第五話 両雄、相見える。
連合軍旗艦ムサシ・艦橋
「効果確認!」
『こちらカナリア。了解、効果確認します』
連合軍の旗艦、ムサシの艦橋から司令が飛ばされる。
それに返事を返したのは、戦闘メイド隊【揺籃の姉妹達】が操る隠密強襲型魔導戦艦カナリア号だ。
遂に戦端は開き、初撃は連合軍の戦艦達による主砲の一斉射撃であった。その攻撃の効果を確認する必要があった。
広い海面は、一斉に放たれ炸裂した主砲“荷電粒子砲”の超高熱によって蒸発し、白い水蒸気をもうもうと立ち昇っている。
『カナリアよりムサシ。一斉射の効果確認。敵損耗率二割。繰り返す、敵の損耗率は二割。結界と思しき力場を確認。中列以後は結界を展開し防いだ模様』
ざわり、と。ムサシの艦橋に驚嘆の声が上がる。
「あれだけの砲撃に耐える結界とは……!」
連合軍の総司令官フューレンス王が、ギリと奥歯を噛み締める。
「いえ、それでも二割は削りました。作戦通り、機動戦への展開を進言致します!」
副司令官であるセリーヌ王女が、フューレンス王に声を掛ける。しかしその返事を待たずして、再びムサシの艦橋に、通信が飛び込んできた。
『こちらカナリア、敵軍に逆撃の兆しあり! 敵艦船群に魔力上昇を確認!』
「っ! 全艦に通達! 直ちに防御態勢を取れ! 逆撃に備えつつ機動戦用意!」
「了解! ムサシより全艦! 防御態勢、防御態勢! 逆撃に備えよ! その後機動戦に移行する! 繰り返す、逆撃に備えよ!!」
慌ただしく指令を飛ばし、旗艦であるムサシも防御態勢へと移行する。
「対物理、対魔法結界を展開して下さい! 敵の攻撃力は未知数です! 出力最大でお願いします!」
セリーヌ王女の迅速な指示により、ムサシの全面が結界にて覆われる。一瞬だけ光が歪み、肉眼でもそこに防御膜が張られた事が確認できた。
そして次の瞬間。
未だ立ち昇る水蒸気を切り裂いて、大帝国軍の砲火が飛来する。音が届くより早く飛ぶ砲弾が、辛うじて結界の展開が間に合った連合軍の戦艦達を襲う。
爆炎が上がり、艦が揺さぶられる。しかしその砲撃は、戦艦本体にまでは届かなかった。
「被害確認!」
「艦の損耗は無し! 対魔法、対物理結界の両方で着弾を確認!」
「カナリア! 敵の攻撃の観測結果を!」
『観測結果報告します。敵主砲弾の発射を確認。質量弾に魔法を付与した魔法弾頭と推測。結界は二種常時展開を推奨します』
「了解しました! 通信兵、カナリアの観測結果を全艦に通達。敵には魔法、物理双方の攻撃手段が有ります! 結界は二種同時展開を徹底するように!」
「了解! ムサシより全艦。敵の攻撃は魔法物理双方あり! 結界は二種展開を徹底せよ! 繰り返す、結界は二種展開を徹底せよ!」
敵の攻撃の観測に成功し、その結果は即座に艦隊全ての艦に伝えられた。各艦から次々と、了解の意が通信で返される。
そこに更に、専用の回線から新たな通信が入る。
『カナリアよりムサシ。敵飛空艇に動きあり。前方に突出して行きます』
彼我の艦隊の距離は縮んでいる。
既に主砲の充填は間に合わず、緒戦の撃ち合いは終了といったところか。
大帝国が飛空艇を前面に押し出したということは、そのまま空中戦を展開するつもりなのだろう。
そう判断したセリーヌ王女は、フューレンス王を振り返り、意志を確認する。
フューレンス王も同じ考えに至っていたようで、ただ無言で頷いて見せた。
「全艦に通達! これより我らは機動戦に移行します。アタック艦を前方へ! コマンダー艦各位の指示に従い、敵飛空艇を迎撃して下さい!」
