閑話 破壊神、参戦。
ダンジョン都市“幸福の揺籃”
冒険者ギルド・クレイドル支部
《コルソン視点》
まったく、ジョーダンじゃないわよぅッ!! 何ヤってんのよ、マナカきゅんはッ!!
アタシは抑えきれない怒りを感じていたわん。
ふつふつと、身体の中心からアツいモノが滾ってくるのよんッ!!
「どうして、このアタシに声を掛けてくれないのよおおおんッッ!!??」
勢い余って執務机を叩いたら、天板が真っ二つになっちゃったわん……!
イケナイイケナイっ☆ コリーちゃん反省っ! テヘっ☆
「書類を散らかさないでくださいっ!! なんでも何も、支部長は現役じゃないでしょう……。マナカさんも言ってましたよ。『俺たちが留守の間は、警備隊と連携して、街のことをよろしく頼む』って」
「それ、アタシ聴いてないのよおんッ!? フィーアちゃんにしか言わないなんて、マナカきゅんとアタシってそんな軽いカンケイなのんッ!? ねえそうなのおおおんッッ!!??」
うっ、うぅっ……!
オネエさん悲しいわあん……!!
「……はっ! もしやコレは、マナカきゅんの照れ隠しってヤツねん?! ヤダわあのコったらもう、素直じゃないんだから!」
そう考えれば辻褄が合うわん! そう、あたかも凸と凹がミッチリハメ合うようにねんっ!!
そういえば初めて逢ったトキも、照れちゃっててカワイかったわねぇん♡ ウブな反応で、思わずその場で食べちゃいたいくらいで……おっと、ヨダレが……!
「いえ、単純に私が伝言を預かってて忘れてました。ごめんなさい(ちょっと連合の方で忙しくて……)」
「良いのよん、フィーアちゃん♡ そう言えってマナカきゅんに言われたのねん? ホントにもうマナカきゅんったら、照れ隠しまで用意周到ねん♡」
「いえあの……」
「皆まで言わなくて良いわよん! それで? 我らがクレイドル支部からは、誰か参加するのん?」
「報告書上げましたよね!? ってああ!? 机の瓦礫に埋もれてるぅっ!?」
「…………てへぺろっ☆」
「支部長がやっても可愛くないですっ! 寧ろ怖いですっ!! ていうか何処で覚えてきたんですかそんなの!? ああもうっ、早く片付けて発掘してくださいっ!!」
もう! フィーアちゃんは怒りんぼさんねぇ。シワが増えちゃうわよん? せっかくアグネルージュ商会の良いコスメ使ってるのに勿体ないわぁん。
「し・ぶ・ちょ・う・?」
「はいぃぃ! い、今探すわんっ!?」
ヤダもうフィーアちゃんこわぁいっ!! アタシの思考、読まれちゃったみたいっ☆ てへぺろっ☆
「あっ、あったあった! ありましたよ支部長!」
「良くやったわん、フィーアちゃん! どれどれぇん? ……え゛、【火竜の逆鱗】に【揺籃の守り人】って、クレイドル支部所属の高位冒険者が居なくなっちゃうじゃないのよぉん!?」
Aランクパーティーの【火竜の逆鱗】は、メンバー六人が全員Aランク冒険者という、超一流の冒険者達ねん。
大剣使いにして【竜殺し】の二つ名を持つダージルちゃんをリーダーに、魔法使いのロイドちゃん、弓使いのシェリーちゃん、斥候のミュゼちゃん、肉弾戦士のブライアンちゃん、そして僧侶のコリーちゃんの六人ねん。
コリーちゃんったらアタシと同じ呼び名が照れ臭いのか、中々ギルドに顔を出してくれないのよねん。アタシ寂しいわぁん……!
