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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
北の遺跡編
17/304

17 北の遺跡

 勇者一行の進む支道は、整備されなくなって長い時が過ぎているようで、北に進むほどに道の両脇の木々が張り出して来ていて、石畳の床は木の根っこに押し上げられ、酷い凸凹な状況であった。


 支道には生贄になった者が通ったのか、まだ新しい枝を払った跡が残っていた。


 先頭を行く賢治は、腰袋から先の尖った専用の鉈を取り出して、張り出した枝や足元の草を薙ぎ払いながら進んで行く。

 最初の試練で森を進んだ時にも活躍した刃物である。賢治が人間として生活していた世界の知識で言えば、ククリナイフと呼ばれていたモノに近い。

 

 賢治は息も切らさず通路を確保しながら進んで行き、お陰で後に続く一行は悠々としたものである。


 「ケンジ殿……少しは休まれたらいかがでござるか」


 気を使ってジェームズが声を掛けたが、振り向いた賢治は汗もいていない。


 「ありがとうございます。これが俺の仕事ですので、お気遣いなく」


 そう言うと再び鉈を振るうのであった。



 賢治の肩の上を飛ぶ妖精カノンが耳元で話し掛ける。


 (大魔王様が小間使いのような仕事をなさるとは……見ていて涙がこぼれます。その気になれば、この森など、小指一本で吹き飛ばされてしまいますでしょうに)


 「ふふふ。文句を言うなカノン。これはこれで面白いものだ……そう言えば二千年前に魔物を統一した時にも、こうやって鉈を振り回したものだ。一振りするごとに、百や千では利かぬほどに首が飛んだぞ」


 そんなやり取りをする二人であった。





 やがて木々のこずえの向こうに、高い石塀に囲われた教会のように見える、屋根の尖った建物が出現した。

 石塀も建物も、緑の葉を生やしたつたに覆われている。


 「ここが北の遺跡で間違いないようだな」


 巨大な門の前に立ったハールデンが、両開きの扉を見上げながらつぶやく。


 「ケンジ! 扉に細工がありそうか?」


 ケンジの罠を見破る能力を、ハールデンは完全に信用している。


 「罠はありませんね。鍵も掛かっていません」


 何かを確かめることも無く、彼は即答で答えた。

 実は賢治とカノンを手助けする使い魔が、先に侵入して報告して来ていたのである。


 「ふうん」


 それでもハールデンが警戒しながら扉を押すと、扉はあっさりと内側へ開いたのであった。


 「お前、本当に優秀だな……だが、当初の約束通り、金は払わねえぞ」


 念を押したハールデンは、爪付きの手甲を両手に嵌めて門を潜った。


 「金は払わねえぞ」は、賢治に対してハールデンの口癖になっている。

 そう何度も確認してしまうほどに、賢治は優秀であった。


 門を潜った先は広場になっていて、敷き詰められた石畳の上には、全面に緑の苔が、積もったように生えている。

 見渡すと三階建てから五階建ての、先の尖った教会に似た建物が何棟か連なって建っていて、それぞれが二階部分に設置された、橋のように見える渡り廊下で繋がっていた。


 周囲を見回すが魔物の気配は感じられない。


 「魔物は建物の中か?……ケンジ、先導を頼むぜ」


 指示された賢治は恐れる様子もなく、正面の建物に向かって歩いて行く。自身の索敵能力に絶対の自信が有るのか、はたまた命知らずにも思える大胆さであるが、実際のところは、彼を傷つけられる存在など無いので、何も考えていないだけであった。


