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閑話 世界の狭間より親しみと少しの悪意を込めて+

いつもお読み下さり、ありがとうございます!


〜 スナック【女神のオアシス】 〜



「はぁ〜。もうやってらんないよぉ〜。」


 鬱だぁー……気分が滅入るぅ〜……


 私の固有の神域に常在させている、あの時のスナックのカウンターで、お酒を脇に退かしてテーブルに突っ伏す。あ、ついでにお店の名前も付けましたー。


「真日さん……なにやってるのよぉー……!」


 私は各世界の魂の輪廻を司る転生神だ。


 通常ならシステムで自動化されて、魂は自然に輪廻の輪に還って行く。


 しかし、中にはイレギュラーも存在する。


 例えば、善行の末に非業の死を遂げた魂。

 例えば、生前に蓄えたリソースが規定値を超え、存在の位階を昇格することができる魂。

 例えば、神々の行いの余波、或いはそのものによる影響を受け、命を落とした魂。


 他にもいくつかの例外案件はあるが、そういったイレギュラーの転生に携わるのも、転生神に与えられた存在意義だ。


 そんなイレギュラーであった彼、六合真日(りくごうまなか)さんを転生させてから。


 彼の在り方を気に入り、転生に際してもあれこれと口を出し手を出ししたのだが、その後の新たな彼の生き様にも興味が出てきたのだ。


 それからというものの、神様の仕事を終えてからのプライベートタイムでは、彼の生活を眺めながらお酒を飲むのが、私の楽しみになっていた。


 今も、そうしてお気に入りになったスナックのカウンターで、テレビに彼を映し、鑑賞していたのだが。


「なんてモノ観せるのよぉ〜……!」


 もうね、テンション急降下なのー。とても酒の肴になんてできたもんじゃないよー。


 はぁ……真日さん、折角楽しんでたのになー。


 あんなことになっちゃったら、また死んじゃうかなー。

 生き延びても、人を見る目が変わっちゃうよねー。


 もう……だからダンジョンマスターは狙われるよって注意したのにー。


 そんなテーブルに突っ伏したままブチブチと零す私の耳に、涼やかなドアベルの音が響いた。


「お邪魔するわね、ククル。貴女から聞いたこのスナックっていうお店が気になって、遊びに来てしまったわ。」


 えー誰ー? って、なんだ【ライア】かぁ……


 先触れも無く私の神域に入ってきたこの女は、【イライアメネス】。転生神の私と違って、ひとつの世界を治める管理者を存在意義とする女神だ。


 全知全能なる創造神様が産み出した世界を、それぞれ管理する神様ってとこねー。で、管理者は己の属神――要は部下ね――を使って、それぞれの世界の理やバランスを保ってるってわけ。