そして彼らと違ってこの支部で活躍を続けて、高位冒険者であるBランクに到達したのが、【揺籃の守り人】の四人の娘達よん。
元々はマナカきゅんが孤児の救済のために立ち上げたパーティーなんだけどぉ、その活動中に一緒にマナカきゅんに救われてついて来た、健気な良いコ達なのよん♡
エルフで精霊術と弓を使うミラちゃんと、双剣使いで虎さんの獣人のミーシャちゃん、拳闘士で熊さんの獣人のベレッタちゃん、そして僧侶で人間のオルテちゃんねん♡
マナカきゅんが他で忙しくしてて、最近は全然冒険者活動してないから、今やランクも追い越して、パーティーの代表メンバーみたいになっちゃってるのよねん。
まあ、マナカきゅんもうすぐ冒険者資格失効しちゃうけどぉ、大陸各地の迷宮を支配した今となっては、もう無用の長物なのかもしれないわねん……。
アタシとっても寂しいわぁんッ!
イヤよ! マナカきゅん、アタシを捨てないでぇんッッ!!??
「――――部長、支部長っ! 聴いてますかっ!?」
「聴いて無いわよおおおおんッ!! 必要無くなったら捨てるなんて、アタシってマナカきゅんにとって、そんなワンナイトラヴ♡ みたいな都合の良いオンナだったのおおおおおんんッッ!!??」
「何を突拍子も無い妄想をしてるんですかっ!? それと支部長は男ですっ!! 勝手にマナカさんをソッチの道に引きずり込まないでくださいッッ!!!(イチさんタチのマナカさんネコなら一考の余地はありますけどっ!)」
「え゛え゛ッ!? そこはヴァンのオジサマがタチじゃない!? アタシオジサマも好きなのよぉん!! っていうかアタシが手取り足取り腰取りして、マナカきゅんをいっぱい攻めちゃいたいわぁん♡ マナカきゅんのハジメテ…………じゅるり」
「純粋な文化であるBLにバイ・セクシャルは割り込まないでくださいっ!! あなた美人の奥さんと可愛い娘さんが居るでしょうがッ!! っていうかヒトの小声の呟きを拾わないでくださいっ!?」
「ガ、ガチならいいのねん……!?」
「ええっ!!(キリッ)……って、なんでこんな話になってるんですかあっ!!!」
ま、まさかフィーアちゃんがこれほどまで深みにハマっていたとはねん……!
同じ沼のアザミちゃんと一番仲良くしてたけどぉ、BL沼……奥が深いわねん……! 穴だけにッ!!
「でもぉん、マナカきゅんや家族のみんなが遠征しちゃうなら、迷宮は警戒態勢になるはずよねん? 中堅以下の冒険者達じゃあ、危険過ぎて潜らせてあげられないわよん?」
「急に話を戻さないでくださいよ……! ええ、そうですね。リクゴウ家の皆さんが揃って侵入を拒絶する、【家族旅行モード】とやらに設定して出掛けるみたいです。あの人達が入りたがらないって、よっぽどですよね……?」
「それはぁ……アタシでもムリねん。ムリムリのムリよん。あのコ達みんな、既にアタシよりよっぽど強いもの」
初めて逢ったトキですら、マナカきゅんと辛うじて互角だったのよん? 当時のアザミちゃんとシュラちゃんの、どちらか一人だったら勝てたでしょうけどぉ、二人がかりだとキビしかったわねん。
現在はマナカきゅんは上位種に進化しちゃったらしいしぃ、配下――マナカきゅんは家族って呼ぶけどねん――のみんなも、比べ物にならないくらい強くなってるのよん。
少なくとも、アタシと同等のSランク冒険者くらいでパーティーを組まないと、命の危険どころじゃ済まないわねん。
なのに【家族旅行モード】とか、和やかなネーミングなのねん……。もうっ、マナカきゅんったらお茶目さん♡
「よぉしっ☆ アタシ決めたわん、フィーアちゃん!!」
「イヤな予感しかしませんけど、一応聴くだけ聴きましょう」
「アタシ、今回だけ現役に復帰して、参戦するわんッ!!」
「…………はぁぁぁ……!」
むっ! 何よフィーアちゃん! ノリが悪いわよんっ!?
