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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ラムザ(迷宮の罠)編
211/304

211 渇きの聖杯

二度目の魔王討伐は、もうそこまで迫っています。

勇者ロビン一行は、まずは魔王城へ侵入するためのアイテムを求めます。

 魔王アバンタル勢力との、戦いの最前線の町ラムザは、周囲を城壁で囲まれた要塞とも呼べる町であり、多くの兵士が駐屯していて、町の東には巨大なワーム飼育場も整えられている。

 町へ近づいて行くに従って、石畳の街道は行き交う馬車と荷駄車で、混雑し始めたのであった。


 ほとんどの馬車や荷駄車の荷物は、ワームの餌となるカリアの実を積んでいる物が多かったのだが、中には商魂たくましく、最前線の危険な町に、果敢に商売にやって来ている商人も居るのである。


 そんな多くの隊商の行き交う中を、勇者一行は城壁目指して歩いている。歩きながら周囲を見渡したハールデンが声に出す。


 「それにしてもよロビン。隊商が多いのは当たり前として、冒険者や傭兵らしい姿も、ちらほらと目につくじゃねえか」


 確かにハールデンが口にした通りである。


 「そうですね」


 ロビンも首をひねる。

 ラムザ町は多くの兵士が駐屯している町であり、治安が非常に良い町である。冒険者や傭兵の仕事があるとは思えない。


 「何かよぉ。金の匂いがするぜ」


 笑みを浮かべて、つぶやいたハールデンは、ロビンに無言でにらまれて、空を向いて口笛を吹いた。

 胡麻化したハールデンであるが、彼の金に対する鼻は良く利くのであった。





 ラムザ町への入り口の門の前には、隊商と冒険者と傭兵、そして一般の旅人の長い列が出来ていた。町へ入るには身分証明書の提示が不可欠である。

 勇者一行は、そんな長い列を横目に見ながら、門へと進んで行った。


 「待て待て! お前ら何者だ! とんだ田舎者だな。この町の出入り審査は厳しいぞ! さあ、列の最後尾に並び直せ!」


 手に槍を持った兵士が二名飛んできて、勇者一行を害虫でも発見したかように、手で振り払う仕草をした。


 「これを」


 先頭の賢治がロビンから預かっていた、教会発行の身分証明書を、ふところから取り出して兵士へ渡す。

 一人の兵士が証明書を広げて確認している間に、もう一人の兵士が五人を一人一人吟味して行き、最後尾のハールデンを見て、その巨体に身体を反らして驚いている。


 「こ、これは!」


 証明書を確認した兵士が、驚いて足をそろえると、その場で最敬礼の姿勢をとる。


 「も、申し訳ございませんでした! ど、どうぞお通り下さい!……お、オイ! 失礼になるぞ! 早くこっちへ来い!」


 何が起きたのか理解できず、ハールデンと、直立不動で敬礼している仲間の兵士を、交互に見比べている兵士を呼んだ。


 「ど、どうぞ。こ、こちらでございます」


 態度の変わった兵士は、訳の分からない顔をしている仲間を放っておいて、ロビンたちを先導して門の中へと、入って行ったのであった。




 平身低頭でロビンたち一行を見送った兵士二人は、彼らの姿が見えなくなると、訳が分からない方の兵士が何が起きたのか尋ねた。


 「オイ! いったい何だったんだよ。子供や女や大男やら、奴らいったい何の集団だ?」


 ほっと息を吐いた、尋ねられた兵士は。


 「俺が知るか! だが、奴らの持っていた証明書はよ、教会発行の身分証明書でも特別な証明書だぜ。あれがありゃ、世界中のどの街にも入れるって代物だ。俺も始めて見たぜ」


 「へえ。王侯貴族なら従者を多く従えてるだろうし、教会の特別な使節かな……それは無いわな、あの風体じゃあな」


 兵士は最後尾の大男を思い出して、ブルブルと頭を振った。


 「ひょっとしてよ、勇者様一行だったりしてな」


 「お前は馬鹿か。華奢きゃしゃな少年がいただろう、あんな子供が勇者様一行に居るもんか」


 突拍子も無い名前を出した同僚に、口をへの字に曲げて頭を振った。


 「確かにな……じゃあ何者なんだ」


 二人の推理は続くのであった。





 賑わう雑踏の通りを、北へ向かって勇者一行は進んで行く。町の北側。つまり砂漠側には城のような砦があって、司令部や兵舎が集まっているのである。


 「やっぱりよ。町の中にも冒険者と傭兵が多いな」


 再びハールデンが口を開く。

 良く見れば彼らは、旅支度をしているように見える。この町で装備を仕入れたのか、大きなリュックサックを背負っている者が多かった。


 「この暑い中をご苦労なこったぜ。どこへ向かうか知れねえが、着いた時には干からびてるんじゃねえか?」


 辛辣なセリフを口にしてハールデンは笑う。彼らにはエルバータの塔で手に入れた『神秘の指輪』と、何と言っても、何でも入る賢治の『魔法の腰袋』があるのであった。





 町の北にある砦の入り口で、首都ギーアの治安隊隊長である、ローデウスから渡された紹介状を手渡すと、既に連絡が届いていたのか、下にも置かぬ丁寧な案内で、勇者一行は砦の応接室であろう一室へ通された。

