第五話 迷宮の真の主? え? 俺じゃないの?
遅くなりました。
ダンジョンの説明回その2ですね。
よろしくお願いします。
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 〜
阿鼻叫喚。
非常に悲惨なさま、或いは、人々が非常に凄惨な状況の渦中にあって救いを求め泣き叫んでいるさまを意味する。
「きゃあああああっ!?」
「いやああああああっ!!!」
巨大蟻の大群に追い回され、オークの軍団に取り囲まれ。
「ひいいいいいいいッ!!??」
「むりいいッ! これむりいいいいいいッ!!!」
巨獣の乱闘に突貫し、熱砂に蠢くワームに絡め取られ。
「うわあああんっ!! マナカの阿呆おおおおおッッ!!!」
「いいいいいいやああああああああああッッ!!!???」
巨大イナゴの津波に、呑み込まれた。
うん、阿鼻叫喚だな。まあ結界張ってあるから大丈夫なんだけど。
「「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…………ッ!!」」
若干2名が酷くお疲れのようだ。鍛錬が足りんな。
俺達は現在、我がダンジョンの25階層、砂漠エリア最奥の地であるピラミッドに居る。
リニューアルしたダンジョンのプレオープン的な感じで、我が家の面々にお披露目中なのです。
メンバーは、我が家の愉快な仲間達と、フリオールとレティシアさん。
六合家全員集合である。
「マナカ……貴様……! これの、どこがピクニックなのだッ!!??」
「生きてる……? ははは、私、生きてるの……?」
おおう、フリオールがカンカンだ。レティシアさんは、ちょっと別の世界に旅立ちそうだな。
おーい、帰ってこーい。
「え? だからシュラでさえ苦戦したって事前に言っといたじゃん? いきなり中級最終エリアは可哀想だから、ちゃんと初級からスタートしたし。」
そう、俺は悪くないのだ。
全ては苦戦必至なことを承知の上で2人を巻き込んだ、シュラが悪い。
「じゃって、今日はこれ以上に大変になると分かっておったのじゃぞ!? 今日も儂一人で挑戦など、嫌じゃもんッ!! 怖いんじゃもんッッ!!」
開き直る鬼娘。
まあ、メンバー追加は昨日散々頼まれたしなぁ。
「確かに、これはシュラ一人では苦労するでしょうね。アザミも一人では厳しい場面がありましたし。」
「お兄ちゃん、ちょっと……いやだいぶ性格悪くない……?」
ぐはっ!? 予想外のマナエの口撃が辛い!?
「いいえ、マスターは間違っておりません。そもそもダンジョンとは、誘い込んだ獲物を殺し、吸収するのが目的なのですから。」
「そうですぜ、お嬢。それに逃げようと思えば逃げられるんですから、実力に見合った場所で鍛錬すりゃあ良いってだけでさぁ。」
アネモネ! イチ!! お前達は解ってくれるか!!
無理して死ぬ奴が少なくなるように、わざわざ開放型フィールドにしたんだからな!
でもその代わり、これらを乗り越えられれば、絶対強くなれるからね! 保証するよ!
まあ、今日の俺らはどんどん先へ行っちゃうんだけどね。
そしてピラミッド内の階層主の間。
「いやああああああああああああッ!!!???」
「もうやだああああああああああッッ!!!!????」
あ、フリオールとレティシアさんがマミーの波に攫われてしまった……
〜 26階層から30階層 海エリア 〜
さあ、皆の衆! 大航海時代の幕開けだ!!
