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第十話 性悪イケメン死すべし!



王都ユーフェミア

ブレスガイア城謁見の間



「近衛騎士団団長ガウェイン・フリード。其の方、帝国の間者を引き入れ、王都が手薄な内に国境を侵犯させしめんと暗躍した。更には叛逆者ウィリアムを幽閉せし塔より脱するを助け、(これ)に猛毒を塗布した魔剣を譲渡した。叛逆者ウィリアムの襲撃が成功するに乗じ兵を起こし王城を占拠せしめ、然る後に帝国と共に王国を簒奪する手筈であった。申し開きはあるか?」



 玉座の前に跪いた近衛騎士団長。その罪状を、宰相さんが朗々と読み聴かせる。

 家臣の貴族達はその殆どが困惑し、口々に囁き合っている。



「全く以て何のことやら。この【王国の剣】たる私が、左様な大それた事を企てたと、真にそう考えておいでなのですか、陛下?」



 団長……ガウェインでいいか。

 ハーフエルフであると聞いているガウェインは、共謀者であるウィリアムが断罪され、自らも罪を読み挙げられたというのに、涼しい顔だ。



「この場は簡易ではあるが裁判の場でもある。虚偽の申告は己の罪を重くするのみと心得よ」



 宰相さんが一度警告を発する。しかしガウェインは、余裕を湛えた表情を崩さない。

 大方、ウィリアムの口封じが発動せずにこの場まで生きていたことから、証言となる供述は取れていないとでも思っているんだろうな。



『マナカさん正解ー。よっぽどあの【呪詛】への信頼が厚いみたいだねー』



 ククルが念話で俺の思考を肯定してくる。

 胸糞悪りぃな、ホント。


 処刑されたウィリアムには、口を封じるための【呪詛】が掛けられていた。特定の言葉――今回の場合は共謀者に繋がる証言とかだろう――を発した場合、掛けられた者を死に至らしめる呪いだ。

 それを掛けられていて無事ならば、証言を口に出してはいないと判断するのも無理はないかもな。



「真偽の鑑定のためとして、これよりは審議官を交え、裁判に【真偽の秤】を用いる。審議官アマコ殿、御前へ。第1王女殿下、術具を此方に」


「かしこまりました」


「うむ」



 俺の仲間である【(さとり)】のアマコが、謁見の間にしずしずと入場して来る。

 それと同時に玉座の在る壇上の袖から、一抱え程もある天秤をトレイに載せて、第1王女……フューレンス王の娘で俺の婚約者でもあるフリオールが、入場した。


 あの天秤が、真偽を計るという術具か。

 随分と分かり易い術具みたいだな。恐らくは発した言葉を審議し、真実ならどちらかへ、そして嘘ならばその反対へと傾くんだろう。


 あれくらいなら安く創れそうだな。なかなか貴重な術具らしいし、迷宮産にして、冒険者達を経由して売れば儲かりそうだ。



『マナカさーん、今は商売っ気出してる場合じゃないでしょー?』



 さいでした。

 でも、ちょっとは大目に見てくれよな。おチャラけてでもいないと、今すぐにでも飛び出して行ってアイツをボコボコにしてやりたくなっちまうんだから。



「【真偽の秤】を之へ」



 王様がフリオールを招き寄せる。

 玉座の足元……王様の足元にトレイごと置かれたそれに向かって、王様は手を翳し魔力を注ぎ込む。



「我が名はユーフェミア王国国王、フューレンス・ラインハルト・ユーフェミアである。余の名に於いて、この場での一切の虚偽を禁ずるもの也。その言が(まこと)であれば右に。偽りであれば左へと示せ」



 ふむ。どうやら魔力を注ぎながら起動して、その際に真偽の判定の示し方を設定するみたいだな。


 フリオールが玉座の脇に控えたのを確認してから、王様はガウェインへと顔を向けた。



「お主の名と所属を答えよ」



 まずはデモンストレーションってことかな。

 問われたガウェインは、その端正な顔を余裕の微笑で包み、淀みなく答えた。



「はっ。我が名はガウェイン・フリード。ユーフェミア王国、近衛騎士団団長を務める者です」



 その言葉に天秤の(はかり)は右に傾いた。すなわち、真実であると。

 次に王様は、俺の仲間のアマコへと顔を向ける。



「審議官よ、其方(そなた)の名と主の名、そしてどのようにして審議を行うか申してみよ」



 今度はアマコの言葉を計るのか。

 王様に命じられて、アマコは綺麗な一礼を見せてから口を開く。



「ワタシの名はアマコと申します。主の名はマナカ・リクゴウ。惑わしの森の迷宮の主でございます。この度主の命にて、我が【読心術】を用いて、審議にお力添えを致す所存にございます」



