18 遺跡の戦い
「私の出番がないじゃ無いか……どうしてくれるんだよ」
先ほどからメリッサの悪態が止まらない。
北の遺跡は建物を移動する度に魔物が出現したが、ハールデンとジェームズがあっさり片付けてしまい。メリッサの出番が無いのである。
「仕方ねえだろ。魔物が出て来るのは広くも無い部屋の中ばかりなんだ。あんな部屋の中で範囲魔法を使われたら、こっちにも被害が出ちまうじゃねえか」
ハールデンの指摘も、最もである。しかしメリッサの鬱憤は膨らむばかりである。
再び建物の外に出て、空中に架かった橋のような通路を通って次の建物に入った。今回の建物の構造は、広い吹き抜けの円形の部屋になっていた。
「ここなら私の魔法が使えそうだね……」
メリッサが期待を込めて言ったが、ハールデンは首を振った。
「お前の魔法の威力は半端ねえからな……相手を見て使ってくれよな」
「五月蠅いねえ」
そんな会話をしながら、一行は部屋の反対側に見える扉を目指して歩いて行った。ちょうど部屋の中央辺りに差し掛かった時に、突然、吹き抜けの高い部分の、周囲の壁にいくつもの穴が空いた。
そして部屋の中央に集まった勇者一行を囲むように、穴からは魔物が飛び降りて来た。
周囲を囲んだのは、白い毛に覆われた猿に似た魔物であった。立ち上がった背の高さは一メートル五十センチほどである。数は約ニ十匹。
《ゴウッ! ゴウッ!》
白猿は威嚇の叫びを上げながら一行の周囲を回り始めた。
「噛まれたら痺れるので気を付けて下さいね」
焦った風でも無く、いつもの調子で賢治が魔物の特徴を告げた。
「ホントにお前は物知りだが、調子の変わらねえ奴だな」
ハールデンが白猿から目を離さずに皮肉を言った。
「獲物は、半分は私が頂くからね」
そんなやり取りを無視したメリッサが舌なめずりをしている。
「オイオイ! メリッサ! 俺たちは周囲を囲まれてるんだぜ、部屋の半分を火の海なり、氷の山にでもされたら、身動きが取れなくなるじゃねえか」
「だから! あんたは五月蠅いんだよ! 魔法を使うなんて言っていないじゃ無いか」
メリッサは腰に丸めて装備していた鞭をほどいて手に持った。
「さあ! こっちから行くよ!」
「行くよ!」の、「よ!」を言い終わらない内に、メリッサの鞭はうねって飛び、反応することが出来なかった正面の白猿の顔面を叩いた。
「ギャン!」
短い悲鳴と共に白猿は壁際まで吹き飛んだ。鞭先がめり込んだ魔物の額は割れて、両眼が飛び出ている。
しなった鞭は一瞬でメリッサの元に返って来て、その反動を利用した鞭が再び隣りの白猿を襲った。
飛んで逃げようとした白猿であったが、鞭の先は飛び退いた白猿の足に絡み付き、引き倒した。
「ガーッ!」
足を取られて威嚇する白猿であったが、メリッサは構わず手首のスナップで鞭にうねりを起こすと、うねりは波のように鞭を伝って白猿の足に届いた。
「バギィン!」
凄まじい音と共に白猿の足は歪に曲がり、悲鳴も上げずに魔物は悶絶した。
「はあぁ……良い音だねぇ~」
満足げにつぶやいたメリッサは、長い舌で己の唇を舐め回す。鞭は彼女の性癖にちょうど合った武器のようである。
「や、やるじゃねえか」
無惨なメリッサの鞭技に、引き気味に漏らしたハールデンはジェームに視線を移すと。
「旦那! 俺たちも行くぜ!」
「心得た!」
二人同時に白猿へ向かって、飛び込んで行ったのであった。
遺跡の最奥部の部屋では、現在、遺跡を任されているリムザルグと言う名の一つ目の魔物が、四つ足の角のある狼に似た魔物から報告を受けていた。
《全滅だと……》
《はい。リムザルグさま》
《たかが人間五名に、何と言う体たらくだ。恥さらしめ……私がジャマール様に叱責されるでは無いか!》
《申し訳ございません》
狼の姿の魔物は委縮して身体を小さくした。
《それで、人間はどこまで来たのだ》
《我々一族が守護する部屋まで、もう間もなくやってまいります》
《まさか、お前たちまで倒されることは無いな》
《もちろんでございます。八つ裂きにして御覧に入れます》
リムザルグはうなづいた。
《行け!》
小さく頭を下げた狼の魔物は部屋を出て行った。
《人間五名にここまで侵入されるとは》
リムザルグは、ハッとした顔になると。
《もしや、勇者一行か》
つぶやいたのであった。
《八つ裂きにして御覧に入れます》
リムザルグにそのように宣言した狼に似た魔物であったが、彼らの守護する部屋のそこらに転がっているのは、仲間の死骸であった。
彼らの一族の長である彼も、手足の骨を一本ずつ折られ、首には鞭が巻き付いている。
「ほら! どうした! 最後の力を振り絞りな! 頑張れ! 頑張れ!」
激痛で立っていることも辛い彼を激励しているのは、鞭の反対側を持つ黒いドレスの人間の女であった。
