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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ギーア(偽仮面ブラザーズ)編Ⅰ
182/304

182 待ち伏せの相手

 街道の左右に潜んでいる人数は三十人ほどであろうか、こちらを伺う気配が漂ってくる。

 最初は自分達を待ち伏せしている者かと考えたロビンであるが、特に相手に心当たりも無いので、旅人を襲うつもりの野盗なのかも知れないと推測した。


 「野盗なら、この後、通過する他の旅人の為にも、退治して置いた方が良いですね」


 腰に付けた水筒を外し、口にしながらロビンが仲間に告げる。特に表情も変えずに話すロビンは、こういう状況にも慣れて来たからであろう。


 「勿論さロビン! 放って置けば今後も多くの一般人が犠牲になるんだからね! 何ならあんたは見ているだけでいいよ。そうだ! ケンジが怪我をしないように、あんたはケンジのそばに付いていなよ」


 満面の笑顔でメリッサは提案する。


 「逃がしてしまったら、きっと別の場所で同じ様に人を襲うだろうからさ、一人も逃がすつもりは無いよ。……今日はハールデンもジェームズも居ないから、全部私の獲物で良いよねえ」


 長い舌で、赤い妖艶な唇を舐め回すメリッサである。

 彼女は幼少の頃に凄惨な体験をしていて、野盗や盗賊、裏家業の者など、暴力を振るう人種に、異常な弑逆性を発揮するのである。


 「そ、そうですね。ですが苦痛を与え過ぎるのは、あまり良くないと思うのですが」


 遠慮気味にロビンが考えを口にすると、メリッサはキツイ目でロビンを睨んだ。

 声を一段落とすと。


 「何を甘いことを言ってるんだよロビン! ああいう奴らは、そうして殺されても文句の言えない行為を、何度も繰り返して生きて来てるんだよ。無力で無抵抗な相手を笑って殺して来てるんだ。私はそうして殺された人々の無念の借りを返すんだよ。どうせ返すなら、色を付けて返すのが当たり前じゃないか!」


 「(当たり前とは思いませんが)……そ、そうですか。まあ、ほどほどにお願いします」


 彼女の論理には、それなりの筋が通っていて、ロビンもあまり強く反対できなかった。この荒廃した世界で、他人の財産と命を簒奪して生きる者たちは、とんでもない残虐性を発揮する者が多いのも事実である。そんな者たちが非業の死を遂げたと話題になれば、多少は暴力の抑止力になるかも知れない。


 「さあ、こうして獲物が休憩してるのに、なぜ襲って来ないのかねえ。こっちはいつでも良いのにねえ」


 早く襲って来ないかと、笑顔を見せていた彼女の眉が寄せられた。


 「どうかしましたか?」


 「……何ね。これから襲うつもりのくせに、なぜか、あまりにも殺気が弱すぎるなあって思ってね」


 彼女がいぶかしんだように、隠れている集団からは、なぜか強い殺気が感じられなかった。





 「何だ、あの三人組は……邪魔な場所で休憩しやがって」


 岩陰に隠れている集団の、リーダーであるガイエンがつぶやく。

 彼の視線の先には、大木の陰で休んでいる三人の旅人が見えた。

 (ロビン一行である)


 「おい!」


 近くにいた、先ほどまで物見に出ていた手下を呼んだ。


 「へい! 兄貴!」


 慌てて手下が飛んで来た。


 「もう直ぐ奴らがやって来るのは、間違いはねえんだろうな?」


 「はい。間違いありません」


 ガイエンは次に顎をしゃくると。


 「あの三人組の旅人は何でえ。聞いてねえぞ」


 「いえ、奴らよりだいぶ先を行っていましたんで、この場所は行き過ぎちまうであろうと思ってたんでさあ。まさか、あの木の下で休憩するとは……」


 「馬鹿野郎!」


 物見役の男は怒鳴られて首を引っ込めた。


 「仕方ねえ。もしも奴らが来ちまったなら、奴らと共にるしかねえな。運の無え旅人だ」


 つぶやくと、もう一度三人組を確認した。

 女と子供は簡単に始末できるであろう。もう一人は良い体格なのが遠目でも分かる。しかし、武器は腰に木刀を一本差しているだけに見えた。


 (何か別に武器を持っているのかも知れねえな)


 ガイエンは体格の良い男が、女と子供の用心棒なのであろうと推測した。





 「どうして襲って来ないのかねえ?」


 メリッサは首をかしげる。

 獲物を目の前にして、襲って来ない野盗らしき相手に戸惑っている。


 「多少は取り逃がしてしまうかも知れないけれど、もう、こっちから殴り込んやろうかねえ」


 物騒な言葉を口にして、苛立って来たのか、しきりに貧乏ゆすりをしている。美人の貧乏ゆすりなど、見られたものではない。


 「わぁーっ!」っと喚声を上げて突っ込んで来た、血に飢えた集団に、絶望を味合わせるのが快感なので、出来れば襲って来て欲しいのである。

 待てないからと、こちらから始末しに行くのは趣味に反する彼女である。


 「そうだロビン! こんな場所で休んでないで、こっちから近づいて行けば襲って来るに違いないよ」


 「そうですかねえ。殺気もあまり感じませんし、そのまま手を出さずに、通過させてくれそうな気もします……ん?」


 ロビンは自分たちがやって来た方向から、人が現れたことに気が付いた。一人や二人では無く、ゾロゾロと大人数の人影が現れた。

 