 部屋の奥の壁には、アララーガ砂漠全体が描かれた地図が貼られていて、長いテーブルの左右には上等な椅子が並んでいる。


 「こちらで座ってお待ち下さい。すぐに司令官様が来られますので」


 案内してくれた兵士は、丁寧なものの言いようであったが、ロビンが勇者であることは知らされていない様子であった。


 いくらも待つことなく、応接室に二人の人物が現れた。二人とも軍服姿である。

 背の高い精悍な顔つきの男が、ロビンの前に回って右手を出した。


 「対魔王軍の指揮官を執っております、ブルックマンと申します。友人のギーア治安隊隊長より連絡を受けております。勇者殿に全面協力を致しますので、何なりとお申し付けください」


 「ありがとうございます。ロビンです」


 ブルックマンとギーア治安隊隊長ローデウスは、二人ともフィリギア王国の有力貴族の三男であったが、現在の地位は実力で就任したものであり、ただの、お飾りの貴族の子弟では無い。ブルックマンの剣の腕も、相当のものであるとロビンは感じた。

 年齢はローデウスと同い年の三十三歳である。


 「副官のマーリスです」


 こちらは年配で、人の良さそうな小柄な男が右手を差し出した。年齢は五十歳くらいであろうか。経験を積んだ参謀役と言ったところであろう。


 「ロビンです。よろしくお願いします」


 その後、ロビンは仲間を一人一人紹介した。特にハールデンがフードを取って挨拶した時には、ブルックマンもマーリスも、その凶悪な顔に度肝を抜かれたのであった。


 大男から視線を外せないブルックマンであったが、何度も唾を飲み込みながら、勇者一行に席へ座るように勧めた。


 「お、お疲れのところ恐縮ですが……」


 少し落ち着いてから、ブルックマンが話し始める。


 「ローデウスから手紙で指示されていましたので、皆さんを応接室まで案内した兵士の反応をご覧になったように、皆さんが勇者一行である事実を知るのは、私とこのマーリスの二人だけです。……兵士たちには私の知り合いで、魔王との戦いの重要な戦力になるチームであると告げてあります」


 ロビンはうなづき。


 「ありがとうございます。我々もその方が動きやすくて助かります」


 「決して目立とうとせず、誠実に使命を果たそうとされる勇者殿に感銘いたします。ローデウスが伝えた来た通り、本当に立派なお方だ」


 「褒められるほどのものではありません」


 平然と首を振ったロビンは話を進める。


 「ところで我々は、一応は魔王の情報を調べてからやって来たのですが、町には冒険者や傭兵の姿が多く見られました。彼らは何やら旅支度をしている様子でした。……もしや、魔王のことで何か新しい情報が、入ったのではないかと推測したのですが」


 「!」


 驚きの表情で、ブルックマンとマーリスは顔を見合わせ、ロビンの仲間たちも、冒険者と傭兵が多かった町の様子を思い返した。


 「流石でございます勇者殿。……魔王の城は流れ落ちて来る砂に守られていて、侵入不可能な話は聞いておられると思いますが、この度、古いオアシスにあった遥か昔の遺跡から、落ちて来る砂を止める方法の、情報が記された石板が見つかりました」


 「おお! それは魔王城攻略の切っ掛けを、ついに発見したと言うことになりますね」


 「ちょっと待った!」


 ハールデンが話に割って入った。


 「冒険者や傭兵がやって来たってえことは、賞金が出たってことじゃねえのか? 俺たちゃあ、そんな情報は聞いてねえぞ」


 金に敏感な彼である。

 うなづいたブルックマンは。


 「皆さんは首都ギーアにおられましたね。……実はギーアやその周辺の町には、情報も賞金の話も流しておりません。首都の冒険者や傭兵には、首都周辺の治安を守って頂きたいのでね……もっとも、今頃は噂話として伝わっているかも知れませんが」


 「チッ! 俺たちゃあ出遅れたってえことか……まあ良い。それでよぉ、新たな情報ってのは何だ。そして賞金はいくら出るんでえ」


 山賊のような物言いの彼である。


 「兄さん!」


 ロビンがたしなめたが。


 「分かってるってロビン。俺たちゃあ賞金の為にやって来た訳じゃあねえさ。でもよお、新たな情報の中身と、賞金の金額を聞くくらい良いじゃねえか」


 ブルックマンはうなづき。


 「勿論ですとも……見つかった石板には、『渇きの聖杯』を城の前でかざせば、落ちて来る砂は止まると記されておりました」


 「渇きの聖杯!」


 「そうです。どのような力が働くのかは不明ですが、砂さえ止まれば城へ攻め込むことが出来ます」


 フンフンと、小さくうなづいたハールデンは。


 「読めたぜ! お前ら兵士は、押し寄せて来る魔王の軍勢との戦いで手一杯なんだろ? それで冒険者と傭兵に賞金を出して『渇きの聖杯』を探して来させようッてぇ話だな」


 金が関わって来ると、ハールデンの頭の回転は、異様に鋭くなるのであった。

出来るだけ、二度目の魔王討伐が終わるまで、間隔は空きますが書き続けるつもりです。

読んでやって下さい。

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