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ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う  作者: テケリ・リ
最終章 ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う
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第二話 デケェのは図体だけにしろよ。



アーセレムス大帝国

ダンジョン【帝剣城ユーナザレア】



「止まれ!! 我等の帝剣城に土足で踏み入るとは、魔族風情が身の程を知れいっ!!」


「ナザレア皇女殿下!? 何故そのような下賎の者共と!?」


「まさか……!? 殿下が招き入れたのですかッ!?」



 おうおう、ワラワラ出てくる出てくる。


 ナザレアさん……ナザレアの話では、戦場に出た大帝国軍はアレで全軍だという事だったが、まあそりゃね? 城の護りの戦力くらいは残しておくよね?


 大帝(の影武者)を守護していた近衛兵達と同じ兵装の騎士・兵士達が、城の中枢へと()()()()()()()()侵入してきた俺たちを取り囲み、口々に喚いている。


 ざっと【神眼】スキルで()たところ、近衛兵達のレベルは50〜60レベルくらいが最も多く、上と下に多少突き抜けた奴は居るけど、ほぼ団子だ。

 ならば警戒すべきは装備かとそちらも視てみるが、まあ質は良いんだろうね。大体が魔銀(ミスリル)製の武具で統一されており、奥に鷹揚に構えるレベルが80と突出して高い騎士の装備なんかは、魔白金(オリハルコン)製だ。


 流石は近衛兵、伊達に皇族の守護を担っていないという事かな。レベルも装備も段違いの彼は、きっと近衛兵の隊長的なアレなんだろう。



「控えなさい。わたくしは陛下に……父に用があるのです」


「これは異な事を仰る」


「っ! ランスロット……」



 近衛兵達を抑えようと声を発したナザレアに、落ち着いた声音で返答を返したランスロットと呼ばれた騎士――レベルが80の隊長っぽい人だね――は、俺たちを包囲する近衛兵達を掻き分けるようにして、前に歩み出てきた。


 近衛兵らしく意匠にも拘りが観られるオリハルコンの甲冑を身に纏い、兜を外して脇に抱えたランスロットは、進み出ると同時に軽く会釈をしてから、口を開いた。



「大帝陛下は御自ら指揮を執り、戦場(いくさば)へと出陣なされたはず。何故、皇女殿下はお戻りに? お召し物も出立の時と随分ご様子が違われておりますな。よもや、戦場より撤退なされたのでしょうか?」


「それは……!」


「我等が大帝国法では、敵前逃亡は重罪ですぞ。出立なされてから戦地に赴き、尚戻って来られたにしても時が合い申しませぬ。よもや、参陣すら為されておられぬ訳ではありますまいな?」


「あー、ちょっと良いか?」



 ナザレアが説明に手間取っているように思えたので、不躾ながら横から口を挟ませてもらう。



「……魔族か。何者だ貴様」


「何者だと言われてもな。おたくらが神敵だとかって祭り上げてくれた、マナカってモンだけど。ナザレアはちゃんと戦場に居たよ。俺がそこから、転移魔法で連れて来たんだ」


「戯言を……! ならば大帝陛下は如何なされたと言うのだ? 貴様が討ち取って、逆撃に来たとでも言うのか?」


「大帝は倒しちゃいないが、()()()()()なら倒したぞ? アレだなおたくら。人間至上主義を掲げる割には、魔物は使役すんのな」


「なん……だと……?」



 俺の言葉に、眉根を寄せて険しい顔になるランスロット。


 42歳という歳の割に若く見えるのは、コリーちゃんやマクレーンのおっさんみたいに、身体を鍛えてレベルも上げてるおかげかな?

 俺だって180近く身長あるんだけど、コイツは体格で言えばコリーちゃんとどっこいだな。コレ210センチも軽く超えてね?



「事実です、ランスロット。わたくしは戦地にてこの方……マナカ・リクゴウ殿に敗れました。その際に父と思っていた大帝が影武者と知り、更には真の父が信じ難い非道を行ったため、この御仁に同道を願い出て、戦場より舞い戻ったのです。この城に今も残る、真なる大帝を問い質すために」


(にわか)には信じられませぬな。その影武者の魔物とやらのお話が真実だとして、そもそも御身がご本人であると、如何様にご証明されるおつもりか」


「ぐ……ッ!?」



 ある意味、至極当然の疑問を投げ掛けるランスロットに、思わず言葉を飲み込むナザレア。



「更に。何故敵である魔族と共に戻られたのか。それも我等が大帝国の守護神マグラ・フォイゾ様が神敵と断じられた輩と。最早これは、大帝国への謀反に他なりませぬぞ?」



 そう宣言するや否や、周囲の近衛兵達の殺気が膨れ上がる。ランスロットも、ゆっくりと己の佩く剣を抜き放った。



「ランスロット!!」


「最早問答は不要。皆の者! このナザレア皇女殿下が真にご本人かどうかなど最早関係ない! 殿下がこの魔族共を連れ込んだ時点で、既に答えは出ておるのだ! 魔族共は討ち取れ! この殿下らしき人物は捕らえた後、尋問に処す!!」