彼女の後方では、額に皺を寄せ、険しい表情の彼女の仲間が、腕を組んで無言で成り行きを観察している。
「おい! メリッサ! もうその辺で良いだろう。さっさと止めを刺せよ」
ついに見かねたハールデンが声を掛けた。
「前半戦はあんたらも楽しんだじゃ無いか。私も楽しませてもらうのは当然の権利だろ」
「……別に、楽しんでた訳じゃねえし」
ハールデンは本気で言ったのだが、メリッサには通じない。彼女の思考は、殺すイコール楽しむである。
《グゴゴォー!》
狼の魔物は最後の力を振り絞って、折れていない足に力を込めた。
《ガアッー!》
激痛が走る身体を意地で動かし宙へ飛んだ。
「ほらね。やればできるじゃ無いか」
歓喜の表情で、生徒を褒める先生のように告げたメリッサは、手首を捻って鞭に波を送った。
「ゴキン!」
首を背の方に向け、狼に似た魔物は、最後の悲鳴も上げられずに床に落ちたのであった。
「ギギィーッ」
軋む音を上げながら、扉がゆっくりと内側に開いた。最奥部の部屋へ入って来たのは勇者一行である。
広い最奥部の部屋の周囲の壁は、床から天井まで続く、細長いガラスの窓が幾つも並んでいて、明るく荘厳な雰囲気を醸し出していた。
部屋の中央には座る者のいない椅子が置かれていて、脇にある台には水晶が置かれ、その前方にはローブを着た魔物が立っていた。
一つ目のその魔物は、部屋に入って来た一行を睨みつけた。
《驚いたぞ。よくぞこの部屋まで辿り着いた》
かすれた声であるが、はっきりと人間の言葉を発した。
「話が出来る魔物か……そう言う魔物は手強いらしいな。お前が遺跡の親玉か」
ハールデンが手甲を構えて確認した。手甲の鉤爪は外されていて、代わりに先の尖った錐のような金具が嵌められている。手甲の先は状況や戦い方によって、交換できるようになっているようだ。
「遺跡の親玉か」と尋ねられた魔物は。
《我が名はリムザルグ》
質問には答えずに、名を名乗った。
「最奥の部屋に居るんだから親玉で間違いないな……うん?……親玉には羽根が生えてるんじゃ無かったかな……まあ、水晶もあるようだし、良いか」
ハールデンとジェームズが、ずいと前に出る。
リムザルグは微動もせずに二人を凝視している。
「おいケンジ! 念のために聞くが、この魔物の特徴を知ってるか?」
油断なく魔物から視線を動かさずにハールデンが尋ねた。
「一つ目で目玉の大きい魔物は、たいてい魔法を使います。攻撃魔法の場合もありますが、このタイプなら、麻痺とか石化とか遅延とか、デハブ系かな……」
己の技を言い当てられたリムザルグは、二人の前衛の後方に立つ、ケンジと呼ばれた人間を観察した。
……ケンジとは、名前が不気味な人間である。彼ら魔物の伝説の大魔王と同じ名であったからである。
「行くぜ!」
掛け声と共にハールデンとジェームズが飛び出した。魔物の魔法を警戒して左右に分かれて床を転がり、視線を躱して左右から飛び掛かったのであった。
《!》
リムザルグは、人間の戦闘を職業とする者と戦ったことは何度もあった。傭兵・戦士・武闘家・レンジャー等。それらをことごとく倒していて、人間には絶対に負ける訳が無いと確信していたのであるが、目の前にいる二人の人間は、今まで戦ったどの人間よりも素早く力強く、何よりも戦いに慣れていた。
どちらか片方の人間を狙えば、残った片方に致命傷を受けることになる。一瞬の迷いはリムザルグの動きを止め、ハールデンの先の尖った手甲が巨大な目玉に突き刺さり、ジェームズの剣が腹を裂いたのであった。
《グワッグワッ》
血を吐いて後ずさるリムザルグの額に、メリッサの容赦ない鞭の先がめり込むと、魔物は仰向けに倒れて動かなくなったのであった。
ハールデンが魔物に近づき生死を確認した。
「ロビン! 来い、虫の息だがまだ生きてるぞ」
ロビンが駆け寄り片手剣を抜いた。勇者は強い魔物に止めを差すと力(経験値)を得る特性がある。
痙攣しているリムザルグに、剣を向けたロビンであったが、目を閉じて顔を背けた。
「どうしたロビン! 躊躇ってるんじゃねえ! お前は人の為に強くならなきゃならねえんだろ」
「ごめんなさい」
一言謝罪をすると、ロビンはリムザルグの喉に片手剣を突き入れたのであった。
賢治はその様子を離れた場所で見ていた。名も知らなかった魔物が倒されたからと言って、特に感慨は無いが、勇者ロビンが魔王を僭称する魔物を倒せるのは、まだまだ先のことになるであろうと思えたのであった。
なぜか地図の検索が、『アメブロ daimaoukenji』で出来ません。
前の小説は『アメブロ bangania』で、今も出来るんですがね。なぜでしょう?
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