表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
海賊(ルーミッド)編Ⅰ
241/304

241 海賊上陸

 (早く日よ登れ)


 東の空を睨んで小隊長は祈った。日が登れば魔物が居なくなる訳では無いが、少しはこの絶望的な状況に、希望が見えるのではないかと思えたのである。


 その時。

 小隊長の祈りが通じたように、真っ暗な闇夜の中に日が登った。

 しかし日は東からではなく、北の草原方向から登ったのである。その光点は日よりも遥かに小さな光球であったが、それはその辺りの草原一帯を照らす、強烈な光量を持っていた。


 「ウオオォオーーッ!」


 「ガアァアーーッ!」


 同時に前方から一斉に魔物が吠える声と、人らしき叫び声が辺りに響き渡り、声は人々の周囲を包囲した魔物の集団へ広がって行った。


 「来るぞ! 集中しろ!」


 何が起きているか分からない小隊長であったが、このまま無事で済むわけは無いと、部下と人々に向けて警戒を叫んだ。

 しかし、騒がしい叫び声は前方で二つに分かれると、円陣を組んだルーミッド村の村民と、ワランバ兵を避けるように、左右を通って後方へ通り抜けていったのである。


 「何だ! 何が起こっている!」


 全くの想像外の出来事に、小隊長も誰も困惑を隠せない。

 そして狼狽する彼らの前方から、まるで神が降臨するかのように、皮鎧の上にマントを羽織った人が現れたのである。


 呆然としてたたずむ小隊長に、突然現れた人が話し掛けて来た。


 「皆さん大丈夫ですか? 良かった。間に合ったようですね」


 その場に似合わない、落ち着いた声で話し掛けて来たのはロビンである。他の仲間は(賢治を除く)光球の下で魔物を掃討中である。


 「あ……貴方様は……」


 小隊長は、その威厳に満ちた爽やかな笑顔の青年を見た。姿格好はワランバ軍の兵士にも、ただの傭兵にも見えない。強いて上げるならば冒険者であろうか。

 小隊長以外のワランバ兵も、村民たちも夢のような出来事に、ただ離れて見ているばかりである。


 「た、助かりました。ぼ、冒険者の方でしょうか? よくこんな場所に来ておられましたね。お仲間は大勢いらっしゃるのでしょうね」


 大群の魔物を簡単に蹴散らしている気配から、かなり多くの冒険者のチームが来ているのだと、疑いもせず想像した小隊長なのであるが。


 「いえ、僕らは五人組の一チームだけです。僕は最初に少しだけ手伝っただけで、もう用済みのようなので、後は信頼する仲間に任せました」


 平然と口にするロビン。

 《正確には賢治は戦っていないので、現在魔物を駆逐しているのは、たった三人なのであるが》


 「……へっ?」


 意味が分からない小隊長に、ロビンは懐から教会発行の勇者の証明書を出して、彼だけ・・・に見せた。


 「貴方だけに僕の本当の正体を教えますので、他の方には内密でお願いします」


 「げっ! (勇者様!)」


 「勇者様」の言葉は辛うじて口を押えて叫び、驚きで目を飛び出させて、ひっくり返りそうになった小隊長である。

 彼が驚きで倒れそうになったのも無理も無い。人類の希望である勇者は誰もが尊敬する存在であり、どこででも会える存在ではない。このような僻地の草原の中で助けてもらえるとは、まさに千載一遇の奇跡であった。


 「ところで、この人々は何故ここに? 見たところ女子供、老人ばかりで、どこかの村の住民の方のようですが?」


 尋ねられた小隊長は「はっ」として我に返った。今は驚いているばかりには行かない。村は海賊の襲撃を受けて、危機的状況を迎えているはずである。


 「ゆ、勇者様! 漁村が襲われようとしています……いや、もう襲われているかも知れません。どうぞお助け下さい」


 言葉を震わせながら、ロビンの手を握ったのであった。





 雲に隠れた月の光は弱くて、ルーミッド村の沖にイカリを降ろした海賊船は、注意深く観察していなければ、容易には発見できなかったであろう。

 普段から警戒を怠っていなかったので、当直のワランバ兵が気づくことが出来たのである。


 海賊船の左右に設置された小型船が海に降ろされ、凶悪な面構えの海賊たちが次々と乗り込んで行く。

 甲板で指揮を執っているのは、海賊船の船長であるガーレリア船長である。黒髭くろひげを蓄えた腹の突き出た大男である。


 「静かに近づくんだぞ。奴らはまだ気が付いちゃいねえはずだ。……奴らの守備兵は五十人かそこらのはずだ。兵も住民も皆殺しで構わねえが、略奪が済むまでは家に火はつけるんじゃねえぞ」


