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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
北の遺跡編
19/304

19 好事魔多し

 ヒューズとローラン。そして傭兵役で雇われている二人の計四人は、夜は出来るだけ街道の近くにテントを張り、魔物除けの篝火かがりびいて過ごした。


 昼間は街道の近くの森に移動して過ごしている。街道に出ないのは、勇者一行が倒されてしまい、いかった魔物が村に押し寄せて来た時に、先に発見されて巻き添えを食わないように、用心していたのである。


 「兄貴。今頃、勇者は魔物と戦ってるんでしょうね。俺は勇者なんか変わり者くらいにしか、思ったことは無かったんですがね。今回ばかりは応援してますよ。奴らが勝ってくれりゃあ、後金と水晶が手に入るんですからね」


 「俺も同じだ。ミルダに住んでいて何度か勇者の誕生を聞いたが、どいつも、ただのお人好しの馬鹿くらいに思ってたからな。まあ、実際に奴らは世間知らずのお人好しで、騙すのなんぞ、ちょろいもんだったがな」


 ヒューズの顔がほころんだ。


 「ところで兄貴。ルチャム村の奴らが出張って来ませんかね。勇者と出会うと不味まずいですからね」


 「大丈夫だ。俺たちが絶対に魔物を倒すって告げてあるが、万一の為に、門を閉ざして絶対に村から出るなって、念を押してあるからな」


 作戦は完璧である。自信ありげにヒューズはうなづく。


 「さすが兄貴は抜かりがねえや……うん!……あれはひょっとすると」


 ローランが指差した北の遺跡へ向かう支道の向こうから、数人の人影がこちらに向かってやって来る。

 確認するまでもなく勇者一行であった。


 「しめた! 奴ら上手くやったようだぞ! こっちも最後の演技しごとだ。気を抜くなよ」


 「勇者様~!」


 ヒューズとローランが勇者一行目掛けて走って行く。歓喜を浮かべた笑顔は演技ではない。これから大金が手に入るのである。





 破顔して駆け寄ったヒューズとローランは、ロビンの前で膝を付くと頭を下げた。


 「勇者様! ご無事で何よりです。お願いしたものの、勇者様が怪我をされはしないかと、心配で眠れませんでした」


 まずは一番聞きたいことを後にして、勇者を気遣っているフリをした。


 「心配をかけて申し訳ありませんでした。僕がもう少し強く見えれば、そうやって心配していただくことも無いでしょうにね」


 「とんでもございません……それで、ご首尾は?」


 一番聞きたいことを聞いた。


 「入り口から魔物の配下を倒して行って、最奥部の部屋にいた魔物も倒しました。これが証拠です魔物が大事に保管していました」


 ロビンは懐から水晶を取り出してヒューズへ渡した。


 「おお! 間違いございません! 村の宝の水晶でございます。何とお礼を申して良いやら」


 ヒューズはルチャム村の宝の水晶など見たことも無かったが、魔物が保管していたのならこれが本物のはずである。

 ハールデンが水晶を恨めし気に見詰めている。本来ならドロップアイテムとして、自分たちのチームに所有する権利があるはずである。売れば良い値がつくであろう。


 ヒューズは懐に水晶を仕舞うと、何度も頭を下げながら。


 「本来なら、何としてもお礼をしなければならないところですが、依頼金を追剥ぎに奪われた村に蓄えはございません。本当に心苦しく思います」


 「そりゃあそうだろうよ。生贄だって出さなくて良くなったんだ。本来なら、人として何としても礼をするべきだと思うぜ」


 ロビンに睨まれながらも、ハールデンは思ったことを言い切った。これくらい言わなければタダ働きの鬱憤が晴れなかった。


 「仲間が余計なことを申しましたが、本心ではありませんので忘れて下さい。僕は勇者です。困っている人がいれば助けることが使命ですから」


 笑顔でロビンがいうと、ヒューズとローランは涙を流して感謝したのであった。


 「では、僕らはこれで失礼します。試練が待っていますので」


 「もう行ってしまわれますか……引き留める訳にも行きませぬので……我ら村の者一同、勇者ロビン様の魔王討伐の成功をお祈りしております」


 「はい。頑張ります」


 ロビンが手を上げると、賢治を先頭に勇者一行は、東に向けて出発したのであった。



 勇者一行が見えなくなるまで、ヒューズとローランは手を振った。


 「手を振るのも疲れるもんだな」


 「何の兄貴。これくらいで大金が手に入るなら、朝までだって振り続けまさぁ」


 「違いねえ」