「「「「おおッ!!!」」」」



 まあ、案の定説得は無理だったねぇ。

 俺もずっと蚊帳の外に置かれてて寂しかったよ。



「ナザレア、下がれ。こうなったらもう話は通じない。近衛の相手は俺らがするから、安全な中央に居てくれ」


「っ……! 分かりました。力不足で申し訳ありません……!」


「いいさ。見たところあのランスロットって人は、そこまで悪いヤツじゃないんだろ? 少なくとも君は、信用しているように見える」


「……はい。兵団長となる以前は、わたくしの専属の近衛でした」



 唇を噛み締めて、拳を強く握って、ナザレアは俺たちの組む円陣の中央へと下がる。それを確認し、俺は。



「それだけ聞ければ充分だ。みんな良いな!? 殺さずに制圧しろッ!!」



 簡潔に、それだけを家族に伝えた。



「まったく、このような猛者相手に難しい事を言うのじゃ」


「でしたらランスロット卿の相手はアザミがしますよ、シュラ?」


「なんでそうなるのじゃ!? 儂がやるのじゃっ!」


「あっしもあの御仁とヤりたいんですがねぇ……」


「吾もあの男の相手が良いのであるッ! 他は詰まらなそうなのであるッ!」



 やめんか四天王(戦闘狂)共!

 ホンットに戦いとなるとイキイキしやがって……!



「ランスロットの相手は俺がする。みんなは他の連中を頼むよ」


「なっ!? 主様ズルいのじゃっ!!」


「ブーブーなのであるッ!」


「お黙り! 揉めるくらいなら俺がやる! ほら、来るぞ!!」



 そんなアホなやり取りをしつつも、俺たち家族はみんな戦闘態勢だ。


 アネモネが、マナエが、アザミが、シュラが、フリオールが、イチが、レティシアが、グラスが。それぞれに武器を構えて、迫る近衛兵達を迎え撃った。





「随分と余裕だな。ただの無謀か? それとも真の猛者故か?」



 俺と対峙した近衛兵団長ランスロットは、悠然と剣を構えて力みも無く佇んでいた。



「余裕? そう見えるか?」



 戦闘に入った家族たちを確認してから、俺は軽く腕や脚を曲げ伸ばしする。今の俺を観てそう思えるんだとしたら、それは単に俺が感情を隠すのが上手になっただけだな。


 …………それはないかも?



「正直いっぱいいっぱいだよ? この問題だらけの世界で、家族も仲間も友達も、みんなと楽しく暮らすにはさ。どこまで行っても力不足を感じてるんだ。これだけ強くなった、これでみんなを守れると思った矢先に、次から次へと問題ばかり起きてな」


