閑話 お母さんたらバレバレなの。(挿絵あり)
ダンジョン都市【幸福の揺籃】
孤児院
《モーラ視点》
新しい朝が来たの。
絶望の朝なの。
喜びも無ければ開く胸も無いの! って、やかましいの!!
はあ………。マナカお兄ちゃんが居ないと、寂しいの。
あたしは溜め息を吐きながらお布団を畳むの。
あたしは最近、一人部屋をもらったの。
11歳になったし、何より弟たちと同じ部屋だとうるさくてお友達とお喋りできないの。
お友達っていうのは、このユーフェミア王国の第2王女様……マギー姫様のことなの。
な……何を言ってるのか分からねーだろうが、あたしも何が起こったのか、分からなかったの。
だいぶ前にあたしが尾行していた、マナカお兄ちゃんがこの街を案内していた二人の姉弟が、この国の王女様と王子様だったの。
そしてあたしが混乱している間に、マギー姫様とお友達になっていたの。
どーしてこーなった? なの。
でもでも、マギー姫様はエリザお姉ちゃんと同じ13歳(この間誕生日だったらしいの!)なのに、たくさんのことをお勉強していて偉いの。
この街に居る間にいっぱい遊んで、ご本もたくさん貸してくれたの。そのおかげであたしも、色々な文字や言葉を覚えられたの! 本当に、ありがとうなの!
そんなマギー姫様とは、お夕飯が終わってお風呂が済んで、弟たちを寝かせてから、ほとんど毎晩お話しているの。
マナカお兄ちゃんがくれた、ダミーコアのおかげなの。
歩いて行ったら大人でも二週間くらい掛かるほど遠い王都のマギー姫様とも、ここでお顔を見ながらお話できるの!
マギー姫様も喜んでお喋りしてくれるし、お城のこと、孤児院のこと、それに物語やお菓子のことなんかで、いつもマリーお母さんが注意しに来るまで盛り上がってるの。
お部屋にマリーお母さんが買って置いてくれた机の上の、ダミーコアをなでなでするの。
ふふっ。今日もよろしくなの♪
さて、あんまりノンビリしていると朝ごはんが遅くなっちゃうの! 急いでお支度して、マリーお母さんを手伝いに行くの!
「マリーお母さん、おはようございますなの!」
「モーラ、おはようございます。いつも早起きで、モーラは偉いですね」
「なの! “早起きは三文の徳”って、マナカお兄ちゃんが言ってたの。あ、三文っていうのは、マナカお兄ちゃんの故郷の国の、昔のお金の単位なの!」
「……マナカさんのお故郷には、本当に色々な諺があるんですねぇ。意味も教えてもらったんですか?」
「なの! 『早起きすると、身体にも良いし勉強も仕事も捗る。ちょっと良い事が有るんだよって言葉だな』って言ってたの!」
「なるほど〜。お母さんも、モーラのおかげでまたちょっと賢くなりました。二人で早起きしたおかげですね」
「なの! お顔洗ったらお手伝いするの〜っ」
「ふふっ。お願いしますね」
すごいの! いつもあたしたちの先生のマリーお母さんに、お勉強を教えたの!
あたしは嬉しくなって、スキップしながら洗面所に向かったの。
「じゃあ……行くわよ、モーラ!」
「応、なの! 遅れるんじゃねぇぞなの!」
「二人とも、乱暴はダメですよ……?」
少し後に起きてきたエリザお姉ちゃんと顔を見合わせて、扉を勢いよく開け広げるの!
「コラ〜、アンタ達! いつまで寝てるの!! 起きなさーいっ!!」
「トラトラトラ〜ッ!! なの!」
「皆さん、朝ご飯ですよ〜!」
そうなの! 弟たちを叩き起こすのが、孤児院の朝ごはんの始まりなの!
起きるのが遅くなればなるほど、朝ごはんが遠くなるの! 情け容赦は、無用なの!