「了解! ムサシより全艦へ! これより機動戦に移行! アタック艦は各コマンダー艦の指揮下に入り、敵飛空艇を迎撃せよ! 繰り返す! 全艦機動戦に移行せよ!」
司令が伝えられると同時、艦内に警報が鳴り響く。機動戦闘に入るため、乗員に注意を促すためのものだ。
「ムサシよりカナリア! “勇者”の位置は特定できましたか!?」
『こちらカナリア。魔力感知終了しました。敵本陣内に高い魔力を有する二名を確認。魔力紋の波長から大帝とその親族であると断定。その他、大型の飛空艇七機にそれぞれ一名ずつ、突出した魔力を確認しました。それらが勇者であると推測します』
大帝の魔力は、一度マナカがダンジョンコアを介して探っているために特定できる、と説明されていた。故に、他の七つの高い魔力が大帝国の切り札である勇者であると、観測結果から齎された。
「了解しました。観測結果を全艦に周知してください。決して妨害をしないよう徹底するように! リクゴウ家の皆さんに通信を繋ぎます!」
「了解しました!」
セリーヌ王女は指示を出し終えると、船速を上げた周囲の戦艦群を一瞥してから、総司令官であるフューレンス王の元へと歩み寄る。
「総司令官。勇者の位置が特定されました。作戦通りでよろしいですね?」
確認の声を掛けるセリーヌ王女。
それに対しフューレンス王は重々しく頷き、口を開いた。
「作戦に変更は無い。勇者に対しては、こちらも最大戦力を以て相対する。かの者達も、今か今かと待ちくたびれておろう」
その顔に浮かぶのは、信頼である。
盟友にして、義理の息子となる男への、そして彼の配下達への絶対的な信頼がその瞳に宿っていた。
「さて、リクゴウ家を送り出したら、余らもひと暴れするとしよう。彼らにばかり活躍されては敵わんからな」
「了解しました、総司令官。リクゴウ家出撃の後、本艦も戦闘態勢へと移行します」
その信頼の厚さから、余裕を持った笑みまで浮かべて。
フューレンス王とセリーヌ王女は、各々機動戦へと移行した連合の戦艦群を見据える。
「副司令官! リクゴウ家の方々と通信が繋がりました!」
「カナリア号からの位置座標を共有してください。リクゴウ家の皆さんに勇者の討伐を託します! 武運を祈ります!」
「了解! こちらムサシ。勇者の座標を送る! 繰り返す、勇者の座標を送る! 本艦より……いえ、連合全軍よりリクゴウ家へ! 『武運を祈る』!!」
その通信を聞いていたセリーヌ王女とフューレンス王は思わず目を丸くする。そして一瞬だけ、優しく微笑みを浮かべた。
その通信は全ての戦艦に響いており、それを聴いた誰もが、同じように思ったのだ。
『我らの分も、よろしく頼む』と――――
◇
雷鳴のように砲火が轟き、大小様々な艦が空を飛び交い、天使が翼をしならせて宙を舞う。
そんな現実離れした戦場に於いて、不自然に動きを停めている、大帝国の飛空艇。
その数、七機。
それらの飛空艇は、眼前の宙に立ち塞がったそれぞれの人物と、相見えていた。いや、良く良く観れば、それぞれの飛空艇の甲板部分にも人が立っていた。
「何なんですか、あのデタラメな船は。大帝国の飛空艇と互角にやり合うなんて……!」
大帝国が“七勇者”が一角。
【迅雷】の勇者たる倉敷悠真は、思わず毒を吐く。
始まってしまえば圧倒できるだろうとタカを括っていただけに、当てが外れて非常に不機嫌そうである。
「あっしらの頭のご謹製ですぜ? そう簡単に落とせるたァ、思わねぇ方が良いですぜ」
悠真に声を掛けるのは、正式に呼称が採用された“六合家四天王”が一角。剣の達人である、イチであった。
主であるマナカによって渡された“空歩”の術具によって、空中に足場を創り出しそこに佇んでいる。
