第一話 成るもの、成すこと。
王都ユーフェミア
北の外壁
次々と飛来する、俺が創り出した魔導戦艦“黙示録シリーズ”。
王都ユーフェミアの外壁上で出迎えた俺の元へと、最低限のスタッフ達を乗せて、遂に到着した。
「これほどの数を一人で用意したのか……! やはり迷宮の権能とは、恐ろしいものだな……」
「まあ俺の妄想力の賜物だな。あの一番デカイのが、この前も使った旗艦“ムサシ”だね。で、次に大きい10隻が、各国軍の指揮官を乗せる“コマンダー艦”。そんで一番多い小さいのが、小回りも利く“アタック艦”だよ。航空格闘戦を想定して、かなりの速度が出るように創ってあるよ」
同じく外壁上で、我が航空魔導艦隊の初披露を見物していた王様と、そんなやり取りをする。
俺が王様に付けた、護衛犬型魔物“獣勇士”のサスケも、王様の隣りで大人しくおすわりして控えているな。
うむ。なかなかの忠犬っぷりよ。
現在艦隊はその巨大さから近くに見えるが、実際には王都から人が走って三十分ほど掛かる距離を、ゆっくりと俺の方へ向かって来ている。
「なんだ……? 何か、光るモノが……」
「アレは一体……!?」
このくらいの距離になってようやく、同じく見物していた人々から訝しむようなどよめきが上がる。
彼等が視たのは、光を反射する無数の異形たち。
その異様なモノは、艦隊を護るようにして、徐々にこちらに近付いて来る。
「あれは……人……いや、天使か……?」
王様も自身の視力で捉え、そして俺に戸惑いの声を投げ掛けてくる。
「アレは、俺が今回の戦力として創り出したゴーレム達だよ。一番多いのが、兵隊の“ニケシリーズ”。五十体のミスリルゴーレムが“アグニヤシリーズ”。五体だけだけど指揮官級の、オリハルコンゴーレムの“ヴァルキリーシリーズ”もいるよ。全部で一千と五十五体だね。ミスリルゴーレムは迷宮の守護者クラスで、オリハルコンゴーレムに至っては、下手な迷宮の主よりよっぽど強いよ」
「せ、千を超えるゴーレム!? しかも、ミスリルゴーレムにオリハルコンゴーレムだと!?」
流石の王様もこれには度肝を抜かれたみたいだね。周囲の見物人達も、恐怖と興奮の入り交じったような声を口々に上げている。
「今呼ぶから、ちょっと待っててくれよ」
俺はそう断りを入れてから、ゴーレム軍の指揮官“ヴァルキリーシリーズ”に念話で呼び掛ける。
俺の命令が届いたゴーレム達はその速度を一気に上げ、一直線に俺たちの方へと飛来する。
大剣、双剣、斧槍、ランス、星球武器をそれぞれ大地に突き立て、外壁門の前にヴァルキリー達が並び立った。その後ろに二列横隊でアグニヤ達が、さらにその後ろに班ごとにニケ達が立ち並ぶ。
そして全てのゴーレム達が整列すると、最前列のヴァルキリーシリーズのみが、俺たちに向かって跪いて見せた。
ちなみにだけど、各ゴーレムの大きさは、実は量産型のニケ達が一番大きい。
兵隊のニケシリーズは体高およそ8.5メートル。分かり易い例を挙げると、トランス〇ォーマーのオプ〇ィマス・プラ〇ムと同じくらい。けっこうデカイよね。
隊長格のアグニヤは、およそ5メートルかな。天元突破しちゃう合体ロボのグレ〇ラガンくらいだね。
で、一番小さいけど最強のヴァルキリーは、およそ3.5メートル。某有名アニメスタジオ作品の、天空の城に保管されていたロボット達と同じくらいの大きさだよ。
中にはもうちょっと小柄な、2.5メートルくらいのもいるけど。
大きくて強いのもロマンだけど、それはもう旗艦ムサシでやっちゃったし……グラスもリアノーンも居るし。
やっぱ時代は小型軽量最適化だよね!
――――小さな躯体に洗練された美と技術の粋を詰め込んで、最高のパフォーマンスをお届けする“ヴァルキリーシリーズ”――――本日初公開ですっ!!
これ、売れるんじゃね?
一家に一台ならぬ、一城に一体。いかがっスか?
「なんと美しい……このような美麗なゴーレムなど、見た事が無い……っ!」
王様欲しい? 買っちゃう?