「ほらッ! ラッカ、ビス、ナット!! 今日はお布団のシーツを洗濯する日なんだから! サッサと布団から出なさい!!」
「ぎゃあああっ!? エリザ姉ちゃんヒデェよ!?」
「わ、我の装備がはがされた……だと……」
「………………まだ眠いよお姉ちゃん〜」
「おだまり! アンタ達が起きないとせっかくのマリー母さんのご飯が冷めちゃうでしょ!! いいから起きる!!」
“悪ガキ三兄弟”の異名を持つあの三人も、エリザお姉ちゃんの前では形無しなの。
「ノエル、おはようございます。ほらほら、皆さんも起きてくださいね。お母さん頑張ってお料理しましたから、一緒に食べましょうね」
「おかーたん、おはよー」
「はいノエル、おはようございます。皆さんも起きましたか?」
「あーい」
「……うぅ〜」
「ごはん〜」
あっちのお部屋のおチビ達は、マリーお母さんが優しく起こしてるの。
あたし達の後に来たおチビ達も、マリーお母さんがとても優しい人だって解ってるから、ちゃんと良い子で言う事を聞くの。
それに比べて……。
「ボルトったら! おチビが増えてもちっともお兄ちゃんらしくならないんだから! モーラ、今回の作戦は!?」
「ふっ、抜かりはないの。以前マナエちゃんに分けてもらったコレを使うの!」
これだけの騒ぎを巻き起こしているにも関わらず、相変わらず惰眠を全力で貪っている、ボルトの枕元に近付くの。
「も、モーラ……? ソレをどうする…………ま、まさか!?」
「くふふふっ。さあボルトよ。惰眠を貪っていられるのも、今のうちなの……!」
「やめなさいモーラ!! 死人が出るわッ!?」
「はぁーなぁーせッ! なの! お兄ちゃんなのにいつまで経っても独りで起きられない、この男が悪いのーッ!!」
あたしは肩を掴み引き止めるエリザお姉ちゃんの手を振り払って、ソレのフタを捻って外し、柔らかい素材の容器を圧迫して、人差し指に適量押し出すの! この時ウッカリ自爆しないように、できるだけ顔から離れた位置で準備するの!
そして、それを徐にぃ……ッ!!
ボルトの鼻の下に塗りたくるのーッ!!!
「必ぃ〜っ殺!! 【ワサビアタック】ッ!! なの!」
「いやああああッ!? 観てるだけでツンとクルぅぅ〜ッ!?」
「今度はボルトに一体何を……ッ!? も、モーラ……貴女はなんて事を……ッ!?」
ふっ、勝ったの。
「ぐおえええああああああああああああああああああッッ!!?? 鼻がッ!? 目がッ!? 口があああああああッッ!!??」
ワサビのツンとした刺激によって、頑固な睡眠王ボルトの命運も、これまでなの。飛び起きて涙を流してのたうち回ってるの。
「死゛ぬ゛ッ!? オエッ!! いたいイタイいたい痛いいいいやあああああああッッ!!??」
おおう……! ちょっと引くくらい、効果覿面なの。
「こらっ、モーラ!? いくら何でもコレはやり過ぎです!! 禁じ手に追加認定ですッ!! ボルト! 早く顔を洗ってきなさいッ!!」
「まえがみえないいいいいいいいいッッ!!」
「ああもうっ! モーラ、責任持ってボルトを洗面所に連れて行きなさい! それと、ワサビは没収ですッ!! まったく、食べ物を粗末にして……ッ! エリザはラッカの様子を見てきてくださいね!」
ええー、なの。
起きないボルトが悪いのに、あたしが怒られるのは納得いかないの。
むぅ……!
次はどんな方法が良いか、マナカお兄ちゃんが帰って来たらまた相談しなきゃなの。
今まで試した中でも、効果が高い方法ほど禁じ手になっちゃうの。ワサビを入れて98個もなの。つまらないの。
「水っ、水ッ、みずううううぅぅぅううう〜〜ッッ!!!」
とりあえず……良い子はマネしちゃダメだぜ!! なの!