 指示されて海賊たちはうなづいている。言い付けを守らなければ、ガーレリアは誰であろうと容赦なく処分する男である。


 「特にフェーゴ! お前は気を付けろ」


 名指しされた海賊は、他の海賊とは違った珍しい長いマントを纏っていて、肩をすくめてうなづいた。

 彼は冒険者崩れの魔法使いで、海賊船の中でも特別待遇されている男であった。


 「分かってるよ船長。家を燃やしちまったら、お宝まで燃えちまうからな」


 「その通りだフェーゴ! お前の出番は無いと思うが、あの砂浜の柵が邪魔な時は、得意の《火球》で燃やしちまいな」


 親指を立ててガーレリアは指示を出した。彼にはこの火系魔法を使うフェーゴの他にも、同じく片手剣の達人のマルガを手下としていた。

 そんな二人の優秀な部下を持ってはいたのであるが、多勢に無勢で海賊島の勢力争いに破れたのである。


 彼はこんな東の僻地まで落ち延びて来たのであったが、彼と同様に落ち延びて来た、別にも二隻の海賊船があって、それぞれの船に船長が乗っている。

 三つの海賊は同じ境遇の者同士、敵対こそしていないのであるが協力もしていない。協力して村を襲えば襲撃は楽になるが、漁村は貧しく、手に入る獲物が少なくなるからであった。


 「良いか! 今日はどんなに抵抗があっても絶対に引かんぞ! 命懸けで行け!」


 ガーレリアは手下たちを鼓舞する。彼らには知らせていないが、落ち延びて来た時に積んでいた物資は、あと少しで底を尽くのである。そうなれば彼の立場も微妙なことになるだろう。

 静かに海に降ろされた数隻の小型船は、海賊たちを満載し、音を立てずに砂浜に向かって進んで行ったのだった。





 「良いか、出来るだけ海賊どもが柵の近くに来るまで我慢せよ」


 柵の内側の全体が見渡せる場所で、ランバが小声で指示を出し、それは守備についた兵士と村の有志たちへ伝わって行った。

 本来ならば上陸するところを狙うべきなのであるが、こちらの戦力は圧倒的に少なく、柵へ近づいて来たところを、全力で大打撃を与える作戦である。

 その一撃で大きな被害を与えれば、海賊たちの戦意をくじくことに成功する。そのまま逃げ出してくれれば一番良い。


 東の空が明るくなって来ていて、水際に降りた海賊の姿と小型船を、シルエットとして浮かび上がらせている。やって来た小型船は十隻ほどで、海賊の人数は予想通り百五十人くらいのようである。

 柵の内側に隠れた守備隊が、息を潜めて見詰める中を、海賊は一団となって、漁村のある方の柵へ向かって近寄って来た。


 息を潜めて海賊の動きを伺っていたランバは、ついに立ち上がって叫んだ。


 「撃て!」


 満を持していたワランバ兵は、弓による一斉射撃を行った。


 「ウアァーーッ」


 闇に紛れての接近が、察知されていないと考えていた海賊たちから悲鳴が上がり、バタバタと数人が砂浜に倒れた。


 「畜生! 待ち構えてやがったか! 皆、盾を前に出せ」


 続いてワランバ兵による弓の第二射攻撃が行われたが、今度は盾によってほとんど防がれたようである。


 「守備兵は少ないぞ! 野郎ども一気に柵を壊してしまえ!」


 盾を前に出て来た海賊であったが、明るくなり始めた薄明かりの中に、柵の間からこちらに向けられた槍先を発見した。

 そのまま無理に前進すれば、柵を取り壊している間に大きな被害をこうむることになる。海賊の足が止まった。


 「良いぞ! 海賊やつらの前進が止まった」


 ランバの狙い通りの展開である。

 最初に海賊船を発見した一時間ほど前に、戦えない住民を草原側へ避難させ、同時に隣の漁村の守備隊へ救援要請を向かわせている。時間が過ぎれば救援の兵が間に合うことになる。


 「お前ら退け! 前を空けろ! だが、矢が飛んで来た時は俺を守れよ」


 狼狽している海賊たちの後方から、他の海賊とは格好が違う、マントを着た痩せた男が前に出て来た。

 魔法使いのフェーゴである。


 「フェーゴ兄貴……」


 「兄貴、手をわずらわせちまって済まねえ」


 フェーゴが前に出て来ると、海賊たちは頭を下げて道を譲った。普段は前線には出ない彼であるが、こういう場面で頼りになる存在である。


 「情けねえな! こんな漁村の手作りの柵一つ、お前たちだけで何とかならねえのか」


 不満げに大きく舌打ちをして、首の骨を鳴らして見せたマント姿のフェーゴは、槍が潜んだ柵に向かって片手を伸ばした。

 次の瞬間。


 「《火球》!」


 得意の火系初級魔法を放ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