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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ギーア(偽仮面ブラザーズ)編Ⅰ
189/304

189 偽仮面ブラザーズ出陣

 ついに明日はブルゲース興業と、ネロ組の喧嘩の日である。首都ギーアの裏社会で最も大きい勢力のブルゲース興業と、ギーア周辺の村々に根を下ろすネロ組の二つの勢力が、生き残りを懸けての大一番である。


 二つの勢力は、数的には互角と噂されているが、何と言ってもブルゲース興業には、『仮面ブラザーズ』(偽者であるが)が助っ人に付いていて、圧倒的に有利であると思われていた。


 昨日の早朝くらいから、少数に分かれた各陣営の者たちは、見咎められないようにギーアの町を抜け出して郊外へと出て行った。喧嘩の場所である東の空き地の周辺で集合する為である。


 両陣営は抜かりなく、ギーア治安隊の目を逃れていると信じていたのであるが、実際はジェームズから伝わった情報を元に、彼らに知られずに周囲に包囲網を敷いていたのであった。





 ギーアから東へ向かう支道の一つに、皮鎧の上からフード付きのマントを羽織った、ハールデンとジェームズの姿があった。

 彼らの周囲にはネロ組の助っ人十数名と、二人を兄貴と呼ぶ、ネロ組のカルマンの姿も見える。


 二人の傍へ寄って来たカルマンは、他の助っ人には聞こえないように、小さな声で話し掛けて来た。


 「兄貴らのお陰で、ブルゲース興業の助っ人は半分以下になりました。興業本体の配下も二十人近く少なくなって、ウチの親分も勝機が見えてやる気が出たようで助かりました」


 「どうってことはねえよ(勇者の仲間の仕事として、悪い奴らを始末しただけだ)」


 最後の方は心の中で、つぶやいたハールデンである。


 数日前に喧嘩の作戦だんどりは聞いている。


 彼らネロ組の助っ人は、喧嘩が始まればブルゲース興業の助っ人を迎え撃つ役目である。その時、決して無理はせず、防戦に徹するようにと厳命されていた。

 彼らが『仮面ブラザーズ』を押さえている内に、ネロ組本体が決死の覚悟で突撃し、ブルゲース興業の本体を叩いてしまうのである。

 ブルゲース興業の親分を倒してしまえば、その時点でネロ組の勝利は決定する。そうなれば『仮面ブラザーズ』も戦いを諦めるであろう。


 「ワシからすれば、仮面ブラザーズを倒さぬ作戦は消極的過ぎるでござるな。防御に徹するなど面白くないでござる」


 口を尖らすジェームスである。


 「ジェイ兄の言う通りだな。俺らが二人いれば、仮面ブラザーズなど屁でも無いぞ」


 弟も兄に同調する。


 「まあまあ、そう言わずにお願いします」


 カルマンは二人の機嫌を取る。

 二人の凄さを見ているカルマンは、ひょっとするとこの二人であれば、仮面ブラザーズに対抗できるかも知れないと思ってはいたが、もし、二人が簡単にやられてしまえば、他の助っ人も逃げ出してしまい、ネロ組の作戦が瓦解してしまう。いわばこの二人は今回の一戦のキーマンであった。


 カルマンが二人が暴走しないようになだめている頃、ブルゲース興業の幹部のバイナーも、偽仮面ブラザーズに手を焼いていたのであった。





 「お二方、酒はそのくらいにして、そろそろ喧嘩支度をして頂かないと……」


 今回の喧嘩の切り札とも言える、仮面ブラザーズを宿屋に迎えに来たバイナーは、いまだに酒を飲み続けている兄弟に手を焼いていた。


 「心配しなくて良い……相手は大した数では無いだろう。簡単に蹴散らしてやるから楽しみにして居ろ」


 「何なら、他の助っ人もブルゲース興業の者も、誰一人動かなくても良いぞ。何せ、我らは草原で六百人を蹴散らした実績もある……あれ? 八百人だったかな? 忘れてしまったわ」