◇
「モーラちゃーん、遊びに来たよーっ!!」
「こ、こんにちはー!」
むっ!? エヴァちゃんとクロエちゃんが遊びに来てくれたの!
あたしは【お相撲バトルロイヤル】で弟達をコテンパンにしたところで、孤児院の門から大きな声を出す二人に、お返事をするの。
「へるぷみーなのー! あとはラッカお兄ちゃんを倒すだけだから、援護してほしいのー!」
「倒すだけって、モーラお前なぁ……」
シャラップなの、お兄ちゃん!
そもそも年上で男の子のお兄ちゃんに、マトモにやってあたしが勝てるワケないの! 女は賢く生きなきゃダメなの!
「わかったー! ラッカくんを倒せばいいのねー!? 未来のSランク冒険者のエヴァさまが、やっつけてやろうじゃない!」
「が、頑張るねっ!」
ずいぶんと頼れる仲間が来てくれたもんだぜ、なの。
さあラッカお兄ちゃん、お覚悟めされよー! なの!
「ちちょッ!? さすがに三対一はズルいだろお前らッ!?」
「勝てばよかろう! なの!!」
「なのだー!」
「え、えーいっ!」
「ぎゃあああああああああッッ!!??」
ふっ、勝ったの。
今日は朝から絶好調なのー!
お外ではたくさん遊んだから、今度は中で遊ぶの。
エヴァちゃんとクロエちゃん、それにエリザお姉ちゃんとノエルも集まって、おままごとなの。
「た、ただいまー。今帰ったぞー」
「おかえりなさいなの、クロエパパ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ・た・し・? なの」
「え、ええー? モーラママを選ぶと、どうなるの……?」
「あーハイハイ! そこまでっ! モーラ母さん、アタシお腹空いたーっ!」
「あたしもお腹空いたぞー! ノエルちゃんはー?」
「ノエルもー!」
「もうっ! エリザはお姉ちゃんなのに仕方のない子なの。それじゃあお夕飯にするわよー、なの」
「(ぐぐぐ……! そこはかとなく納得いかないっ!)」
「エリザ、お返事は? 何か言った? なの」
「は、はーいモーラ母さーん。なんでもないでーす」
「モーラママ、今日の夕飯はなんだい?」
「うふふ、なの。あなたの好きなウーナギのカバヤキと、ニクニンのホイル焼きよーなの。タップリ精をつけて、可愛がってね♡ なの」
「ちょっと誰よモーラに変なコト教えたのはぁーーッ!!??」
「え、エリザちゃん……? 何が、変なコトなの……?」
「あたしも教えてー! 何が変なコトなのー!?」
「なのーっ?」
「うっ! そ、それは……! あ、アンタ達にはまだ早いコトなのよっ!」
「エリザお姉ちゃん、ナニが早いの? お姉ちゃんはナニか知ってるの? なの」
「うぐぐぐ……ッ!? もうっ! どうせマナカ兄さんでしょ、モーラにこんなセリフ教えたのはッ!? もうヤメヤメッ! おままごとイチ抜けたぁーッ!」
「……逃げたの」
「モーラ、うっさい!」
おままごとは少々盛り上がりに欠けたの。
だからみんなで、マリーお母さんにお話を聞かせてもらうことにしたの。
「――――そうして悪魔にく……口付けをすると、悪魔はたちまち、王子様へと姿を変えました。『ありがとう、心優しいお嬢さん。私は一生、貴女をあ、愛し、幸せにします』そう言った悪魔の王子様と心優しい少女は、暖かな森の中で、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。おしまい。……さあ、どうでしたか?」
「マリーお母さん、『くちづけ』って、何なの?」
「なんだろうね……?」
「なんだろうねー? 教えてー!」
「てー!」
「ええっ!? く、口付けというのは……その……ち、契りです! 契りを交わす事ですっ!」
「『ちぎり』ってなんなのー?」
「ちっ、契りとは……うう……っ!」
