第一話 音が大き過ぎてどんな音だったか伝えられないよ。
ホロウナム大陸・アーセレムス大帝国
ダンジョン【帝剣城ユーナザレア】
「あー、くそ。やっぱブロックされたか」
大帝の娘であるナザレアさんに掛けられた血の呪い。
それと大帝を繋ぐパスを辿って一気に転移で強襲してやろうと思ったものの、ダンジョンでもある大帝の本拠地【帝剣城ユーナザレア】の中には侵入できなかった。
なんか結界のようなものに弾かれたように感じたな。まあ開放型のダンジョンだし、結界の一つや二つくらい設置してるわな。
「いやあ〜、みんな飛行手段を持ってて良かったなぁ! 過去に術具を創った俺、マジ偉いわ」
「まったくじゃのう。この高さから落下したら、結構痛そうじゃしのう」
いや、シュラさんや。こんなスカイツリーの天辺より高いとこから落ちて痛いで済むのは、お前かグラスぐらいなモンだからな?
「それではマスター、どのようにして侵入しますか?」
俺とシュラの呑気なやり取りに、今日もデキる女代表のアネモネ先生から、話を進めろと矢の催促だ。
「決まってるさ。“バリアーは叩いて割るのが様式美”ってモンだからね!」
お、何気に五・七・五にキレイに収まったぞ?
ふむ。どうやら俺には歌を詠む才能もあったらしい。
「マナエ、アレをやるぞ!」
「まっかせてぇーっ!!」
狙いは一点。一際高く聳え立つ、城の心臓部だ。
俺は土魔法を連続で発動して、俺たちの頭上に巨大な岩の塊りを創り出す。更に岩に仕込んだ魔法陣を励起させて着火。即席の巨大隕石を創り上げた。
念動で宙空に留まる隕石の更に上空へと、念のため結界を纏わせた我が天使マナエが飛翔する。
「こんな……!? たった一人でこんなデタラメな魔法を……!」
俺が創り上げた結界の足場に立って、ナザレアさんは呆然と隕石を眺めている。
「うむ。“デタラメ”なのはそうじゃな。あとは“エゲつない”も追加した方が良いのう」
「それと“無慈悲”も追加するのである」
「アザミは“荒唐無稽”を推奨します」
「そんじゃあっしは“凄惨”とでも言っときやしょうかね」
「いや、お前らなぁ……!? 俺の創意工夫溢れる魔法の数々の、一体どこが“デタラメ”で“エゲつな”くて“無慈悲”で“荒唐無稽”で“凄惨”なんだよ!?」
好き放題言い放つ四天王共に思わず食って掛かる。
しかし俺の抗議に対して四天王共は、ある一点を全員揃って指差した。指を差された方向に在るのは、地上に大きな黒い影を落としている、俺がつい今しがた創り上げた、隕石だった。
「こんな“エゲつない”大きさにしたのは何故じゃ?」
「こうまで巨大な、しかも実体の有る火球など、“無慈悲”でなくて何なのであるか?」
「そもそもこれ程の戦略級魔法をたったお一人で発動するなど、“荒唐無稽”でなくてなんなのでしょう?」
「頭の魔法の威力は折り紙付きでさぁ。この魔法も、きっと“凄惨”な結果を齎すでしょうや」
「い、いや……! コレには理由があってだな……?」
ヤバイぞ、言い返せない……!
いや、ちゃんと理由は有るんですけどもね!?
「巨大岩石は物理的に、燃やしているのは魔法的に結界に打撃を与えるためでしょう。マスターは魔法の素養に優れたアークデーモン種の、更に上位存在ですから、魔力量や魔法制御力が突出して高いのは当然の事です。更にマスターの狙いは結界の破壊と敵城への一極集中攻撃ですから、一般の非戦闘員への被害は抑えられるかと」
流石はアネモネ先生!! 俺の言いたい事を理路整然と解り易く説明してくれたよ!
「ですが……“無慈悲”に関しては、少々否定が難しいですね」
「それ見たことか、である!」
いやなんでぇーッ!!?? 俺ってば情けも慈悲も海よりも深い良識的なダンジョンマスターって評判なのにっ!?
「み、皆さん、そのくらいに……! マナカ殿が凄く悲しそうなお顔を……!」
「まあマナカが出鱈目なのも荒唐無稽なのも今に始まった事ではあるまい。それよりも、マナエの準備は良いのか?」
「で、殿下!? ああ、マナカ殿が膝を抱えて……!」
フリオールにトドメを刺され、体育座りで目尻に滲むものを感じながら上空を見る。
アークデーモンロードの視力でも辛うじて見えるかといったほど上空に、点のように浮いている我が妹マナエ。
うう……っ! 視界が滲んで良く見えないよぉ……!
