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第十一話 異形の軍団。



《クロウ視点》



「チッ、まただ! 小型が包囲を抜けたぞ!!」


「コマンダー艦を狙ってる! 動けるアタック艦は居るか!?」


「ムリだ! 敵の飛空艇が多過ぎる!!」



 (あるじ)の盟友たる、人族の軍人達の怒鳴り声を拾う。ちょうど海面の戦艦の部隊を沈めたところだった(おれ)達は、すぐさま踵を返して大空を駆け上がる。



『こちらクロウ! コマンダー艦へは己達“天狗衆”が救援に向かう! お前達は目の前の敵に集中しろ!!』



 念話を目に見える範囲に飛ばし助太刀を報せながら、己は与えられた配下達を引き連れて陣形の奥へと飛翔する。


 周囲を見渡せば、主が創造した魔導戦艦と大帝国の飛空艇が、入り乱れ飛び回り、魔力砲や魔力弾を撃ち合っている。

 また別の方を見遣れば、己達天狗のように背に翼を生やしたゴーレム達が、一糸乱れぬ編隊を組んで敵飛空艇を襲っている。


 己達のような異形の者は味方陣営にしか居ないため、同士討ちの危険も無く非常にやり易い。



「捉えた! 目標は敵小型飛空艇! 一機につき最低三人組で戦え!!」



 部下の天狗達に指示を飛ばし、散開する。

 狙うのは此方の指揮官級が搭乗しているコマンダー艦を襲っている、敵の小型の飛空艇だ。


 主の命を受け北大陸へ偵察に赴いた時は、まさか飛行手段を有しているとは思わず、手痛い打撃を受けた。

 その際に、主より預かった三名もの部下を失っている。



「あの時のようにはいかせない! お前らにやられた部下三人の仇討ち、存分に果たさせてもらう!!」



 部下二人と三角形の陣形を形作る。

 翼を強く羽ばたき、飛翔速度を上げる。



「「「幻術【黒羽根威(クロバネオド)シ】!」」」



 三人で呼吸を合わせ、己達“天狗”族に与えられた固有スキル【幻術】を行使する。

 己達が形作った三角陣形の中心から、嵐の如く、(おびただ)しい量の黒い羽根が吹き荒れ、舞い飛び、敵の飛空艇の視界を奪う。


 突然視界を塞がれた飛空艇の操縦士達は口々に悲鳴を上げ、ある者は味方の飛空艇と衝突し、ある者は狂乱して船から飛び降りたり、船ごと海へと落下していく。


 【黒羽根威シ】は、初手の黒い羽根で視界を塞ぐと同時に相手の精神に干渉し、様々な幻覚を視せる術だ。



『ヒヘヘヘッ! ヒャハハハハッッ……!』



 また一人の操縦士が気を狂わせ、飛空艇ごと海へと突っ込んで行った。

 お前らへの恨みも幻術に乗せたからな。さぞかし恐ろしい幻覚が視えたんだろう。お前達に惨殺された者達の怨霊でも視えたのかもな……!



「クロウ様! 更に包囲を突破し、本陣(ムサシ)に向かう機体を発見しました!!」


「なんだと!? 数は!? 何処にいる!!?」


「数は十機! 色味や装備が他と異なりました! 恐らくは精鋭かと……!」


「【獣神国】軍の包囲も突破されました! 我等では間に合いません!!」


「くっ!? ムサシの結界と装甲なら持ち堪えられる! 急ぎ戻るぞ!!」


「更に別の隊が飛来!! 我等を狙っているようです!!」



 なんてことだ! 今はお前達などに(かかずら)っている場合ではないというのに!!


 焦りと怒りで噛み締めた奥歯が軋む。


 またしても主の期待を損なうのか。

 北の大陸で仲間を失い、此処(ここ)でもまた主の同胞を護れないのか……!!


