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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
魔王討伐編Ⅰ
129/304

129 魔王グルビシュ

 『百年砦』の司令官である大隊長グーラッドと、副将ブルハンから、現在の状況を聞いたロビンとハールデンは砦を辞して、砦の南西にあるカナデラ町へとやって来た。ハールデンは再びフード付きのマント姿である。


 二メートル二十センチを超える大男の為、それでも目立って仕方が無いが、フードを外せば別の意味で更に目立つであろう。


 カナデラ町には、砦の全兵士の内、常に七割の兵士が駐屯しているので、門の警備から街中の警備まで、全て兵士が行っていて治安の良い町である。


 打ち合わせた通り、門を入った広場から一番近い場所にある居酒屋で、ジェームズとメリッサと賢治が待っていた。客の入りは六割程度であろうか、普通の町の居酒屋と違って、破落戸ごろつきのような風体の者は見当たらなかった。

 兵士の極端に多いこの町では、彼らは住みにくくて居られないのであろう。


 「先に食事を頂いたでござる」


 ジェームズが生真面目に頭を下げた。


 「ああ、俺たちも直ぐに食事を済ませるから、酒でも飲みながら話を聞いてくれ」


 ハールデンが自分とロビンの食事を頼み、皆の酒をもう一杯頼んだ。彼は食事をしながら砦で聞いた話を披露した。


 「……そんな訳で、今まで十二組もの勇者のチームが討伐に失敗しているんだぜ、いくら俺たちが優秀なチームでも、今度ばかりは簡単には行かねえだろうな」


 肩をそびやかせてハールデンが首を振ると。


 「あんたの辞書に、『慎重』って文字があったことに驚いたよ」


 メリッサがからかう。


 「はっ! そんなもんは無えがよ。ロビンにだけは危ない橋は渡らせたくは無え。……とにかく、ジェロームって野郎の話を、今からロビンと共に聞いて来るぜ、奴に上手い作戦があるなら、それを丸々頂いちまっても良いかなと思ってる」


 「兄さん! それは」


 ロビンが口を挟むと。


 「作戦を頂くと言ってもよ、奴らが失敗した場合の話だぜ」


 「失敗した作戦を頂いてどうするのさ」


 メリッサが突っ込む。

 ハールデンは鼻を鳴らすと仲間全員を見渡し。


 「ジェロームに少しでも頭があるなら、今まで失敗した勇者とは別のやり方を考えるはずだ。……これは想像だが、奴の作戦は、魔王の間に直接乗り込む作戦じゃねえかと推測するぜ。……何度も勇者を返り討ちにしている魔王なんだろ? チームが疲労した状態で勝てるとは思えねえ」


 もう一度、全員を見渡し。


 「それでも奴らが失敗したなら、それは奴らが魔王より弱かったってことだろ。……ところが、俺たちだったらどう思う? 俺が思うに『ゼッ〇ン』は恐らく史上最強のチームだぜ。魔王の間へ無傷で行けさえすれば、絶対に勝てるぜ!」


 自分たちのチームの強さに、絶対の自信を持つ彼は胸を張った。


 「確かに疲労を最小にして、魔王の前まで行けたなら、かなり有利であるとはワシも思うでござる」


 ジェームズは同意し、メリッサは無言であったが、否定する訳でも無い様子である。良くも悪くも彼ら一人一人が、自分が強者であると自信を持っていた。


 「それとよお、今日からの宿屋は上級宿の『天風亭』だ。軍の方がタダで泊まらせてくれるそうだ」


 「あんたが好きな『タダ』だね」


 メリッサに乗せられて、ハールデンが恍惚とした顔で天を向くと。


 「そうだ! 『タダ』だ! 『タダ』、何て良い響きなんだ……チッ! メリッサ! 余計なことを言うんじゃねえ。勇者一行の当然の権利って奴だ!」


 途中から正気に戻ったハールデンは、舌打ちをしてロビンを見ると。


 「ロビン! ジェロームに会いに行くぞ。皆は適当にやってくれ、夜は『天風亭』に集合だ」


 「どのような話になるかは分かりませんが、行って来ます」


 二人は立ち上がると行ってしまった。


 「相変わらずハールデンは騒々しい男だね……まあ、何だかんだと言いながら、ロビンの心配だけは何時もしてるけれどね」


 メリッサは煙草をふかし始めたのであった。


 そこへ空いていた店の窓の隙間を通って、偵察に出かけていた妖精が帰って来て、賢治の肩へ舞い降りた。


 ------以下、二人の会話は誰にも聞こえない------


 (お待たせ致しました)


