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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
ギーア(偽仮面ブラザーズ)編Ⅰ
178/304

178 偽仮面ブラザーズ

 「ギャッハッハーッ!」


 「それは本当か! 馬鹿な野郎だな。ガーッハッハー!」


 五人組の馬鹿騒ぎを聴いているのも、いい加減嫌になったハールデンは金をテーブルへ置いた。

 叩き出すのは簡単であるが、要らぬ騒ぎを起こしたくない。


 「旦那。他所よそで飲み直そうぜ。酒が不味くなる」


 「分かったでござる」


 「店主! 金はここに置いておくぞ!」


 (俺も大人になったな)


 そう思って立ち上がったハールデンである。

 ミルダ(イスター王国の首都)に居た頃なら、我慢などせずに、いきなり五人組を張り倒していたはずである。


 二人が立ち上がったこと気が付いた、五人組の一人が声を掛けて来た。


 「何でえ、もう飲まねえのか? もっと飲んで金を落として行けば良いのによう。……いずれここらはウチの縄張りになるんだ。お前らが金を落とせば、俺らのふところへ入るって寸法だ」


 「ワッ!」っと男たちから笑い声が上がる。

 出口へ向かっていたハールデンの足が止まった。


 (ハールデン殿)


 声をかけてジェームズが袖を引っ張ったが、ハールデンは悲し気な顔でジェームズを見返した。


 「済まん旦那。悪いが限界だ」


 「……そうでござるか」


 肩をすくめるジェームスである。彼にすれば頑張った方であると思う。賞状を渡して称賛しても良い頑張りであった。

 ハールデンは五人組へ顔を向けると。


 「お前らが五月蠅くて、酒が不味くなるから出て行くんだよ。どうしても話がしたいなら、井戸端にでも行って、そこらにいるばばあと世間話でもしたらどうだ」


 「……」


 一瞬で店に静寂が訪れた。相手を怒らせるセリフは、天下一品のハールデンである。

 店主がカウンターの奥で、青い顔になっているのが見える。


 「何だとコラァ!」


 「誰にものを言ってんだ!」


 「図体がデカいと思って、調子に乗ってるのかウラァ!」


 五人が一気にハールデンとジェームズの前に出て来た。


 「よう。殴りかかって来ても良いが、ここでは店の迷惑になるだろ? お前らも店を壊したら、親分の評判を落とすことになるぜ。良いのか?」


 五人は顔を見合わせた。確かにここで暴れたなら、後で幹部から叱責しっせきを食らうかも知れない。


 「俺らは逃げねえから、目立たないところで話を付けようぜ。金で済むなら、金で済ませても良い」


 大男の話し方に、五人組は金が手に入ると分かって笑みを浮かべた。最初は怒りに任せていても、冷静になると怯える者も多い。


 ……ハールデンは逆に、迷惑料をこいつらが出すなら、許してやっても良いという意味で言ったのであるが。


 「お前の言う通り、店に迷惑はかけられねえな。表に出ろ!」


 「分かった。……だが、あんたらも金を払ってから、店を出るべきなんじゃないのか? 親分の評判が落ちるぞ」


 「チッ!」


 親分の名前を出されると彼らもバツが悪い。舌打ちした男は、テーブルに金を多めに置いた。金はこの二人組から取り返せば良いのだ。


 「店主! 金はこれで足りるのか?」


 ハールデンが声を掛けると、店主は無言で何度もうなづいた。


 「では外へ出ようか」


 「逃げるなよ……他にも村に仲間はいるからな。絶対に探し出すぞ」


 念を押す男たちであった。





 前に二人。後ろに二人に挟まれて、ハールデンとジェームズは路地裏を歩いて行く。

 あと一人いたはずであるが、姿が見えなくなっていて、ひょっとすると仲間を呼びに行ったのかも知れない。


 「どこまで行くんでえ」


 ハールデンが尋ねると。


 「この先に空き地がある……辺りは誰も住んでいないから、誰も助けは来てくれねえぞ」


 後ろの男が返事をした。


 「ふうん」


 つぶやいたハールデンとジェームズは、大人しく付いて行くのであった。


 やがて、ちょっとした空き地に出た。周囲は朽ちた建物にさえぎられている。

 二人が空き地の中央まで歩いて行くと、呼ばれた仲間が到着したようである。人数は十五人に増えていた。全員が片手剣を下げている。


 「こんな村に十五人も仲間が居たのか? お前らの組は子分が多い見てえだな」


 居酒屋の店主は、ギーアに本拠を置くブルゲース興業は、ギーア周辺の村を支配下に置こうとしていると話していた。


 ギーアの周辺にどれだけの数の村があるか知らないが、その村々の一つ一つに、十五人もの人数を送れるのは、それだけの人員が組織に居なければならないことになる。

