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第十五話 ヒーローは遅れてやってくる……はい、ご心配お掛けして申し訳ありませんッ!?



 (ハラワタ)が煮えくり返る。

 このゲス野郎……よくもアネモネにあんなコトやこんなコトを……!


 でもね? お目目が痛いの……!

 およそ一年半ぶりに突き刺さった目潰しピースのダメージが、甚大なのっ……!



「マスター」



 腕に抱いた満身創痍のアネモネが、怒りと嫉妬とあと目の痛みで猛る俺に呼び掛けてくる。


 ちょっと待っててくれないかな。

 アネモネのピンヒールの似合うステキな御御足(おみあし)を斬り、その穢れない身体を穢した報いを、そこの転がってるクズ男に見舞ってやるからさ!



「あん? どした、アネモネ――――ッ!?」



 それでも間に合わなかった負い目から、顔を腕の中のアネモネに向けると――――


 頭と首を念動で絡め取られて、気付くとアネモネのキレイな翡翠色の瞳が視界いっぱいに映り込んでいた。

 そして唇には温かく柔らかい感触と、痺れるような甘さ。


 ナニコレ? え、アネモネさんと? え、ナンデ? なんでキスしてんの俺!?


 戸惑いながら離れていく顔を見詰めていると、アネモネは。



「マスター、おかえりなさいませ」



 そう、一度目の目潰しピースの時やピンヒールの時とは比べ物にならないほど、感情に溢れたヒトらしい、綺麗な笑顔で言ってくれた。

 その笑顔を見た俺は嬉しくてつい、怪我をしているというのにその身体を抱き締めていた。



「ああ。ただいま、アネモネ。遅くなってごめんよ」



 謝る。

 無理をさせてしまったこと。

 戦いに間に合わなかったこと。


 だけどもう大丈夫だから。

 ここからは、俺がやるから。



「あ゛あ゛クソァッッ!! 誰だよテメェはよォッ!? 何ヒト様に不意打ちカマしてイチャイチャしてやがんだッ!?」



 アネモネを抱き締めていた俺の耳に、気分をザラつかせるような不快な声が響く。


 俺は無限収納(インベントリ)から大判のバスタオルを取り出してアネモネに被せ、更に上級霊薬(エリクサー)をゆっくりと彼女に含ませる。

 腕の斬り傷や脚の欠損が癒えたのを確認してから、アネモネを結界で包み込んで、念動で俺の後ろに移動させる。


 その間も俺の目は、先程まで俺の大切なヒトを(なぶ)っていた男から片時も離してはいない。



「ヒャハッ! そうか、テメェが“マスター”かよ……! 随分とノンビリとした登場じゃねぇかよ、なあ? いったい何処でビビって隠れてたんだぁ?」


「ふぅん、“種族【超人】”ねぇ。セリーヌの親父さんを殺して、進化したってところか」



 安っすい挑発だなオイ。

 そんなのは無視して、俺は【神眼】スキルでコイツのステータスを覗き見る。



「“冷泉桐梧(れいせんとうご)”……日本人かよ。その身形(みなり)からして、元ホストってとこか?」


「テメェ……! オレの【隠蔽】を無効化したのか!?」


「【光身共鳴(レゾナンス・オール)】……なるほど。アネモネのスピードでも歯が立たなかったのは、この固有スキルのせいか」


「ッ!! ムシしてんじゃ、ねえええええええッッ!!!」



 魔力が膨れ上がり、俺に向け掲げた両掌から無数の光弾が撃ち出される。俺はそれらを全て結界で防ぎ切ると、初めて視線を冷泉桐梧(ソイツ)の目に合わせる。



「はっ! マナカっつったか? 聞けばテメェは()()()だっつーじゃねぇか。人間を辞めた気分はどうよ? あぁ?」


「お前だって人間辞めてんじゃねーか。なんだよ“超人”って。マスク被ってプロレスでもすんのか? 牛丼大好きなのか?」


「意味分かんねぇコトほざいてんじゃねぇよ!? なんでプロレスなんだよ!? 牛丼はどっから来たんだよッ!!?」



 おお、なかなかのツッコミだな。

 ってか、知らないのかキ〇肉マン……え、ジェネレーションギャップ? コイツ25歳だろ? 初代はともかく、Ⅱ世は知ってるんじゃないか?



「チッ! テメェも智彦(ともひこ)みてぇなオタクかよ……! マジ気持ちワリィな、クソ共が……!」


「おう、オタク舐めんな? 日本の経済の何割かは、そのオタクの消費と、需要を満たすマーケットのおかげで回ってんだぞ?」


「知るかッ!!? ッんだよコイツはよ、メンドクセェッ!!」



 おーおー熱くなっとりますなぁ。

 俺? もちろん(ハラワタ)グッツグツですよ?

