第十三話 家族への贈り物。
第十三話 家族への贈り物。
ダンジョン【惑わしの揺籃】
六合邸
随分と久しぶりな気がする我が家のリビングで、アネモネが淹れてくれたお茶を飲みながら魔族をダメにするソファで寛ぐ。
ああ……落ち着く……。
エルフ達の国に旅立ってから、魔導戦艦内での宿泊にエルフの里での宿泊、王城での宿泊が数日……短期間に色々な事が起こったもんな。
そうそう、エルフと言えば。
ノクトフェルム連邦は、今回集められている連合軍に小規模とはいえ参加することに前向きだと、王様から聞いた。
基本的には精霊術や弓を用いた後方の火力を担い、巫女達による支援も視野に入れているという。
他国との協調作戦は初の試みであるため、そこまで多くの兵は派遣出来ないらしいが、こういうのは参加する事にも意味が有るからな。
徐々にでも、自分達のペースで視野を拡げていけば良いんじゃないかと、俺や王様の気持ちは一致していた。
各国の編成した軍隊は、俺が魔導戦艦を使ってピックアップしていく予定になっている。
これはあまり各国の財政を圧迫しないために、俺から言い出したことだ。
ただでさえ命懸けで参加してくれているんだからね。
そのくらいはお礼としてさせて欲しいと、王様に頼み込んだんだ。
空を飛ぶことで移動時間もカットできるし、糧食もだいぶ削減できるから、その分兵に厚みを持たせてくれるよう、連合諸国には王様がお願いしてくれたよ。
現時点で、連合軍に参加を決めてくれたのは、まず宗主国にユーフェミア王国が満場一致で決まった。
そしてスミエニス公国、ノクトフェルム連邦は王国とも関わりが深く、積極的に参加してくれた。
新生魔王国オラトリアは正式に国として各国に認められ、今回は王女のセリーヌと新生四天王のみの参加となるが、友好的に迎えられていた。
俺も同じ魔族だというところも大きかったらしいが、おかげでこの大陸に避難して来た魔族達も、大手を振って根を張ることができるね。
あとは俺もあまり関わっていない所だと、【ツヴェイト共和国】と【獣神国ガルシア】が参加を表明してくれた。
ツヴェイト共和国は、ユーフェミア王国の南西に国境を接する民主国家で、一時期は小競り合いが絶えなかったというが、フリオールが領地を得るキッカケになった戦さ以降は、停戦が守られているらしい。
獣神国ガルシアは、獣人の王が治める国だ。
かと言って獣人しか住んでいない訳でもなくて、多種多様な人種を、戦闘能力に秀でた獣人達が庇護しているそうだ。もちろん、軍人も他種族で構成されている。
そして王様は、四年毎に行われる【獣神祭】というお祭りで行われる武器あり魔法ありのバトルトーナメントで決められるという。
参加は国民であれば自由で、外国の者や国籍を持たない冒険者なども、そこそこする参加費を払って出場するらしい。なんでも、腕試し的な意味で参加する者も多いんだとか。
四年に一度とか、オリンピックと大統領選挙を足して二で割って……ちょっと違うか。
現獣王は、若干16歳から四期連続で務めているらしい。つまり十六年もの間、バトルトーナメントの覇者の座を守り抜いてきた男だ。
いっぺん会ってみたいな。ちょうど来年がその年みたいだし、家族みんなで参加しても面白いかもしれないな。
とまあ、大国と呼ばれる国は、ドラゴニス帝国を除いてみんな参加してくれたわけだ。
他にも細々とした小国の王達なんかも、参加を決めてくれたらしい。
こういった大規模な国際的な枠組みに参加すれば、後の発言力も増すしね。
この機会に是非、大国とコネを作ってほしい。
あとは軍の招集の日取りが決まり次第、俺に連絡をくれる手筈になっている。そうしたら、各国に割り当てる魔導戦艦を決めて、お迎えに上がるって計画だ。
