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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
北の遺跡編
15/304

15 悪党の算段

 行き倒れの男性を拾ったヒューズとローランは、男が告げたルチャム村を目指し、二人で両脇から肩を貸して進んだ。


 持っていた傷薬を塗り、包帯で血止めをしたが、既にかなりの血が失われていて、男がルチャム村に着くまで生きていられるかは微妙だった。


 「おい! 死ぬんじゃねえぞ!」


 「頼む! 死なないでくれ!」


 二人は男を励ましたのであるが、当然ながら彼を心配しているのでは無くて、苦労して運んでも、お礼はもらえなくて、逆に犯人扱いされる可能性もあるからであった。


 「俺の為に……すみません。貴方たちは、何て優しいんだ」


 自分を思って二人が励ましていると勘違いした男は、涙を流しながら感謝を告げた。


 歯を食いしばって頑張っていた男であったが、彼はついに話すことも出来なくなり、意識が朦朧とし始めた。そこからは二人で交代しながら背に負って進んだ。


 「畜生! 馬鹿野郎! 重てえじゃねえか、この野郎! しかも旅用の服に血が付いて台無しだ」


 「これで死なれたら、踏んだり蹴ったりだぜ」


 「クソっ、こんなことなら放って置くべきだったぜ! 今からでも、そこらに捨てちまおうか」


 男性の意識が朦朧としているのを良いことに、二人は思う限りの悪態を付きながら運んだのであった。





 ……ルチャム村へ到着した時、男はまだわずかに息があった。


 男は村人によって運ばれて行き、疲労困憊のヒューズとローランは、身体を洗い、新しい服を与えられ、食事を済ますと酒も飲まずに眠りに就いたのであった。


 次の日起きると、二人の元に朝食が運ばれてきて、食事の最中に村長らしき白髪の老人が現れた。


 「ルチャム村の村長のサラマと申します。この度は街道に倒れていた村の者を、運んでいただきましてありがとうございました」


 サラマは丁寧に頭を下げた。


 「私はヒューと言います。ミルダで雑貨商をしております。こちらは番頭のランです……人として、当然のことをしたまでです」


 運ぶ途中の悪態が、男に聞こえていなかっただろうかと気にしながら、そんなことは、おくびにも出さずヒューズが答えた。

 こんな時は、真面目な彼の顔は誠実に見えるので得である。


 「ヒュー様とラン様ですか。改めまして、この度はありがとうございました」


 サマラ村長は改めて頭を下げた。


 「それで、あの方は……」


 村長は首を振った。


 「最初は意識がなく、もうこのまま死ぬかとも思いましたが、途中で意識を取り戻し、事件のあらましを語ってくれました……ですが残念なことに再び容体が急変しまして、朝までは持ちませんでした。しかし、お二人に助けて頂いたこと、励まして頂いたことを、涙を流して感謝しておりました。……見ず知らずの者を村まで運んでいただくとは、とても余人に出来る行いではございません」


 ヒューズとローランはホッとした。最後の方の彼らの悪態は、意識が朦朧としていたので、覚えていなかったようだ。


 「お二人には村としても感謝いたします。彼がこのようになったことを知らなければ、いたずらに時間だけが過ぎて、その分、村全体が苦しまなければならなかったからです」


 村長の話と、死んだ男の言っていた話が、ヒューズの頭の中で合致した。

 あの時、死んだ男はこう言っていた『俺が人知れず死ねば、村に迷惑が掛かる』……と。


 (こいつは!)