 そんな彼女は、数少ない私の神様友達だ。

 お互いをククル、ライアって愛称で呼び合えるし、過度な干渉もしない、一緒に居ても苦痛にならない貴重な神材(じんざい)なのよー。


「そうなんだー。あ、飲みたいお酒や飲み物はそこのバーテンホムンクルスに注文してねー。おツマミや食べ物のメニューは、そこのボードに書いてあるよー。」


 私もさっきまで飲んでいたお酒は下げてもらい、ウォッカをストレートで頼む。


「そお? じゃあ遠慮なく。これ一度言ってみたかったのよねぇ。『とりあえずナマ』♪」


 思わず突いていた頬杖が外れ、顎が落ちる。


「はあー? 何よライア、アンタまた地球覗いてたのー?」


 キンキンに冷えたビールジョッキを、嬉しそうに受け取るライアを見て、溜息混じりに訊く。


「そうよ? だって、地球(あそこ)ほど娯楽が発展した世界はそう無いもの。発展し過ぎて、サブカルチャーは他世界まで内包しつつあるしね。面白いじゃない?」


 くぴくぴと、その白い喉を鳴らして生ビールを呷るライア。


 確かに地球の、特に日本のサブカルチャーは有り得ない発展度合いだけれど。


 まるで観てきたかのような、設定の作り込まれた異世界や他の惑星。近未来の発展した機械科学の思想や、地球外生命体などの生態。


 漫画家や小説家、映画監督や脚本家なんかは、きっとトリップして精神だけ世界の境界を越えたのよー。

 そうして異なる世界を垣間見て、神が降りただのと戯言と共に書き下ろしているに違いないわー。


 そんなどうでもいいことを考えている内に、ライアはいつの間に飲みきったのか、2杯目のビールと塩茹での枝豆を受け取っていた。


「それで? ククルは、一体どうして、そんなに元気が無いのかしら?」


 うっ……! やっぱりお見通しかー。


 ライアはいつもそうだ。

 普段は特に干渉して来ないのに、ここぞという時――私が嬉しそうな時や、落ち込んでいる時なんかは、こうして心境を訊ねてくる。


 私もそれに甘えちゃってるんだけどねー。まるでお姉ちゃんみたいでさー。


 長いストレートな紫の髪に、陶磁器のような真っ白な肌。顔は面長で、でも小さくて、切れ長の瞳に長い睫毛。スっと通った鼻筋に、蕾のような小さな唇。


 身体付きも……()げろっ!!


 創造神様不公平ですぅー!

 どうして私ばっかりこんなチンチクリンなんですかぁーっ!?


「もしもーし? ククルちゃーん?」


 はっ!? いけないわ私!

 数少ない友達に対して捥げろだなんて…………くぅっ!!


「人の胸を見て怖い目をしないでちょうだいな。それで、何かあったの?」


 ああ、そうそう。そうだったわねー。


「実はさー、この前導いたイレギュラーがさー。楽しい人だったからー、転生後もちょいちょい暇潰しに覗いてたのよー。ほらー、例のファンタジーな世界でねー? ダンジョンマスターやるって言ってた子ー。」


 ウォッカを呷って空にする。

 梅酒にしようかな……?


「ああ、何千年か振りにククルのお眼鏡に適ったって子でしょ? 確か右のおっぱいがどうのって言ってた……」


 あ、ごめん真日さん。つい面白くて、右のおっぱいを虻に刺された事、話しちゃったのよー。


「そう、その子ー。面白くてねー、その子。転生してまだひと月も経ってないってのにー、有り得ない事ばーっか起こしててさー。いいなー、楽しそうだなーって、観てたのよー。」


 あら、3杯目もビール? ライアってビール党だったのー?

 真日さんと気が合いそうねー。彼が此処に戻って来たら、ライアも紹介してあげようかしらー。


「それでねー? 今度は何やらかすんだろーって、さっきも観てたのよー。そしたらさー……」


 溜め息が出る。気分が沈む。

 本当はこんな弱った自分を、ライアに見せたくないんだけどねー。


「ククルがそんなになるなんて、気になるわね……ねえ、私にもそれ、観せてくれないかしら?」


 えー? 別にいいけどさー。


 観ても胸糞悪くなるだけだよー? 私はあそこは観ないからねー?


「しょうがないわねー。他言無用よー?」


 とは言っても信用してるからねー。ライアは絶対そんなことしないってねー。


 言いつつテレビを操作する。


『あぎゃああああああ〜〜ッッ!!!!????』


 あはははははっ♪

 いやぁいつ見てもー、このピンヒールが刺さった瞬間の顔サイコーだわぁっ♪♪


「うわぁ……彼、良くこれで生きてるわね……? あ、これってククルが干渉してるでしょ?」


 おお、流石ライアだねー。ひと目で見抜くなんてねー。


「まあまあ、堅いこと言わないでー。」


 続きを観るように促す。


 それから2柱(ふたり)で鑑賞を続ける。ライアも楽しそうに観てくれている。


 ただ、それもだんだんと雲行きが怪しくなってくる。


 映像の中の、真日さんと共に…………




『ならば結構! 父上に代わって、この俺が、ユーフェミア王国王太子であるこのウィリアムが、其奴の迷宮を支配してご覧に入れましょう! そしてその暁には、父上には王位を退いていただく。おい、そこの魔族を捕らえよ! 陛下と我が妹は、魔族に何がしか魔法を掛けられているやもしれぬ故、丁重にお連れして、厳重に管理をさせよ!』


 こいつなのよー!!