 小型飛空艇に補足された己達は、気を揉みながらも何とかムサシに向かおうと応戦する。



――――………………♪――――



 そんな時である。

 フワリと己の頬を撫でるように、柔らかな風が通り過ぎた。



――――……………………!――――



 脇を(くすぐ)るように、流れる灯火が擦り抜けた。



――――……♪ …………♪♪――――



 背筋を撫で驚かすように、冷たい水が舞い上がった。



――――…………? …………!――――



 己の頭をポンと軽く叩き、重さのない石塊(いしくれ)が軽やかに飛び立った。



「四精霊たち!?」



 それは、主マナカが創造し産み出した、新たな四大精霊たち。


 風の精霊ウェンディ。

 火の精霊イグニース。

 水の精霊アクア。

 土の精霊アルバ。



「お前たち……行ってくれるのか?」



 己達が北の大陸の偵察中、敵に攻められ危うかった時に己達を救けてくれた精霊たち。


 彼らは己の発した問いに、楽しそうな感情を伝えてくる。言葉は解らずとも、何故か安心しろと、任せておけと言われたような気がした。


 だから己は。



「頼む! ムサシには、主の義理のお父上様や細君候補の姫君も乗って居られる! 護ってくれ!!」



 己の願いを叫ぶ。

 その叫びに、精霊たちは。



――――…………♪♪♪♪――――



 嬉しそうに、再び己に擦り寄ってから、その存在を溶かし消えていった。


 なんとも頼もしい仲間……友ができたな。

 事が済んだら主に、彼らと意思を交わせる(すべ)を求めても良いだろうか。エルフ族に精霊との交わりの教授を受けても良いかもしれんな。



『ムサシへは精霊たちが向かってくれた。もう大丈夫だ!』



 己は仲間の天狗達に念話を届ける。

 それに対し、次々に喜びと安堵の思念が返ってきた。


 皆、精霊たちを心から信じている。共に戦いを経験したのだから、尚更だな。


 そして次の瞬間。

 小型飛空艇の追撃から逃れながらだったから、チラリと横目で確認しただけだったが。


 我等の旗艦ムサシの四方に、火の柱が、水の柱が、風の柱が、岩の柱がそれぞれ突き立ち、群がる飛空艇を焼き、流し、裂き、穿つのが見えた。


 流石は大精霊に匹敵する格の持ち主達だな。

 己は思わず笑みを浮かべながら、目の前の飛空艇に錫杖を突き立て、機体の心臓部を貫き、破壊した。



「クロウ様、周辺に残敵、在りません!」


「よし。精霊たちが居れば守護は盤石。己達は再び攻めに出るぞ!」



 己は再び部下の天狗達をまとめ、後方から前線へと飛翔した。





 ◇





 戦場の空域を更に高く飛んで俯瞰する。


 主の幹部配下の方々は、各々が敵軍の“勇者”なる者達と対峙している。

 時折各所で巻き起こる、天変地異もかくやといった魔法の現象は、恐らくはその戦いの余波だろう。


 あのような極限の戦場では、己達などが加勢しても邪魔になるだけだ。

 ならば我等の役どころは。



「お前達、先と同じように三人編成で各コマンダー艦の守備に付け。一隻余るが、防御陣形の最奥は【軍神】殿が指揮を執って居られる。残り八隻に布陣しろ」



 上空から観察すると、十隻在ったコマンダー艦は、一隻が()とされてしまっていた。

 アタック艦は四十隻だったのが、数えると二十九隻にその数を減らしていた。


 これほどの激戦、無理もないのだが……しかしそれとして、やはり悔しい思いは湧いてくるな……ッ!