俺は打ちのめされた気分のままで、念話を繋ぐ。
『マナエさぁん……こっちは良いよぅ……!』
『お、お兄ちゃん? なんでそんな悲しそうなの……?』
『みんなが……みんながぁ……!』
念話の内容はさて置き、マナエが愛用の大槌“みょるにる”を取り出したのが、光の反射で判った。
「ナザレアさん、もうちょっと近くに。危ないから結界張るよ。レティシアもおいで」
「は、はい……っ!」
「マナカ殿……だ、大丈夫ですか……?」
うんうん、レティシアは良い娘だなぁ……! こんな“無慈悲”な俺に優しい言葉を掛けてくれるなんて……!
俺は三人を包むように結界を張る。
「おいコラ主様? 儂らの結界はどうしたのじゃ?」
「………………」
「ま、マナカ様……? 何故アザミ達を結界に入れてくれないのですか……?」
「………………」
「き、貴様殿……?」
「頭……ま、まさか……!?」
「マスター、申し訳ございませんでした。どうか私も結界にお入れ下さいませ」
「なっ、アネモネ殿!? マナカ貴様!? まさか先程の意趣返しのつもりか!?」
ぷーんだ、聴こえませーん!
あ、アネモネさんどうぞどうぞ。
『みんな、いっくよおぉーーーーっ!!』
即座に察して謝ったアネモネを結界内に招き入れたその時、マナエの元気いっぱいな念話が俺たちの頭に響き渡る。
「ヤヤヤヤバいのじゃ!? ぬ、主様謝るっ! ゴメンなのじゃ!! 謝るから結界に入れて欲しいのじゃああッ!!」
「マナカ様すみませんでした! どうかアザミにお慈悲を!?」
『おおおおおりゃあああああッ!! 【めが・めておおおお――――』
マナエさんのやる気に満ちた掛け声(念話)が脳に心地良いぜ……!
「済まなかったマナカ! もう意地の悪いことは言わぬから!?」
「頭ぁああッ!? すんませんでしたああッ!!」
「ゴメンなのである貴様殿おおおおッ!?」
『――――すまああああっしゅ】ッッ!!!』
全員が俺に謝り結界で包まれたのと、マナエの大槌による全力打撃で轟音が鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。
◇
「いやぁ、流石は俺たち二人で考えた魔法だな! 無事に結界も破壊できたし、流石は我が妹のマナエさんだっ!」
「えへへ〜っ♪ お兄ちゃんだって、あんなに大っきな隕石を材料も無しに創れるんだもん! 流石あたしのお兄ちゃんだねっ!」
「いやいや、マナエさんこそ――――」
「いえいえ、お兄ちゃんこそ――――」
うん、現在俺は妹褒め褒めマシーンと化しております。
マナエが大槌でブチ込んだ巨大隕石は、帝剣城に何重にも張られた対物理・対魔法の結界障壁群を尽くブチ破って、更に爆発によって最後の一枚――帝剣城本体を護る結界だな――を除いて城の周囲を更地に変えた。
まあ、帝剣城の敷地自体が馬鹿みたいに広かったから取れた手段だわな。そうでなきゃ一枚一枚ブチ割って進まなきゃならなかったもんな。
呆気に取られてたナザレアさんには悪いけど、明確に俺たちに戦争を仕掛けてきた以上は、国の中枢が滅ぼされる事だって承知してほしい。
それにまあ、あの程度で終わる訳が無いってのも分かってたしね。
「い、生きた心地がしなかったのである……!」
「だな。普段の仕返しにと、少し調子に乗り過ぎたか……?」
「それと“たいみんぐ”も悪かったのじゃ。今度はもちっと余裕のある時に仕返しするのじゃ」
「そうであるな!」
いやお前らな……! ちゃんと俺のデビルイヤーには聴こえてるからな? 反省の色が見えんぞ、まったく!
「二人とも、少々悪ノリが過ぎましたね」
「へぇ、姐さん。反省しとりやす」
「このアザミとしたことが……! ショックを受けるマナカ様も素敵でしたから、つい……」
アネモネの掌返しは見事だったな。ある意味トドメみたいなモンだったけど、その前にちゃんと弁護してくれてたし。イチもちゃんと反省してるみたいで何よりだ。
しかしアザミよ……お前はホントに何でもアリかよ……!
あ! そういやお前フィーアと一緒になって俺を如何わしい目で観てるだろ!? 俺が“攻め”だの“受け”だの、ヴァンがどうのダージルがどうのと……!! なんかクロウも今後追加されそう……!
うん、マジでやめて? お願いだから!
「しっかし……城だなぁ……!」
「お城だねぇ〜」
さて置き、最後の一枚の結界もブチ割って城に堂々と侵入した俺は、そのあまりの威容に若干引いていた。
うん。何度も通ったユーフェミア王国のブレスガイア城が、オモチャに思えるわ。
流石は大陸の覇者の居城ってか?
