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大魔王様、勇者の従者になる!  作者: ronron
最初の試練編
10/304

10 ダンジョンにて

 唐突に森が途切れると、目の前に小高い丘が見えた。朽ちたトロッコレールが、丘の麓に口を開いた坑道入り口へと続いている。


 遠い昔に廃坑となった穴の入り口は蔦に覆われ、すぐ横に腐って倒れている扉の上を、雑草が覆っている。

 坑道の大きさは、幅が三メートルほどで、高さは四メートル。天井はアーチ状になっている。


 「さっさと済ませるぞ。ケンジ。松明を出してくれ」


 ハールデンに催促されて、賢治は松明を一つ取り出して火を点けた。


 「誰が最後尾ですか?」


 賢治は坑道へ入る順番を聞く。


 「お前が先頭。続いてジェームズの旦那。ロビンとメリッサが並んで、最後が俺だ」


 うなづくと賢治はハールデンに松明を渡した。


 「何だ。全員に渡さないのか?」


 「動くのに不便でしょう。最後尾は必要でしょうが、こっちの方が明るいですから」


 そう言った賢治は蔦を払うと坑道へ足を踏み入れた。


 「《光球》!」


 彼が叫ぶと前方の空中に光の玉が出現した。光の玉は辺りを昼間のように照らし出す。《光球》と呼ばれる洞窟探査や夜の移動に便利な魔法である。


 「おおっ!」


 全員が思わず感嘆の声を上げた。


 「お前! こんなことも出来るのか、凄えな……使える奴だぜ全く……これでタダとは本当に儲けモンだ」


 ハールデンは、まずは金のことである。彼の頭の中で、使い捨てのつもりであった賢治の株が更にグッと上がった。

 これだけ便利ならば、危険に遭遇した場合切り捨てずに助けてやって、長く生かして使った方が得であると損得勘定が成った。


 「進みます」


 そんなこととは知らず、賢治は坑道を躊躇いもせず歩き出した。そんな賢治を見たハールデンが。


 「ジェームズの旦那!」


 振り向いたジェームズにジェスチャーで。


 (気を付けて助けてやってくれよ! 死なせないようにな!)賢治を指差して拝む格好をした。


 小さくうなづいたジェームズは、片眉を上げて親指を立てたのであった。


 ……彼らが守ろうとしているのは、守る必要などない世界最強の大魔王なのであるが、そんなことなど夢にも思わぬ二人であった。





 「次は右ですね」


 「次は左」


 分かれ道に遭遇するたびに、賢治は躊躇いもせず進む道を決めて行く。

 普段は賢治の肩の上にいる妖精が、坑道の奥へ飛んで行っては帰って来るので、恐らく妖精が進むべき道を告げているのであろうと思われた。


 途中で階段を降りて地下二階へとやって来た。地下二階にはトロッコレールは設置されていない。

 しばらく進んで賢治は立ち止まった。坑道は少し先で右に曲がっている。


 「すみません。先ほどまではいなかったのですが、その曲がった先に動く骸骨スケルトンが五体現れたようです」


 的確に数まで告げた。


 「ここは俺と旦那の出番だな」


 ハールデンがロビンに松明を渡して前に出た。ジェームズも隣りに並ぶ。


 「おびき出してるぜ」


 言いながら鉤爪かぎつめ付きの手甲を両手に嵌め、ジェームズも左右の剣を抜いて二刀流となった。


 そこらで拾った小石を通路の先へ放ると、反応した魔物がガシャガシャと騒々しい音を立てながら、奥から現れた。集団は賢治の予想通りスケルトンで、数も五体であった。


 「うおらぁー!」


 ハールデンとジェームズが集団の中へ飛び込んで行く。


 ハールデンの鉤爪がスケルトンを粉々に砕き、引っ掛けて引き倒した頭蓋骨を踏み砕いた。

 ジェームズの二刀が残像を残して素早く振られると、スケルトンの何体かの首が宙に飛び、方向を見失った胴体は壁に激突して崩れ落ちた。


 ホンのわずかの時間で、スケルトンの集団は残骸となって横たわることになった。

 辺りにはスケルトンから転がり出て来た魔石が落ちていて、ハールデンが回収している。


 「ハールデン殿。一つ確認しておきたいことがござる」


 ジェームズが二刀を拭いながら、一行を仕切る立場のハールデンに尋ねる。


 「何だ」


 「取り分についてでござるが、魔石は仲間で折半。宝箱は見つけた者が手にする条件でござったが、それで間違いないでござろうな」


 「ああ。間違いねぇ……何だよ旦那、今さら取り分の確認か? 金なら世界中の闘技場で腐るほど手に入れてるんじゃねえのか? 全く、羨ましい限りだぜ」


 「……人を助ける為に、金はいくらあっても困らないものでござる」


 なぜか歯切れ悪く言うと、二刀を鞘に納めた。

 ジェームズは闘技場で稼いだ賞金を、魔物に苦しめられている人々を救済するために、使っていると噂されていた。


 「全く……」


 ハールデンは、そう言いながらロビンとジェームズを交互に見ると。

 誰にも聞こえない声で。


 (お人好しと……)


 次にメリッサを見て。


 (サディストと……)