 もっとも、首都ギーアと、カリアの実を産出するシュリア町の間にあるここディア村は、大人数を送ってでも手に入れたい、重要な村なのかも知れない。


 集まった人相の悪い男らを見渡していると、兄貴分らしき者が前に出て来た。先ほどの店には居なかった男である。


 「俺はここの責任者だ。……舐めた口を利いてくれたそうじゃねえか。ひょっとするとお前ら同業か? ネロ組の者とも思えねえ。流れ者か?」


 「はあ? お前ら腐った野郎どもと一緒にするんじゃねえ。俺らはちゃんとした堅気だぜ」


 ハールデンは簡単に相手を怒らせる達人である。


 「腐った野郎だと……金を出せば軽く痛めつけて終わりと思っていたが、そうも行かねえようだな」


 「はあ? こっちこそ金を出して謝れば、許してやっても良いと思っていたんだぜ。何だ、金にならねえのか? 面白くねえな」


 「馬鹿な奴らだ。だが殺しはしないから安心しろ。身ぐるみ剥いで、動けないほど叩きのめしてやる」


 ハールデンはジェームズを見た。


 「だってよ、旦那」


 「降りかかる火の粉は、払わねばならないでござるな。奴らは殺しはしないと言ったので、こちらも手足を折る程度で良いでござろう」


 「了解だぜ旦那」


 二人が全く恐れていない様子を、兄貴分はいぶかしく思った。普通なら十五人に囲まれれば、良くても袋叩きである。青くなって声も出せないはずなのであるが。


 「お前ら、堅気ってのは嘘だろう! 何者だ! フードを外して名乗りやがれ!」


 言われて二人は懐へ手を入れた。


 「顔を覚えられるのも面倒だからな」


 二人が懐から取り出したのは、顔を隠したパーティーで使われる、蝶の格好をした仮面であった。ハールデンのは特別製の大きさである。

 彼らは素早くフードを被ったまま、仮面を装着した。


 タダならぬ二人の雰囲気に、兄貴分は後ずさる。




 「聞かれて名乗るも、おこがましいが!」


 二人は横に並んだ。


 背筋をピンと伸ばし、ここで一拍いっぱく置く。

 この間が大切である。周囲の注目を浴びる為である。


 次に素早くフードをまくり上げると、二人同時に叫んだ。


 「仮面ブラザーズ! ……ここに推参すいさん!」


 「……えっ?」


 何が起きるのかと、困惑した様子の兄貴分と、ブルゲース興業の組員たち。

 彼らの様子など無視して、仮面ブラザーズの名乗りは続く。


 「兄のジェイ!」


 叫んだジェームズが、さやを付けたまま二刀を引き抜くと、左足を前に出して半身になり、左片手剣を前方に突き出し、右片手剣を右肩に担いだ。


 「弟のハール!」


 叫ぶと、『猫足立ち』と言われる、腰を落とし左足を前に出した格好に構えた。

 体重はほとんどは右足に掛かっていて、前に出した左足は爪先だけが地面に着いている。右手は掌を上にして右胸の横まで引き、左手は軽く握って前方へ突き出した。


 二人で試行錯誤を繰り返し、草原で四百人を相手に披露した、お気に入りの決めポーズである。


 (決まった!)


 ジーン……っと、余韻に浸っている二人を、呆然と見つめるブルゲース興業の十五人の、こめかみ辺りを汗が一筋落ちた。


 ……(こいつらは、何をしているんだ?)しばしの不気味な沈黙の後、最初に声を出したのは兄貴分だった。


 「嘘をつくのも大概にしろ! 本物の『仮面ブラザーズ』のお二人は、今、ギーアでブルゲース興業の食客になって下さってるんだ」


 (……えっ?)


 今度は二人が困惑して固まる番である。


 「こいつら、仮面ブラザーズの名を出したら、俺たちがビビると高をくくっていたんだな。……道理で態度がふてぶてしいから、可笑しいと思っていたんだ」


 「確かに大男と二刀流の二人組だ……ハッ! 考えたもんだぜ」


 「今や数百人を二人で蹴散らした仮面ブラザーズの話を、この辺で知らねえ裏家業の者は居ねえ。それで飯を食ってる偽者がいるとは聞いていたが、お前らだったのか?」


 さんざんに言われる二人である。


 (いやいや、証明書は無いけれど、俺たち本物です……偽者って)


 二人は顔を見合わせた。


 あの草原の戦いの後、ロビンら三人が湿地から帰って来て無事を確認して、その後に三日間の宴を楽しんだ二人である。

 あれからまだ、二十日ほどしか経っていないのであるが、どこからか偽物が現れているようだ。


 「どうする旦那……」


 「難しいことは後で。今は当面の問題を解決するのが先でござる」


 前に並んで獲物を抜いた、十五人をあごで指した。


 「ま、まあ、そうだわな」


 「ワッ!」っと喚声を上げて男たちが突っ込んで来た。

この物語も、書き始めてちょうど一年が経ちました。


このまま一気に書き上げる自信は無いので、途中で休んだりするかも知れませんが、見捨てずに最後まで、お付き合いをお願いいたします。

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