 「ご苦労! カノン! 魔王は、どうであった」


 (はい。 確かに北の森の中、木々と雑草に埋もれた廃城に、魔王を僭称しておるらしき魔物が存在致しました)


 「そうか! 楽しみだな。どのような魔物であった。……先ほどのハールデンの情報によると、その魔物はこれまでに、十二組の勇者のチームを退けておるらしい。それなりの実力者に違いないであろう」


 (は、はい。それが……)





 『百年砦』の上空を越え、妖精姿のカノンは飛んでいた。北の彼方の森の中に、小山のように膨れ上がった、遺跡らしき構造物が見える。きっとあれが魔王グルビシュなる魔物の棲む場所なのであろう。


 低空飛行に移ったカノンであったが、空を飛んでくる彼に気が付いた魔物が、森の中から数体向かって来た。

 その飛行する魔物は、真っ赤なくちばしに鋭い爪を持ち、尻尾が二つに割れていた。翼を広げれば三メートル近い大きさである。

 対するカノンは、身長がニ十センチほどの小さな妖精姿である。


 飛んで来る魔物を、一目見て弱者であると看破したカノンは、飛行方向を変えるでもなく進んで行く。

 相手の魔物は体格差で圧倒的に勝っていて、自分の襲おうとしている妖精の、強さも分からずに突進して来た。


 両者は空中で交わったのであるが、妖精に触れた魔物は、一瞬で細かい黒い塵に代わってしまった。

 何が起きているか理解できない内に、空飛ぶ魔物たちは次々と妖精に触れ、黒い粉となって森の中に落ちて行ったのであった。

 まさに鎧袖一触がいしゅういっしょくである。


 カノンにとっては気に留めるほどの出来事では無く、そのまま低空飛行で飛んで行くと、森の中に半分埋もれていたのは、朽ち果ててはいるが、元は城に間違いない建物であった。

 建物の一番高い部分には、天守閣のように見える突き立った塔屋があり、跳ね出したバルコニーの上を越えて、窓の欄間ランマの部分に音も立てずに降り立った。


 陰に隠れて窓枠から中を覗くと、そこは一辺が二十メートルほどの一室となっていて、床には長い年月の間に、朽ち果ててしまった絨毯が敷き詰められていて、白かったであろう壁は黄色く変色し、所どころにヒビが入っている。

 部屋の中は天窓から入って来た光で明るかったが、天窓のいくつかはガラスが割れていて、雨が降れば部屋は水浸しになりそうである。


 部屋の奥は一団高くなっていて、色は変色しているが、豪華であったと思われる、細かい細工の施された椅子があり、魔物が一体座っていた。

 魔物は身長は百八十センチくらいであろうか、この朽ちた雰囲気の部屋には合わない、豪華な刺繍の施された神官服のような形の服を着ていた。


 (まるで、雪を固めて作った玉のような顔だな)


 カノンはそう思ったのであるが、真っ白な顔の魔物には目や口は無くて、表面は光沢があり、常にドロドロと波を打っているように見えた。


 部屋には魔物は一体しかいなくて、この魔物が魔王グルビシュであろうと推測した。じっと見つめながらカノンは魔物を観察した。相手の強さを測っているのである。


 魔物の中には、例えば大魔王様に使える将軍の中には、カノンが立っていられなくなるほどの、威圧を無意識に放つ方々も存在する。

 そんな方々を有無を言わさず従える大魔王様は、彼が命を懸けて使えるに相応ふさわしい方だと尊敬している。


 カノンはしばらく真剣に観察したが、魔物の強さが分からなかった。どう見ても圧倒的な強さを感じない。だが、魔物の中には、戦闘態勢に入った途端に、戦闘力が跳ね上がるタイプのモノもいるのである。


