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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
魔王討伐編Ⅲ
289/304

289 カルバン師匠とゼン公

 カルバン道場の門は開いていて、ジェームズを先頭に勇者一行は門をくぐったのであった。

 入って正面には道場の建物があり、道場の入り口は四枚戸の引き違いになっていて、その玄関前の土間を掃いている小柄な老人の姿があった。


 「師匠!」


 老人を見るやジェームズが駆け寄った。その小柄な老人こそ、彼の師匠のカルバンであった。


 駆け寄ったジェームズに気づいたカルバンの目が、大きく見開かれて行く。ジェームズはフードを被っていたが、カルバンは誰であるか気が付いたようである。


 「ジェームズか……」


 驚いて立ち尽くすカルバンの前で、ジェームズはフードを外して頭を下げた。


 「はい……連絡もせず、長らくご無沙汰しておりまして、恥ずかしい限りでござる。不詳の弟子をお許し下さい」


 師匠の前に出て、いつにも増して礼儀正しい彼である。


 「……何の。久しいなジェームズ」


 カルバンは優しい笑みを浮かべ、頭を下げているジェームズの両肩に手を置いた。


 「私の力不足で、お前が旅に出ることを止められなかったが、一目見て確信できたぞ。旅のお陰で腕は見事に磨かれたようだ。良くぞ私を忘れずに尋ねて来てくれたな。それだけで嬉しいぞ」


 師匠の優しい言葉に、益々頭を深く下げるジェームズ。

 カルバンは次に、無言で見守っているジェームズの連れに目を向けた。……気づいたジェームズは師匠に紹介する。


 「ワシの信頼できる仲間でござる。実は我らは……」


 そこまで口にしてロビンの顔色をうかがった。師匠に自分たちの目的を、話しても良いものかと逡巡したのである。


 ロビンは少し考えたのであるが、空気を察したカルバンはジェームズが口を開く前に。


 「何やら事情があるようだなジェームズ。ここで立ち話と言う訳にも行くまい、道場へ入って話を聴こうでは無いか」


 「はい」


 うなづいたジェームズは道場の建物に目をやり、何やら、いぶかし気な表情に変わった。

 彼の表情に気づいたカルバンは。


 「ふふふ。道場が静か過ぎると気づいたか……お前が察した通り、道場は半年ほど前に閉めたのだ」


 「何と!」


 「驚くことは無い。私も歳だ」


 カルバンはジェームズより、ニ十五歳ほど年上である。年齢は七十歳くらいになるはずだ。


 「後見人のゼン公様は、道場を続けるようにと熱心に勧められたのだが、体力と気力の衰えは私自身が良く分かっている……私が納得して跡を譲れる弟子も、ついには現れなかったのでな」