 アネモネのキスと笑顔のおかげで頭が冷静になっただけですよ、はい。



「マナカ様ッ!!」


「主様!!」



 んお? アザミとシュラが、俺たちの居る飛空艇の甲板に降り立って、駆け寄って来た。


 あーそういやみんなバラけて戦ってたみたいだね。

 とりあえず戦闘が続いてるっぽいアネモネの所に真っ直ぐ()()()来たから。



「アザミ、シュラ。ただいふごあァッッ!!??」



 甲板を転がる俺。うん、ちょっと良く分かんない。なんで二人とも俺にツインタックルをぉッ!!??



「ちちょっ!? 二人とも――――」


「おかえりなさいませマナカ様ああああッ!!!」


「遅っそいのじゃこの! マヌケ主めがっ!!」



 俺の声に被せられたその言葉に何も文句が言えなくなってしまい、二人の頭を軽く撫でて、立ち上がらせる。



「遅くなってごめんよ。ただいま二人とも。怪我してないか?」


「当然です! したとしてもマナカ様が大量にポーションを創って下さったじゃないですか!」


「儂らを誰じゃと思っておる? 六合家四天王じゃぞ?」


「あ、その呼び名気に入ったのね」



 苦笑しつつ俺も立ち上がり、もう一度二人の頭を撫でる。



「頭ァ!」



 お、もう一人登場だな。



「おー、ただいまイチ。遅くなって悪かったね」


「いえ、滅相もねぇ! おかえりなせぇませ!」



 イチも俺たちの所に降り立って、ガバと頭を下げてみせる。うん、男一人でさぞかし大変だったでしょうなぁ……! その苦労、良く解るぞぉっ!



「イチ、今度サシで飲むか!」


「か、頭……? あっしは、下戸で……」


「うんうん、大丈夫だ。どんなに悪酔いしても怒んないし、倒れたら介抱してやっから!」


「へ、へぇ……」



 イチの肩をポンポン叩いて、改めて蚊帳の外の彼に向き直る。



「さて、形勢超逆転だけど。どうする? まさかこの状況で、俺らに敵うと思ってないよな?」



 一連の流れを呆然と観ていた勇者――冷泉桐梧に、俺は()()の降伏勧告をする。



「ひ、ヒャハッ! お仲間が来たら随分強気じゃねぇの。アレか? さっきまでの会話も、コイツらが来るまでの時間稼ぎだったってワケか。(コス)い野郎だな!」



 いや、別にそんなつもりは欠片も無いんだけど……。

 しかしどうも勘違いをしているらしい冷泉は、体内で魔力を練り上げつつ、口角を上げて爛々とした瞳で俺を睨む。



「だけどムダだなぁ! オレのスキルを知ったからって、何ができる!? 人数が増えたからって、光を捉えられるかよ!? ああ……それにしても極上のイイオンナが増えたじゃねぇか。アネモネちゃんのフトモモも治してくれてありがとよ。楽しみが増えたわ」


「へえ。まあ、俺の家族を褒めて貰えるのは嬉しいな。美人で羨ましいだろ? こっちの狐耳がアザミで、角の生えてるのがシュラだ。んで? 正直聞きたくもねぇけど、聞いてやる。どうするつもりだ?」



 予想は着いてるけどな。

 俺はアザミ、シュラ、イチの三人にも結界を施しながら、溜め息混じりに訊ねる。



「主様、結界(コレ)はどういうつもりじゃ? それに別に、主様以外の男子(おのこ)に褒められても、嬉しくも何とも無いのじゃが?」


「シュラに同意です、マナカ様。それに先程からこの男……アザミ達をいやらしい目で観てきて不愉快です。灼かせてもらえませんか?」


「頭。観たとこアネモネの姐さんも酷でぇ目に遭わされたみてぇですし、あっしがケジメぇ着けてきやすぜ。だから、この結界を解いちゃあくれませんかね?」



 物騒なコト言うんじゃありません!

 あれだよな。四天王の内三人も集まっちゃうと、戦闘狂過ぎて俺の出る幕無くなっちゃうんだよね。


 だけどさ。



「決まってんだろォ!? 速攻テメェとそこのヤーさんブチ殺して、そのオンナ共は俺が可愛がってやんだよ! まさか嫌々参加した戦争で、こんな極上のオンナに三人も出逢えるなんてな! オレのムスコちゃんもビンビンだぜッ!?」



 いや、仕舞えよ。

 そういやコイツ、アネモネ犯そうとしてからずっと、見たくもないモザイク推奨のナニかを露出してんだけど。

 観られて気持ち良くなっちゃうヒトなのかな?