「やれやれ。異世界くんだりまで来て、まさか極道が決戦の相手とは。因果なことですね……!」
異世界転移するまでは所謂“地上げ屋”を稼業としていた悠真は、見た目が完全に極道であるイチを心底ウンザリした顔で見据え、溜め息を吐いた。
「念の為言っときやすが、あっしはヤクザっちゅーもんじゃあありやせん。頭に仕える、ただ一振りの刀でやす」
ゆっくりと宙を歩いて、敵方の飛空艇の甲板に降り立つイチ。
甲板に立った二人は向かい合い、悠真は西洋剣を、イチは日本刀を、それぞれ鞘から抜き放って構える。
「その在り方が極道だと言うんですよ。“仁義”だのなんだのと下らないその生き方には、毎度々々反吐が出るんですよ!」
「なら斬り伏せてみせんさい。だがあっしとこの【黄泉祓ひ水月】を、そこらの有象無象と一緒にしねぇでおくんなせぇよ」
睨み合う二人の闘気は空を吹き荒れる風を押し退け、ピリピリと、どこまでも張り詰めていった。
「アンタ何よ? 邪魔しないでくれる?」
「ぶー。その相談には乗れませーん」
別の飛空艇の甲板では、二人の少女が睨み合っていた。
七勇者が一人【水麗】の勇者こと立科アゲハと、マナカのダンジョンの核の化身にして妹、マナエである。
二人は互いに得物を携え、一触即発の様相である。
「チビガキはお呼びじゃないんですけど。アタシはマナカだかってヤツをブッ殺して、早く桐梧くんとイチャコラしたいんですけどっ」
薄く蒼く輝く細剣を突き付け、口元を歪めて苛立ちを露にするアゲハ。
「残念だけどそれは無理だね。お姉さんは、ここであたしがギッタギタにするから。下半身と一緒で頭まで緩いんじゃない、お・ね・え・さ・ん?」
身の丈を遥かに超える大槌――【みょるにる】を片手で軽々と振り回し、余裕の笑みで応えるマナエ。
お互いの口上にお互いが熱くなり、目付きはますます剣呑さを帯びていく。
「このチビっ、コロスッ!!」
「やってみなよッ、アバズレさん!!」
次の瞬間、二人の姿は甲板から掻き消えていた。
こちらの飛空艇では、小柄な人物と二人の人物が相対していた。
七勇者、【大山】の勇者こと服部夕陽と、フリオール王女と騎士レティシアの三人である。
「ぼ、僕は【大山】の勇者、は、服部夕陽だよ。お、お姉さん達は、だ、誰なの?」
「少年よ、大人しく投降するか、引き返すがよい。我はフリオール・エスピリス・ユーフェミア。連合軍総司令官たるフューレンス王が長女にして、マナカ・リクゴウの婚約者である!」
「マナカ殿の一番弟子にして未来の妻候補、レティシア・リッテンバウワーです! 勇者とはいえ、子供を傷付けたくはありません! 退いて下さい!」
お互いに名乗りを上げる。
すると、まるで少年のような外見の夕陽は、その瞳に怒りを灯して吃り声を荒らげる。
「ぼ、僕はこう見えて20歳だ! み、見た目で判断しないでよ!」
「なんだとっ!?」
「うそっ!?」
フリオールとレティシアは、その言葉に驚きを隠せない。揃って驚愕の声を上げてしまう。
「く、くそぉ……っ! み、みんなそうなんだ……! ぼ、僕が小さいからって、な、舐めやがって! お、お前ら、お、お嫁に行けなくしてやるッ!!」
夕陽のその小さな身体からはとても想像もつかないような、強大な殺気が膨れ上がる。
その殺気に敏感に反応し、フリオールとレティシアは即座に気を引き締め、片や魔白金の双剣を、片や魔黒金の長剣をそれぞれに構えた。
「殿下、お気を付けを。あの男、只者ではありませんよ!」
「分かっているレティシア。流石は勇者といったところか。出し惜しみをする余裕は無さそうだな。しかし彼奴め、聞き捨てならん事を言っていたな?」