 あの時、死にかけている男を村に運べば、金になると感じたヒューズであったが、その予感は更に強くなった。


 「これも何かの縁です。何か我々でお役に立つことがあれば、何でも協力させて頂きます」


 ヒューズの申し出に村長の顔が明るくなった。


 (間違いない! 金になる)


 確信に近いものがあった。





 (この方たちは、本当に誠実で良い方だ)


 意識が無くなった成人の男性を運ぶのは、並大抵の苦労では無かったはずである。そんな苦労をしてまで、男を村まで運んでくれたヒューズとローランを、村長は微塵の疑いも無く信じた。

 そして村の抱えている問題を全て話したのであった。



 村は数ケ月前に、突然空中を飛んで現れた羽根の生えた一体の魔物によって、多くの死者を出したのであった。

 柵を飛び越えてやって来た魔物は、内側から門の扉を開け、四つ足の角のある狼に似た魔物を、村中に侵入させたのであった。

 成すすべなく百名ほどの村人が犠牲になったところで、羽根の生えた魔物は人の言葉で残った人間に話し掛けて来た。



 《毎月、生贄として若い人間を一人を、北の遺跡まで差し出すが良い。おこたれば次は村を滅ぼすであろう》



 それだけ言い残すと魔物は去って行ったそうである。相手が空を飛んで来るので村では防ぐ方法はない。

 有効な対策も見つからないまま、若い者の中からクジ引きで選ばれた者が、毎月犠牲になった。



 「貴方様に運んでいただいた男は、最初に子供を生贄に差し出さなければならなかった者です。彼は、冒険者を雇って魔物を退治する方法を皆に進言し、自ら依頼金を持ってミルダへ向かったのです」


 「なるほど。依頼に行く途中で不幸にも何者かに襲われ、金を奪われたと言うことですか」


 ヒューズは、気の毒げな顔をしながら。


 (畜生! 誰だ、上手いことやりやがって)


 金を盗んだ奴らを羨ましく思った。たった一人をるくらい、簡単であったに違いない。又、殺された者は、金を持って一人で街道を行くとは、馬鹿としか言いようがない。

 追剥ぎを働こうとする奴らは、金を持っているかどうかを、見抜く目に長けている。


 村の窮状を一気に話した村長は、身を乗り出して。


 「ヒュー様。貴方は親切で誠実な方とお見受けします。そんな貴方様を見込んで、お願い致したき相談がございます。貴方様は旅慣れているご様子ですが、どうか死んだ者の代わりに、依頼金を持ってミルダの冒険者組合へ行って頂けないでございましょうか」


 村長は頭を下げた。


 ヒューズとローランは顔を見合わせた。

 苦労して男を運んだ甲斐があったと言うものである。


 「そうですか。亡くなられた方はご無念であったことでございましょう。分かりました。亡くなられた方の為にも、確かに私が預かって、冒険者組合へ依頼するとお約束します」


 当然ながら冒険者組合へ行くはずも無く、金はそのまま自分の物とするつもりである。


 「おお! 良かった! 良かった!」


 村長は涙を流していた。





 それが、ひと月ほど前の話である。


 村から預かった金を懐に入れ、本来なら後はどうなろうが知ったことでは無いヒューズであったが、ローランと別に手下を二人連れ、四人組となって再びルチャム村へ帰って来たのであった。


 もう二度と帰って来る予定の無かった村に、なぜ帰って来たのか……それは、もう一度、村から金をだまし取る方法を思いついたからである。


 その手立てはミルダで、新しい勇者が誕生した話を聞いた時に思い付いた。


 勇者の仲間に金に汚いハールデンが加わったと聞いて、奴は必ず金になる東のユランド辺境伯領へ向かうと確信した。

 ミルダから辺境伯領を目指し、街道を東へ向かうと、必ずルチャム村の近くを通るはずである。そこで勇者一行を出汁ダシに村を騙すのである。





 しばらく待っていると、白髪頭のサラマ村長が、村の役員らしき者を数人引き連れて現れた。


 「おおっ! ヒュー様! ラン様! 冒険者組合に依頼はできましたでしょうか?」


 サラマは気が気でない様子である。それと言うのも、魔物に言われた生贄を差し出す日が、過ぎていたのである。


 (そういや、生贄を毎月出すって言ってたな……すっかり忘れていたぜ)