「お兄ちゃん隊長! フリオールお姉ちゃんとレティシアお姉ちゃんの目が死んじゃってます!」
「くっ……! 仕方無い! 今まで共に生き延びた戦友だが、涙を飲んで捨てて行くぞ!」
「ちょっと待ってくださいっ!?」
「置いて行くな、バカものッ!!!」
なんだ元気じゃん? なら、さっさと船に乗りたまへ。
やって来たのは中級レベル最終エリア、海エリアだ。
この海エリアでは、スタート地点の島から船――ダンジョン備え付け。壊れたら多分、命は無い――に乗り、大海原を探索する。
たくさん在る島のどれかが、次の階層への正解の道なのだ。
そしてもちろん、海の中にも島の上にも魔物が居ます。
26階層では、海の中は魚介系の魔物が犇めき合っている。
例えば、ソードフィッシュとか、タイラントボニートとか、デビルスクイドとか、ニードルシャークとか……いっぱい。
船を狙ってきたり、飛び跳ねて乗員に襲い掛ったり。
島の上は、それぞれに1種類から2種類の魔物が巣や集落を作っている。
ゴブリンの島だったり、ウルフの島だったり……蟻と蜂の島だったり。
「蟻はもういやああああああッ!!??」
「バ、バカものレティシア! こっちに連れて来るなああああッ!?」
「マスター、上質な蜂蜜がこんなに採れました。」
「アネモネ、それは素晴らしいんだけど、後ろからキラーホーネットが大群で向かって来てるように見えるよ?」
「頭、姐さん! 下がっててくだせぇ! ここはあっしがッ!」
「イチ待って!? まだあたしが肩車してるのにいいいきゃあああああッ!?」
……とりあえず全員に攻勢防壁張っとくか。
27階層も青い海。魔物に海獣系が追加されている。
海象だったり、海豹だったり、鯨だったり、鯱だったり。
徘徊モンスターとしてクラーケンさんが登場です。まあ、広い大海原で1体だけだから、よっぽど気を付けてれば遭わないと思うけどね。
「マナカ……これは……?」
「うん、クラーケンのベティちゃんだね。まさか一発目で会えるとは。」
「言ってる場合かああああああッ!!!!???」
大丈夫だよ。水上戦ならアザミの独壇場だから。
ほら、雷魔法1発で瀕死だよ。
28階層ではいよいよ天候が変わり始める。
雨が降ったり猛烈な風が吹いたり、お約束の嵐になったり。
クラーケンさんが2体に増えて、イカだけじゃなくタコも欲しいと思ってダゴンさんも回遊中。
あとは、いくつかの島がサハギン(半魚人ぽいの)種の集落になってるから、迂闊に近付くと連携しての水上戦が始まるよ。
あ、アザミさん。お疲れ様です。
29階層では、島その物が罠だったりする。ハズレの島はそのまんまなアイランドホエール達。
近付くと飲み込もうとしてきたり、上陸した所を潜水して沈めようとしてくる。
「呑気に解説しとる場合か!? 主様よ、何とかせねば呑み込まれるぞッ!!」
おっと、そういやピンチだったね。
結界でアイランドホエールを囲んで閉じ込めてやる。吸い込む海流も消え、船が充分離れてから、風魔法を並列起動。
結界内の空気を抜いてやる。
「なんじゃ? 何をしたのじゃ?」
「結界で閉じ込めて真空にしてやったんだよ。で、アイツは今窒息状態ってこと。そんでさらに結界に罅を入れてやると……」
急速に大気が結界内に吸い込まれる。
その凄まじい大気の乱流で身体がひしゃげ、さらに砕けた結界片が全方位から襲いかかる。
「お兄ちゃん、これ明らかにオーバーキルじゃない?」
「うん、俺もそう思った。これも普段は封印だな……」
「マナカ様、素晴らしい魔法です!」
「またえげつない魔法を創りおって……!」
おいおい、そんなに褒めるなよ。何が起こるか分からないんだから、備えは必要だよ?
そしていよいよ30階層。
上級レベルへの登竜門だ。
この階層では常に海は大荒れ。雨は容赦無く体温を奪い、風は船から落とそうとする。
クラーケン、ダゴン、メガロドン、スケルトンキング率いる幽霊海賊船が回遊し、アイランドホエールやサハギン達がおいでおいでと待ち構える。
そして分かり易いゴールと見せかけた遺跡群が沈み行く罠。
本当のゴールは小さな島。
その周囲をぐるりと囲むほどの巨体のシーサーペントが階層主だ。
さらに島の入江には、シーサーペントに護られるようにしてマーメイドのセクシーお姉さんが10体ほど居て、歌声でバフやデバフを飛ばしてくる。
あ、いかん。家のメンツがちょっとそろそろキレ気味だ!?
ちょっ!? 開幕上空からアザミの範囲雷撃って!
更に遠距離攻撃ができるメンツがマーメイドさん達を集中砲火!?
シュラがイチを持ち上げて……って、ぶん投げたぁ!?
飛んでったイチはシーサーペントに一閃。
……し、シーサーペントさああああんッッ!!
「お前はどっちの味方なのだッ!!??」
「マナカ殿、これは無理です! やり過ぎですッ!!」
ええー? いやだって、ちゃんとクリアできたじゃん。
「大丈夫だって。各階層の情報は、ちゃんとギルドに提供するから――――」
「そういう問題じゃありませんってば!?」
「そもそも基準がおかしいのだ! これが中級って、絶対にお前の仲間を基準にしているだろうッ!!??」
え……アカンの? だって俺、他に比較対象居ないし……ってうるせえ誰が友達居ないって!?