果たしてどれだけ集まることやら。
王様は雑魚の相手は任せろって言ってくれたけど、戦場ではその雑魚こそが、最も多くて面倒なんだよな。
あまり集まらないようなら、俺の配下の魔物もある程度出撃させるかな。
それから北に偵察に飛んだクロウや精霊たちも気掛かりだ。
アーセレムス大帝国が、いったいどれだけの兵力や兵装で侵攻してくるか。
できるだけ早く情報が欲しいところだな。
「マスター、皆様お揃いです。庭園にてマスターをお待ちですよ」
「お、分かった。すぐ行くね」
帰って来て俺たちはまず、溜まっていた仕事を片付けていた。
俺は政庁舎のメイソンさんから、どうしても無理な部分の相談を受けただけだから早めにお暇してきたけど、フリオールなんかは留守中の報告書が執務机に積み上げられていたよ。
あれでも、メイソンさんとフリオールの執事のシュバルツさんが、手分けして減らしたらしい。
適当に切りのいいところで今日はお茶会に参加するようにお願いしてあったんだけど、なんとか抜けて来られたようで何よりだな。
◇
庭園に面したテラスの上。
いつも午後のお茶会を開いているその場所に、俺の家族たちが勢揃いしている。
俺の補佐役で、配下筆頭のアネモネ。
ダンジョンコアの化身で、妹のマナエ。
初めて産み出した配下で、九尾の狐のアザミ。
戦闘狂で酒好きな、喧嘩仲間の酒呑童子、シュラ。
見た目は完全に極道の、天魔雄にして剣の達人のイチ。
元ダンジョンマスターで、覇龍王の名を冠するグラス。
俺の婚約者にして、ユーフェミア王国の第1王女であるフリオール。
元近衛騎士で、俺の一番弟子である騎士、レティシア。
いつの間にか入り浸るようになってたけど、俺と同じ転生者にして魔族の王女でもある、セリーヌ。
そして、俺をこの世界に転生させてくれた、元転生神でこの世界に現界した、ククル。
うん。男女比がおかしいとかはもうツッコまないよ。
みんな大事な、共に生きる仲間で、家族だ。
「みんな、忙しい中集まってくれてありがとう。実はみんなに渡したい物があってね。戦いの時までに扱いに慣れて欲しかったから、できるだけ早いうちに渡したかったんだよ」
そうみんなに前置きしてから、俺は【無限収納】から数々の品物を取り出す。
「まずはアネモネ。アネモネにはこの飛行用の術具と、結界を張れる術具、魔力を自動回復させる術具を渡しておく」
「ありがとうございます」
アネモネに渡したのは腕輪型の術具が二つと、足輪の一対の術具。
アンクレットが飛行用の物になっていて、右足と左足の魔力を調節すれば、方向転換や加減速も自由自在だ。
「マナエは、スキルも魔法もほとんど俺と一緒だからな。ステータスを上げる補助術具を渡すよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
知力や筋力、敏捷性を上げるネックレスやブレスレットを渡す。
ステータスが俺に準拠しているから、全体的に底上げしてしまえばほとんど俺と変わらないからね。
「アザミは空も飛べるし、HPやMPも回復できるし、ステータス補助の装飾品と、結界を張る術具を渡しておく」
「感謝します、マナカ様!」
オールラウンダーのアザミは、特に穴という穴が無い。なので、以前使いたいと言っていた結界を張れる腕輪型の術具と、ステータスの底上げ用のネックレスを渡した。
「シュラは飛ぶよりも走った方が速いだろうから、空中に足場を創れる“空歩”の術具と、魔力回復の術具だな。それと、万が一の時のために、結界を張る術具も渡しておくよ」
「心配性じゃなあ。じゃが感謝するぞ、主様」
