130 抜け道
勇者ジェロームは、ハールデンが予想した通り、帝国軍から指定されている上級宿『天風亭』に居た。
彼の部屋に通されると、部屋には爽やかな目をした均整の取れた体格のジェロームと、仲間であるらしい、こちらも体格の良い男が一人いた。
ジェロームは年齢は三十代の半ばであろうか。もう一人も同じくらいの歳に見える。
「初めまして、ロビンと言います」
右手を差し出した。
「会えて嬉しいよロビン。俺がジェロームだ。こちらは副リーダーのエリオットだ」
ロビンがやって来ることは、既に『百年砦』の方から報告が行っていたらしい。二人は握手を交わした。
「こちらは僕の従兄で、仲間でもある武闘家のハールデンです」
「こ、これは凄いな……いや、強そうだ」
ジェロームとエリオットはハールデンの巨大な体格と、何よりも凶悪とも言える顔に戸惑いながら握手を交わした。
「強そう……じゃ無くて、俺は確実に強いぞ」
愛想笑いを浮かべたハールデンであるが、凶悪な顔で口角を上げれば、飛び掛かって来る寸前の肉食獣に見える。
「ま、まあ座ってくれ」
ジェロームは迫力に圧倒されながら、二人に椅子を勧めた。
四人が椅子に座るとジェロームから話し掛けて来た。
「俺は教会から勇者に認定されて二十年目になる。君は一番新しい勇者で、去年認定された勇者だね」
「はい。良くご存知ですね」
「各地にある教会に寄れば、最新の各地の魔王の動向や、勇者の活躍が知れるからね」
ロビンはここへ来る前に、各地で様々な活躍をしていたが、そのほとんどで名前を知られないようにしていた。当然ながら教会にも知らせていない。
「オウッ! ロビンの活躍が出てないって言うのか? 馬鹿にするならこっちにも考えがあるぜ」
「兄さん!」
喧嘩腰で身を乗り出したハールデンをロビンが止めた。
「とんでもない」
ジェロームは両手を広げた。
「彼は自分の活躍をひけらかしたり、自慢するようなタイプじゃないことは、一目で分かりますよ。きっと今までに、間違いなく大勢の人々を救って来たはずだ」
一目でロビンを見抜いたジェロームに、驚いたハールデンは声も出ない。
良く見れは、ジェームズの瞳もロビンと同じようにキラキラと輝いている。この歳で、これほど綺麗な目をしている人間に出会ったことが無かった。
(やっぱり勇者ってえのは病気だな……幾つになっても『お人好しの正直者』が治らねえんだな)
変な感心をしてしまうハールデンである。そして、そう思った途端に、ロビンや仲間のジェームズに共通する、親近感さえ感じたのであった。
「ところで」
ロビンが話を変える。
「『百年砦』の司令官である、グーラッド大隊長から聞いたのですが、ついに魔王グルビシュを倒す為の作戦を実行されるとか……グーラッドさんからは、作戦の詳細はジェロームさんから聞くように言われました」
ジェロームはうなづいた。
「作戦の詳細を説明するよ」
「ジェローム!」
成り行きを黙って聞いていた、エリオットが話に割って入った。
「勇者ロビン! 悪いがこの作戦は、我々が六年間、命懸けで情報を集めて立てた作戦だ。おいそれと部外者に教える訳にはいかない」
(まあ、そうだろうな)と、怒ることなくハールデンも納得したのであったが。
「いや、エリオット。ロビンは作戦を聞いたからと言って、我々を出し抜こうとするなどしないと断言するよ。むしろ別の視点からアドバイスをくれるだろうし……」
言葉を切ったジェロームは、真剣な目でロビンを見た。
「俺たちが失敗して全滅した時に、次に挑む彼らが、改善点を見つけられるかも知れないじゃ無いか」
彼は笑みを浮かべた。
ジェロームにはロビンと同じく、功名心は無かった。
彼は勇者らしく、人々が安心して暮らせる世の中を、実現したいと心の底から願っているのである。
(やっぱり勇者って奴は、お人好しの正直モンしかいねえんだな)
心の中でハールデンはつぶやいたのであるが。
(偉いな……勇者とは、人間ながら素晴らしい者だな)
部屋の片隅で、誰にも知られずに話を聞いているカノンは感心した。彼は強大な力を持つ魔物にもかかわらず、人間に強い興味を抱いているのである。
ジェロームは話し始める。
「過去に魔王の城へ乗り込むことに成功したものの、帰って来なかった勇者のチームは、バーンズ帝国軍の力を借りながらも、連戦に次ぐ連戦で、魔王との決戦の前には、少なからず疲れた状態であったと推測する」
ロビンとハールデンに交互に視線を向けた。
反応したハールデンが。
