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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
北の遺跡編
13/304

13 次の試練

 冒険者組合を落胆した表情でジェームズが後にした頃。


 ミルダの教会近くでは、通りを進む少年勇者ロビンとハールデンの姿があった。

 無事にベルナの森の廃坑ダンジョンを攻略し、『勇者を証明する札』を手にしたロビンは、ハールデンと共に教会にCランク勇者を申請に行くのである。


 「これでミルダ近辺からとは、おさらばだ。もっと稼ぎの良い場所へ行けるぞ」


 機嫌良くハールデンが口にしたのであるが、ロビンは眉を寄せた表情で従兄を見上げた。

 それに気づいたハールデンは。


 「あ、嫌、言い方が悪かったな……これで、さらに経験値の稼げるダンジョンへ行けると言いたかったんだ」


 「そうでしたか」


 ロビンの顔が明るくなった。


 「もっと経験を積んで強くなって、最終的には魔王を倒さなくちゃいけねえからな」


 「はい! 頑張ります」


 ロビンの歩きに力が籠る。


 「ロビン。Cランク勇者になれば、次の試練に向かうことが出来る。そして、その試練を突破すりゃ、晴れてBランク勇者と認められ、外国へ行くことが出来るんだ。外国の数か所には、それぞれ魔王を名乗る魔物がいて、そいつを倒せば大金が……」


 『大金が転がり込んで来る』と言いかけて、ハールデンは咳ばらいをして言い直した。


 「名誉が手に入るんだ」


 「従兄にいさん。僕は勇者だから名誉は必要ないよ。困ってる人々を救いたいだけなんだ」


 「分かってる。分かってるって。お前はそれで良いんだ。俺に全て任せときな。一番良い方法を俺が考えてやるからな」


 笑顔で肩を叩いた。


 「ありがとう従兄にいさん」


 目を輝かすロビンに笑い掛けると、ハールデンは真剣な表情に変わり。


 「そこでだ。Cランク勇者の次の試練は、イスター王国の数か所にある試練の、どれを選んでも良いことになってるんだ。近場の簡単な試練を選んでも良いんだが、そんなのは金に……オホン!……経験にならねえ。どうせやるなら稼げる試練に……オホン!……経験値の稼げる試練を目指そうじゃねえか」


 「勿論もちろんだよ!」


 「そう来なくちゃな……試練を選ぶのは俺に任せときな。悪いようにはしねえぜ」


 「いつも何から何まで、ありがとう従兄にいさん!」


 うんうんとうなづきながら、ハールデンは他のことを考えていた。


 (他所へ行くなら、マーシュ商会の金は踏み倒しても何とかなるかな……まさか殺し屋を雇ったりしないだろう。そっちの方が金が掛かるからな)


 そんなことを考えていたハールデンであったが、妖魔カノンの手によって、すでにマーシュ商会は、この世のどこにも存在していない。





 それぞれ別の思いを抱いて歩いて行く二人を、教会近くの建物の影から、盗み見ている二人組がいた。


 一見して真面目な商売人風の男はヒューズと言い、実際に隊商に加わってイスター王国の東西を旅したこともある。年齢は四十歳。

 もう一人の方も真面目そうな風貌の男で、名前はローラン。年齢は三十歳。ヒューズと同郷であった。


 すでに三日前からこの辺りで張っていて、お目当ての勇者を発見した二人であった。


 「兄貴の予想した通りだ。やって来ましたね」


 ローランが目を輝かせている。


 「ああ。やはり仲間が腕利きなだけあって、短い期間でダンジョンを攻略した来たようだな」


 うなづいたヒューズは少年勇者の隣りを歩く大男を睨んだ。


 「武闘家のハールデン……奴の性格は知っている。次の勇者の試練は何ヶ所か選択肢があって選べるが、金に汚い奴は恐らくあの試練を選ぶはずだ」


 「そうなったら、こっちのものですね」


 「ああ。大金が転がり込むぞ」


 含み笑いをするヒューズとローランであった。






 『勇者を証明する札』を教会に提出したロビンは、正式にCランク冒険者に昇格した。それにより首都ミルダの近郊より離れ、教会の指定するいくつかの試練の、どれかを選んで挑戦することが可能となった。


 試練は実際にイスター王国が直面している問題を解決する事であり、勇者の経験にもなるので両方に利益があるものになる。


 教会の職員が試練の書かれた書類を持って現れ、ロビンと付き添いのハールデンの前に置いた。


 「この中の試練の中から、一つ選んで下さい」


 「見せてもらうぜ」


 ハールデンは真剣な表情で書類を吟味して行く。



 《西南の海に現れる幽霊船の調査》


 (ハッ! いつ現れるか分からねえ幽霊船なんて、待ってられるか)


 《ネトス海峡の絶壁にある洞窟の調査》


 (洞窟か……金目のものは少なくて、魔物は多いな。くたびれ損だ)


 《レーブロ村の墓場に現れる妖魔退治》


 (こりゃあクソだな。村の墓場など金にならねえ)


 そんな調子で見て行くと、彼の興味を引く試練が目に付いた。


 《魔物に奪われた砦の主を倒し、砦を奪還する》


 詳しい資料に目を通した。


 イスター王国の最東にある、ユランド辺境伯爵領の東には、小舟で渡れる距離に大きな島があり、そこは魔物の住む島となっている。

 その島を監視する砦の一つが魔物の急襲を受け、駐留していた兵士は一割ほどの損害を出して脱出したそうである。


 砦の新たな主となった魔物を倒すのが試練となっている。主を倒せば残りの魔物は逃げて行くはずである。


 (これは良いじゃねえか!)