そこは「キャー! 支部長、ステキっ!!」って諸手を挙げて賛成するところよん?
「……この流れで何故、支部長が参加するんですか? AランクとBランク上位のパーティーが参戦するんですよ?」
「んふ♡ 良くぞ訊いてくれたわん、フィーアちゃん♪ 理由は三つ有るわねん」
アタシだって、伊達や酔狂でこんなこと言い出してるワケじゃないのよん?
「まず一つ。それはこのクレイドル支部が、未だ新興で知名度が低いからねん。【火竜の逆鱗】が加盟してくれたけどぉ、それはあくまで彼らの功績有りきだからねん。
「彼らが支部に加盟してくれて、魔石や素材、迷宮産出品の取り引きは確実に増えたわん。【揺籃の守り人】も頑張ってくれてるしねん。
「だけど、高位冒険者達だけに頼っているっていうのも現実として問題なのよん。いくら取り引きにクレイドル支部の名前を冠していても、それが特定の冒険者ばかりに齎された物だと、結局それは彼らの功績に多く割かれちゃうワケよん」
「な、なるほど……」
実際には有能な冒険者を囲っているって意味では、ある程度評価はされるんだけどねん。
だけど、酒場の看板メニュー以外が鳴かず飛ばずじゃあ、店としては商売上がったりなのよん。
「二つめ。これも知名度に関係することなんだけどぉ、こういった緊急事態にどれだけの戦力が揃えられるかっていうのも、支部としての権威に影響してくるのよん。
「この報告書を見る限りでは正式にウチの支部所属の参加表明を出したコ達って、その二組だけよねん? まあどちらも高位冒険者だから、ある程度の評価は為されるわねん。
「だけど、冒険者は自己責任だけれど実力主義の商売よん。こんな活躍の機会に名を売れないなんて、日和ったと見なされても文句は言えないわん。参戦すれば箔が付くんですものねん。そして支部単位で見れば、戦力を出し渋ってると見られる可能性も高いわねん」
「だから元Sランクの支部長が直々に出陣して、体裁を保つ、と?」
「そゆことよん♪」
これでもまだ少ないんだけれどねん。いっそのこと、ケイルーン支部のドルチェと連携でもしようかしらん?
あのコだったら優秀な部下も多いし、支部を空けても問題無いだろうしねん♪ それに彼女の斥候能力と精霊術は、活躍の機会も多いでしょうしねん。
なんだかこの間ココに遊びに来てから、やけにマナカきゅんのコトを怖がってるみたいなのよねん。
この機会に心証アップを狙うのも、アリじゃないかしらねん?
「それで支部長。三つめの理由は何ですか?」
「んふっ♡ ある意味、これが最も重要なコトなのよん。良ぉく聴いてねん?」
フィーアちゃんが真剣な顔で身を乗り出してきたわねん。良いわよん♪ 教えてア・ゲ・ル♡
「戦争でバリバリに活躍してマナカきゅんの好感度を上げまくるためよぉんッ!! 名付けて、【恋は戦争!? 吊り橋効果で好感度アゲアゲっ♡】作戦よおおおおッッ!!!」
「…………………………」
「大事なコトだからもう一回言っちゃうわん!! 【恋の乱舞!? 二人の愛で大帝国なんて吹き飛ばせッ☆】作戦よおおおおッッ!!!」
「作戦名変わってるじゃないですかッッ!!?? っていうか、結局ソレじゃないですか!! 真面目に聴いて損しましたよっ!!」
「黙らっしゃいッッ!!!」
「!!??」
ふっ……フィーアちゃんもまだまだスウィートねん……! もっと大局的に物事を視なきゃ。
「いいこと、フィーアちゃん? アナタ忘れてるかもしれないけど、マナカきゅんは敵の標的になっちゃってるのよん? それも“邪神”なんていう、理りの外に居るような輩のねん」
アタシの言葉に、フィーアちゃんがハッとしたように目を見開いたわん。どうやら、アタシの言いたいコトに気が付いたみたいねん。