 賢治を見て。


 (間抜けとはな……よくもこんな奴らが集まったもんだぜ)


 ……自分の吝嗇りんしょくで性格カスは棚に置いている。


 そんなハールデンの前に賢治がやって来た。


 「お見事です。では先を急ぎましょう」


 再び賢治を先頭に、一行は前に進むのであった。





 たまに現れる魔物を簡単に退け、勇者一行は地下三階まで降りて来た。目的の『勇者を証明する札』は三階の最奥にあり、ミルダへ持ち替えれば別の町への通行許可を、得ることが出来るのであった。

 (札と言っても、最奥にいるミイラが持っている、本の一ページを破って持って来れば良いのである)


 階段を下りた場所で立ち止まった賢治の元に、坑道の奥へ飛んで行っていた妖精が帰って来た。

 賢治の肩に降りて何やら報告を告げている。


 報告を聞いた賢治は一行を振り返り。


 「この先には通路の脇に支道がいくつかありますが、全て行き止まりになっていて、本道を真っすぐ行った場所に大広間があり、その奥の小部屋に目的の《札》があります」


 一同を見渡し。


 「ですが、この大広間には仕掛けがあって、簡単には突破できないようになっています」


 「良くそんなことが分かるな」


 ハールデンの質問に。


 「妖精は罠を見抜く天才です。お陰でここまで何の罠にも掛からずに来れた訳です」


 「まあな」


 「それで……」


 メリッサを一瞬見た賢治は。


 「えー。我々が気づいていることも知らず、我々の後を『荒し屋トロル』がついて来ていますが、この先で我らの代わりに、彼らに罠に引っ掛かってもらうことにしようと思います」


 メリッサの口元に笑いが浮かんだ。


 「面白そうだねえ、どんな罠なんだい」


 「あー、可哀そうですが、簡単には死ねない罠のようですね。恐らく恐怖におののき、苦しみぬいて死ぬことでしょう」


 「そうかい、そうかい。良いね、良いねぇ~ 楽しみじゃあ無いか」


 目に愉悦の火が灯るのが見えた。

 ハールデンとジェームスは、完全に引いた目で見ていて、何のことか分からないロビンは、子猫のように、かわいらしく首をひねった。


 「はい。そこで皆さんには、足跡を偽装して頂きます。俺の指示に従って下さいね」


 軽い感じで賢治は告げた。


 




 「思った通り、今回は外れだったな……」


 苦虫を噛み潰した顔でグラントがつぶやく。

 勇者一行の後を付いて来た、グラントを頭とする荒し屋は、ここまで大したものを手に入れていない。

 このままでは完全な赤字である。


 勇者一行の仲間が余りにも手練れな為、無理はしないつもりのグラントであったが、稼ぎが少ないので、その気持ちが今は揺らいでいる。

 

 松明の光を相手に察知されないように、用心深く距離を取ってここまで足跡を追って来たが、引き返すかどうするか、この辺りが思案のしどころであった。


 悩んでいるグラントの前方の暗闇の中から、斥候の男が帰って来た。彼は若いが夜目も利いて使い勝手が良い。

 魔物は先行する勇者一行が始末しているので、明かりの無い斥候も危険はほとんど無い。


 「様子はどうだ」


 「はい。この先に大広間があって、足跡はそこまで続いています……ですが、奴らの姿が見当たりません。もう、かなり奥の方へ行ってるんじゃねえでしょうか」


 「そうか……」


 しばらく考えて方針を決めた。


 「騒ぎも聞こえてこないところを見ると、もう少し前に出ても危険は無いだろう。その大広間まで行って部屋を捜索し、お宝があろうがなかろうが、今回はここまでとする」


 斥候の男は一瞬、物足らなさそうな顔をしたが、昨夜、余計なことを言って殴られているので、何も言わなかった。


 「良いな」


 グラントが念を押すと、後方に付き従う男たちもうなづいた。頭の命令は絶対であって、それで、これまで危うい場面を何度か回避している。


 「じゃあ行くぜ」


 荒し屋の七人は、斥候の男を先頭に前に進み始めた。松明はなるべく足元だけを照らすようにして進んで行く。





 荒し屋のともす松明の明かりが、支道に潜んだ勇者一行の見詰める先を横切って行った。


 勇者一行は本道の先の大広間まで一旦進み、逆向きに足跡をなぞって後退し、横跳びに支道へ飛んで移動したのであった。

 松明に照らされて見える部分の支道の足跡は、ならして消してあるので発見されることは無い。


 あちらの世界にいた時に、賢治は何かの本で読んだのであるが、熊撃ちのマタギに追われている熊が、マタギを騙して後方から襲い掛かる時に使う手である。

 キツネに追われたウサギなども、この方法で行方をくらませて逃げるそうである。


 「プッ! クククッ」


 罠に向かって進んで行く荒し屋の運命を想像して、メリッサがこらえ切れずに含み笑いをしている。


 「奴ら、まんまと引っ掛かったようだな」


 ハールデンがつぶやくと。


 「では、結果を見届けに行きましょう。《光球》も松明も、しばらく使わないので、足元に注意して下さいね」


 賢治が淡々と告げたのであった。

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