 「あの集団……何か変ですね」


 現れたのは五十人近い皮鎧を装備した兵士であった。しかしロビンが「変だ」と指摘したように、彼ら全員の足取りは重く、ふらついている者も多く見えた。





 「来たぞ! ローデウス率いる治安隊だ!」」


 岩陰に隠れたガイエンが手下に告げる。


 「ウォルネスは上手くやったようだな。奴らの足元を見て見ろ。立って歩くのが精一杯に見えるぜ」


 ガイエンはほくそ笑む。

 彼が名を口にしたウォルネスは、治安隊に冷えた果物を渡した商人の名前である。彼らはグルであったのだ。


 「皆! 武器を用意しろ。こうなったからには、あの旅人も一緒に始末するぜえ」


 手下たちは音を立てないように片手剣を抜いた。





 辛そうに歩いて来た兵士にロビンは声を掛けた。


 「どうされましたか? ささ、ここは涼しいので、ここで休憩されてはいかがですか?」


 「済まぬ!」


 先頭の兵士が苦し気に答えると、後方の指揮官らしき男を振り返った。

 視線を向けられた男はうなづくと。


 「全員休憩! 誰か腹痛の薬は無いか?」


 休憩の指示を出したあと周囲に尋ねる。

 誰も余裕が無いようで、返事をする者も無く、皆が苦し気な表情で木陰にうずくまった。

 全員が下腹を押さえていて、同じ症状で苦し気に呻いている。


 「腹痛なら良く効く薬を持っています。……怪しいものではありません。僕はこう言う者です」


 彼らを安心させようと、ロビンは教会発行の身分証明書を広げて見せた。


 「ケンジさん、皆さんに薬と水を配って下さい」


 横になった指揮官らしき男が、薬と聞いて顔を上げた。


 「ありがたい。私はこの隊の隊長のローデウスと言う。……ファーガソン!」


 副官を呼んだ。


 「はい!」


 副官も青い顔をしている。


 「薬があるそうだ。頂いて、症状の酷い者を優先してやれ」


 「ハッ! 先ずは隊長から」


 ローデウスは首を振り。


 「私の症状はそれほどでもない。果実は全部食べなかったのでな……」


 腹痛の原因はハッキリと分かっている。あの商人から渡された冷えた果実であろう。今となっては商人であると告げたのも嘘のはずであり、自分らを騙す為に大掛かりな仕掛けだったのであろう。


 「もっと強い毒であったならば、その時に気が付いたはずだが、その辺りも考えての、奴らの作戦であったはずだ」


 そう話してから、ローデウスは何かに気が付いたような「ハッ」とした顔になった。


 「奴ら抜かりは無いはずだ。我らを弱らせておいて、止めを刺す手はずを整えているはずに違いない」


 「まさか!」


 「動けるものに警戒させよ」


 その指示が無理であることは分かっていた。症状の軽い方の彼でも、立ち上がるのが精一杯なのである。





 「ウワァーーッ!」


 突如として叫び声が上がると、岩山に隠れていた三十人ほどの男たちが街道に姿を現し、片手剣を振り上げて襲い掛かって来た。

 ローデウスの懸念が現実となったのである。


 「やはりそうであったか! ううっ!」


 歯を食いしばって立ち上がろうとしたローデウスは、バランスを崩してうつ伏せに倒れた。


 「無念!」


 絶体絶命のピンチであったが、先に木陰で休んでいた少年に見える若者の、冷静な声が聞こえた。


 「メリッサさん。撃退します! この方々は動けないので危険です。近づけないように一気に行きますよ! 遊びは無しです!」


 ぴしゃりと強い語気で言い切った。


 (えっ? 遊びは無しって?)


 意味が分からないローデウスであったが、少年の仲間らしき女性が、大きく舌打ちする音が聞こえた。


 「チッ! 面白くないねえ! 遊べなくなったじゃ無いか! 分かったよロビン! 派手に行くよ!」


 坂の上から走り寄って来る、野盗に見える男たちに向かって二人が走り出し始めた。

 ローデウスには無謀に見えた。本来ならば自分たちが助けなければならない旅人が、逆に自分たちの為に犠牲になろうとしているのである。


 「メリッサさん! ど真ん中に派手に放って下さい!」


 走りながら叫ぶロビンにメリッサはうなづいた。辺りは床は石で舗装された街道であり、その周りは岩山地帯である。火が燃え移る心配は無い。

 彼女が選んだのは、火系中級範囲魔法の《火輪》であった。押し寄せる三十人の集団の、真ん中目掛けて左腕を伸ばした。


 「《火輪》!」


 集団の真ん中に突如として巨大な炎が出現した。

 炎の中央に居た者は一瞬で消し炭になり、周囲の者は身体から炎を吹き出しながら、宙に舞ったのである。

 恐ろしい炎の熱風が集団を巻き込んだのだ。

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