まあここまで贅も趣向も凝らした造りとなると、それこそダンジョン故に可能な感じだけどな。
こんなの人の手で建てようと思ったら、有名な某大聖堂みたく三百年とか掛けないと無理だろ、マジで。
「この帝剣城の中枢が建てられた経緯は、記録に残されていません。わたくしも気になって父に訊ねた事はあるのですが、知る必要はないと梨の礫でした」
「まあ、国の象徴たるお城までダンジョンの権能で創った……いや、城そのものがダンジョンだなんて、大っぴらには言えないわなぁ」
「ですが家臣達も皆、薄々とは感じていたようではありましたけどね。この帝剣城で家臣含め部外者が立ち入りを許されているのは、この一階部分と二階部分までです。それと地下一階ですね。わたくし達皇族と近衛兵ですら、三階までしか許可が下りていません」
「マジでか。外からパッと見た感じ、20階層くらい有りそうだったけどなぁ。となると大帝は天辺に居るとしても、4階から上はダンジョンの防衛階層みたいなモンってことか。深層や下層迷宮よりも随分階層は少ないけど、その分厄介そうだな」
ナザレアさんの案内で、城の奥へと歩いて進む。
いやナザレアさんさぁ、今更だけど君皇女だよね? 大帝国の。俺ら一応君にとっても敵だと思うんだけど、そんな案内なんかして良いの?
思わず気になったので訊ねてみると。
「……確かに、わたくしの立場は貴方と敵対するものです。ですがご覧になったでしょう? わたくしの生も命も、この胸の“隷属紋”によって父に握られているのです」
足を止めて振り返り、自身の胸に手を置くナザレアさん。その顔を俯かせて、暗い表情で自嘲気味な笑みを浮かべて、彼女は言葉を続ける。
「数多居たであろうわたくしの姉上達のように、いつかは父の歪んだ嗜好の餌食になるものと諦めておりました。何故なら逆らえば……その意志に背けば立ち所に、耐え難い苦痛を与えられ、命をも落としてしまうのですから。ですが……」
しかし一度言葉を切り、俺に向けられたその顔は。
「貴方にお会いして、貴方がわたくしの在り方に怒りを吐いて下さって……わたくしは、父に一体何をしたいのかと問う決意を持てました。わたくしどころか我等の軍をも巻き添えに諸共消し去ろうとしたり、人間以外の異種族を尽く滅ぼそうとしたり。父のその望みの根幹というものを、問い質したくなりました」
先程までとは打って変わってナザレアさんは、決意を秘めた、強く凛々しい顔をしていた。
「それに……」
「うん?」
しかしせっかくの凛々しく美しいその顔を、再び苦悶と、自嘲に染めるナザレアさん。俺は焦らせる事はしないように、端的に聞き返した。
「それに、この行為そのものは……叛意と受け取られていないのだと思います。先程から“隷属紋”は鈍い痛みを与えてくるだけですし、ひょっとするとあの男は、こうなる事を見越していたのかもしれません」
「そう……か」
……だとするなら胸糞悪い話だ。
折り込み済みだ? 一歩間違えれば大惨事だったんだぞ?
俺の大切な家族や友達、協力してくれた各国の兵達や冒険者達。それに何より巻き添えになる大帝国軍は一体、何のために戦わせられてたんだって話だ。
もしも俺があの場に間に合っていなかったら、敵だけでなく、味方の死に溢れたあの海で、俺は独り泣き叫んでいたかもしれないって事だ。
「まあ“たられば”も、過ぎた話を蒸し返すのもあまり好きじゃないけどさ。ナザレアさんの話を聞いて、俺も大帝の野郎が一体何考えてんのか、少し知りたくなったわ。だから……」
俺は無意識の内に手を伸ばして、ナザレアさんの頭に置いていた。
「だから、ナザレアさんのことは俺が守ってやる。どんな危険や悪意からも、その“呪い”からもな。だからさ、野郎をボコボコにする前かした後かは分からんけど、ズバッと訊いてやりなよ。そんで言ってやれよ、『わたくしはお前の人形じゃない』ってな」
そう言って、俺を導いてくれた幼女神のように、俺を支えてくれたアネモネやマナエら家族のように、俺の背中を押してくれた王様やマクレーンのおっさんら友達や仲間のように、笑い掛けてやる。
暫し呆けたように俺を見上げていたナザレアさんは、ハッとしたように再起動して、慌てて踵を返し俺に背中を向ける。そして俺が手を置いていた頭を自分で擦って。
「……そうしてみます。それと、わたくしのことは“ナザレア”と、そう呼び捨てで呼んで下さって構いませんから」
そう、背中を向けたままで、呟くように言ったのだった。
「あーあ、お兄ちゃんってばまた……」
「マナカ……お前という奴は本当に……! 婚約者の我が居るのに……っ!」
「主様のアレは最早、一種のスキルかもしれんのう」
「どーしようもない天然タラシである!」
「悔しいですけど素敵です、マナカ様!」
おやぁ……? 家族たちが俺に向ける視線が、なんだかトゲトゲしくて痛いな……?