「もう、モーラ! マリー母さんを困らせないのっ! 口付けってのはチュウの事よ! キスよ、キスっ!」
「え、エリザ!?」
「マリー母さん、この子そうやってはぐらかしてると、いつまでも面白がって止まらないわよ? 別にお話の事なんだし、キスくらい良いじゃないの」
「で……ですが…………」
「なるほどなのー! マリーお母さんはキスしたことあるのー?」
「うぇええええッ!?」
「ねぇねぇー、なの。教えてー、なの!」
「ま、マリー母さん……! ゴメン、アタシも気になるっ!」
「わ、わたしも……!」
「キス〜♪ チュウ〜♪」
「ちゅう〜!」
「え、ええ!? わ、私は、その……好いた男性とは、まだありません……って、何を言わせるんですか、この子達は!?」
「良いじゃないのよ、マリー母さん! ここには女の子しか居ないんだから! それでそれで? 好きな男性って!?」
「エリザお姉ちゃん、何を言っているの。そんなの、マナカお兄ちゃんに決まってるの」
「も、モーラっ!!??」
「そうなのマリー母さんッ!?」
「ま、マナカお兄ちゃんが好きなの……?」
「マナカお兄ちゃんならあたしも好きだぞー!」
「ノエルもー!」
あたしたちの追求に、マリーお母さんがお顔を真っ赤にしてタジタジなの。
マリーお母さん、カワイイの。
「マリーお母さんは、いつマナカお兄ちゃんとキスするの? ていうかいつ結婚するの なの」
「けけけけけけっこんッ!!??」
「だってそうなの。マリーお母さんはマナカお兄ちゃんのことが大好きなの。マナカお兄ちゃんもマリーお母さんのこと、好きに違いないの。ほら、結婚なの」
「ど、どど、どうして好き合ってたらイキナリ結婚なんですかっ!?」
「ふ、ふたりとも好きだと結婚するの……?」
「クロエちゃん!? で、ですからっ! け、結婚はそう気楽な事ではなくてですね……っ?」
「じゃああたしもマナカお兄ちゃんとケッコンだなー!」
「ノエルもケッコンー!」
「ちょ、エヴァ!? あ、アタシだってマナカ兄さんのこと……!」
「あ、あう……クロエも……」
「ああもうっ! 良いですか皆さん!? た、確かにお互い好き合っていれば結婚はできますっ! ですがその前にお付き合いとか、一緒にお買い物や劇を観に行ったり、素敵な眺めのレストランでお食事をしたり……て、手を繋いだりき、キスしたり…………ハッ!? わ、私は、何をッ!?」
「んふふふふ〜、なの。マリーお母さん、デートしたい欲望がダダ漏れなの!」
「いいなー、憧れるなあ♪ マリー母さんの次は、アタシがマナカ兄さんとデートするっ!」
「おっと、そいつは聞き捨てならねーな、なの。マナカお兄ちゃんとマリーお母さんの次にデートするのは、このあたしなの」
「な、何を言ってるんですか、この子達はっ!!??」
照れなくても良いの、マリーお母さん。
マリーお母さんがマナカお兄ちゃんのことが大好きなのは、教会のシスターさんたちも、孤児院の職員の女の人たちも、ボランティアの町娘さんたちも、みーんな知ってるの。それどころか、ギリアムおじーちゃんも知ってるの。
大丈夫なの。
この国は奥さんをたくさん持っていいって法律で決まってるの。これはマギー姫様に聞いたの。
だからマリーお母さんがマナカお兄ちゃんと結婚しても、あたしだって奥さんになれるの。エリザお姉ちゃんはその次なの。
「あう……マナカお兄ちゃんのお嫁さん……クロエもなりたい……」
「あたしもあたしもー! あ、あとウチのお母さんも一緒にお嫁さんになるー!」
「ノエルもなるー! およめさんー!」
「あぁーーーもうっ!! 貴女達、大人を揶揄うんじゃありませぇーーーーんッッ!!!」
からかってなんかないの。マジなの。
本気と書いて、本気なのーっ!




