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第八話 波乱。



 早く、とにかく早くっ……!!

 一刻も早く王様のもとへ辿り着くために、俺はフリオールとアザミだけを連れて大空を全力で飛行している。

 アザミがちょっと遅れ気味だけど、悪いが構ってはいられない。


 俺たちは今、エルフ達の国【ノクトフェルム連邦】からダンジョン転移を利用して即座に俺のダンジョンへと帰還し、王都ユーフェミアに向かっている。

 予定を大幅に変更した急な帰還と登城になった理由(ワケ)は、宴の最中に(もたら)された、ダンジョンコア通信が原因だった。





 ◆





「は……? 王様が襲われただと……?」



 俺はあまりにあまりなその報告を受け、思わず呆けたような返事を返してしまった。



『はっ、大変申し訳なく……!! 事は王陛下の私室にて起こったため、初動が遅れもうした……!』



 コア通信の相手は、王様の護衛にと俺が密かに王城に忍ばせておいた配下……黒いミノタウロスの【オニキス】だ。


 特殊進化(ユニーク)個体であるオニキスは、神皇国ドロメオとの戦争のためにアザミとシュラが攻略したダンジョン【魔獣の顎】の守護者として君臨していた個体で、その特殊性と気概を買われ、しかも元々は外部から侵入し居座っていたということもあり、二人に敗北した後に俺の傘下に収まったという過去があった。


 片角と隻眼、そして歴戦を潜り抜けた傷だらけのソイツと引き会わされてまず俺がしたことは、霊薬(エリクサー)を飲ませることだ。

 効果は直ぐに表れ、傷ひとつなく角も眼球も揃った()()は、俺に忠誠を誓ってくれた。


 俺は彼女の艶やかな漆黒の体毛から連想した、黒い宝石のオニキスの名を与えたが、その名付けをキッカケにして彼女は【人化】のスキルを獲得した。


 うん、鑑定せずに名付けたことをちょっと後悔したけど後の祭り。

 オニキスは、雌だったのだ。


 まあそれは今はどうでもいい。

 今の問題は、彼女の報告だ。


 俺は彼女の腕を見込んで、完全隠密の術具――以前フリオールの部下である少女、リコに贈った物と同じだ――を渡し、俺の協力者にして友人、そして義理の父親となるユーフェミア王国の国王、フューレンスの影の護衛として王城に忍び込ませていた。


 彼の周囲には暗部――所謂(いわゆる)隠密やら暗殺者やらだな――が常に護衛に就いていたが、今回俺と共に戦うために表立って連合軍の発起人として世界に声を発したため、その身を案じた俺は誰にも内緒で護衛を派遣していたのだ。


 まあ、元々王様の護衛を担っていた暗部の連中は全て王家と宰相さんの肝入りだし、腕も立つということで、オニキスにはそれを越える脅威からの守護に備えるよう命じていたのだが……


 王様の私室――かつて俺やアザミが、フリオールを伴って忍び込んだ執務室は、完全なプライベート空間だ。

 暗部の数も最低限となり、俺も深く立ち入らないように伝えていたのだがそれが、裏目に出てしまった。



『下手人は前以て侵入を果たしており、王陛下が独りになられたのを見計らって暗部を無力化。その後に、事に及んでござる。得物には高位の毒物が塗布されていた上に呪詛まで込められた魔剣の類いで、手持ちの下級エリクサーにてなんとか息を留めている状態にて……!』


「とにかくすぐに向かう! 上級回復薬(ハイポーション)でも何でも、渡した物は全て使ってもいい! なんとか持ち堪えさせろ!! フリオール、アザミ!! 時間が惜しい! 話は移動しながらするから、急いで王様の元へ帰るぞ!!」



 宴の最中に慌ただしく、強制的にフリオールの酔いを覚ましてから、俺たちは移動を開始したんだ。





 ◆





 今や全力で飛べば、俺のダンジョンから王城までは一時間ほどで到着できる。アザミがだいぶ離されてしまったが、彼女には王家から貰った紋章付きの短剣を渡してあるから、一人でも入城することはできるだろう。


 俺はこの国の王女であるフリオールが一緒だから、云わばフリーパスで入れるしね。

 まあ正面からだと色々面倒だから、結界を作動させるのも構わずに直接王様の部屋に乗り込んだけど。


 結果から言えば、王様はなんとか救かった。

 俺が王都近くのダンジョンでなく自分のダンジョンに転移したのは、最上級のエリクサーを創造するためだ。


 下級エリクサーはあらゆる病や、四肢の欠損をすら癒す力がある。


 しかし、俺がオニキスに持たせていたそれでも王様を癒せなかったと聴いたので、更に寿命を伸ばして若返らせる力も持つ最上級のエリクサーならどうだと、大急ぎで創り上げて来たのだ。


 ついでにあらゆる毒を消し去る最高級の解毒薬(キュアポーション)と、呪いを浄化する最高級の聖水も創り出し、王様には悪かったが無理矢理に飲ませた。


 その甲斐あって無事に回復出来た王様の元には今、王妃様とフリオール、そして王族で唯一王都に帰って来ていたセイロン第2王子のみが傍に付き添って、眠る彼を見守っている。



(あるじ)よ……申し訳ござらぬ。主より拝命した大任、全うすること叶いませなんだ。処罰は、如何様にも……」


「いいや、オニキス。結果的にはお前が居たから王様は救かったんだ。お前が事後とはいえ、素早く()を拘束して王様にエリクサーを飲ませてくれたから、俺が間に合えた。ありがとうな」