 天秤が右に傾く。

 当然だ。アマコは何ひとつ嘘なんて言っていないからな。


 俺の配下だという部分で多少のざわめきが起こるが、すぐさま宰相さんが「静粛に」と声を上げて静まらせる。



「審議官アマコよ。【読心術】とは如何なるものか説明せよ」


「はい。【読心術】とは、我が主マナカによって産み出された我等【覚】一族の固有スキルでございます。その名の通り、対象者の心の内を読み解き、明らかにする能力にございます」



 天秤は、再び右へと傾いた。

 その説明と秤の結果に、貴族達が再びどよめく。それをすぐさま宰相さんが静める。



「ほう、心を読み解くとな。なんとも素晴らしき能力を有しているものだな。どれ、先ずは宰相で試して見せよ。こ奴は今、何と考えている?」



 秤の結果では真実と示されたが、まだ半信半疑の者が多いんだろう。王様が宰相さんの心を読み、その能力(ちから)が本物かどうか示せと、アマコに命じる。



「はい。では宰相閣下、失礼致します。……『マナカ殿は優秀な配下ばかりで何とも羨ましいものだ。私にも人型の有能な配下を融通して頂けぬものか……』というお考えが読み取れました」



 どよめきが三度(みたび)沸き上がる。心を読まれた宰相さんもまさかそこまで正確に読まれるとは思っていなかったのか、驚きを隠せない様子だ。


 アマコの言葉に、相変わらず天秤は右に傾いている。



「宰相に問う。只今の審議官アマコの言葉は、真実か?」


「い、いえ! まさか、そんなことは……!」



 慌てて取り繕う宰相さんだったが、【真偽の秤】はしっかりと左へと傾いて、宰相さんが嘘を吐いたことを示す。天秤(それ)を見た宰相さんは、暫し逡巡した後に、観念したように溜め息を漏らした。



「……真実でございます。確かに私はあの時、斯様な事柄を思考しておりました」



 そして今度こそ天秤は右へと……真実へと傾いた。

 それを見てどよめきが大きくなるが、若干一名、顔色を青くさせる者が居た。


 王に向かって跪いている近衛騎士団団長、ガウェイン・フリードだ。

 さっきまでの余裕は何処へやら、その整った顔を歪めて、アマコを睨んでいる。


 どうやら予想以上の能力に、アマコを脅威に感じているようだな。



『またまた正解ー。どうするー? アイツ碌でもないコトしそうなんだけどー』



 分かっちゃいるんだけどな……だけどちゃんと、衆目の前で罪を明らかにしないと裁けないだろう? それに今放したら絶対に逃げられるからな。

 フリオールと王様は絶対に俺が護るから、ちゃんと形式に則ろう。



「さて、審議官の能力の検証も済んだことだ。早速審議に移る」



 ほらな。王様は逃がすつもりは無いってよ。

 怒りの込もった目でガウェインを見据え、王様が審議を開始した。



「ガウェインよ。其の方、叛逆者ウィリアムに【呪詛】なるモノを仕込んだそうだな? 余計な事柄を口にすれば、たちどころにその命を奪う呪いを。残念ながらそれは看破され、ウィリアムは心の内の供述を取られたのだ。先程の其の方の罪状は全てウィリアムが心の内で語り、彼女が読み取った事柄である」


「くっ……!? 陛下! まさか一国の王たるお方が、たかが魔物一匹の言い分を信じるのですか!? そ奴は魔物ですぞ!? 魔物の言と長年王家に尽くしてきた私の言と、いったいどちらの方が信用に足るとお思いなのですか!!??」



 見苦しいな……。不利と解ったら今までの立場を利用して情に訴えかけるとか。


 よし。いいぞククル、出番だ。俺はククルに合図を出す。



『魔物一匹ではありませんよ』



 突如、謁見の間に声が響き渡る。それはただの声ではなく、ここに集う総ての人の頭に直接響き渡っている。


 その声の主が、謁見の間中央の天井に光と共に顕現した。



『人の子らよ。私は豊穣神ユタの朋友、転生神ククルシュカーです。邪神マグラ・フォイゾの野望を食い止めるため、この世界へと現界しました。あなた達がマナカと呼ぶ迷宮の主を、この世界に転生させた者でもあります』