「あーそう。やっぱホストってのは、脳ミソピンク色で目出度(めでた)いね。俺が過去に会ったホスト共も、まるで王様気取りで鬱陶しかったよ。まあ中には真面目にやってる奴も居るかもだけどさ」


「あ゛あ゛!? 一緒にしてんじゃねぇよ!? オレはNo.1だッ! プラチナかブラックじゃねぇと会う事も出来ねぇカリスマだぞ!!?」


「へーそう。一生懸命働いて稼いだ女性からのお小遣いで生きてて、良く偉そうにできるな? まあ否定はしねぇけどよ? 俺だってキャバクラで遊んだ事あるからな。けどお前、さっきの口振りだとよ、そういう良い客にも手ぇ出してたろ?」


「はっ! ブスはお断りだけどな! 実業家に社長夫人に、飢えたオンナ共に慈悲をくれてやってはいたぜ? ヒィヒィ喘いでよ、プライドの高い美人を組み伏せる快感は、タマんねぇぜ?」



 あーもうホントクズだな。ここまで突き抜けてると、いっそ清々しいわ。



「テメェのオンナ共も、オレ好みに調教してやんよ。そうだな、そのヤーさんは即殺決定済みだが、テメェは両手両足斬り落として生かしとくか。目の前でテメェのオンナ共がオレにヨガり狂わされるところを、見学させてやんよ!」



 突如俺の背後で殺気を昂らせていた、イチの結界が何かを弾く。


 なるほど? コレが【光身共鳴(レゾナンス・オール)】の特性か。周囲の光と同調して操れるってのは、思ったよりも厄介な代物だな。



「チッ! さっきコソコソ何かやってたのは結界かよ? 小細工しやがって」


「お前こそ、履き違えてんじゃねぇよ。誰が俺の家族に手ぇ出して良いっつったよ? お前の相手はこの俺だ。観たとこ【再生】スキルで傷も癒えてるみたいだしな。アネモネを辱めた報いは、存分に受けてもらうぞ?」


「イキってカッコつけてんじゃねぇよ。仲間が居なきゃ何も出来ねぇクソザコがよ? テメェなんぞ秒だ、秒」



 俺の周囲で結界が何度も弾ける。

 頭上で、背中で、足元で、顔の目の前で弾け、冷泉の不可視の攻撃を弾き続ける。



「主様!」

「マナカ様!」

「頭!」

「マスター!!」



 俺の後ろに待機させている家族たちから、心配と怒りが()い交ぜとなった声が上がる。


 ありがとな。でもまあ、心配すんなって。



「みんな。そういう訳だから、手出し無用で頼むよ。コイツだけは、俺自身がやらないと気が済まないんでね」



 俺はそう、みんなに手を振る。

 ああそうとも。俺の大切なアネモネに手を出したんだ。タダじゃ済まさねぇよ。



「……やれやれ、仕方ないのう。精々儂らがスッキリするようにヤるんじゃぞ?」



 ああ。分かってるよ、シュラ。



「ご武運を、マナカ様!」



 おう。応援ありがとな、アザミ。



「頭にケジメを着けさせるたぁ……面目ねぇ」



 気にすんなよイチ。俺の我儘だからさ。



「マスター……ありがとうございます。お気を付けて」



 あいよ、アネモネ。心配してくれてありがとな。でも、お前こそもうちょっと怒っても良いんだぞ?



「めんどくせぇ結界張りやがって!! オラッ! 亀みてぇに引っ込んでねぇで、かかってこいやザコがァッ!!」


「あ、そう? もう俺攻撃していいの?」



 涙ぐましく俺の結界にチクチクやっていた冷泉が吼える。

 そんじゃま、遠慮なく?