 依頼金を奪って終わりのつもりだったので、ヒューズは後のことなど忘れていた。彼にとってはルチャム村のことなど、その程度である。


 「はい……それが」


 依頼の件を聞かれたヒューズは、残念で申し訳なさそうに唇を噛んだ。


 「え! ……まさか?」


 「はい。冒険者組合からは、直ぐには向かえぬと断られました。少なくとも準備期間が半月必要だと」


 村長の顔が青くなって行く。依頼が不調に終わったと分かった他の役員にも、絶望感が広がって行く。魔物は生贄を出さないと、村を全滅させると宣言しているのである。


 一旦、彼らに絶望を与えたヒューズは、ここで用意していた代替え案を伝える。


 「このままでは大変なことになると感じましたので、勝手ながら急遽、傭兵を雇うことにしました。ここに居る二人も傭兵です。他に街道に六人が待っています。雇った八人の傭兵は全員が腕利きです。さらに私とランの二人合わせて十人で、魔物を退治してご覧に入れましょう」


 当然であるが、街道に傭兵が待っている訳はない。


 「な、何と! ヒュー様とラン様まで、魔物退治に向かって下さるのか!」


 「はい! 我らは商人と言えども、街道を旅する為に腕は鍛えています。……今回は放って置けばルチャム村は魔物に滅ぼされてしまうと思い、相談もせずに傭兵を雇いましたが、ご容赦下さい」


 ヒューズは頭を下げる。

 サラマ村長は慌てる。


 「ヒュー様! 頭を上げて下さい。貴方が村の危機を思って出された結論です。確かにそれしか方法はございません。お礼を申し上げます」


 村長はじめ役員が口々に礼を述べた。

 うなづいたヒューズは。


 「時間も無いと思いますので、これより我らは魔物の住む遺跡と向かいます。そこで、心苦しいのですが、雇った優秀な傭兵の八人の方々も命懸けであり、冒険者組合に渡す予定であった依頼金だけでは足りません。彼らに渡す為に、あといくらか依頼金を追加して頂けないでしょうか」


 上目遣いに村長を見た。


 「もちろんでございますとも、村の住民全員の命も掛かっております。金はかき集めてでもお渡しします」


 村長は真剣な目である。こうしている今にも、魔物が現れても可笑しくないのである。


 「それは助かります。街道で待っている六人の傭兵たちも、喜んでやる気を出してくれるはずです」


 「金は直ぐに用意します……おい、お前たち話は聞いた通りだ。村の存亡が懸かっている。直ぐに金を集めよ」


 「ははっ!」


 役員が慌てて部屋を出て行った。


 「私もこれで……その間、皆さまは少しでもお休み下さい」


 出て行こうとした村長は、何かを思い出し、立ち止まると振り向いた。


 「羽根の生えた魔物は、村から立ち去る時に、村の宝である『水晶の玉』を持ち去りました。もし、集まった金が足りない場合は、水晶を皆様に差し上げますので」


 そう付け足すと、礼をして出て行った。


 交渉をまとめたヒューズはドヤ顔で三人を見渡す。


 「流石兄貴だ! 傭兵八人分の依頼金って、いくらになるんだ」


 ローランは満面の笑みを浮かべて指を折っている。


 「ローラン。声が大きいぞ」


 たしなめられたローランは、首を引っ込めると、今度は小さな声で。


 「それで兄貴、金さえ頂けば、村からオサラバってことですかい」


 「いや……」


 ヒューズは三人に顔を近づけると。


 「金は慣例から言って、前金と成功後の後金になるはずだ……オサラバすれば前金しか手に入らねえ」


 話を聞いた三人は顔を見合わす。どんな方法で後金までせしめるつもりなのか。


 「ここで登場するのが勇者一行だ……ミルダで勇者が誕生した情報を聞いて、ピンと閃いた作戦だ……見てろ、『水晶の玉』もせしめてやるぜ」


 ヒューズは自信ありげに含み笑いをするのであった。

読んで頂いてありがとうございます。

悪い奴は許せないです!

後で、ボッコボコにしてやります。


……さて、色々あって、地図の公開ができていません。

申しわけありませんが、明日くらいには、できるかな?

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