「はっ。クロウ様は?」


「己の班は攻め所を探す。各班にも随時指示を送る故、念話は塞ぐなよ?」


「承知!」



 己の班を残して、部下の天狗達が戦場へと散開して降下して行く。

 己は懐から主より賜ったダミーコアを取り出し、通信を繋いだ。



「こちら“天狗衆”のクロウ。“カナリア号”、応答を求む」



 通信を送るのは、現在もこの戦場の空の何処かに身を潜めている、主の直轄部隊が駆る特別な魔導戦艦“カナリア号”だ。


 しばしの間を置いて、己のダミーコアへと返事が届く。



『こちらカナリア号。クロウ様、如何なさいましたか?』


「戦況が知りたい。敵の損耗率と陣形の詳細、危険と思われる兵器の所在、自軍の被害状況を教えてくれ」


『了解しました。二十秒お待ち下さい』



 己は戦場を見下ろしながら、自身の眼でも戦況を推し量る。


 連合軍の艦隊もその数を減らしてはいるが、敵軍の被害状況の方が余程大きく見えるのは、単なる己の願望なのだろうか。



『お待たせ致しました、クロウ様。戦況報告を致します』


「頼む」



 この僅かな時間で戦況を整理したとは。

 流石は我等配下の筆頭、アネモネ様の教育を施された者達だな。


 【揺籃の姉妹達(クレイドル・スール)】……人間族ばかりなのが惜しまれるな。

 出来ることなら我らと共に、末永く主に仕え続けていてほしいものだ。



『現在味方艦隊は、旗艦ムサシは損傷極軽微。四精霊の守護もあって安全性は揺るぎないかと思われます。続いてコマンダー艦ですが、ユーフェミア王国第三軍指揮下の艦が轟沈。それ以外は損傷軽微にて継続戦闘中です。アタック艦は四十隻中八隻が大破。三隻は海上を航行し後退しております』



 先程観察した通りの状況だが、なるほど。海に逃れて生き残っていた艦も居たか。

 望外の報告に、喜びが湧き上がる。



『ゴーレム部隊損耗率は三割。隊長級“アグニヤ”並びに、指揮官級“ヴァルキリー”は全て健在です』



 主が創り上げた異形の軍団。

 その最たるものである、有翼の女型(めがた)のゴーレム達。

 希少な鉱物素材をふんだんに使用し、恐ろしいまでの能力を有し今も尚空を飛び交っている。


 此処からでもその活躍は観て取れた。


 一千体の魔鋼製ゴーレム“ニケ”が二十体編成で小隊を組み、五十体の魔銀(ミスリル)製ゴーレム“アグニヤ”達の指揮の下、大空を駆け巡る。


 ニケが時には身体を張り敵を押し留め、時には集団で一気呵成に襲い掛かる。

 アグニヤが絶叫とも唄声ともとれる音を発し魔法陣を展開し、人間では決して扱えないであろう大規模な魔法を撃ち放つ。


 敵の飛空艇の攻撃をものともせず、その強靭な体躯を存分に武器として(ふる)い、正に獅子奮迅の戦いぶりだ。


 そして極めつけが、たった五体のみ創られた“ヴァルキリー”達。

 体躯は他の二種と比べても遥かに小さいが、それでもトロールほどの大きさを誇っている。


 個別に与えられた最高級の武具を振るい、敵の攻撃など意にも介さず、弾き、捌き、打ち落としては、その猛威を敵に浴びせている。


 斧槍(ハルバート)が翼を断ち、大剣が機体を割り、双剣が敵兵を斬り散らし、槍が操縦席を貫き、星球武器(モーニングスター)が甲板を抉る。


 いずれもただ一体のみで、敵の大型の飛空艇を撃墜して回っている。

 一騎当千……いや、一機当船といったところか。

 縦横無尽に空を駆け巡り戦果を挙げ続けるヴァルキリー達に、頼もしさと同時に恐ろしさをも感じてしまうな。


 それと、僅かな嫉妬もか……。



『敵損耗率報告します。開戦より、二刻経過現在の敵軍の艦船は六割、飛空艇は八割を超える損耗率です。小型飛空艇に至っては、掃討まで残り一割ほどです』



 凄まじい戦果だ。

 主の創り上げた艦隊や兵器、そして軍団の力もあるだろうが、開戦してよりたったの二刻で、これほどまでに彼我の戦力差を拡げるとは。


 これは主の盟友であり義理のお父上でもあらせられる、かの【名君】の采配が大きいのだろうな。

 主の配下である我等六合家は独立遊軍の扱いのため指揮は受けないが、傍目から観ていても、各艦が巧みな連携を取っているのが判る。


 我等の主たるマナカ様!

 この戦さ、必ずや勝てましょう!



『報告。敵海上艦隊後方、大型の艦船より、小型飛空艇多数の離陸を確認。まだ戦力を温存していた模様です』



 ……己のせいだろうか。

 安易に勝利を確信したりしたから、戒められたのだろうか……?