 はい、茶番演出その②。まさかの神様登場!? だ。


 ククルにはアネモネに急遽仕立ててもらった神々しい羽衣のような衣装を纏い、謁見の間の天井付近でずっと姿を隠してもらっていたのだ。


 ちなみに茶番演出その①は、心が読める審議官だと!? で、既に披露済みな。



『我が使徒であるマナカ・リクゴウの要望に応え、私もウィリアムの心の内を探りました。かの者が心で語った内容は、それらで間違いありません』



 宙に浮いたまま後光を放ち、普段の間延びした口調も控えて、神様っぽく宣言するククル。


 王様が慌てて玉座を立ち神様(ククル)に向かって跪くと、宰相さんを始め他の家臣達も、慌ててそれに倣い、膝を着く。



『顔を上げなさい。人の子らの王、フューレンス王よ。私は我が使徒であるマナカと共に戦う決意を見せてくれた、そんなあなたの味方です。ここからは神である私が、その者の罪を暴きましょう』



 はい、茶番演出その③です。その名も神様裁判。

 いつまでもダラダラ引き伸ばされたくなかったからね。


 王様には悪いが、俺だって怒ってるんだ。

 神威でも何でも使って、言い逃れできないようにキッチリスッパリ、さっさと追い詰めてやらぁ。



『さて、ガウェインといいましたか。()()()魔物一匹と神が一柱。心を探るを得手とする私達と、【真偽の秤】がお相手いたしましょう。さあ、如何様にも弁解なさってくださいね?』



 おおー、ククルが神々しいわ。


 俺、もしかしたらアイツが神様っぽくしてるところ初めて見たかもしんない――――痛てぇっ!? こらククル!? 神力を無駄遣いしてまで俺にツッコミ入れてんじゃねえよ!?


 空間ごと頭を殴られて思わずその場に蹲るが、音を立てないようにだけは注意する。

 くそぅ。いくら念話のチャンネルを全員に開いてるからって、問答無用で殴るなよなぁ。



『では早速、審判の刻です。ガウェイン・フリードよ。あなたの罪状が真実であるか否か、疾く答えなさい。(まやか)しは、私とそこの魔物には通用しませんよ? それと、あなたの頼みの綱であった帝国の兵達は、無断で国境を侵犯していましたので、昨夜の内に我が使徒マナカが壊滅させました。先触れも布告もなく侵犯したのですから、仕方ありませんよね? ユーフェミア王国の軍は一歩たりとも動いていませんから、抗議もできませんしね』



 さて、そろそろだな。

 実は俺は、完全隠密の術具と姿消しの術具の二つを使って、ずっと玉座の後ろに居た。

 そのまま跪いている王様やフリオールに気付かれないように、その前へと移動する。

 ちょうど、その時だった。



「くくぅ……!! おのれ、おのれおのれおのれええええええッ!! せめて、手に入らぬのであればせめてこの手で殺めるまでだああああッッ!!!」



 最早進退窮まったガウェインが、暴挙に出た。


 腰に佩いた剣を、王族を護るべくして与えられたその剣を抜き、あろうことか壇上の()()()()()()向かい、斬り掛かって来たのだ。


 馬鹿が! ヒト様の嫁に近寄るんじゃねぇよッッ!!


 俺は術具の効果の及んだままで、ガウェインの剣を払い落としてからボッコボコにして、意識を刈り取ってやった。もちろん、いつかの元王太子(イケメン)の時のように、前歯は念入りにバッキバキに折ってやったよ。


 性悪イケメン死すべし!!


 ……いや、殺してないからね? コイツを裁くのは、あくまでも王様だからね。

 こんな場所で王様達に斬り掛かったんだ。最早言い逃れのしようもない。


 視たところ、コイツには口封じの類は仕込まれてないみたいだからね。お好きなように尋問でも拷問でもすれば良いと思うよ。


 傍から観たら突然踊るように、ひとりでにボコボコになっていったガウェインが、玉座の手前で崩れ落ちる。


 意識を失い膝が崩れ、顔面から床に蹲ったその姿勢は、偶然にも、王様に土下座をしているような格好だった。





ちなみにですが、神皇国ドロメオとの戦争の際も【軍神】は王都を離れていましたが、あの時に動かなかったのはマナカの行動が不明瞭だったからです。


今回は【軍神】、【姫将軍】に加えて、公的にマナカが王国を離れており、尚且つ連れて行った手勢も少なかったので、決行に至りました。


以上、補足という名の蛇足です。



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