 そもそも、バチバチの戦闘系の魔物であるオニキスを護衛に当てたのも俺だし、王様に遠慮して室内に入らせなかったのも俺だ。

 それでも彼女は即座に異変を感知して、執務室の扉を叩き壊してまで侵入し、事を収めてくれた。


 俺の甘い判断が、今回の防げたかもしれない襲撃の原因だ。



「それで、アイツは何処に居る?」



 オニキスが捕らえた今回の実行犯。

 裏を探れば更に厄介になることが明白なソイツは、取り押さえられてから、万が一自害しようにもさせないため、全身を拘束されて地下牢へ投獄されているらしい。


 最初はオニキスも刺客と勘違いされたらしいが、人化を解いて魔物の本性を見せ、俺の名を出したことで信用された。

 それからも王の私室を護っていた彼女にそう報告に来た近衛の一人から、現状を教えてもらったそうだ。



「……情報を引き出すには、アイツの力が要るな。口封じされる可能性もあるから連れて来るか。オニキス。じきにアザミも到着すると思うから、ここの護りは任せるぞ。俺はもう一度ダンジョンに戻って、仲間を連れて来る。行きは転移するから、一時間後には戻るからな」


「御意にござる。至らぬ身にあれど、死力を尽くし守護致しまする」



 俺は幼女神(ククル)のおかげで習得した転移魔法を使い、再び俺のダンジョンへと戻った。

 いや、まだ慣れ切ってないから、俺一人しか安全に転移出来ないんだよね。





 ◇





 ダンジョンに戻った俺は、まずは何が有っても即座に対処出来るように、家族たちをダンジョン転移で家に呼び戻した。

 ダンジョンは最高警戒態勢の【決戦モード】に移行させ、権限は妹にしてダンジョンコアのマナエに預け、その補佐をアネモネに託す。


 シュラ、イチ、グラスの三大戦闘狂には、我が家の最大戦力として待機してもらう。……めっちゃ渋ってたけどな。


 ノクトフェルム連邦に置いてきた魔導戦艦【ムサシ】は、メイド達【揺籃の姉妹達(クレイドル・スール)】に回収して帰還するように頼んである。

 彼女達が二十人揃えば下手な軍よりよほど強力だと、頼れる参謀アネモネさんのお墨付きを受けたからな。俺が渡した数々の術具や装備もあるし、頼もしい限りだ。


 幼女神(ククル)には、申し訳ないが俺と行動を共にしてもらうことにした。彼女……というか神様が持つある能力を当てにしてのことだけど、快く了承してくれた。


 で、現在はもう一人の仲間を待っているのだが……



「マスター。彼女が到着しました」


「お待たせして申し訳ございません、マナカ様」



 俺が待っていた相手が、我が家のリビングに入って来る。

 俺が固有スキル【魔物創造】で産み出した配下の一人、心を読む妖怪【(さとり)】をモチーフにした三ツ目の女性、アマコだ。


 ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】で暮らす俺の配下の魔物達の統括役であり、政庁舎では主に、長期滞在や移住を希望する部外者の面接を行い、固有の【読心術】スキルで大活躍中の彼女に同行を依頼した。


 読心術であれば神であるククルも得手ではあるが、万全を期して二人掛りで下手人(アイツ)を尋問してもらうつもりだ。

 もう二度と失敗しないためにもな。



「忙しいのにすまない。これからすぐに王都まで飛ぶぞ。ククルも良いな?」


「いいよー。寧ろ最近影が薄くてー、ちょっと活躍に飢えてたしねー」



 こんな時でもククルはククルだなぁ。

 でも、そのいつも通りが今は有り難い。正直、血管が切れそうなくらい頭にキてるからさ。



「それじゃマナエ、アネモネ。留守は任せるよ。シュラ達には悪いけど、上手く押し留めててくれ」


「行ってらっしゃいませ、マスター。お気を付けて」


「任せといてね、お兄ちゃん!」



 俺は留守を家族に任せて、ダンジョン転移で外に出る。



「それじゃあ、ククル、それからアマコ。悪いがかっ飛ばすから、ちゃんと掴まっててくれよ」


「それは良いんだけどー、なんで私がおんぶなのよー。」


「あ、あの、マナカ様……? ワタシは大丈夫ですので、どうかククルシュカー様をお抱きに……」


「しょうがないだろ。アマコは急いで来てくれたからスカートなんだ。おんぶじゃあ何かの拍子に誰かに見られちゃうかもしれないだろーが」



 俺の現在のスタイルは、背中に幼女(ククル)を背負い、美女(アマコ)を横抱き――所謂お姫様抱っこで宙に浮いているというもの。

 うん。結界運搬だと速度が出せないから、仕方ないのだ。


 そしてそんなことを言いはしたが、アマコを背負うと色々と危ないのだ。主に胸部装甲的な意味で――――



「あだっ!? おいククル、なんで殴るんだよ!?」


「うっさいのよー! どーせ私は貧乳のチンチクリンですよー!!」



 やべ。思わず心の中で特定部位に於ける哀しい現実を思い浮かべてたわ。


 ククルさん、どうかその能力(チカラ)、もうちょっとだけ後で発揮してくださいませんか……?

 アマコさんも、顔を赤くして隠すんじゃないよ!? 俺まで変に意識しちゃうでしょーが!?





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