「……はぁ。もういい。一先ず今日のところはこれで帰還しよう。やはり設計の段階で口を挟むべきであったな……!」
「お兄ちゃん、あたしも手伝うから、もうちょっと優しい階層増やそう?」
うぬぬ。マナエにそこまで言われては仕方がない。
とりあえず転移装置で家に帰るか。
そうして俺達は、ボスが撃破されたことで嵐の止んだ海を進み、この階層のゴールの小島へと接舷した。
〜 六合邸 リビング 〜
「いいかマナカ! お前はひとつ勘違いをしているッ!」
夕食後のひと時。広いリビングルームにフリオールの声が響く。
「勘違い?」
思わず聞き返した。
おいおいフリオールよ。俺が一体何を勘違いしてるって言うんだ?
「いいか? そもそも、この世界の人間達はお前が思うほど強くはない。我やレティシアは、冒険者で言えばBランクに相当するのだ。こう言えば分かるだろう?」
はっ? いやいやフリオール、そりゃないだろ?
「うっそだろお前? Bランクって一応上級冒険者だろ? え、それじゃマクレーンのおっさんはどの程度なんだよ?」
俺が会った人間の中で、群を抜いてヤバいと感じた男、マクレーン辺境伯。あのおっさんなら、ウチのメンバーともサシなら渡り合えるくらい強い筈だ。
「【軍神】マクレーン辺境伯は、およそAランク上位の強さだ。彼ならお前達相手でも引けは取らんだろうが、それでようやく、お前の言う中級レベルなのだ。冒険者ギルドの基準にすれば、マナカ曰く初級レベルでさえ、Cランク上位からBランク冒険者のパーティーでなければ対処できんだろうな。」
ま、マジか……? え、世間の冒険者達って、そんなに弱いの?
「人外、化け物と呼ばれるSランク冒険者なら、恐らくは上級レベルにもついて行けるたろう。だが、彼らは数が極端に少ない。大陸に7人しか居らぬのだぞ。それも皆一癖も二癖もある、気難しい人物ばかりだと聞く。」
えー。つまり、俺のダンジョンは想定レベルが高過ぎるってことだよな。
初級は中級、中級は上級と、どれも世間の一段上を行っているらしい。
「え、じゃあ1階層から5階層のゴブリンやコボルト達は? あれも中堅向けってことなのか?」
マジかよ。もしそうならどうしよう。
俺ってば、アイツら以下の魔物なんて知りませんが。
「いや、ゴブリンやコボルトは、初級冒険者でも討伐している。ただお前、あの魔物達の強さを、この森の魔物を基準にしているのではないか?」
お、おう? そうだけど……?
「やはりか……いいか? 巷にはこんな言葉が有るのだ。『惑わしの森に手を出すな。あそこのゴブリンは、オークも殺す』とな。辺境以外の魔物は、此処ほど強くないのだぞ。」
あー、そういや移民団の護衛する時も感じたな。
そうか……俺達にとっては森の魔物が当たり前だけど、世間一般では強いんだな……
しかしそうかー。そうしたら、全体的に階層を繰り上げて、新たに初級レベルを創り直さないといかんな。
「それと、迷宮の宝物はどうなのだ? 今日巡った限りでは、宝箱などは見掛けなかったが。」
「そういえば、昨日も見つからなかったのう?」
そりゃあね、まだ試験段階だから置いてないよ。
「人が来るようになったら配置するつもりだよ。一応、1から5階層は無しで、6階層から階層毎に5,6個隠すことを考えてる。あとは、階層主を倒した時も出るようにする。中身は、回復アイテム各種や金銀財宝、それと武器防具や術具だな。」
初級では下級ポーション類と、金貨、最高品質は魔鉄製の武具をランダムで。
中級では普通の品質のポーション類、金貨に宝石に色んな術具、魔鉄製の武具が最低で、稀に魔銀製の武具を。
上級ではハイポーション類に、宝物には宝剣などの価値の高い宝物や高性能な術具、武具はミスリル製の物が出る。
極稀に、ミスリル以上の物――魔白金や魔黒金製の、伝説クラスの武具も出現する。
そして上級の階層主を倒した場合、初回撃破では霊薬が手に入るようにしている。
階層主のドロップはランダムで、素材、財宝、武具などだ。
そんなことを説明すると、フリオールとレティシアさんは呆気に取られたような顔をする。
「オリハルコンやアダマンタイト……伝説の神剣クラスの武具が手に入るのか……」
「上級の階層主を最初に倒せばエリクサーが……!」
どうよ? 宝物に関しては問題無いんじゃない?
「うむ。難易度に対しても宝物の価値は釣り合っているように思えるな。魔剣の類いも上級になるのか?」
魔剣とは、特殊な効果や呪いを帯びた武器の総称だ。
まあ分かり易く言えば、攻撃力や耐久性以外にも使用者の能力を上げたり、魔法的な属性が付与されているような武器だな。
「魔剣も魔装も、確率は低いけどどの階層でも手に入るよ。まあ、難易度が高い階層ほど効果も高いのは当たり前だけどね。」
ダンジョンの出物としては、このくらいが妥当なんじゃないかな?
