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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ギーア(偽仮面ブラザーズ)編Ⅰ
184/304

184 それぞれの思惑

 フィリギア王国の首都ギーアは、巨大な城壁に囲まれた都市であり、東西南北の四か所に門がある。

 その南門前の広場の正面には、中央へ続く大通りがあるのであるが、大通りから三本ほど西に通りを入ると、中級の宿屋が並んでいる通りがある。

 

 ずらりと並んだ中級宿屋の中の、何の変哲も無い宿屋の一つが、ギーアでのネロ組の拠点の一つになっていた。

 店主と番頭以外の従業員はギーアに住む住人であり、まさか自分の働く宿屋が、裏家業の一味のアジトとは誰も夢にも思っていないのであった。

 その部屋の一つには、数日前からネロ組の親分であるネロが逗留していて、従業員はネロのことを「たまに首都に商売に来た時は、この宿を贔屓ひいきにしている商人」くらいに思っていたのであった。


 「そんなに強いのか、お前の雇った助っ人は!」


 カルマンの報告を聞いてネロは身を乗り出した。

 ネロ組の親分である彼は五十五歳。小柄で頭に白髪が混じった、暴力とは程遠い印象の男であるが、流石に目の光は鋭い。


 「はい。ディア村に来ていたブルゲース興業の手下十五人を、たった二人で簡単に片付けちまいました。この目で見ましたから間違いありません」


 その凄技を盗み見たカルマンは、翌日、村を出た彼ら二名を、ネロ組の助っ人にスカウトしたのである。

 強い助っ人と聞いて、一瞬明るい表情になったネロであるが、直ぐに顔を曇らせた。


 「だがな……ブルゲース興業の助っ人は、あの仮面ブラザーズだ」


 わずか二人で八百人を相手にして、その半数を殺し、残りは蹴散らしたと情報を聞いていた。

 (……噂には尾ひれが付くもので、四百人が六百人、八百人と増えて行っていて、中には千人を相手にしたと話す者も居る)


 「しかしよぉ、ここで勝ち目が無えと尻尾を畳んで逃げ出してしまえば、俺は二度と業界には返り咲けねえ」


 ネロは口を結んで腕を組む。


 「親分の気持ちは分かっています。俺らも命懸けでさあ」


 頼もしい子分にうなづき返したネロは。


 「俺にも考えがある。ブルゲース興業は、強過ぎる助っ人を雇って安心したのか、助っ人の数は多くねえ。こっちは逆に出来るだけ多く助っ人を雇うんだ」


 うんうんと首を振るカルマン。


 「仮面ブラザーズを恐れて、助っ人が集まるか疑問でしたが、噂を信じない者も多くいまして、最初の助っ人には逃げられちまいましたが、その後は順調に雇えています」


 「ああ、そうだろうさ。二人で八百人を相手にするなんざ、普通は信じられねえからな。俺だって信じられねえ……とにかく、喧嘩が始まったら、構わねえからウチの助っ人全部を仮面ブラザーズにぶつけるんだ」


 「全部をですか?」


 「そうだ。いくら何でも一瞬で全員がやられるわけがねえ。その間に、俺たちが死に物狂いでブルゲースの首を取っちまうんだ。それしかこっちが勝つ方法はねえ」


 「なるほど」


 「ここは男が命を懸ける正念場だぜ」


 ネロ親分は腹をくくったらしく、気合が入っている。


 「分かりました親分!」


 カルマンは感動している。死ぬ時は親分と一緒だと決めた。


 「カルマン。お前はウチの助っ人を良く管理しておくんだ。中には臆病風に吹かれる奴が、出て来ないとも限らねえ」


 「先ほど話した通り、ウチの話に乗って来た助っ人は、二人で八百人を相手に喧嘩したなんて、誰も信じちゃあいませんぜ。どう考えても話が荒唐無稽すぎますからね」


 苦笑いを浮かべてカルマンは首を振った。


 「それでもウチの助っ人を、よく監視しておくんだ。喧嘩の日が近づいて来て、浮足立っている奴が居たら、構わねえから解雇しちまえ! その方が他の助っ人に示しが付くってもんだ」


 「そうですね。良く見ておきます」


 集めた助っ人たちには、ネロ組の息の掛かった飲み屋で酒と女を与え、今のところ特に問題も無かったのであった。





 ネロ組の助っ人が集まった飲み屋では、ハールデンが左右に女性をはべらせて楽し気に酒を飲んでいた。

 蝶の姿をした仮面を付けたままであるが、それでも恐ろしい顔は迫力十分である。左右の女性も緊張で顔が強張っている。


 彼のテーブルの周囲には、他の助っ人が集まっていて、ハールデンはこの助っ人集団のリーダー的な存在になっている。

 最初に顔合わせした時点で、彼の顔と巨大な体格を見れば、誰もが自然とハールデンに従うようになっていたのである。


 そこへ店の扉が開き、入って来たのはフードを被ったジェームズであった。彼もフードの下に蝶の仮面を付けている。


 「おっ! 旦那……ジェイ兄さん」


 ハールデンが声を掛け、軽く会釈したジェームズは隣に座り、周囲の者に席を外すように合図した。

 ジェームスも一目置かれているようで、誰も文句は言わず、女はホッとした顔をして席を立ち、男たちは別のテーブルへ移った。


 「どおでえ旦那」


 皆が居なくなると、いつもの言葉つきでハールデンが尋ねる。

 ジェームズはうなづくと。


 「ロビン殿は見つかったでござる」


 笑顔でそう告げた。


 ジェームズは首都ギーアに入ると、フードをかぶったまま、昔の知り合いに会うと断って、一人で町中へ出て行った。

 彼はギーアの闘技場に出場する為、十数年前に二年ほどこの町に住んでいて、その頃、偶然命を助けたことのある、知り合いの宿屋の主人に、ちょっとした仕事を頼みに行ったのであった。