「ヤれるもんならヤってみろや!! (オレ)に通用するんならなっ!!」


「え、もうやったよ?」



 大口を開けて嘲笑ってくる冷泉に教えてやる。

 指を差して、俺の左手首をトントンと示してやる。



「あ゛あ゛!? 何を…………あ?」



 その示した箇所――冷泉の左手首から先は、綺麗に無くなっている。そして思い出したかのように、勢いよく真っ赤な血液を、噴き出し始めた。



「あ……あああがあああああッッ!!?? 手ェッ!! オレの手があああああ゛あ゛あ゛ッッ!!??」


「おいおい。たかが手首の一つくらいで大袈裟だぞ? アネモネは両脚を斬り落とされても叫び声一つ上げずに戦ってたんだろ?」


「ぽ、ポポポーションッ……! あ゛あ゛クッソ!? あんだこのマジックバッグはよ!? 中身が出せねぇ!!?」



 大慌てで魔法鞄(マジックバッグ)の口に手を突っ込む冷泉。

 アレは……俺がアネモネに持たせたヤツだな。



「出せるワケねぇだろ? そのポーチは使用者登録してあるからな。持ち主以外が出し入れ出来ないように創ってあるんだよ」


「な、ななな、なんでそんなこと……っ!」


「決まってんだろ? お前みてぇなクズに盗られても、悪用されないためだよ。ちょっと考えりゃ分かんだろ? そんなことより、止血しなくて良いのか?」


「ぐっ……! く、クッソぁああああガアアアアアアッッ!!!」



 意を決したのか、剣に光の魔力を凝縮して発熱させ、その熱で手首の斬り口を焼く冷泉。



「ぐくくぅ……ッ! クソ、クソクソクソクソクソぁあああああッ!! テメェ、ブッ殺す! マジでグチャグチャにブッ殺してやるあああああッッ!!!」


()れるもんなら殺ってみろや」



 周囲を注意深く感知すると、俺を取り巻く全ての領域に、冷泉の魔力を感じる。


 これが奴のスキルの正体か。

 領域を指定して、限定空間内の全ての光線に自身を偏在させる。云わば限定領域版“シュレディンガーの猫”かな。


 だったらよ。



「なんっ……!? なんで……! どうしてオレの攻撃が届かないッ!!??」


「結界の本質は“断絶”だ。お前の魔力を含んだ光を拒むように構築すれば、たとえ光は在ってもお前のスキルの支配は受けないよ。それと、お前の攻略法だけどな? ざっと三つほど思い付いたよ。」


「なにを――――」



 瞬間、結界で護られている俺や家族を除いた、俺の周囲の空間全てが炎に焼き尽くされる。



「ひぎぃゃああああああああああああッッ!!?? あつ、あ゛つ゛い゛い゛い゛ぃーーーーーッッ!!??」


「一つ。お前の魔力の及ぶ空間全てを焼き払う事。目の前に居るように見えても居ない、居ないようで居るってんなら、絨毯爆撃よろしく全部焼けば良いだけだ。当たり判定がデカイと大変だなぁ?」



 俺の目の前でのたうち回り、全身に着いた火を転げ回って消化する冷泉。未だ【光身共鳴(レゾナンス・オール)】は発動したままだな。



「テ゛メ゛ぇ゛……!! ぜってぇブッコロ――――」



 皆まで言う事は叶わず、冷泉は今度は結界に圧縮されて押し潰される。



「ぐぎゃあああああああああッッ!!?? イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛イタイイイヤアああアァーーーッッ!!!」


「二つ目。お前の攻撃を弾いた結界の応用だな。お前の魔力だけを弾いて掻き集めて、一箇所に纏めて潰しちまえばいい。掃除の基本だよ、まずは箒掛けってな」


「っるっせええええあああああああア゛あ゛ア゛ア゛ッッ!!」



 おお、結界を破ったか。

 流石、曲がり(なり)にも勇者で、超人だな。



「テメェ……ゴフッ……! マジで、ユ゛ルサネ゛ェ……!!」



 そうかいそうかい。

 でもよ。俺はその万倍いや、億倍いやいや、兆倍はキレてるかんな? ほら、早く自前のポーションでも何でも使って回復しろよ。【再生】スキルだけじゃ間に合わねぇぞ?



「ングッ、ングッ……! ブハァッ! んッの野郎……余裕ぶっこきやがって……!」


「お、やっと回復した? んじゃ三つ目だけど――――」


「ウルッセエエエアアアアッッ!!!」



 あんだよ、特攻か? せっかく弱点教えてやってるってのに……!?


 瞬間、ヤケクソで俺に突っ込んで来た冷泉の姿が掻き消える。俺は素早く感知スキルを発動し――――ッ!!



「ヒャハッ! ヒャハハハハハッッ!! 妙なマネすんじゃねえ!! ちっとでも動けば、テメェのオンナが結界ごと真っ二つだぜぇ!!?」


「くぅっ……!!」



 アネモネの苦痛を伴った呻き声。

 ヤロウ……特攻をブラフに転移して人質取るとか……!



