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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
カリアの実編
174/304

174 マバラーバ

 勇者ロビンに一筋の光明を見たトートル・ロウは、一行を湿地人の集落へ案内したのであった。


 湿地人の集落は南側に小さな丘の見える、広い湿原の中にあった。


 雨が降って水が押し寄せて来ても良いように、四方向に柱を建て、地面から人の背ほどの高さに床板を敷き、壁と屋根は木の枝を集めて造られた質素な建物である。上り下り用の梯子が掛けられている。


 そんな家族用の建物が、湿原に見渡す限り無数に建っていて、一つだけそれらを集めて建てたような大きな建物があり、トートル・ロウはその建物へ一行を案内した。集会所であるらしい。


 「こちらでお待ち下さい……勇者殿。村長は先日のマバラーバとの戦いの中で戦死いたしました。代わりに戦士たちの指揮をとっている者を呼んでまいります」


 トートル・ロウは出て行った。


 「勇者様」


 湿地人が居なくなるとデラモアがロビンに話し掛けて来た。

 ロビンが勇者であることは護衛には秘密であったのであるが、なし崩しになってしまったので、改めて護衛の者には、町へ帰っても話さないようにと厳命してある。


 「ここへ来るまでに、マバラーバなる大蛇の話を聞きましたが、とても敵わない気がいたします。私たちや湿地人たちの危機を、救おうとされる御心は嬉しいのですが、勇者様は魔王に立ち向かえる人類の希望でございます。この場所で万一のことがあれば、魔王討伐を待ち望んでいる、世界中の人々に申し訳がありません」


 トートル・ロウは、マバラーバの詳しい生態を教えてくれたのであるが、聞けば聞くほどデラモアにも護衛にも、とても人間が……まして、この華奢な少年勇者が立ち向かえるとは思えなかったのであった。

 せめて、あの大男と二刀流の仲間がそろっていれば、何とかなったのかも知れないと思う。


 トートル・ロウが説明するには、マバラーバは体長は三十メートル。胴の太さは一番太い部分では、大人が四人で手を伸ばしても届かないそうである。

 しかも敵を麻痺させる能力も備えている。


 心配するデラモアと護衛であるが、ロビンの表情は明るい。


 「心配して頂いてありがたいですが、魔王と戦うことを思えば気楽なものです」


 既にバーンズ帝国で、魔王グルビシュを倒した経験のあるロビンは落ち着いている。


 「そうだよ。大蛇は任せときな。デカいだけが取り柄の武闘家なんかいなくても、私とロビンだけで間に合ってるよ」


 唇を舐める妖艶な美女に、デラモアも護衛も、何故か背に寒いモノを感じるのであった。





 待つほども無く、トートル・ロウに連れられて、他の湿地人より大柄な湿地人が建物に入って来た。


 「初めまして勇者様。私は一族の戦闘の指揮を任されています、ムサル・シウと申します」


 湿地人独特の、口の中で何かを転がしているような口調で話すと、ムサル・シウは頭を下げた。

 その右耳には、白い石で出来た耳飾りが下がっていた。何かの宗教的なものなのであろうか?


 子供に見えるロビンであるが、ムサル・シウはロビンが勇者と聞いていて、彼の実力を、いささかも疑っていないようである。


 「ムサル・シウさん。マバラーバの話はトートル・ロウさんから詳しく聞きました。本来なら僕たちは五人のチームなのですが、今は訳がありまして二人抜けています。それでもマバラーバを倒す勝算はありますのでご安心ください」


 「おお!」


 表情は分かりにくいが、ロビンの前に並んだ二人の湿地人は、喜びを浮かべているようである。

 隣で話を聞くデルモアらも、自信に満ちたロビンを見ていると、本当にやってくれるのではないかと思えて来た。


 ロビンは続ける。


 「聞いたところ、マバラーバは約百年おきに現れ、湿地人を食いつくした後は卵を産んで死んでしまい、再び湿地人が増えた頃にやって来るとか。このような悪循環は絶対に断ってしまわねばなりません。魔物に苦しめられている者を助けるのは勇者の使命です」


 「ありがとうございます勇者様」


 ロビンはうなづき。


 「それで、現在はどのような状況でしょうか?」


 「はい」


 ムサル・シウが説明を始める。


 「集落の南の低い丘を越え、二時間ほど行った場所にマバラーバの住む巨大な沼があります。奴は毎日、夕方ごろに餌を求めて沼から出て来ます。我らはそれを迎え撃っております。毎日何人かの戦士が奴の腹の中に消え、腹が良くなった奴は沼へと帰って行くのです」