 (大魔王様に、何と報告致そうか……)


 戦えば相手の力量も判断できるのであるが、彼が戦えば手加減しても、倒してしまわないとも限らない。そうなれば魔王を人間に退治させようとしている、主人の努力が無駄になり、失望させてしまうことになる。


 どうすべきかと悩んでいたカノンであったが、魔物の座る椅子の対面にある下の階へ降りる階段から、何者かが部屋へ入って来たのであった。

 入って来たのは直立して歩く猿のような魔物であった。身長は二メートルほどで、猿と明らかに違うのは背に翼を生やしていた。


 《魔王様。ご報告いたします》


 猿は魔王の前でひざまずくと、念話で話し始めた。


 魔物の中でも人語を話すものは居るが、魔物同士の会話は、ほとんどが念話である。これならば異種族でも簡単に意志の伝達が可能である。


 カノンは交わされる念話に、こころを澄ませた。


 《只今、空の警戒に当たっている魔物が、全て居なくなってしまったと報告がございました》


 《どういう意味だ? 集団で我が元から逃げ出したのか?》


 《グルビシュ様のような強者の配下であることは、強さを求める魔物として、魅力的なことでございます。絶対にそのようなことはございません》


 妖精は斜め上に視線を向けて、先ほどの空飛ぶ魔物との遭遇を思い出した。

 あまり何も考えずに蹴散らしてしまったのであるが、見つからないように侵入すれば良かったと反省した。


 《原因は不明でございますが、捜索をさせております。……警戒の為に飛び立った魔物が、次々と黒い粉になったとの目撃情報も入っております》


 猿は頭を下げた。


 《粉になっただと。それほどの力を持つ者が、我が支配地にやって来たのか?》


 グルビシュは椅子から腰を浮かせた。


 《いいえ》


 きっぱりと否定して頭を振った猿は。


 《警戒を行っていた空飛ぶ魔物は、それほど容易たやすく倒されるような、弱きものではございません。何かの見間違いであると思われます》


 《……そうなのか?》


 グルビシュは腰を降ろした。そして、つぶやく。


 《この部屋までやって来れるような、強者が現れてはくれぬものかな……あの、何だったかな……おお、そうだ! 人間の勇者との戦いは面白かったな。……人でも魔物でも良い。私を楽しませてくれる強者が現れて欲しいものよ》


 《グルビシュ様の良き敵手になる者など、どこを探してもおらぬと思われます》


 猿は再び、深々と頭を下げるのであった。





 (この程度の報告で、申し訳ございません)


 カノンは見たままを大魔王に報告し終えた。


 「そこまで自信がある魔物であれば、きっと、それなりに強い魔物なのであろうな。……よく我慢したな。お前が戦わなくて正解だ」


 賢治はうなづく。


 「魔王グルビシュの話が本当であれば、その部屋まで辿り着いた、勇者の何組かは、直接戦って破れているのであろうからな」


 (はい……)


 「まあ良い。どのような展開になるか分からんが、危うければ助けてやれば良い。やはり勝つか負けるか分からぬ戦いは面白いものだ。楽しみが増えたな……カノン!」


 (……ハッ!)


 喜色を浮かべる大魔王に、カノンは頭を下げるしかない。


 大魔王賢治は生涯に渡って、苦戦をしたことが皆無である。それだけに接戦とか、苦労して勝つ戦いに憧れもある。


 「今、ロビンとハールデンが、先に魔王グルビシュと戦う予定の、勇者ジェロームと話をする為に出て行ったところだ。場所は上級宿の『天風亭』であろう。行って話の流れを聞いて来るのだ」


 (承知いたしました)


 一礼した妖精は、先ほど入って来た窓の隙間から、再び飛び出して行ったのである。


「貴様! 良くぞ更新したな!」


「……ふっ。乾いて候へば」


菅原多分、前回の会話と重複する話があったと思いますが、確認する気力もないので、ご免!

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