 私が胸糞悪い思いをしてるのはー、全部こいつのせいなのよー!!


「なんだか、絵に描いたようなダメ王子って感じね……あの父親から、どうしてこんな息子が産まれたのかしら?」


 うん! 私もそれは思うよー!

 このパパ王様すっごい善い人だもんねー。


 まあー、良い王様と良い父親は違うってことなのかなー?




『何度も言わせるな、この塵芥が。俺に恭順しろ。隷属しろ。迷宮の支配権を俺に寄越せ。そうすれば、命ばかりは救けてやろう。』


 どっちがゴミなのよー!!

 真日さんに酷いことしないでー!!


「ごめん、ライア。私、この先は……」


 映像を停める。


 とても観ていられない。あんなにも真日さんは優しいのに……

 どうして、彼がこんな目に遭わなければいけないのだろうか。


「ダメよ、ククル。」


 肩が震える。


 ライアから掛けられた言葉は、とても残酷で。


「彼を気に入っているのなら。助けるために少なからず干渉しているのなら、目を背けてはダメ。彼の命に、ちゃんと責任を持ちなさい。」


 とても厳しくて。


「大丈夫よ。私も一緒に観ててあげるから。それに、貴女の……ククルのお気に入りは、こんな所で終わってしまうような男なの?」


 とても、優しかった。


 ライアの言葉に、無言で首を振る。目を強く瞑る。


 そうしていないと、何かが溢れてきそうで。


「そうでしょう? 彼は強いわ。部外者の私でも分かる。彼の心は、こんな事で折れたりはしない。だから、一緒に見守ってあげましょう?」


 頭を抱かれ、背中を擦られる。


「うん、分かった……ちゃんと見届けるよー。」


 ギュッと、ライアに一度強く抱き着いてから、離れる。


 ………………柔らかかったなー。


 気を引き締め、残っていた梅酒を飲み干してから、映像を再開させる。




『むがぁーっ!!? ほへ、はへろっ!!』


 身体が強ばり、震える。

 目を背けたくなる。瞑りたくなる。


 でも、隣に居るライアがそれを赦してくれない。

 何より、彼をこの世界に導いた、自分の心が赦さない。




『――――――――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!!!』


 涙が溢れる。息が苦しい。

 彼の絶叫が、神の心臓――核を締め付ける。


「この後は、どうなったかは観たの?」


 ライアが平坦を装った、微かに震えた声で問うてくる。


 やっぱり彼女は優しい。

 縁もゆかりも無い彼のことで、怒ってくれている。


 しかし、さっきの私はここで観るのを止めてしまった。

 止まらない涙を流すがままに、首を振る。


「そう。それじゃあ、最後まで一緒に観ましょう。大丈夫よ。王子サマにとって、彼を殺す利点は、今は無いもの。少なくとも、死にはしないと思うわ。」


 震える肩に手を置いてくれる。

 そして、お絞りで涙を拭ってくれた。




『あっ……があっ! ……くそっ! 痛ええぇぇ!』


 碌な処置もされず、荷物のように運搬される真日さん。




『ごめん……な。ドジっち……まったよ……心配、かけ……て、ごめん……ひ、姫……さんも、しん……ぱいしてる……だろうなぁ……』


 掠れた声で、痛む身体で、それでも仲間のことを気に掛ける真日さん。


 なんかキスしてたけど!

 いやでも、あれは治療だったし……




『それで。俺は、何をすればいい?』


 ……諦めない、真日さん。

 もう、ボロボロなのに。




『ぶち殺すぞこら下衆野郎がああああああぁぁぁッッ!!!!』


 真日さんが、怒ってる。

 本気で。

 仲間のために。


 あの争いを嫌う真日さんが。争うより止める、真日さんが。


 誰かのために、本気で、怒っている……




『それを、お前が台無しにした。こうなった以上、お前は殺すし、ユーフェミア王国は滅ぼす。お前は国を滅ぼした王太子(クソ虫)として歴史に語られる。』


 ダメだよ、真日さん……!

