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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
バーンガッド(裏庭の用心棒)編
110/304

110 白昼の襲撃 

新章です。

バーンガッド編として、二章構成のつもりです。

 見渡す限り青い空がどこまでも続いている。ここはバーンズ帝国の首都バーンガッドから、港町ターズを繋ぐ街道である。

 いざという時は軍隊が素早く進軍できるように、道幅は広く石畳で完全に舗装された街道であった。


 通常はバーンズ帝国の中でも最も重要な街道として、港町から送られてくる、外国製品や海産物を乗せた馬車と、小売商の荷駄車が往来している。

 安全面でも二十人規模の帝国兵の小隊が、一定の間隔を開けて、街道の端から端まで巡回している。


 そんな街道を、ターズからバーンガッドへ向かって進む大型の馬車があった。旅人を運ぶ定期便の馬車であり、内部は広くなっていて座り心地の良い椅子が設置され、数日間の馬車の旅を快適に過ごせるようになっている。





 「やっぱり高級な馬車は違うね。移動は馬車に限るよ」


 馬車に揺られながら、機嫌良く煙管を咥えたのはメリッサである。


 「今回は言うことを聞くがな……次からは我儘は聞かねえからな」


 反対に機嫌悪くしているのはハールデンである。


 勇者一行はターズからバーンガッドへ向かう為に、定期馬車に乗っているのである。ロビンが勇者の称号を受けてから丁度、一年が過ぎていて、彼らもそれぞれ一つ歳をとっていた。


 いつもの様に徒歩での移動を主張したハールデンであるが、メリッサがキレ始めた為に、急遽きゅうきょ馬車での移動となったのである。

 馬車の中は彼ら五人の他は、六人の家族連れと、商人らしき三人連れの男が乗っていて、大型馬車は詰めれば二十人ほど乗れる大きさであり、比較的ゆったりとしていた。


 ロビンはターズのバーンズ帝国駐屯軍から送られた、真新しい片手剣を装備している。

 ハールデンとジェームズはフード付きのマントを羽織り、今回はメリッサも同じ格好である。彼女の場合は美貌に吸い寄せられてくる、うっとおしい男に声を掛けられない為である。

 メリッサと同じ理由で、賢治もいつもの様に、巾広の鍔の帽子を深く被っていた。


 賢治の肩に止まった妖精を、六人連れの家族の子供たちが笑顔で見詰めている。

 妖精は見ていると大人でも、笑顔になってしまう可愛らしい生き物であるが、妖精の正体は妖魔カノンであり、彼が本気になれば小さな村の一つくらい、一瞬で滅ぼしてしまうほどの魔物であった。





 調子良く進んでいた定期馬車が突然止まった。何が起こったのかと、ハールデンが前方の御者側にある横引きの戸を叩いた。


 「何でえ、何かあったのか!」


 横引きの戸が開くと御者が顔を出し。


 「何か遠くで騒ぐ声が聞こえましたので、緊急停車しました。しばらくお待ちください」


 「うん!」


 耳の良いジェームズが、何かを聞き取ったようである。


 「ロビン殿! 剣戟の音でござるぞ!」


 「行きましょう!」


 ロビンが立ち上がった。


 「待て、ロビン! 俺が先に降りる」


 ロビンを遮って、ハールデンが先に馬車から飛び降りた。

 何だかんだと言いながらも、ハールデンは常にロビンの身を気遣っている。


 勇者一行は全員が馬車を降りた。


 「あっちでござる!」


 ジェームズが駆けだし、一同がそれを追う。

 走り際にハールデンが、驚いている御者に声を掛けた。


 「ちょっと待っておけ! チョイチョイと片付けて来る。もし巡回の兵士が通ったら、あっちで事件だと告げてくれ!」


 驚きながらも御者はうなずいたのであった。

 「剣戟の音」と発したジェームズの声が聞こえ、一瞬、緊張した御者であったが、走り行く後ろ姿の大男が行けば、どんな事件も解決できそうであった。


 走って行くと確かに遠くから、剣戟の音が聞こえて来た。全力で走るハールデンは、巨体にも拘らずこの中で最も足が速い。たちまち一行の先頭に立ったのである。


 (金の匂いがするぜ!)


 そう思って、いつもの悪い笑みを浮かべた。

 彼の、その辺りの嗅覚は抜群である。





 バーンズ帝国の中でも、最も整備されているこの街道の左右には、並行に走る支道があって、支道は街道の周囲に点在する村へ繋がっている。


 白昼堂々、その支道で襲われている小型の馬車があった。支道は兵士による巡回も少なく。たまにではあるが少数の野盗団が出没する。 

 すでに馬は矢で射殺され、すぐ横に、これも矢で射られたらしき御者が倒れていた。


 商人に見える、武器を持たない四人の男が馬車の陰に隠れていた。それを守る護衛の傭兵が見えるが、三人いた傭兵は、二人が討たれて残り一人となっていた。

 対して彼らを囲う野盗団らしき賊は十人いる。


 最後の一人になった傭兵は、肩を大きく上下して息を整えているが、身体の数ヶ所を切られて絶体絶命であった。


 「畜生! この護衛の傭兵は手強いな」


 周囲を囲む賊の一人が、忌々し気に口にする。


 「お前ら、怪我してもつまらん。槍で仕留めろ!」


 命令した髭男が、この野盗団の頭目とうもくのようである。彼自身も半槍を手にして前に出て来た。


 「待て! 待てったら!」


 傭兵は片手を前に出して、引きつった顔で叫ぶ。


 「どうした! 命が惜しくなったか?」


 髭男は笑みを浮かべて傭兵に向けて槍をしごくと。声を掛けられた傭兵は頭を上下に振った。


 「もう充分、雇われた金の分は働いた。二人られて大赤字だ……俺は手を引く! 命には代えられねえ。持っている金も全部差し出すから見逃してくれ! なっ!……そ、それでも来るなら一人や二人は道ずれにするぞ!」