 「ワッハッハー」と二人は高笑いをする。


 「お二人が鬼神のように強いことは分かっています。ですが喧嘩の時間に間に合わなければ、どうにも話になりません」


 バイナーは焦っている。今から支度してもギーアを出るのは夕方になるであろう。そうなれば空き地へ着くのは朝方になる。夜明けと共に喧嘩が始まることになっていた。


 「五月蠅うるさい奴だな! 分かった! 支度を始めることにする。……そうだ! 約束通り報酬は持って来たんだろうな?」


 兄のマーダンが目を細めた。


 「間違いありません。表の荷駄車に用意してまさあ」


 「それなら良い」


 うなづくマーダンである。


 彼らは喧嘩が終わった後、その場で報酬を受け取ってギーアへは戻らないことになっている。あくまで二人はネロ組との喧嘩の助っ人を請け負っただけであり、喧嘩が終わった時点でブルゲース興業との関係も終了するのである。


 彼らのような喧嘩の勝敗を左右する戦力が、もしも町に居座れば、ブルゲース興業の社長も気が気では無いであろうと、彼らの方から忖度そんたくして言い出したのである。

 それはブルゲースとしても、願ったり叶ったりの提案であった。


 「直ぐに着替えるから、外で待ってろ」


 「お願いします」


 ホッとしたバイナーは、表に待たせている荷駄車へ向かった。小さく首を振りながら。


 「強い奴は扱いが難しくて仕方が無いや……だが、これで喧嘩には間に合う。ブルゲース興業の勝利も間違いないぜ」


 笑顔を浮かべるバイナーである。





 皮鎧を着込み、フード付きのマントで顔を隠した仮面ブラザーズを先導して、バイナーはギーアの東の門を出た。


 日はすでに傾いていて、いくらも経たない内に辺りは暗くなるであろう。荷駄車は馬二頭曳きのタイプであり、御者の座っている台の左右には、吊り式の外灯が付いているので、明かりを点ければ夜道を行くにも問題は無い。


 一行はバイナーが先導して先を歩き、荷駄車に御者が一人。荷駄車の左右に護衛役のブルゲース興業の組員が二人、そして最後尾から仮面ブラザーズの二人が付いて来ている。

 辺りは暗くなって来て外灯に火が入ったが、今夜は月明りが明るくて、外灯はそれほど必要が無いようだ。


 先頭に立ったバイナーは、前方に注意を払って歩いて行く。この支道はフィリギア王国の首都ギーアから直接伸びている整備された支道であり、国の中でも最も安全な道であるが、絶対に魔物が出現しないとは限らないのである。