「魔王ってえのは最強の魔物だ……どうせ戦うのなら、こっちも万全の状態で戦いてえ……ってことだろ?」
うなづいたジェロームを見て、ハールデンは自分の推理が当たっていたと感じた。
彼は『百年砦』から帰って来た時、居酒屋でジェームズとメリッサの前で、ジェロームの作戦は、直接、魔王の元へ到達する作戦では無いかと、話していたのである。
「俺たちは六年間、帝国軍に加わって戦いながら、魔物の目を盗んで、城の近くの廃墟を探ったのさ……魔王の居る場所は城跡なんだ。城であれば、必ずいくつかの『抜け道』があるんじゃないかと思ってな」
(そうか)とロビンは思う。
勇者アシュトーンと共に、魔物の占拠する砦を奪還した時も、同じく秘密の通路を通って、親玉の魔物の元へ辿り着いたのであった。
「そして、俺たちは廃墟の中でついに見つけたのさ。魔王の部屋へ辿り着ける、秘密の通路の地図をな……それは長い年月を、奇跡の様に朽ち果てずに残っていた地図だった」
ジェロームはエリオットにうなづいて見せると、エリオットは『百年砦』の北方の拡大地図を、机の上で開いた。
「ここが『百年砦』。ここが魔王グルビシュの城。そして……魔王の城の東に、リグネ峡谷がある」
次々とジェロームが指をさす。
「このリグネ峡谷にある洞窟から、迷路のようになったトンネルを潜って行くと、魔王の部屋の近くへ出ることが出来るんだ。俺たちが発見した地図で、迷路を迷わずに進むことが出来る」
破顔したジェロームは。
「万全な状態で戦えば、俺たちのチームは魔王にも勝てる自信がある」
横に立ってるエリオットに視線を移し。
「エリオットは槍の達人だ。他のメンバーは、戦斧使い。大盾使い。魔法使い。そして俺はレンジャーと忍者の技術を持っている。みんなこれまで鍛錬を続けて来て、腕は一級品だと自負している。……ロビン! 必ず魔王を倒してみせるぞ!」
力強く宣言するジェロームの手を、目を輝かしてロビンは握った。
「素晴らしいです。魔王討伐成功を祈っております」
「ああ、ありがとう」
ジェロームのチームは多彩な能力を持った者が多いようである。違う能力を持つ者が多いほど、相手に合わせて臨機応変に戦うことが可能である。
中でも大盾使いとは、身体が完全に隠れるほどの巨大な盾で、壁となって仲間を守る職業である。背には後方の者が手を伸ばせる届く高さに、回復薬や毒消しなどの瓶を差していて、時には防御だけでなく盾ごと相手にぶつかって行ったり、振り回して盾の角で敵を吹き飛ばす場合もある。
「数日後にバーンズ帝国軍が、陣を組んで平原に出陣する。魔物軍もこれに合わせて出て来るはずだ。そうなれば周辺の警戒も緩くなる」
ロビンはうなづく。
「俺たちは別動隊として、軍の警護隊百名と共に、まずは北東の三日月湖を目指し、三日月湖沿いに北のリグネ峡谷へ入る予定だ……片道の行程は三日。洞窟の通路は一日と少しほど掛かるはずだ」
当然ながら勇者一行が通る森には、魔王軍とは関係ない魔物も潜んでいて、進むのも命懸けのはずである。この間を、軍の警護隊が勇者一行を守るのである。
「ロビン! 俺たちのチームは相手の出方によって戦い方を変えられるチームだ。君のチームはどんなチームなんだ」
笑みを浮かべたロビンは、ハールデンを見上げた。
「僕たちのチームは、正面から相手を粉砕するチームです。今さら戦法を変えることはできません」
「悪くないチームだ。結局、それが一番強いかも知れないな……もし……」
言葉を切ると。
「多彩な攻撃を得意とする俺たちが破れたなら、魔王を倒せるのは君たちのような、シンプルに強いチームかも知れない。その時は頼んだぞ」
「縁起の悪いことを言わないで下さい。ジェロームさんたちの、討伐成功の報告を待っています」
再び二人は、固く握手をするのであった。
ジェロームと別れたロビンとハールデンは、『天風亭』の別室へ入った。まだジェームズらは来ていないようである。
「ロビンよう」
椅子に座ったハールデンが声を掛けて来た。
「はい」
「ジェロームの野郎が、良い奴ってことは分かったぜ、お前と同じ目をしているからな」
人を褒めないハールデンが、ここまで言うのは異例である。
「今回ばかりは、奴に手柄を取られちまうかも知れねえなあ」
残念そうに、小さく頭を振ったのであった。
今夜は時間があったので更新できました。
塩辛とアサリの酒蒸しは最高ですね!
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