 血走った眼をして辺りを威嚇した。


 「ふん!」


 髭男は鼻を鳴らしたが。槍先を立てて石突きを地面に降ろした。


 「まあ良いだろう。死に物狂いに暴れられて、手下が怪我してもつまらんから見逃してやる。……お前も仕事を投げ出した以上、どこにも言う訳にもいかねえだろうからな」


 「ありがたい!」


 傭兵は「恩に着る」と手を合わせた。

 そんな話が纏まった様子を見て、馬車の陰に隠れた商人が悲鳴を上げる。


 「そ、そんな! 最後までお助け下さい」


 「悪いが命には代えられねえ」


 傭兵は懐を探って財布を出すと、足元に落とした。


 「……道を空けてやんな」


 髭男の合図で、周囲を囲った男たちの一角が空いたのであった。


 「済まねえ」


 命拾いしたと背を向けた傭兵であったが、隙を見せた途端に、後方から髭男の短槍が繰り出されたのであった。


 「ぐぅーっ!」


 唸った傭兵の胸から、槍の先が飛び出していた。


 「き、きたねえ! 騙したな!」


 傭兵は片手剣を振り回したが、背から貫かれた状態では何もできない。やがて力尽きて地面に転がったのである。


 「はっ! 甘いんだよ」


 死んだ傭兵を見降ろした髭男は。


 「お前ら、商人も全員殺せ! グズグズするな。いくら支道と言っても、巡回の兵士が来ないとも限らねえからな」


 「へい!」


 手下たちは残忍な笑みを浮かべて、商人へ迫ろうとしたのであるが、その時、突然。街道のある方角から、森の中を突き破って何者かが現れたのであった。




 「クオラァー!」


 大喝だいかつと共に森の中から現れたのは、人に良く似た魔物と錯覚した野盗たちであったが、それは走っている内に、フードが後ろに外れたハールデンであった。


 「お前らー! 野盗かクオラァー!」


 地響きを立てて迫って来るハールデンの迫力は、魔物と大して変わらない。何よりその獰猛な顔面は、命知らずの野盗でも心胆を寒からしめるものがある。


 「て、てめえら! ビビってんじゃねえ! 相手は人間だ! やっちまえ!」


 冷静になった髭の頭目に命令され、数人が迎撃態勢をとったのである。


 「うぉーっ!」


 勇気を出して一人が斬り掛かったのであるが、ハールデンは片手剣が振り下ろされる前に、その手首を取った。

 少しひねると「ボキッ!」と大きな骨の折れる音が聞こえ、片手剣はどこかへ飛んで行ってしまう。


 手首を折られた男の口が「お」の字に開いたのであるが、悲鳴を上げる前にハールデンの頭上で振り回されていた。まるで雑巾ぞうきんである。


 「うおらぁー!」


 技でも何でもなくて、ハールデンの怪力による力技である。たちまち周囲の二人がぎ倒された。

 船の上でも使ったが、最近、彼のお気に入りの荒業である。


 「化け物だ!」


 「だ!」の発音が終わる前に、叫んだ男の首が宙に飛んだ。首から噴き出す血を避けて後方に飛んだのはジェームズである。


 首の無くなった男の隣の男は、知らぬ間に自分の胸に氷の槍が突き立っていて、前方を見ると、眉を寄せ機嫌の悪そうな美女が森から出て来るところであった。


 「何だいアンタら、二人だけでろうなんて、私の分・・・が無くなるところだったよ」


 意識が消えて倒れて行く男に、美女の美しい音色の怒声が聞こえた。


 その頃には生き残った野盗たちは、後ろも見ずに散り散りに逃げ去っていた。

 賢明な判断である。


 「えっ! もう、お仕舞しめえか?」


 物足りない顔になったハールデンは、馬車の陰に隠れている四名の商人に、視線を向けたのであるが、助けられたにも係わらず、彼らは歯の根も合わぬほどに震えながら、「ひぇ~」と叫んで抱き合ったのであった。




 「カノン!」


 (はい。大魔王様!)


 「今、逃げ散った野盗どもだが、この先、仕返しに来ないとも限らぬ。後をつけて集合を待ち、このまま逃げ去るなら良し。再び襲って来るつもりのようであるならば、うれいの残らぬように始末せよ!」


 (ハハッ! うけたまわりました!)


 可愛らしくお辞儀した妖精は、天高く飛び立って行ったのである。




雪が降って、現場が何もできないので更新できました。

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