 二人は顔を見合わせると高笑いをした。傭兵役の二人も笑みを浮かべている。


 「さあて、魔物退治の証拠の水晶を村に持ち帰って、水晶と後金を頂くぞ」


 颯爽と村へ向かう四人であった。





 空を飛んで来た魔物が北の遺跡に降り立った。


 しばらく留守にしていた拠点に帰って来たジャマールは、留守を守っていた配下が全滅している状況を見て呆然とした。


 《何者の仕業だ!》


 考えるまでもなく、生贄を差し出させていた人間の仕業であろうと確信した。

 あの村に、これだけのことが出来る者がいるはずも無い。恐らく傭兵か冒険者を、雇ったのであろうと推測した。


 《それにしても》


 目を突かれ、腹を裂かれた上に、頭まで割られて倒れている、拠点を預けていたリムザルグの死体を見降ろした。

 

 《情けない……無能者め!》


 怒りが湧いて来て、倒れているリムザルグの頭を踏み潰した。

 辺りに脳漿が飛び散る。


 彼にとってリムザルグは元より、他の配下も満足できぬ弱い魔物ばかりであった。それでも、まさか人間に後れを取るとは思いもしなかった。


 《誰の仕業か知らぬが、必ず地獄を見せてくれる……まずは手始めに、あの村へ行き、誰に依頼したか聞いた上で皆殺しにしてやろう。将来は魔王となるであろう私の、恐ろしさを教えてやる》


 怒りに震えるジャマールであった。





 ルチャム村へ水晶を持ち帰ったヒューズらは、熱烈な歓迎を受けた。

 村は魔物から救われ、もう生贄を差し出す必要も無くなったのである。


 「ヒュー様! このお礼はどのようにして、お返しすれば良いのか見当も付きません……村の中に皆さまを祭る堂を造り、毎日感謝を上げることとします」


 「そのような必要は無いですよ。街道に他の傭兵の方々を残して来ていますので、水晶玉を確認して頂いたなら、早々に帰らせて頂きます(後金も頂いてな)」


 歓迎の宴を開くと言う村長の申し出を断った。本音は金を受け取って早々に立ち去りたいのである。


 「傭兵の方々を待たされているのでは、残念ですが仕方ありませんな……では、後金をお受け取り下さい」


 村長は村の宝である水晶をチラチラと見ながら、何か言い出したそうにしている。依頼金が足らない場合は、水晶を持ち帰っても良いと口にしたものの、こうして一件が終息すれば、惜しくなったに違いない。


 ヒューズはサラマ村長に向かい。


 「サラマ村長。北の遺跡の魔物は、それは強く数も多く、私の雇った傭兵も、その魔物を打ち破るほどに強かったのですが……」


 はらはらと涙を落とし。


 「実は戦いの最中に、傭兵の二人が亡くなってしまいました」


 「何と!」


 「村の方々・・・・を救う為に亡くなった彼らの家族に、私は多めに支払いをしようと思っております。申し訳ないですが、水晶の玉はその資金にさせて頂こうと考えております……分かって頂けますか?」


 村長は唾を飲み込むと。


 「も、勿論ですとも。初めからお渡しするつもりでありました」


 (この野郎! 水晶を渡さないつもりだったのか! ふてえ野郎だ)


 汗を拭くサマラ村長に、にこやかにうなづきながら、心の中で悪態をつくヒューズだった。





 後金と水晶を手に入れたヒューズら四人は、してやったりと言った気分で、支道を北の街道へ向かって歩いていた。


 「それにしても、あの村長の野郎! 最後の最後で渋りやがって」


 ローランは道に唾を吐いた。


 「ははは、怒るなローラン。人はそんなもんだ。俺は全てが俺の思い通りに運んで、こんな気分の良いものはない」


 ヒューズは笑っている。

 ルチャム村の村人と、勇者一行を騙したことに間違いは無いが、魔物もいなくなって誰も損をしていないのだ。手に入れた金と水晶は、その対価であると言える。


 「それにしても兄貴は頭が良いや! 兄貴にすれば、誰もが間抜けに見えることでしょうね。俺は兄貴に付いて行きますので、これからもよろしくお願いします」


 ローランはそう宣言してから、後方を付いて来る傭兵役二人に向かい。


 「オイ! お前らも兄貴に挨拶しておけ! 兄貴に付いて行ったら間違いないんだ」


 「へい! ヒューズさん、これからも使ってやって下さい」


 「ふふふ、任せておけ」


 「兄貴! 俺が一番の手下ですからね。忘れないで下さいよ。俺は兄貴の為だったら、命だって投げ出すつもりですから」


 機嫌をとる為に、精一杯こびを売るローランであったが、見上げた北の空から、何やら近づいて来る黒い影を発見したのであった。

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