 確かこういうものを、“フラグ”と言ったような……。



『……ッ! クロウ様、緊急報告です! 敵本陣と思われる大型艦船に、魔力の収束を確認しました! 何らかの強力な魔導兵器と思われます!』


「なんだと!? それをどうするつもりだ!? まさか、このような乱戦のただ中に撃ち込むつもりか!?」


『判りませんが……なっ!? 魔力を感知したヴァルキリー達が向かっています!! 敵艦の魔力収束率から計算すると、発射には間に合いません!!』


「馬鹿な! どういうつもりだ!?」



 己は翼で空を叩き、一気に加速する。

 後ろで置いていかれた部下達が大声を出しているが、済まんが後からついて来てくれ!



『敵艦の収束率、臨界まで残り僅かです! クロウ様、無茶はおよし下さいッ!!』


「無茶はヴァルキリー達だろうッ!? あれらも己と同じ、主に産み出された仲間だ!! 放っておけるかッ!!」



 そうとも。ゴーレムといえども魔物。生命(いのち)有る生きる者だ。

 主にこの世に産み落とされ、その想いを注がれて存在を成した己達と、一体何の違いがあるというんだ。


 己が出せる速度の限界を超えて飛び続ける。

 視界の先には、敵の本陣らしき巨大な艦船に突き進む五体のオリハルコンゴーレム……ヴァルキリー達の姿が近付いてくる。


 よせ、やめろ!

 魔導戦艦には結界が有る! お前達が無茶をしなくても、皆は大丈夫に決まってるだろう!? 主の創った結界を信じろ!!


 しかし己の想いは、声は届かず、ヴァルキリー達は敵艦の前方の空に立ち塞がると、五角形の陣形を組み始めた。


 不意に、己の耳に無機質だが、温かな声が聴こえた。



『我はヴァルキリーが一、【斧槍のアーリヤ】』


『我はヴァルキリーが一、【大剣のイレーナ】』


『我はヴァルキリーが一、【双剣のシトリー】』


『我はヴァルキリーが一、【尖槍のテレーゼ】』


『我はヴァルキリーが一、【星球のルシール】』



 これは、ヴァルキリー達の声なのか……?



『マスターへの伝言(メッセージ)を、“天狗衆”筆頭のクロウに依頼する』



 待て、何を言っているんだ……!?



『我等は、与えられた任務を、全うしました』



 よせ、どういうつもりだ!?



『我等は、マスターのトモダチを、救いました』



 何を馬鹿な!? やめるんだッ!



『我等は、マスターのナカマを、助けました』



 お願いだ、やめてくれ……!



『我等は、マスターのカゾクを、護りました』



 頼むから……! 頼むから己に、そんな役目を押し付けないでくれ……ッ!!



『『『『『愛しています。我等のマスター、マナカ様。我等は、マナカ様の勝利を、願っています』』』』』


「やめろおおおおおおおおおおッッ!!!!」



 ヴァルキリー達が光を放ち、空中に巨大な五芒星を描く。

 それと同時、敵艦から膨大な魔力が迸り、それが一点に集中したかと思った瞬間、途轍もなく巨大な光線が放たれた。


 その光線の魔力は超高熱を帯び、稲妻を這わせていた。

 海を割り、海水を蒸発させ、白い破壊の奔流が己達に向けて――――


 光に、吹き飛ばされる――――





 ――――己は、確かに見届けた。


 己が吹き飛ばされる直前、ヴァルキリー達が輝き描いた五芒の陣が、敵艦が撃ち放ったあの凄まじい光線を受け止めたのを。

 その光の奔流に吹き飛ばされ回る視界の中で、確かにヴァルキリー達……()()()が、その全てを受け切っていたのを。


 光の無くなったそこを見遣れば、海底まで露出し抉られた、海に空いた大穴が在った。


 そして、その海底の大地には、()()()を象徴する武器が五種、誇り高く突き立っていて。


 やがて寄せて来た海に、ゆっくりと飲み込まれていったのだった。





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