「ふむ。ならば問題はやはり難易度だな。今在る階層は軒並み繰り上げて、真の初級レベルの階層を用意すれば形にはなるだろう。騎士や兵士達の訓練にも使いたいしな。」
真の初級って、字面が凄いな。
あれ? ダンマスって俺だよね?
なんかさっきからずっとフリオールが仕切ってるけどさ?
みんなは……それでいいのね。
なんだろうか。日に日に俺の発言力が弱まっている気がするのは、気のせいだろうか……?
これで良いのかな……?
…………まあ、みんなが楽しいのなら良いんだろう。
それじゃあ俺は真の初級(笑)階層を創っちゃうとしますかね。
く、悔しくなんかないんだからねっ!
修正された階層も含めてダンジョン紹介です。
ダンジョン【惑わしの揺籃】
1〜5階層:洞窟エリア
真の初級レベル。
魔物はゴブリン、コボルト(強さは外界レベル)。
罠有り(非殺傷系)、隠し部屋有り。
オーソドックスな通路と小部屋スタイル。
階層主はゴブリンキング率いるゴブリン軍団。
6〜10階層:迷宮エリア
続初級レベル。
魔物はゴブリン、コボルト、オークが主。
徘徊モンスターとしてオーガ配置。
罠有り(非殺傷系)、モンスターハウス有り、隠し部屋有り。
迷路型で、小部屋とセーフティエリアも在る。
階層主はオーガ1体とオーク5体。
11〜15階層:草原エリア(昼夜有り)
初級レベル。
魔物はゴブリン、コボルト、オーク、犬、兎。
階層が進むと、段階的に猪、鹿、狼が追加される。
徘徊モンスターはオーガリーダー、トロール。
罠無し。集落有り。
階層を進む毎に広くなり、魔物の集落も増える。
階層主はオークキング率いるオーク軍団。
16〜20階層:森林エリア(昼夜有り)
初級上位レベル。
魔物はゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、狼、猪、鹿、熊、トレント、蛇、蛙、蜘蛛、百足、蜂、蟻、蛾、蛭などが、段階的に増える。
徘徊モンスターはトロールが多数。
天然の罠有り。状態異常有り。集落有り。
蟻塚、蜂の巣に注意。女王有り。
階層を進む毎に広く、深くなる。
階層主はジャイアントベア、ジャイアントスパイダー、ジャイアントスネークのバトルロイヤル。
21〜25階層:岩場エリア(昼夜有り)
中級下位レベル。
魔物はトロール、ギガース、サイクロプス、ロックゴーレムなどの巨人系が主で、搦手にスライム。
23階層でコカトリス追加。
24階層でバジリスク追加。
25階層でワイバーン追加。
擬態したゴーレム集会所あり。
階層を進む毎に広くなる。
階層主はメデューサ(サツキちゃん)率いるコカトリス、バジリスク、ワイバーンのパーティー。
26〜29階層:砂漠エリア(昼夜有り)
中級レベル。
魔物はサソリ、蛇、ミミズ、サンドゴーレムなど。
徘徊モンスターはサンドローカスト(イナゴ)の大群。29階層ではジャイアントサンドローカストの大群。
状態異常有り。流砂、砂嵐、蜃気楼有り。
オアシスは在るが、安全地帯ではない。
徐々に広くなり、29階層でピラミッドを目指す。
30階層:ピラミッド(昼夜無し)
砂漠エリアの終点で内部を探索する。
魔物はサソリ、蜘蛛、スライム、マミー(ミイラ)、スケルトンなど。
徘徊モンスターは真日が悪巫山戯で創造した半獣半人の魔物達(アヌビス、セト、ラー、バステト、ホルス)。
罠有り(殺傷力有り)。モンスターハウス有り。
階層主はスフィンクス率いるマミー多数。
スフィンクスを倒すまでマミーは無限湧き。
31〜35階層:海エリア(昼夜有り)
上級下位レベル。
ダンジョン備え付けの船に乗って進む。
魔物は海中が魚介類や海獣、島にそれぞれ1,2種類の既出の魔物が居る。
集落あり。サハギン種(半魚人)は陸上戦も水中戦もできるため注意。
徘徊(回遊)モンスターはクラーケン(31階層から出現。名前はベティちゃん)、ダゴン(33〜)、メガロドン(35)。
嵐(35階層は常時)、渦潮、高波有り。
33階層から島に擬態しているアイランドホエールが追加される。
階層主はシーサーペントと麗しいマーメイド10体。
現在登場している階層までの、修正後の構成でした。
参考にして下さい。