「……力を持つ者の運命だ、それは。目的はどうあれ、果てなど有りはしない修羅の道だ」


「同感。だから俺は歩き続けるんだ。ここを越えたらノンビリするぞって。みんなと騒ぐぞって、心に決めてな」



 たとえ立ち止まっても、後ずさっても。

 それでもまた足を踏み出して、先へと進む。


 大事な人たちを守るため、大事な人たちと生きるために。



「アーセレムス大帝国、近衛兵団団長ランスロット。推して参る」


「【惑わしの揺籃】のダンジョンマスター、アークデーモンロードのマナカ・リクゴウだ。その道、開けてもらうぞ」



 相手の得物はバスタードソードと呼ばれる、両手でも片手でも扱える長剣の一種だな。それをオーソドックスに、両手持ちの青眼に構えるランスロット。


 まさに“武人”だな。

 その身体から溢れる覇気と闘気が、俺の脳を心地好く刺激して、アドレナリンの分泌を促してくる。


 どうせなら、違う形で会いたかったな。


 俺は足を強く踏み込んで地面を鳴らす。

 俺の震脚で地面から反発してくる勁力は、そのまま身体の捻りに乗って運足と共に、身体を前へと押し出した。


 距離を一気に詰めた俺に対して、ランスロットが取った行動は下がりながらの胴薙ぎだ。中段は的がデカいから躱し難いんだよね。まあ、躱さないけど。



「なにィッ!?」


「残念、届かなかったな」



 ランスロットが横薙ぎに振るった剣は、甲高い音を立てて()()()()()阻まれる。そう、お馴染みの結界魔法だよ。


 俺は上がった両手の下、ガラ空きのランスロットの脇腹に向けて、伸び上がるように身体を操り拳を放つ。なんちゃってガゼルパンチだな。



「むぅッ!!」



 しかし俺の拳はランスロットが剣から離し、引き戻した肘によって阻まれた。


 流石はオリハルコン製の防具だな。拳を傷めないための最低限の【魔力纏い】じゃあ、(ヘコ)ますこともできないか。


 そんじゃ、もうちょい密度を上げていくかね。

 俺は拳に纏う魔力の量を増やし、圧縮して保持する。初見殺しであわよくばとは思った奇襲戦法が防がれた以上、ここからが駆け引きの本番だからな。



「奇っ怪な体術を……! それに結界魔法を無詠唱で、だと……?」


「まあ、結界が一番得意ではあるな。体術もまあ……俺が前世で生きていた世界では、数え切れないくらいの武術が在ったからな。騎士の体術なんかとはまったく違うだろ?」



 話しつつ左回りにステップを踏んで、時折牽制と間合い取りに高速ジャブを放つ。


 小回りと手数では俺が上だと踏んだのか、ランスロットは身体の向きで追うばかりで、放たれるジャブを躱し、捌くことに集中し始めた。


 そんじゃ、ちっと驚かせてやるかね。


 俺はしつこく待ちを貫くランスロットに向けて、牽制のジャブを追い掛けるようにして再び間合いを詰める。

 俺が決めに来たかと思ったか、ランスロットは迎え撃つ構えを崩さない。


 俺はイメージを拳に乗せて、小回りの利かない長剣の懐に入ってラッシュを見舞う。

 ワンツーからのフック、ボディと更に合間でローキックや膝蹴りも混じえて、防御に徹するランスロットを手数で押し込んでいく。


 防御も良いけどさぁ。それ、悪手だよ?



「ムオッ!?」



 突然ランスロットの膝が折れ、バランスを崩す。まあ、逃す手は無いわな。


 ガクリと俺の顔と同じ高さに降りて来たランスロットの側頭を目掛けて、思い切り体重と捻りを加えた上段の回し蹴りを放つ。



「ヌガァッッ!!??」



 コイツ……咄嗟に左腕を差し込んで盾にしやがった。

 今度は脚で、しかも先程よりも多く魔力を纏っていた回し蹴りは、ランスロットの手甲をひしゃげさせて、確かに骨を折った感触を俺の右脚に伝えてきた。

 俺の蹴りによって弾き飛ばされたランスロットは、石畳の床を滑りながら体勢を整え、折れた左腕を後ろに庇いながら半身で剣を構える。



「……(いかずち)の魔法か」


「御明答。さっき拳や脚に纏っていたのはただの魔力じゃない。付与魔法(エンチャント)の応用で雷魔法を纏わせていたんだよ。如何にオリハルコンの鎧や兜だろうと、何十発も俺の魔法を直接叩き込めば、身体にも影響は届くんだよ」



 それで、と。俺は一旦言葉を切ってランスロットを見据える。



「まだやるか? その左腕、早いとこ上級ポーションでも飲んで治さないと、後回しにすると変なくっつき方するぞ?」



 脚に伝わった感触からして、ヤツの左腕は開放骨折くらい起こしているだろう。手甲の中では、折れた骨が皮膚を裂いて露出しているはずだ。



「ふんっ、余計な世話だ。まだ腕が一本逝っただけだろう。たとえ四肢を捥がれたとしても、首だけになったとしても皇家に仇なす貴様に喰らい付いてみせよう」



 骨折の苦痛をおくびにも出さずに、身体に魔力を纏って突進して来るランスロット。



「……馬鹿か、お前は」



 俺はついそう呟きながら、身体の力を抜いた。

 迎え撃つように、脱力した身体が前方へと倒れていく。



「なん――――ッ!?」



 膝抜きを起点とした前方への重心の移動に歩法を併せ、相手からすると無挙動にも見える滑るような運足。俺の身体はゆらりと風を巻いた木の葉のように、ランスロットの懐へと舞い込んだ。



「護るべきモンを、見(たが)えるんじゃねぇよ」



 潜り込んだ足を強く踏み鳴らし、床との反発による勁力を発生させる。勁力は足裏から螺旋を描いて魔力と共に身体の捻りに乗り、そっと突き出された肘に体重と諸共に合わさり、頂肘から打ち込まれる。



「ごっふァアッッ!!??」



 俺の肘に穿たれた胴鎧には亀裂が入り、前進するエネルギーに俺の重心と体重、勁力までも合わさって、俺より遥かにデカいランスロットを再び吹き飛ばした。

 今度は流石に踏み留まる事はできず、石畳の床を派手な音を鳴らして二転三転と転がるランスロット。俺はすぐさま追い縋り、回転を止めちょうど仰向けになったランスロットに躍り懸かる。


 引き絞った拳を、振り下ろした――――





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