多分値段付けたら、最高額貨幣の虹貨でウン万枚になると思うけど。
素材はオリハルコンだし、甲冑はアダマンタイトだもん。余裕で国が傾くよ。アレ一体で何本聖剣や魔剣が打てるんだろうね、ははっ。
とまあアホな事を考えている間に、魔導戦艦の艦隊も到着したね。
『旗艦ムサシとコマンダー艦のみ着陸。アタック艦は周辺を浮遊して哨戒だ。行動開始』
念話で艦隊に指示を飛ばすと、旗艦ムサシを中央に置き、十隻のコマンダー艦たちもゆっくりと下降を始める。
「さあ、行こうか王様。生憎と一番乗りじゃなくて申し訳ないけど、総大将のアンタが乗ることになるムサシの所へ」
そう宣言して、俺は王様や各国の使節達を伴い、外壁を降りていった。
◇
王都に航空魔導艦隊が到着してから、一晩が経った。
パフォーマンス的に、俺の戦力を各国大使に見せ付けるお披露目会は無事に済んだ。
あの後各国のお偉いさん達と王様を乗せて、実際にムサシで遊覧飛行まで実演して、更にムサシ内の会議場で連合に関する議題を話し合った。
自分達の目で見て、その実力を理解出来たのだろう大使達は、一気に連合結成へと踏み出してくれたみたいだ。
後から王様に聞いた話によると、集まった各国大使達は、すぐさま本国へと連絡を取って、挙兵を提案するとのことだった。
だったらダメ押しにと、俺は魔導戦艦を各国に貸し出すことにした。
大使達(勿論ユーフェミア王国側の大使や護衛も含む)を乗せて本国へと赴き、その威容を見せ付けて回ろう、ってなワケだな。実際に実物を目にすれば、本国の王様やお偉いさん方も信じざるを得ないだろうしね。
魔導戦艦の護衛として、ゴーレム軍からアグニヤ一体とニケ二十体の、一個小隊が随行する予定だ。
人間の軍じゃないから、軍団規模の基準は気にしないでどうぞ。
戦艦は大使達にコマンダー艦に乗ってもらい、それを三隻のアタック艦で守護する形になる。
うん。明らかに過剰な示威行動になるけど、それだけ切羽詰まった状況だと、ご理解していただきたいね。
そこまでの段取りを王様や宰相さん、マクレーンのおっさん達と話し合って決めて、俺は一人、いつかの翼竜の巣が在った林へとやって来ていた。
いよいよ約束の期限が近くなり、やれるだけの事はやってきたつもりだ。
あと残るのは、負けないこと。この一大決戦に勝利することだけだ。
主な敵は、北の大帝国擁する“勇者”と、俺と同じダンジョンマスターの“大帝”。確かクワトロとかって名前だったか。そして、“邪神”マグラ・フォイゾ。
勇者の力は未知数で、大帝は何を考えているのかサッパリで。挙句の果てに、マグラのヤツは神ときたもんだ。
今までの比じゃないくらい、厳しい戦いになると思う。
それでも。
「――――ふッ!!」
前世と今世を併せれば何万回、何十万回と打ってきた正拳突きを、一際太い樹に打ち込む。
魔力も何も纏っていない状態で放たれた拳は、余計な破壊は齎さずに、肘の上まで深々と樹の幹に突き刺さる。
「ぅンッ!!」
その状態から身体の捻りと踏み込みの体重移動を利用して、更に深く突き込む。半身になりさらに地面との反撥を螺旋によって誘導し、得た勁力を拳に乗せて貫す。
“寸勁”や“喑勁”とも呼ばれる、ほぼ密着した状態から爆発的に力を伝える技法だ。
打ち込まれた勁力は一抱え以上もある樹の幹を貫き、向こう側に繋がる丸い穴が空いた。
実戦で鍛えられたからか、それともこの魔族の身体がハイスペック過ぎるのか。武道や武術では極意と云われる秘伝を、いつの間にやら体現できるようになっていた。
俺は【無限収納】から高級ポーションを取り出して、空けてしまった穴に振りかける。
樹だって生きてるからね。ポーションの効き目が発揮され、空いた穴は見る見るうちに塞がれていった。
その樹を背もたれにして、地面に腰を下ろす。
樹々の隙間から覗く青空を見上げ、大きく、深く呼吸をする。
身体の力を抜き、大地に、自然に、空気に溶け込むように、徐々に思考も鈍化させていき、目を瞑る。
ククルから与えられた、新たな力。
その“概念”を己のものとするために、深くイメージに没入する。
自分が引き伸ばされ、大地に一体化するように。
自身が風に乗り、空気と一緒に世界を吹き回るように。
もっともっと、イメージを深くする。
その“概念”が、単なる【時空間操作】で済むはずがない。だってコレは、神様の権能なんだから。転移魔法だって、副産物みたいなものだろう。
もっともっと、世界に溶け込んでいく。
産まれて生きて成長する、命のように。
やがて老いて死に、輪廻する魂のように。
恵みを齎し流れる、水の音。
樹々の枝を擦らせ鳴らす、風の声。
生命を運び育む、大地の騒めき。
心に灯り魂を燃やす、炎の唄声。
世界の“聲”に包まれる。
そう、それでも。
たとえ相手が強大で、圧倒的で、規格外でも。
俺は、負ける訳にはいかないんだ。
大切な友人、仲間、家族。
守りたいものが沢山できたんだ。
前世で何者にも成れなかった俺は。この世界で、今の生の中で、確かに“俺”に成れたんだ。
前世で何も成せられなかった俺は。今度は、今度こそは、“俺”という生命を、成さねばならない。
それは、“護る”ことと同義で。
それは、“束ねる”ことと似ていて。
それは、“輪”となって。やがて、“和”に近付いた――――
◇
大陸各国から、続々と声が上がった。
騎士は集い、戦士は雄叫びを上げ、傭兵は駆け付け、冒険者は奮い立った。
人間が、亜人が、魔族が、魔物が――――全ての種族が、一丸となり立ち上がった。
愛する者のため、自身の栄光のため、譲れぬ誇りのため、変え難い日々のため。
剣を佩き、盾を携え、槍を掲げ、鎧兜に身を包み。
熱狂の地、ユーフェミア王国へと、集い始めた。
狂乱の地、王都ユーフェミアへと、馳せ参じた。
有名無名の如何を問わず、ただ瞳に火を灯して。
轟く軍靴や戦友の声に、決意だけを胸に宿して。
そして、その日。
『全軍、進撃の刻である!! 我等が旗艦ムサシに続けえええッッ!!!』
超巨大魔導戦艦ムサシの甲板から、“ドラゴニス大陸連合軍宗主”フューレンス王の号令が、大空に轟いた。