 もっとも、魔物が現れたところで、絶対の強者が二人付いているのであるから、危険は無いと確信していた。


 しばらく歩いて行くと、後ろから足音が近づいて来て、バイナーの隣りに並んだのは、仮面ブラザーズの弟の方のホセであった。

 二メートルを超える体格で、スキンヘッドの顔は身体と同じく丸々と肉が付いている。

 草原で六百人と戦った時は、多くの者の頭を踏み潰してペシャンコにしたそうである。


 「こ、これはホセさん」


 圧倒的な肉の量と、相手を踏み潰して殺す残忍な話を聞いていて、気圧されたバイナーは声が震えている。


 「魔物が出ないとも限らないだろう……俺が一緒に先頭を歩いてやるぜ」


 「こ、これはありがとうございます。心強い限りだ」


 「そうだろうな。俺は強いからな。一度だって負けたことはねえ」


 「そうでしょうね」


 実際に隣で見ると、同じ人間とは思えない大きさである。


 「バイナーさんよ。俺が強いのは良く分かるだろう?」


 「はい……」


 何を話し始めるのかと、理解できないまま相槌あいづちを打った。


 「俺は間違いなく強いんだけれどもよ。例えばだ。……そうだな、片手剣やら槍を持った六人の敵に、周囲を囲まれたら、お前ならどうしたら良いと思う?」


 「……えっ? 六人の敵?」


 「六百人とは言わねえ。六人に囲まれたとしたら、どうするかって聞いてるんだ?」


 ホセの真意が分からないが、バイナーは自分ならどうするか真剣に考えた。


 「どちらか一方に向かうと見せて、片手剣をいで牽制しておいて、一か八か逆方向を斬り破って脱出すると思います」


 真剣に答えたのが嬉しかったのか、ホセは笑顔を見せた。


 「良いぞ! 意表を突くって作戦だな。俺も同じ様な手を使うだろうな。……しかし、俺の皮鎧の下には鉄板が張ってあるんだ。俺なら牽制などせずに、そのまま弾き飛ばして数人は戦闘不能にできると思うぞ」


 「……なるほど」


 ホセが何を言いたいのか、いまだに分からず、困惑するバイナーである。


 「今は囲まれた人数が六人だった場合だがよ。今度は相手の数が、その十倍の六十人だったとしたらどうする?」


 「六十人!」


 数を口に出したものの、とんでもない数の敵である。どうやって斬り抜けるか想像もつかない。


 「何だ? もう思いつかないのか?」


 残念そうに肩を落とすホセである。


 「どうやったら良いんですか?」


 逆に聞いてみた。

 ホセはニッコリとほほ笑んだ。


 「無理だな。……六十人に囲まれたら、いくら俺が強いとは言っても、脱出は出来ないな……しばらくは暴れ回るが、やがて身体中、斬られて突かれて傷だらけになって死ぬしかない」


 「えっ?」


 「六百人って人数は、その更に十倍なんだぜ。天地が逆になったって生き残れるものか。六百人を蹴散らせる人間は、絶対に存在しないって断言しても良いぜ」


 真意が分からず、馬鹿のように口を開けたバイナーを、ホセは笑みを浮かべて見降ろしている。


 「俺と兄貴が仮面ブラザーズの名を出すと、お前は信じたようだが、そんなものは小さな話が大きくなって伝わっただけさ。お前らは馬鹿でお人好しだぜ。ちょっとでも脳味噌があれば、そんなことがある分けねえって気づくはずだ」


 バイナーの唇が震え出した。

 ハッとした顔になった彼は、振り返って後方の荷駄車と護衛を見た。


 いつの間にか護衛は姿が見えなくなっていて、荷駄車の御者も兄のマーダンに代わっていた。どこかで始末されてしまったらしい。

 こちらを向いたマーダンは、振り向いたバイナーを見て、笑顔で小さく手を振っている。


 (俺らは騙されていたのか)


 気が付いたバイナーであったが、首根っこを押さえられると、圧倒的な力で地面に押し付けられた。


 「ち、畜生! 最初から騙していたのか!」


 「騙したなんて人聞きが悪いな。演技が上手かったと褒めてくれ。それにな、仮面ブラザーズの噂ほどでは無いが、俺たち兄弟が強いってえのは本当だぜ……邪魔者は容赦しないってのもな」


 ホセは手を外して、代わりに足裏でバイナーの頭を押さえつけた。

 この後、何が起きるのか、察知したバイナーが涙声に変わった。


 「わわわ分かった! ま、待ってくれ! 俺は誰にも話さねえ。何も見なかったし聞いていない。たたた、助けてくれ! 助けて下さい!」


 「グシャ!」


 命乞いも空しく、ホセが体重を掛けると、バイナーの頭は簡単に潰れた。四肢がピンと伸びてしばらく震えると、すぐに動かなくなった。


 「済んだぜ兄貴」


 「ホセ、ずいぶん会話を楽しんでいたな」


 マーダンは鼻で笑ってから周囲を見渡した。


 「もう少し先へ行けば、北へ向かう支道がある。そっちへ向かうか」


 「分かったよ兄貴」


 弟がうなづく。


 「……別の土地へ行けば、もうしばらくは『仮面ブラザーズ』の名前で、飯が食えるかも知れねえな」


 笑顔で親指を立てたのであった。

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