甲板上でそれぞれが足を踏みしめ、自身の全力を発揮するために位置取りを探り合う。
「お嫁に行けなくするだと? まったく巫山戯たことを吐かすものだ」
「ええ。どうやら遠慮は要らないみたいですね……!」
フリオールとレティシアの両名からも、怒りにも似た闘気が立ち昇る。
夕陽は怒りのままに吼え、相対する二人も気勢を上げた。
「僕は結婚できないのに!!!」
「我らの邪魔をするな!!!」
「此処で打ち倒します!!!」
その殺気と闘気の渦は風を呼び、何故か緊張感の欠ける三者の激突と合わせ、吹き荒れたのだった。
「ほう。お主、なかなかに良い身体をしておるのう」
「【豪炎】の勇者。陣内紀文だ」
こちらの飛空艇では、筋骨隆々な偉丈夫と、燃えるような赤い髪に角を生やした女性が対峙する。
「六合家四天王、シュラじゃ。お主、なにやら武術の類いを嗜んでおろう?」
宙の足場から軽快に甲板へと降り立ち、シュラは嬉々とした表情で紀文に尋ねる。
「……プロレスリングという。打たせて、受けて、跳ね返す。最強の格闘技だ」
「ほう、最強とな……?」
淡々と返す紀文だが、既にその全身の筋肉には力が漲り、やや前傾となり両手を構える。まさにプロレスラーの構えである。
対するシュラは小刻みにステップを踏み始め、ウォーミングアップとでもいうのか、鋭いジャブを数発、届かぬ位置で打って見せた。
「主様より伝授されし、儂の“きっくぼくしんぐ”。お主の“ぷろれすりんぐ”とやらと、どちらが強いのかのう? 楽しみじゃ!」
口の端を獰猛に吊り上げ、好戦的な笑みを浮かべ間合いを測るシュラに、久しく凍り付いていた格闘家の血が疼いたのか、より猛々しく闘気を放つ紀文。
「……来い」
「応ともッ!!」
紀文の鋼の肉体とシュラの閃光の如き拳が、甲板の上でゴングを鳴らした。
長い前髪と、漆黒のマントが風にたなびく。
七勇者が一人、【闇静】の勇者である城ヶ崎智彦は、身体を斜に構え、左手を顔に、右手を前方に掲げて、朗々と謳った。
「我は七勇者が一角! 【闇静】の名を冠する闇の支配者! 城ヶ崎智彦である!! 女、我に名乗ることを許そう!」
芝居がかった大仰な物言いでそう宣言する智彦の前に降り立ったのは、背中から龍の翼を生やした女性だ。
「大袈裟な男であるな。吾は六合家四天王が一人、グラス。主殿に従いし、古の龍王である!」
その靱やかな腕や脚を龍鱗が覆い、腰から尾を伸ばし、頭部にも龍の角を生やす。グラスが会得した、身体を戦闘に特化させる【部分龍化】である。
鋭く光を反射する凶悪な爪が伸び、それを目にした智彦は思わず一歩後退りする。
「ふ、ふん……! 龍と相対するならば、我も全力を尽くさねばなるまい! この身に封じられし闇の力、とくと味わうがよいッ!」
気を取り直して顔を左手で覆い、両脚を肩幅よりやや広く開き、前傾の姿勢で香ばしく右手を開きながら、闇の力を練り上げ始める智彦。
「なんかイチイチ喧しい奴であるな。まあ良いのである。吾の前に立ち塞がるならば、龍の顎に噛み砕かれると知るのである!」
両手の爪に炎を灯し、魔力を昂らせるグラスが臨戦態勢を取る。
なんだかんだで伝染ったのか、グラスもセリフが香ばしくなりつつも、両者は魔力を練り上げ、同時に魔法を解き放った――――
「貴女……気に入りませんね」
「あら、奇遇ですわね。あたくしも貴女の事が気に入りませんの」
漆黒の長髪の女性と、白銀の長髪の女性が睨み合っている。
黒い髪の女性は七勇者の一人、【風華】の勇者である一条菖蒲。
そして白銀の髪の女性は、六合家四天王の一角を担う九尾の狐、アザミである。