「オラ! 他のヤツらも動くんじゃねぇぞ!? 指一本でも動かしたら――――」


「動かしたら……なんだよ?」



 冷泉の背後から、冷たく問い掛ける。

 俺の右手は、ヤツの後頭部を()()()()()



「はえ? な、なんで……? 【光身共鳴(レゾナンス・オール)】は……」


「三つ目。空間に満ちるお前の魔力を打ち消して、スキルを無効化する。スキルが解けりゃあ、触れるのは自明だわなぁ、ああッ!?」


「へぶしゃッ!!??」



 再び、冷泉の顔面を甲板に叩き付ける。



「てめぇよぉ。性懲りも無くアネモネに危害を加えやがったな? せっかくタイマンにしてやってたのによ、何してくれてんだゴルァアッ!!??」



 叩き付ける。

 叩き付ける。叩き付ける。

 叩き付ける。叩き付ける。叩き付ける。

 叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける叩き付ける……!



「ガヒュッ……!? も゛、モ゛ウ゛ヤベデェ……ッ!! ジヌッ! ジンジャウ、ゴベ、ゴベンナザイィ……!?」


「わっかんねぇーなー! ハッキリ喋れや! トークが命の商売だろうが、ホストってのはよおッ!!」



 尚も叩き付ける。ちょっと待って【再生】するのを待ってからまた叩き付ける。

 甲板の上には鈍い金属音が響き続け、幾度となくクズを叩き付けられた鋼の装甲は、クズの血に塗れて歪に陥没している。


 どれくらいそうしていただろうか。



「マスター、もうその辺で。私の気は既に晴れました」


「うむうむ。良い感じに整形出来たのではないかのう? 先程より随分と男前じゃぞ?」


「憐れな男ですね。このような中身の無い男には、マナカ様が怒りを向けるのも勿体ないです」


「あとはサパッとケジメぇ、着けやしょうや。頭も、既に戦意も萎えてらっしゃるんでやしょう?」



 …………ああ、そうだな。

 これ以上痛め付け続けても俺の怒りは消えないし、アネモネの負傷も無かった事にはならない。


 それなら……。



「おい、冷泉」



 蚊の鳴くような声で、か細く呻き嗚咽するクズ男に、声を掛ける。



「ハヒッ……!? ひゃいっ……!」



 歯の【再生】が追い付かず、吃音の悪い返事が返ってくる。俺は冷泉の髪を掴んだまま、そのグチャグチャに整形された顔を上げさせ、静かに告げる。



「お前、腹切れ。理不尽に奪った命に詫びながら、今まで見下して虐げてきた全ての女性達に許しを乞いながら、その汚ねえ腹カッ捌いて、そんで死ね。せめて最後くらい、同じ日本人として恥ずかしくないところを見せろ」



 切腹とか、時代錯誤も甚だしいけどさ。

 せめて見届けてやんよ。さっき苦し紛れに口にしたあの謝罪が、『ごめんなさい』が、本当に心からのモノかどうかをよ。


 言い捨てて、頭を掴んでいた手を投げやりに放す。

 俺は家族たちをもう少し下がらせて、その前に立ち塞がるように立って、冷泉桐梧を見下ろす。



「ハヒっ、ハヒッ……!!」



 いつの間にか冷泉が取り落としていた剣――なかなか良い剣だな――を蹴って転がし、ヤツの手元にやる。


 もうコイツは、度重なる【再生】に魔力の殆どを切らしている。あと出来るのは、大人しく腹を掻っ切るか……



「ハヒッ……! ハヒヒヒヒッッ!! このクソあああッ! 死ィねえ――――」



 ……やっぱな。そうなるだろうとは思ってたよ。


 切腹せず、自暴自棄になって斬りかかってきた冷泉の頭を、俺は黙って殴り潰した。


 何処までもクズ野郎だったな。こんな奴が同じ日本人だなんて、吐き気がしてくるよ。

 手に着いたヤツの血を、水魔法で水球を浮かべて洗い流す。


 だけど、まあ。

 明確に自分の意思で、自分の手で人を殺したのはこれで二人目だけど。

 いくらクズでも、スッキリはしないモンだなぁ……。



「マスター。救けていただき、ありがとうございます」


「うむ! 惚れ惚れするぱんちじゃったぞ、主様!」


「流石はマナカ様です、素敵でした。アザミは濡れてしまいましたよ……?」


「頭、お疲れ様でございやした」



 みんな、ありがとうな。また俺の我儘に付き合わせて、悪かったね。


 俺は冷泉の頭の無い亡骸に歩み寄り、ヤツの得物の長剣を取り上げる。



「セリーヌ。仇は取ったからな」



 あとは大元の、大帝。

 そして、この世界の崩壊を助長する“邪神”マグラ・フォイゾのみ。


 さあ。覚悟を決めろよ、俺!!





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