 カルバン師匠が育てた弟子は決して凡庸では無く、高い技術を持つ者も多くいたが、彼の厳しい基準に合格できる者はいなかったのであった。


 「ジェームズ。お前くらいだな。私の眼鏡にかなう者は」


 「……ご、ご冗談をおっしゃっては困るでござる」


 いたずらっぽく笑ったカルバンに、ジェームズは慌てて首を振った。




 「ジェームズ!」


 その時、門の方から不意にジェームズを呼ぶ声がかかった。

 門をくぐった場所には、いつの間にか三人の男の姿があった。


 声を掛けたのは、身なりの良い、背が高く口髭を生やした男であった。年齢は五十歳前後に見える。

 他の二人は三十代の中頃で片手剣を差し、一見して背の高い男の護衛のように見えた。


 「こ、これは……ゼン公様」


 ジェームズは驚きで立ち尽くしている。

 背の高い男は、廃業前のカルバン道場の後見人であり、若きジェームズの修行相手をしてくれていた、ブロン共和国の貴族であるゼン公であった。


 ゼンは満面に笑みを浮かべ、小走りにジェームズへ近づいて来た。


 「近くまで来たついでに、師匠のご機嫌をうかがいに来たのだが、お前に再び会えるとは思いもしなかったぞ」


 ゼンはジェームズの手を取った。


 「ご無沙汰しております。ワシもゼン公様に、お会いしたかったでござる」


 「息災であったなら良い。会えて私も嬉しいぞ」


 笑顔のままで何度もうなづき、続いて離れて立っているロビンらに目を向けた。そして規格外れの体格のハールデンを見てギョッと驚く。


 「ああ、ゼン公様。彼らはワシの仲間で、誰もが一騎当千の強者でござる」


 「そ、そうか。お前の仲間ならばそうであろうな」


 ジェームズは再びロビンの様子を伺った。この場でロビンの正体を、明かしても良いものかと迷ったのである。

 ロビンは小さく首を振った。正式にゼン公の元を訪れて、正式に協力を申し込むつもりであった。


 「ゼン公様。いつもこのような年寄りに気をかけて頂いてかたじけない。今、道場なかで話そうとしていたところでございます。どうぞゼン公様もお入り下さい」


 「済まぬな」


 カルバンに、うなづいたゼンであったが。


 「実は師匠の機嫌を伺いに寄っただけでな。この後も用事があって、ゆっくり話せる時間が無いのだ」


 眉を寄せ。


 「北の防衛拠点へ行く日も迫っておってな。その前に色々と回らねばいけなくてな」


 北の防衛拠点とは、言うまでも無く、『北の魔王』の進撃から共和国を守る為の、彼に与えられている持ち場の事である。

 ゼンはジェームズへ視線を移し。


 「積もる話もあるが今は時間が無い。夜ならば空いているから、都合の付く日に私の屋敷を訪ねて来てくれ……もっとも、あと何日もロルスタットには居られないのだがな」


 「承知いたしたでござる。できるだけ早い内にうかがうでござる」


 「うむ。必ず来いよ」


 彼はその場にいる者を見渡し。


 「騒がせたな……ジェームズの仲間なら誰でも歓迎する。彼と一緒に尋ねて来てくれ」


 そう告げると小さく礼をして、付いて来ていた二人を従えて去って行ったのであった。


 「何でえ、とんとん拍子に話が進んだじゃねえか。願ってもねえ展開だぜ」


 ハールデンが小さな声でつぶやいた。


 「ささ、皆さん、中へどうぞ」


 先頭に立って道場へ向かおうとしたカルバンであったが、それをさえぎるように賢治が口を開いた。


 「先ほどの……ゼン公様ですが、後を付けられている気配を感じました。つけているのは恐らく十人以上と思われます」


 「何だと!」


 ハールデンが声を上げる。

 カルバンは不思議な顔をしている。彼には何の気配も感じられなかったのである。


 ジェームズは不審な顔の師匠に説明する。


 「師匠。彼はケンジ殿と申されて、ワシも遠く及ばぬ気配を察する達人でござる。彼が言うならば間違いは無いでござる」


 ジェームズの言葉には確信がこもっていた。


 「ならば直ぐに知らせねば」


 焦るカルバンにハールデンが。


 「おっと師匠さんは旦那と、積もる話でもしておけば良いぜ。ロビンもな。後は俺とメリッサに任せて置きな。なあにチャッチャッと片付けて帰って来るからよぉ……オラァ! ケンジ行くぜ、ボケッとしてないで案内しろ」


 ハールデンはメリッサと賢治を連れて、返事も聞かずに門をくぐって出て行ったのであった。


 「だ、大丈夫なのか」


 驚いているカルバンにジェームズが。


 「師匠。彼らは腕が立ち、信頼できる仲間でござる。……少々、やり過ぎるきらいはあるでござるが……」


 「三人が向かったのなら、相手が何人であろうが武力的には問題はありません。ゼン公様の身は間違いなく安全です。むしろ心配なのは襲って来る相手の方ですが……まあ、やり過ぎはしないと思うのですが」


 そうは口にしたものの、ハールデンとメリッサの組み合わせは、不安が頭をよぎるロビンであった。





 通りに出て周囲を見渡したハールデンであったが、ゼン公の姿は既に見えなくなっていた。


 「おい! ケンジ、頼むぜ」


 うなづいた賢治は躊躇ためらう様子も無く速足で歩き始める。その後を疑いもせずついて行くハールデンとメリッサ。

 過去の経験から、ケンジの能力には全幅の信頼を寄せていた。


 当然であるが、賢治にはどこかへ向かったゼン公の行方を知る能力は無い。ゼン公が付けられていることを知らせたのは彼の使い魔であり、今も使い魔の連絡を受けている妖精カノンの指示通りに、足を進めているのであった。


 「そこを右。次の通りを左」


 などと、確信を持った口ぶりで速足で歩いて行く。


 「やっぱすげえなケンジ」


 「さすがだね」


 ハールデンとメリッサの称賛は止まらないのであった。

新しい白地図を公開しています。

「 アメブロ daimaoukenji 」で、検索してみて下さい。

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