これでシュラも空を飛ぶ……というより、走ることが出来るようになる。あくまで足場を創る術具だから、ちゃんと踏ん張りも効くしね。
「イチも空歩の術具だな。防御面では安心だから、魔力を回復する術具と、あとはとっておき用に、短距離転移の術具な」
「勿体ねぇことですが、ありがたく」
イチも空中戦がネックだったからね。
それと転移はイチの剣術と相性が良いと思ったから、創ってみたらできたんだよね。
これで敵の裏をかいてあの剣戟が襲ってくるんだぜ? 俺だったら怖くて絶対逃げるね。
「グラスは……正直言うことなしなんだけどな」
「なんでであるか!? 吾も貴様殿からのプレゼントが欲しいのであるっ!!」
一応褒めてるんだけど、どうしても何か欲しいらしい。
まあこうなることは読めてはいたから、ちゃんと考えてあるんだけどね。
「嘘だよ。お前には、加速の術具を渡すよ。ただでさえ強いお前に速度も加われば、向かうところ敵無しだからな」
デカくて堅くて速い。うん、最強だよね。
まあ最近は器用に部分龍化を使いこなしてるから、滅多なことでは本来の巨大龍の姿にはならないだろうけどね。
「おっほー♪ ありがとうである、貴様殿っ!!」
喜んでくれて何よりだよ。
「フリオールとレティシアは、なんでも俺の護りに付いてくれるんだってな? アネモネから聞いたよ」
そう言いながら、二人に渡す物を取り出す。
アネモネからは、決戦の時に家族たちがどう動くか、本人たちの希望を元に陣形案を聞かされていた。
「お兄ちゃん! あたしも護ってあげるんだからねっ!?」
「ああ。マナエも頼むな。頼りにしてるよ」
そう返すと「えへへー♪」とすぐさま上機嫌になる愛しの妹と共に、俺に邪魔が入らないように二人が守備に付いてくれるらしい。
「そんな二人には飛行の術具と結界の術具、念話の術具と、それから再生の術具を渡しておく。それと、それぞれの武具も最高の素材で再現してみたんだ。確かめてみてよ」
俺と一緒なら、戦場は空の上だ。
もう危ないから来るなとは言わないよ。二人の目を見れば、そんな言葉は野暮にも程があるって嫌でも感じたからね。
「まさかこの双剣……魔白金製なのか……!?」
「私のは魔黒金製ですよ!? こ、国宝以上の代物じゃないですか!?」
「オリハルコンは魔力との親和性が魔銀よりも高いからね。魔法剣士のフリオールにはピッタリの素材だよ。レティシアは剣術が主だから、その素材なら刃毀れも気にしなくて大丈夫だ。あとは手甲と脚甲も同じ素材だ。で、軽甲冑なら動き易いと思って、これは緋緋色金で造ってある。周囲の魔素を自動で吸収して魔法耐性も着くし、もちろん物理防御も完璧だよ」
他の家族と比べれば、ただの人間である二人はどうしても耐久力が課題になるからね。
高性能の防具と、HPとMP両方を回復させる術具の併せ技で、継戦能力も格段に上がるはずだ。
そして二人とも盾を持つタイプではないため、結界を張れる術具は絶対に持たせるつもりで創っていた。
恐らく俺の周囲が最も危険になるだろうから、守りに関しては徹底的に考え抜いた、その結果がこれだ。
俺を護ってくれるのは嬉しいけど、俺だってお前らを護りたいんだからな。
ちなみに身体のサイズは、マスター権限でアネモネから聞き出した。もちろん後悔はしていない。スキルの【心眼】を使えばスリーサイズも判るけど、そうしなかっただけ感謝してほしいくらいだ。
うん、俺は悪くないな。
「ありがとうマナカ。それはそれとしてだな……」
「どうして私たちのサイズが、こんなにピッタリなんでしょうかねぇ……!?」
おや? 俺の気遣いはどうやら伝わっていない様子だな?