「必然、マナカきゅんの周囲は激戦が繰り広げられる可能性が高過ぎるわん。マナカきゅんは確かに規格外と言えるほどの強さを得ているわん。アタシなんか最早歯も立たないほどのねん。でもそれでも、何が起きるか分からないのが、戦争なのよん?」
今回の相手は、何も考えず本能だけで襲ってくる魔物相手とはワケが違うわん。いつかマナカきゅんが言っていた通り、狡猾で残忍で、欲深な“人間”が相手なのよん。
己の欲のためなら何でもする人間を相手にして絶対に大丈夫だなんて、アタシは口が裂けても言えないわん。
「限りなくマナカきゅんの安全を十全に近付けるために。そのために、アタシは征くのよん。だってそうでしょぉ? マナカきゅんが無事に帰って来ないと、フィーアちゃんの結婚相手が居なくなっちゃうじゃないのよん」
「し、支部長……!」
「気付いていないとでも思ったのかしらん? アナタの上司を、あんまりナメないことねん♪ こと恋愛に関しては、アタシの方がアナタよりよっぽど経験豊富なのよんっ♡」
うふふっ。フィーアちゃんたら……そんなに瞳を潤ませて、カワイイわねぇん♡
大事な部下と、そしてアタシの大事なヒトの恋路のためなら、アタシは、ひと肌でもふた肌でも脱いじゃうわよんっ!
「もちろんアタシの好感度も、バチバチに積極的にアゲてくけどねん♡ そのくらいは、カラダを張るオトメの役得よねん?」
フィーアちゃんが滲んだ涙を拭い払ったわねん。
覚悟をキメた、強くてステキな、オンナのおカオよん♡ またキレイになったわねん、フィーアちゃん♡
「お話は分かりました。もう、わたしは止めません。支部長。どうか彼を、わたしの好きなマナカさんを……守ってあげてください……!!」
「ええ……! このコリーちゃんに任せておきなさい!! フィーアちゃんとマナカきゅんの恋路は、アタシがゼッタイに成就させてみせるわんッ!!」
んふふふふっ……! これで大手を振ってマナカきゅんの近くで戦えるわん♡
待っててねマナカきゅん♡ アナタのコリーちゃんが、助太刀しにイクからねぇんッ♡♡♡
そして戦場の緊張感の吊り橋効果で、あわよくば――――
「ホントにお願いしますね、支部長!! なんだったら、その無駄に立派な筋肉を総動員して、マナカさんの肉壁になってくださいね!! マナカさんが五体満足に帰って来られるなら、何でもしてくださいよッ!!」
「え、ちょ……? ふ、フィーアちゃん……? さすがに肉壁って……」
「大丈夫ですよ! たとえ手足が吹き飛んでも、マナカさんさえ無事なら霊薬が創れますから!! もしかしたら神話に登場する、死者すら蘇らせることが可能な神薬も創れるかもしれませんっ!」
「ちょっ!? それってアタシに、たとえ死んでも盾になれってコトなのおおおおおッ!!??」
「大丈夫ですっ! 支部長は……【破壊神】は殺したくらいじゃ死なないって、わたしは信じてますからっ!!」
「いやあああああッッ!!?? いくらアタシでも、さすがに死んだら死んじゃうわよおおんッ!? ちょっとフィーアちゃん!? 恋心がバレたからって、開き直り過ぎよおおおおんッッ!!??」
「マナカさんとわたしの結婚のために、ファイトです! コリーちゃん♡♡♡」
「こんな時ばっかり可愛らしく親しみを込めないでえええええんッッ!!??」
非常にマズイわねん!? これでもしマナカきゅんが怪我でもこさえて帰還しようものなら、アタシったらフィーアちゃんにナニを言われるか分からないわんッ!?
っていうか肉壁って、死んでもって……!!
アタシってば、今までフィーアちゃんに苦労を掛け過ぎたかしら……?
うん。コリーちゃん反省っ☆ てへぺろっ☆