 建物の扉は蔦で覆われていて、簡単には開くことが難しそうに見えたが、賢治は先が尖っている鉈を使って、蔦を見る間に切断したのであった。


 取っ手に手を掛けた賢治が、力を入れた風にも見えなかったが、わずかにきしむ音を立てて扉は内側へ開いた。


 「《光球》!」


 補助呪文が唱えられ、建物の中を照らした。


 入った部屋はホールのようであった。円形の壁の石積みが、むき出しになった部屋で、天井は吹き抜けになっている。

 壁際には何段も棚があって、木箱が幾つか置かれていた。


 「ケンジ。木箱を開けてくれ」


 ハールデンに指示された賢治が、木箱に向かおうとしたが、ロビンが止めた。


 「兄さん。木箱は後にしましょう。魔物退治が優先です」


 ロビンに指摘されれば、ハールデンは舌打ちするしか無かった。





 その頃、ここは遺跡の最奥部である。


 広い円形の部屋の奥には椅子が一つ置かれていて、椅子の横に設置された台の上には、拳ほどの大きさの水晶が乗っていた。

 状況から見て。その水晶がルチャム村の宝の水晶であることは明白である。


 現在、椅子には誰も座っていなくて、椅子の前には影が一つ立っている。


 影は神官服に似たロープのような服を着ていたが、その容貌は人間ではない。額の中央辺りに巨大な一つ目輝かせ、吊り上がった唇の両脇から牙が覗いていた。


 部屋の扉が不意に開くと、四つ足の狼に似た魔物が入って来た。額に長い角が光っている。


 《リムザルグ……さま。人間が五名。建物に侵入したようでございます》


 入室して来た魔物は、人間が聞けば唸り声のように聞こえる、かすれた声で報告した。


 《ほう……身の程知らずな》


 《いかが致しましょうか》


 リムザルグと呼ばれたローブを着た魔物は、しばらく考えると。


 《今は遺跡の主であるジャマール様がお留守だ。人間が約束の生贄を差し出さなかった故、ジャマール様がお帰りになり次第、人間の村を滅ぼす予定であったが、侵入者とは面白い、暇つぶしに楽しませてもらおう。まずは弱い魔物を送って脅かしてやれ。決して殺すなよ》


 《ははっ》


 指示を受けた四つ足の魔物は部屋を出て行った。


 《はて、宝でも探しにやって来た者たちか……クククっ。愚かな者どもだ。恐怖に泣き叫んで楽しませて欲しいものよ》





 勇者一行はホールを抜け、奥の部屋を通って階段を上り、廊下の突き当りの扉を開くと外部へと出た。

 そこは次の建物と繋がっている、橋のような形状の連絡通路であった。


 先頭の賢治は躊躇ためらうこと無く通路を歩いて行く。


 「何も出ねえな」


 最後尾のハールデンが周囲を見渡しながらつぶやく。魔物の住処にしては静かなものである。


 次の建物の扉を開き賢治は足を踏み入れた。《光球》に照らされた部屋は四角い広間である。

 部屋に二三歩踏み入った賢治の足が止まった。


 「どうかしたでござるか」


 後方のジェームズが声を掛けると。


 「何か気配がします……どこからか何かが出て来そうな……」


 「やっと出番か」


 歯を剥きだしたハールデンも、部屋に入って来た。


 「旦那、行くぜ」


 ジェームズに声を掛け、賢治に変わって二人が先頭に立った。

 警戒しながらゆるゆると進んで行く。


 「!」


 見上げたハールデンは、天井に直径五十センチほどの穴が空いていることに気づいた。穴は一つだけでなく、ざっと十ヶ所ほどあった。


 「旦那! 天井だ!」


 ハールデンが叫ぶと同時に、穴から何かが落ちて来て床に転がった。丸くて直径が穴と同じ五十センチほどのモノは、丸まっていた身体を伸ばすと、芋虫のような形の魔物となった。


 「何だ! こいつは」


 腰を落として近づいて行くハールデンに、後方から賢治が声をかける。


 「多分……毒をくんじゃないかなぁ」


 「えっ?」


 次の瞬間、芋虫は首を持ち上げると、ハールデンに向かって緑の液体を吹いたのであった。


 「うわっ!」


 巨体にもかかわらず、ハールデンは俊敏に動いて液体をかわした。

 床に落ちた液体から、ジュッと言う音と、煙が立ち上った。


 「畜生! この野郎!」


 叫んで宙を飛んだハールデンの右足が一閃すると、鎌首を持ち上げていた芋虫の首が吹き飛んだ。

 ジェームズも二刀を抜いて芋虫の中へ踏み込んで行く。芋虫が一斉に毒液を吹き付けるが、鮮やかなステップでそれらを全て躱し、二刀が煌く度に芋虫の首が落ちるのであった。


 部屋の中を、縦横無尽に軽やかに舞うように、二人の影が交差して攻撃を行うと、僅かな時間で芋虫は全滅していたのであった。


 「凄い!」


 ロビンが手を叩いている。

 出番が無かったメリッサは不機嫌な顔である。


 手甲と二刀を拭きながら二人が帰って来た。

 ハールデンは賢治に視線を向けると。


 「毒を飛ばすって、良く知ってたな」


 「はい。魔物の特徴を覚えるのもポーターに必要な知識ですから、魔物の図鑑や文献は多く読んでいます」


 平然と言うと死んだ芋虫に近寄り、魔石を取り出しにかかった。魔物をよく知る者がいるのといないのでは、パーティー全体の安定感が違ってくる。

 (知識の元は、耳元でささやくように情報を告げる妖魔カノンである。当然ながら、苦も無く全ての魔物を蹂躙できる大魔王ケンジには、詳細な魔物の情報など必要無いのであった)


 「……こりゃあ、給金を払ってでも、付いて来てもらわなきゃいけないんじゃない?」


 メリッサが、からかうようにハールデンに話し掛けると。


 「おい! ケンジ! お前からタダで良いから付いて行かせてくれって言ったんだからな。金は絶対払わねえ・・・・・・・・ぞ」


 口癖の言葉を発した。


 「もちろん、結構です」


 手を動かしながら賢治が返す。


 「途中で嫌になって、やっぱり辞めるなんて言うなよ……と言うか……言わないように……な。絶対言うなよ」


 あまり強気に出れないハールデンである。


 「当然です」


 賢治の返事には、明快な響きがあった。

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