「「後で話がある(あります)ッ!!」」
よし、この話が終わったら逃げよう。何処に転移すれば逃げられるか、ちゃんと考えておこう。
ともあれ、次はセリーヌだな。
彼女は本陣詰めだけど、参戦するからね。
「セリーヌには、結界を張る術具と転移の術具、それからオリハルコン繊維を編んだローブドレスだよ。むざむざ【ムサシ】まで攻めさせはしないつもりだけど、万が一の時のためにね」
「あ、ありがとうございます、マナカさん! こんな私にまで、このような貴重な品を……!」
彼女は王様と共に本陣――魔導戦艦【黙示録シリーズ】の旗艦である、【ムサシ】で指揮を執ることになる。護衛の新生四天王達は居てくれるが、彼女自身の防衛力は上げておいて損は無い。
いざとなったら転移の術具で艦外に脱出して、自前の飛行魔法で逃げることも可能だしね。
なんてったって、彼女はまだ8歳なのだ。戦場に出るには幼な過ぎるし、王様も分かってくれる筈。
もちろんそんな事態には、俺が絶対にさせないけどな。
そして最後は、ククルだな。
「ククルは……できれば此処で待っててほしいんだけどな?」
「マナカさんならそう言うと思ったよー。だが断る!」
やめい。
まあネタはさて置き、俺も断られるとは思ってたんだよなぁ。
「はぁ……ならククルには、【ムサシ】の護りをお願いしたい。これは、小型の【悪意遮断結界】を張れる術具だ。それと緊急召喚用の術具も渡しておくよ」
ぶっちゃけ神様とほぼ変わらないククルなら、戦闘に関しては何も心配は要らない。
怖いのはアイツ――【邪神マグラ・フォイゾ】が出張ってきた時だ。
マグラが狙うとしたら、確実に俺の弱味となる人物だろう。
それは王様であり、セリーヌだ。
他の家族たちも大切なのは変わりないが、王様は連合軍の大黒柱だし、セリーヌはマグラ自らが娯楽のために転生させた過去がある。
あの悪意の塊である邪神であれば、そういった弱点なんかは、嬉々として突いてくるだろう。
後々、王様にも色々と便利グッズは持たせるつもりだ。
そして緊急召喚の術具には、俺の魔力を登録してある。
この術具は、予め登録された魔力を持つ者を強制的に呼び寄せる、謂わば逆転移の術具だ。
旗艦である【ムサシ】が危機に陥った時には、この術具で瞬時に俺を喚び寄せることができるって寸法なのだ。
「うん、受け取っておくねー。任せてよー。あんまり邪神を刺激しないように、上手く立ち回ってみせるからねー」
「ああ。よろしく頼むよ」
これで家族たちの安全についても、やれるだけのことはやった筈だ。
あとはメイドたちや、天狗たちの情報が来ないことには細かい作戦は立てようがないからな。
何はともあれ、偵察に出たみんなが、無事に帰って来てくれることを祈るばかりだ。
「それじゃあみんな。それぞれ渡した術具や武具に、できるだけ慣れておいてくれ。解らないことは遠慮なく訊いてほしい。習熟訓練にも出来る限り付き合うよ。
「そして改めてだけど、みんな。今度の戦いは今までで一番の大戦さだ。全員が無事に勝って帰って来られるように、やれるだけのことはやっていこう。だからみんな、俺に力を貸してくれ」
改めて、みんなにお願いする。
全部一人でなんて背負えっこないし、俺はそこまで器用じゃないってのも、今までで身に染みて解っている。
だからこそ、俺の大事な仲間であり、信頼する家族たちに、力を貸してもらうんだ。
みんなで勝って、笑顔で生きるために。
「もちろんです、マスター」
「絶対勝とうね、お兄ちゃん♪」
「何処までもお供します、マナカ様!」
「任せておくのじゃ、主様よ」
「総て斬り捨ててやりやすよ、頭」
「この戦いが終わったら、け、結婚式だからなっ!」
「殿下!? 戦さの前にその言葉は不吉だと、アンソニーさんが……!?」
「わ、私も頑張りますからね、マナカさん!」
「あははー♪ みんな元気だねー。頼もしいねー、マナカさん♪」
ホントにな。
本当に、みんなと一緒なら何だってやれる気がしてくるから不思議だよ。
まあ実際、何だってやってやるんだけどな!
「さて、話もキリとなったことであるし……マナカ!」
「私たちの身体のサイズをどうして知っていたんですか、マナカ殿!?」
おっといけねぇ。
どうやら急用が入ったみたいだな。
「エーナンノコトカナー? あ! 俺ってば王様にも渡すモン有るから、ちょっといってきまーす!!」
「あ、こら!? 待てマナカ!?」
「マナカ殿!? 隠さずに白状してくださーいっ!!」
うーん、これはしばらくお城に匿っててもらおうかな……?
具体的には、二人のほとぼりが冷めるまで。とにかく今は俺の身が危険が危ない!
転移魔法の練習も兼ねて王都まで逃避行だ!!