 そうしたら、真日さんの今までの努力が、我慢が、全部無駄になっちゃう!


 真日さんが、もう笑えなくなっちゃう……!!




『ばっ……かやろう!!!!』


 止まった……? 止めた、の……?

 アネモネが、ホムンクルスがマスターの感情に、意に背いて……?


「良かったわね。彼、一線で踏み留まったわよ。」


 うん……うんっ!! 良かった……!


「良かったよおおぉぉ! 真日さあああぁぁぁん!!」


 こんなに泣いたことは無かったかもしれない。


 涙が、止まらない。

 嬉しくて、嬉しくて、どうしようもなく嬉しくて。


 彼が変わらなかったことが、こんなにも嬉しい。


「あらあら、もうっ。よしよし。ほら、決着が着くみたいよ?」


 ほんと? もう、真日さん痛い思いしない?


 思わず飛び込んでいた、ライアの胸から顔を上げる。

 うん、やっぱり柔らかい…………うぬぬぬぬぅ〜……!




『ユーフェミア王国の未来に! フューレンス国王陛下の御代に! 誉れあるその治世に! 恒久の平和と、安寧を!!!』


 なんかお芝居みたいなことしてるー。

 だんだんはっちゃけてきてたし……


 でもすごいなぁー。本当に、自分の望みを勝ち取っちゃったー。


「いい子ね、彼。あんなにも臆病なのに、あんなにも強くて。流石は、ククルのお気に入りね。」


 ふふふー! そうでしょー? 凄いでしょー!?


 でもさ……


「私が流石なんじゃないよー。この結果は、成るべくして成ったんだよー。真日さんという人が、真日さんらしく真摯に運命と向き合ってきたから、得られたんだと思うなー。」


 だから、流石なのは真日さんだよー。


 真日さんの周りに、自然と善い人が集まってきているのも、全部真日さんが真日さんらしく在ったからなんだよー。


「あらあら。随分な熱の入りようねぇ? ククルにも遂に春が来たのかしらぁ?」


 んにゃっ……!? にゃにをいってるのかにゃっ!!??


「ヤダわこの子ったら、そんなに顔を真っ赤にしちゃって! ああ、アツいアツい♪ バーテンさん、生一丁♪」


「ち、違うからああぁっ!? そんなんじゃないからあああぁぁぁ!!??」


 ていうかどうでも良いけどー、ライア、それ生13杯目よねー?


 太るわよー?


 太れー! スタイル崩壊しろー!!


「酷いこと考えてるわねぇ……」




真日「なんだか俺に向けられた悪意が増えた気がする!!??」


アネ「それは本当ですか、マスター!?一体どこから……!」


真日「具体的には、酒席を挟みつつ、妖艶な微笑みとトークで根掘り葉掘り赤裸々に聞き出されそうな、そんな悪意だ!!」


アネ「なんと具体的な……!承知しました、マスター。今後お酒は控えましょう。お酒を断ったと分かれば、無理に酒宴に誘われることは無いはずです!」


真日「え……そ、それは辛いなぁ、アネモネさん……」


アネ「ご安心ください、マスター。不肖このアネモネ!マスターの心の安寧のためならば、己が心を鬼にするくらい造作もありません!」


真日「お願い考え直して!みんながお酒飲んでるのを見てるだけなのは辛過ぎるからあああぁぁぁっ!!!」


シュ「あ奴らは何をしておるのじゃ?」


妹様「さあ?なんか悪意がどうのこうのって言ってたけど……」


シュ「全く意味が分からんのう。さあ、そんな下らんことより、鍛錬を始めるぞい、マナエよ!」


妹様「あ!待ってよ、シュラー!!」


アザ「ああ、抗えぬ運命(さだめ)にも挫けず、己の意志を通そうと足掻くその姿……素敵です、マナカ様!!」



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