 魔物に急襲されて逃げた兵士は、砦から何も持ち出せていないであろう。

 砦には武器や防具、兵士の給料。物資なども多く残っているはずである。砦は既に魔物の住むダンジョンであり、ダンジョンで見つけた物は、全て見つけた者の所有となる。


 「これを受けるぜ」


 ハールデンが書類を差し出すと、内容を見た職員の顔が曇った。


 「こ、これは……この試練は」


 「どうしたってんだよ。今さら、この試練は駄目だと言ってもらっても困るぜ、こんな金になる……(ロビンの視線に気が付いて)こんなに勇者の成長につながる良い試練を、駄目だなんて言うんじゃねえぜ」


 「いえ、そう言う訳ではございませんが……」


 職員は言いにくそうにしている。


 「何だよ。言えよ」


 「実はこの試練は十年以上前からある試練でして、既に二組の勇者一行が挑戦しましたが、いまだに成功しておりません」


 急に出て来た汗を、拭きながら職員は説明した。


 「ほおっ。俺以外にも見る目のある奴が居たのか……成功していないってことは、その勇者一行は失敗して死んだってことか」


 「いえ、はい。あっ、まあ」


 職員の歯切れは悪い。


 「お前は俺たちも失敗すると思ってんのか? ハッ! 俺たちを今までの勇者と一緒にするんじゃねえぞ」


 ハールデンは自分たちのチームに自信を持っている。それはベルナの森の廃坑道ダンジョンで確信した。


 自惚れている訳では無いが、自分の武闘家としての腕には自信が有る。お人好しの性格はどうしょうもないが、戦士ジェームズの腕は世界最強とも言われていて折り紙付きである。

 性格には難があるが、メリッサの魔法は噂通りの破壊力であった。僧侶でポーターのケンジは何を考えているか分からない奴であるが、間違いなく使える優秀な男である。


 「とにかく。俺たちはこの試練を受ける……良いな!」


 最後はロビンを見て、決定したような口調で言うと、目を輝かせた少年勇者は、大きくうなづいた。


 「流石は兄さんだ! 砦を取り戻せれば、人々の大きな希望につながるね」


 「おっ、おう! そうだとも!」


 キラキラと輝くロビンの目が眩しくて、思わず目をらしてしまったハールデンであった。





 試練を決めたロビンとハールデンが、教会を出て行ってしばらくすると、教会の扉が小さく開き、職員が一人顔をのぞかせた。

 職員は周囲に人がいないことを確かめると、小走りに路地裏へ走り込んで行った。


 路地裏の薄暗い通路を職員が走って行くと、横手の更に細い路地から人影が現れ、片手で手招てまねいた。


 「こっちだ」


 手招きしたのは、建物の影から勇者一行を観察していた、ヒューズの手下のローランであった。

 呼ばれた職員はローランの後に続いて細合に入って行くと、その奥のさらに暗くなった闇の中に、ヒューズが立っていた。


 「どうだった?」


 ヒューズの問いかけに。


 「はい。ヒューズさんのおっしゃっていた通り、勇者はユランド辺境伯領の、砦奪還の試練を選びました」


 「ふん。やっぱりな。金に汚い奴の考えなどお見通しよ」


 ヒューズは鼻で笑った。そして懐から金貨を取り出すと職員に渡した。


 「こんなに」


 驚く職員に。


 「分かってると思うが、この件は誰にも話すんじゃねえぞ」


 真面目な顔つきのヒューズの目が細められ、普段は隠している残忍な表情が現れた。


 「も、勿論です」


 職員はぶるっと震えると、何度もうなづいた。


 「行け!」


 去るように言われて、明らかに安堵した様子の職員は、逃げるように走って行った。

 職員の姿が見えなくなると、ヒューズはローランに向き直り。


 「ローラン。忙しくなるぞ! 奴ら明日か明後日には東に向けて出発するだろう。俺たちは今日にでも出て、街道で罠の仕込みを行うぞ」


 「兄貴! 合点でさぁ」


 「それでだ……金の為なら何でもする、見た目が強そうな奴を……そうだな、二人ほど探して連れて来い」


 「ヘイ!」


 ローランは頭を下げると走り出した。彼は同郷であり、兄貴と呼んでいるヒューズの頭の良さを良く知っている。彼の言う通りに動いていれば、金は向こうから転がり込んで来るのである。

新章です。


アメブロの地図が、まだ反映しません。十日くらいで反映するはずなのですがね。

反映してもしなくても、明日には二つ目の地図を載せる予定です。

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