 その仕事とは、ジェームズら二人は裏家業の組織の助っ人と言う立場である為、目立った行動はとれないので、彼らの代わりに南門から入って来る予定の、ロビン一行を待ち受け、探してもらう頼みであった。


 久しぶりに尋ねた宿屋の主人は、ジェームズとの再会を喜び、何でも手伝うと快く承諾してくれたのであった。


 「あの大勢の人間の往来の中から、良く見つかったな」


 ハールデンが驚くのも無理はない。首都だけに、毎日町に出入りする人数は膨大な数なのである。

 ロビンらがギーアへ入る日にちが分からなかったので、ロビンと取り決めたのは、毎日、十二時ごろに南門へ顔を出すことだけであった。


 「何と言っても、ケンジ殿は良く目立つでござるからな」


 宿屋の主人は店の者を交代で南門に付けてくれた。店の者にはロビン一行の特徴を告げてあって、特に背が高く、帽子を深く被って、肩の辺りに妖精が飛んでいるケンジは見間違えようが無い。

 南門を潜って来たところを、一発で見つけたのであった。


 「ロビン殿らは三人でなく、五十人からなる兵士と共に、門をくぐって来たそうでござる」


 「はあ? 兵士五十人って、どういうことでえ」


 「店の者が話すには、ロビン殿らは兵士たちから、非常に丁寧に案内されていたそうでござる」


 「益々、訳が分からねえな」


 ハールデンは首を捻る。


 「そんな光景を見て声を掛け損ねた店の者は、彼ら兵士一行の後を付いて行き、兵士らが入った建物はギーア治安隊の本部だったそうでござる」


 「何とな! ってえことは、その兵士らはギーア治安隊の兵士ってことになるな」


 目を丸くするハールデンである。


 「まあ、丁度、都合が良いではござらぬか」


 「うん?」


 「ネロ組とブルゲース興業の情報を、告げに行く場所が出来たことになるでござる」


 「ハッ。そうなるな……じゃあ、最後の勝負が始まるまでは、せいぜい美味い酒と女を頂くことにしようか」


 笑顔で酒に手を伸ばすハールデンであるが、ジェームズは真面目な顔で。


 「奴らの中には、我らのカッコ良いポーズを奪った罪を、償ってもらわねばならぬ奴がいるのでござる」


 そうつぶやいたのであるが、実際は彼の思い込みであり、誰もポーズは奪っていないのであって、明らかに『勘違い』である。

 しかし、どうやら偽ブラザーズは、明らかに嘘をついた責任を、取らなければならない運命のようである。





 ここはブルゲース興業が経営する宿屋の一室である。

 上半身をはだけた四十代のスキンヘッドの男が、ベッドに座って酒を飲んでいて、ベッドの上には全裸の女性が二人眠っている。


 「ドンドン!」


 部屋の扉が叩かれて、返事も待たずに扉が開くと、入って来たのは見上げるような巨漢の男であった。

 こちらは三十代の中頃に見え、同じようにスキンヘッドである。


 「兄貴! 食い物はあるか? こっちは全部食っちまった」


 「相変わらずだなホセ。そこにあるのを全部食っちまいな」


 兄貴であるマーダンは苦笑いをして、ベッドで眠っている二人の女の尻を叩いて、起こしたのであった。


 「弟と話があるから出て行きな」


 起き上がった二人の女は、眠そうにしながら全裸のままで部屋を出て行った。

 椅子に座ったホセは、食べ物を口にしながら出て行く女の尻を眺めている。


 「兄貴の女の方が丈夫そうだな」


 下卑な笑みを浮かべた。


 「お前は女を丈夫か、そうでないかで見てるのか? お前に掛かったら、どんな女でも一晩持たねえよ」


 「違いねえ」


 ホセは声を出して笑う。

 巨漢の彼は身長はニメートルを超えていて、丸々とした身体は脂肪の塊に見える。体重は二百五十キロはあるであろう。


 マーダンとホセは本物の兄弟であり、仮面ブラザーズを名乗って、ブルゲース興業の助っ人となっていた。


 「こんなに楽しめるとは、兄貴は頭が良いや」


 「まあな。ここまでは考えていなかったがな」


 兄のマーダンは、最初は飲み屋の代金を踏み倒すくらいの軽い気持ちで、噂に聞いた仮面ブラザーズを名乗ったのであった。

 弟のホセの体格は噂で聞いた通りであり、彼も二刀を差してそれなりの格好をしていた。


 「で、兄貴。いつまで芝居を続けるんだい」


 真顔になったホセが尋ねる。

 腕には自信があるが、どうせ嘘であろうが、本物の仮面ブラザーズのように、二人で数百人を相手に出来る訳が無い。


 「今は様子見だ」


 「様子見?」


 「ああ。ネロ組が、とてもかなわねえと逃げ出すかも知れないだろう? そうなりゃ、またしばらくは同じ生活を楽しめる」


 「……逃げないで、喧嘩になればどうする?」


 「フッ」


 笑みを浮かべたマーダンは。


 「心配するな。ちゃんと考えてある。まあ、金だけはいつでも持ち出せるようにしておけよ」


 余裕の表情を浮かべるのであった。

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