菖蒲は得物である鞭を鳴らし、鋭い目付きでアザミを睨み付ける。
対するアザミも、自身の得物の鉄扇(アダマンタイト製)を二本開き、その視線に真っ向から対峙する。
「あたくしは一条菖蒲。【風華】の号を賜った勇者ですわ。貴女もお名乗りなさいな」
「……アザミです。マナカ様の一の従僕にして騎獣。そしてマナカ様を愛する者です」
「へぇ……? 貴女の主人のマナカとやらは、随分と趣味がお悪いのですわね。貴女のような獣を愛でるなど。あたくしの桐梧様とはきっと、似ても似つかない醜男なのでしょうね」
「良く言いますね。貴女のような性根の醜い者を傍に侍らすその桐梧とかいう男こそ、大層な好事家でしょう」
まるで視線に火花が乗っているような、そんな幻覚が視えそうである。その火花をバチバチと散らし、一歩、また一歩と、甲板の上を相手に向かって歩む二人。
既に殺気はぶつかり合い、大気が歪むほどの圧迫感を醸し出している。
そして、二人は同時に飛び出す。
「「その髪、切り裂くッッ!!!」」
そう。
二人の髪型は黒と白銀という対象的な色はしているものの、どちらも真っ直ぐな長髪で、前も後ろも綺麗に切り揃えられた、所謂同じ“撫子ヘアー”なのであった。
「みんなは戦い始めたみたいだな」
「そのようでございますね。私共も、そろそろ始めましょうか?」
煌びやかな甲冑に身を包み、その綺麗に染め上げられた金髪を掻き上げる男。そして使用人の衣服を纏い、美しい立ち姿で小動ぎもしない女性が、甲板の上で向かい合っている。
「まあ待てよ、綺麗なお嬢さん。オレは冷泉桐梧っていうんだ。キミの名前は?」
「マナカ・リクゴウの配下筆頭。専属使用人にして補佐助言役の、アネモネでございます」
お互いに自己紹介をする二人だが、どうにも温度差が感じられた。
「アネモネちゃんかぁ。キミにピッタリの、可愛い名前だね。どうかな? こんな殺伐とした戦争なんか放っておいて、オレの元へ来ないか? イイ女には、オレみたいなイイ男こそが相応しいだろう? 最っ高に贅沢な暮らしをさせてやるぜ?」
なんとこの男、戦場にも関わらず、しかも敵方のアネモネを口説き始めたではないか。
さしものアネモネもこれには不快感を露にし、しかし殊更に表情を殺して返答した。
「せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきます。私の身も心も、マスターであるマナカの物です。貴方のような俗物の手籠めに堕ちるほど、安いつもりはございません」
そのにべも無い言い草に、桐梧のこめかみに青筋が浮かぶ。
「はっ! 馬鹿にされたもんだな。オレよりもそのマナカって野郎の方が上だってのか!? いいだろう。まずはアネモネちゃん、お前を動けなくしてからその野郎を引き摺り出してやる。そしてその目の前で、お前を犯してヨガり狂わせてやるよッ!!」
欲望にその整った顔を歪めて、聞くに耐えない醜悪な言葉を口にする桐梧は、腰に吊るした鞘から、澄んだ音と共に神々しい剣を引き抜いて構える。
「【光貴】の称号を持つオレにしか扱えない聖剣【バースロンド】だ! 素直にオレのモノにならなかったこと、後悔するんだなッ!!」
対峙するアネモネは眉ひとつ動かさずに、その両手にどこからともなく愛用のダガーナイフを出現させ、構える。
そして淡々と、その冷たい視線を向けて言い放つ。
「心の醜さは顔に表れます。貴方はマスターの足下にも及びません。マスターのお目汚しとなる前に、私が排除致します」
片や欲望と魔力を荒々しく滾らせ、片や静かに体内で魔力を練り上げ、極限の速度の中の戦いが、幕を開けた――――