは場を盛り上げるように叫んだ。酒場の一画は腕試しが行われるようになっていて、出場者以外の者は、周囲を囲んで酒を飲みながら見物し、賭けも行われるのである。

 酒場内の雰囲気が盛り上がるほど、酒も売れ、掛け金も多くなり店も潤うのである。


 「頑張れよ!」


 「お前に賭けてるからな」


 「頼むぞ!」


 出場する戦士に声を掛けながら、観客となった者が移動を始めた。


 名乗りを上げた男たちから登録書を受け取ったバーテンダーは、志願者の名前や出身地を読み上げて行く。中には名の通っている者もいて、賭けの倍率が決まって行くのである。


 「○○○帝国出身。〇〇〇。二十四歳。〇〇〇流の免許皆伝」


 「○○○共和国出身。○○○。三十五歳。○○○王国での剣術大会にて、優勝の経験あり」


 名前と経歴が読み上げられる度に歓声が巻き起こる。志願者は誰もが腕に覚えのある者ばかりであり、バーテンダーの発表は、賭けの対象と金額を決める上で貴重な情報である。


 最後の志願者の名前が読み上げられる。


 「ブロン共和国出身……えっ……本物か……」


 バーテンダーが動揺して、その出場者の姿を目で確かめている。やがて。


 「し……失礼しました。続けます。最後の志願者は、ブロン共和国出身。四十二歳。二刀流最高師範。ジ……ジェームズ!」


 呼ばれて中肉中背の男が一歩前に出た。無精髭の男からは落ち着いた雰囲気が感じられる。

 一瞬の静寂があり、次の瞬間、酒場の中は大歓声に包まれた。


 二刀流のジェームズと言えば、バーリアン大陸でもっとも有名な戦士と言えよう。大陸の北西部にあるブロン共和国の出身であるジェームズは、世界各国の闘技場に現れて、各地で連戦連勝の記録を打ち立て、今では並ぶもの無しとして、伝説に成りつつある世界最強の戦士であった。


 闘技場での優勝賞金は、合わせれば国を買えるほど稼いでいると言われているが、本人は質素な生活を続けていて、その金は魔物に襲われ親を失った子供たちや、住む場所を失った人々の為に、使用されていると噂されていた。


 既に一人目の勇者の仲間に決定しているハールデンも、ビッグネームの登場に驚きの表情を表し、注目がジェームズに集中した。


 「本物なのか?」


 「俺は闘技場で見たことがあるぞ……本物に間違いない」


 「俺も見たことがあるぞ」


 客たちから本物との声が上がり、我こそはと勇んで前に出た他の戦士の顔に、動揺が広がるのが手に取るように分かった。

 この酒場に登録するくらいであるから、彼らの全員が己の腕に自信を持っていたが、相手は実績十分の世界最強の戦士となれば分が悪かった。


 「すまん……俺は今回は降りることにする」


 「俺もだ……」


 「負けると分かって戦う馬鹿などいるものか」


 次々と前に出た戦士があきらめて去って行き、最後に残ったのはジェームズ一人だけであった。


 「エーッ!」


 戦いが見られると思っていた人々から落胆の声が上がったが、こればかりはどうにもならない。戦いが行われたとしても、恐らく賭けも成立しないであろう。


 「ああ……そのう……以上の結果を持ちまして。勇者の仲間二人目は、戦士ジェームズに決定いたしました」


 肩を落としたバーテンダーの、気落ちした声が酒場に響き、興味は三人目に移る。



 「それでは気持ちを切り替えまして、三人目の職業は! ……魔法使い!」


 「ウワーアァーッ」


 再び大歓声が上がる。


 見物人と化した酒場の客は、それでもだいたい募集される職業は分かっている。武闘家。戦士。魔法使いは人気の職業であり確実に募集され、四番目は勇者の能力により変わって来る。

 勇者の中には回復の魔法を使える者や、索敵の能力を使える者もいて、重複する能力は必要無いからである。



 【酒場にいる者は誰も知らない秘密であるが、勇者ロビンには回復の魔法も索敵の魔法も使えないが、四人目はハールデンの指示によって募集しないことになっていた。それは支度金の分け前が少なくなるからと言う、ハールデンの自分勝手な理由であったのだが、その真意はロビンでさえも知らないのである】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