 彼はこぶしを握り締め。


 「どうやっても奴には敵わないのですが、戦士が犠牲を顧みず戦わなければ、奴は丘を越えてこの集落にやって来ることになります」


 トートル・ロウもムサル・シウの隣りに並ぶと。


 「戦士もいつまでも奴を止めておくことはできません。実は少数の者を選んで、子孫を残す為に南東の方へ逃がす計画も立てておりました。……その南東の地も、決して安全とは言えないのですが」


 「分かりました。悠長にしては居られない状況ですね……今からでも奴の住む沼へ同行してもらえますか?」


 ロビンは立ち上がった。


 「確かにね。早く始末した方が良いみたいだね」


 メリッサも立ち上がる。彼女は自身に満ち溢れていて、特に緊張の様子もなく、近所まで出かけて来ると言った雰囲気である。


 「い、今からですか……もちろん構いません。私も夕方前には沼に帰らねばならないところでした」


 何か用事があって、たまたまムサル・シウは集落へ帰って来ていたのであろう。マバラーバは毎日夕方に姿を見せるならば、それまでに指揮者の彼は沼に帰らなければならない。


 ロビンはデルモアと警護の者に向かうと。


 「皆さんは危険ですので、ここでお待ち下さい」


 彼らはうなづくより無い。同行しても足手まといになるだけである。




 湿地人の集落を出たロビン、メリッサ、賢治の三名は、ムサル・シウと五名の湿地人戦士と共に、南に向かって進んでいる。


 ロビンは彼と並んで歩くムサル・シウを見て、気になっていたことを尋ねてみた。


 「ムサル・シウさん。始めて見た時から気になっていましたが、貴方の右耳の白い石の耳飾りは、何か宗教的なものでしょうか……こうしてみて見ますと、他の戦士の方も付けているようですね」


 同行している五名の湿地人戦士の右耳にも、同じ耳飾りが見えた。

 うなづいたムサル・シウは。


 「沼に着きましたら、勇者様にもお渡しするつもりですが、これは麻痺防止の効果がある『沼神の耳飾り』でございます」


 「麻痺防止!」


 「はい……先祖より言い伝えられた、マバラーバの現れる災厄の日が来るまでに、戦士の数だけ集めよとの教えのもとに、滅多に見つかる物では無いのですが、百年掛かってダニア大湿地のそこらで集めた石を、耳飾りにしたものです。これが無ければマバラーバとは一瞬も戦えないのです」


 「そうでしたか」


 ロビンにはジェームズより教わった、魔法を切り裂く、刀法《斬魔》の技があるが、それは魔法が向かって来ることを察知して、初めて使える技である。

 それに対して『沼神の耳飾り』は、常に麻痺から身を守ってくれるようである。





 夕方が近づいている。


 少し高くなった丘の上で、ロビンはメリッサと共に、ダニア大湿地で一番大きいであろう、沼を見詰めていた。

 二人の右耳には、湿地人から渡された麻痺防止の耳飾りが下がっている。


 「やはり氷系魔法を使うと、後の攻撃がやり難いですね」


 「そうなるね。じゃあ雷系魔法かね」


 「そうですね。水がありますから、威力も十分に伝わるでしょうから」


 フンフンとうなづくメリッサ。


 「使うタイミングが問題だね」


 「はい。沼から半身が出たくらいが、ちょうど良いと思います」


 「分かったよ。私に任せときな」


 「よろしくい願いします」


 二人はマバラーバを倒す打ち合わせ中である。


 沼の近くでは百名近い湿地人が待機していて、顔色は判断できないが、悲壮な雰囲気であった。

 毎日、数人の仲間がマバラーバに食われているのであるから無理も無いであろう。今日食われるのは自分かも知れないのである。



 「魔物は居たかカノン」


 賢治が肩に止まった妖精に尋ねる。

 妖精の姿をした妖魔カノンは、先ほどまで沼の上空を飛び、大蛇の姿を捜索して来たのである。


 (はい大魔王様。沼の中央辺りでトグロを巻いて動かずにおりました。あの湿地人が話していたように、体長は三十メートル近い大物でございます)


 「そうか……大きさ的には、ロビンも初めて相手にする魔物だな」


 顎に手を当てた賢治は。


 「それでロビンは勝てそうか? まあ、魔王を倒さなければならない勇者が、大きいとはいえ、麻痺が使えるだけの、たかが蛇に負けはしないであろうがな」


 聞かれて苦渋の表情を浮かべるカノンである。


 大魔王も同じであるが、カノンにとっても、彼らが余りにも強過ぎるので、魔物は元より、人間も強弱が図り難いのである。


 (も、申し訳ございません。その点に関しましては、いまだに未熟者でございます)


 「謝らなくても良い。私も同じだ……まあ、危なければ守ってやれば良いであろう。……最悪、消滅しなければ……息さえあれば蘇らせることはできる」


 大魔王は対象が死なない限り、しもべとして蘇らせたり、完全な姿で蘇らせることが出来るのである。

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