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第四話 自由の責任。

いつもお読み下さり、ありがとうございます。


〜 ノクトフェルム連邦 シルウァ氏族の里 〜



「――――という訳でして、ここ【神樹の森】に在る【神霊樹の祠】が、最後の一箇所なんです。避難して来た魔族達を保護するため、なんとかご協力願えませんか?」


 辛い、怖い、恐ろしい……!


 俺はエルフの各氏族の長達に、何故俺がエルフ達が護っているダンジョンに立ち入りたいのか、これまでの経緯――S級ダンジョンの魔物の氾濫(スタンピード)の兆候から始まり、冒険者ギルド本部からの依頼で潜った事や、そこで魔族の国の王女と出逢い保護したこと、彼女の父で今は亡き【魔王】の遺言に従って示された各ダンジョンを攻略し、保護してきた事等を説明していった。


 微に入り細を穿つ勢いな質問も飛んでくるため、頭の中では記憶を呼び覚ますのとそれを言葉で表現するのとで、大忙しだ。

 今ほど上位化した【高速演算】スキルを有り難いと思った事はないね……!


「なるほど。あの男が……ソルジャンが、我等の神聖なる祠にそのような細工を……」


「スタンピードに似た兆候は表れませんでしたか? 例えば上層階の魔物が凶暴化していたり、本来であれば居ないはずの下層の魔物が上層に現れたりなどです。」


「む……確かに、そのような報告を受けた記憶が有る。それがつまり……」


「はい。今は亡き【魔王】が最期に下した命令に拠るところの、ダンジョン――迷宮の自立的な防衛強化の結果です。」


 経緯は話したし、それに対する根拠も示したはず。

 だから頼むから俺を睨むの止めてもらえませんかね、アレイシャさん!?


「……話の辻褄は合っておるな。どうだ、爺ぃや?」


「今のところ、虚偽は無かったと存じまする。そもそも、三百年以上過去のかの悪魔めの行動を、部外者であるこの男が知っているという点からも、信憑性は高いかと……」


 ふむ? そういえばフリオールとの質疑応答の時にも、アレイシャさんは隣の老エルフに確認を取っていたような……?

 この老エルフの男性には、相手の言葉の真偽を見抜く力が有るのかもしれないな。


 そうと分かれば、より一層気を付けて発言しないと。下手な嘘を吐いて、印象を悪くしたくないからな。

 まあ、既にかなり印象悪いんですけどね!? ホント一体何したんだよ、ソルジャンさんは!?


「話は理解した。我等の同胞を多く救い送り届けてくれたのも事実であるし、祠に居るらしい魔族達の事は善処しよう。して、願いはそれだけか?」


 良かった。

 これでセリーヌとの約束は、なんとか果たせそうだな。


 あとは……


「あと一つ……これは難しいことを重々承知の上でのお願いなのですが……迷宮を、【神霊樹の祠】を利用させていただきたいのです。」


「…………なんだと?」


 はい。来ると思いましたよ、殺気の渦。

 いい加減慣れてきちゃったけどさ、仮にも同じ種族の恩人に向かって、事情を説明しても殺気を飛ばすのを止めないってどうなのよ?


「聞き間違いか……? 妾には、我等の神聖なる祠を利用させよと聴こえた気がしたのだが?」


 今日一番の鋭い視線ですね、アレイシャさん。

 怒った顔も絵になる美しさですけど、眉間に皺が付いて取れなくなっちゃいますよ?


「その通りです。もちろんこれにも事情があります。総ては貴方達エルフを長年苦しめていた神皇国ドロメオの、その背後に居た存在に備えるためです。」


「…………どういうことだ。」


 広間の四方から浴びせられる殺気を極力無視して、俺は真っ直ぐにアレイシャさんの目を見ながら説明する。


 全ての黒幕である【邪神マグラ・フォイゾ】のこと。


 その邪神によって世界が危機に陥っていること。


 もうあと数ヶ月後には、北の大陸からその手駒である【アーセレムス大帝国】が攻めて来ること。


 その戦争に向けて、ユーフェミア王国を中心とした連合軍の結成計画が動き始めていること。


 大陸を悪意ある者から護るため、各地のダンジョンを使って大結界を張っていること。


 ノクトフェルム連邦も結界の中に収めたいが、それには【神霊樹の祠】の支配が必要なこと。


 このまま結界の外に位置していては、この大陸で真っ先に、このエルフ達の国が狙われてしまいかねないということ。


 俺は丁寧に、俺達にとっての共通の脅威について語っていった。

 エルフ達は皆訝しげに、疑いの視線を向けて俺を睨んでくる。唯一人……アレイシャさんの隣りに座る、老エルフを除いて。


「左様な戯言をよくも……! そのような口車に妾が乗ると思うてか!? やはり貴様も、あの男と同じ悪魔の類い――――「アレイシャ様。」ッ!?」


 その老エルフが、困惑したようにアレイシャさんの言葉を遮った。


「……何だ、爺ぃや。」


「お言葉を遮り、申し訳ござらん。しかしこの男……一切虚偽を申しておりませぬ……! 信じられぬ内容ではありますが、先程の話、全て真実かと……」


「なっ!? そんな馬鹿なッ!!??」


 爺ぃやさんの言葉に騒然となるエルフの長達。

 やっぱりこの老エルフには、嘘を見抜く能力が有るみたいだね。俺の話を聴いた時以上に、みんな驚いているよ。


「邪神だと……? 大帝国だとっ!? 戯言も大概にしろッ!! そんなもの、私達エルフ族には何の関係も無いではないかッ!?」


 とうとう痺れを切らしたのか、広間の護衛に当たっていた一人の男性エルフが、俺に詰め寄って来た。

 しかし、それを阻む影が、四つ。


「私達エルフの最大の勢力の中心が、こんなにも無様で情けないとはね。正直ガッカリだわ。」


「やっぱり住む所が違えば、考え方も違うんですかねー?」


「いい加減難しい話には飽きてきたんだよな。コイツをやれば良いのか?」


「ダメですよベレッタさん!? こちらから手出しは厳禁って何度も言ったじゃないですかっ!?」


 俺が結成した冒険者パーティー、【揺籃の守り人】のメンバー達だ。

 エルフ族のミラ、虎の獣人族のミーシャ、熊の獣人族のベレッタ、人間族のオルテが、それぞれ武器を構えて俺を背に庇うように立ちはだかった。


 おいおい、頼むから暴力は止してくれよ? 特にベレッタさん。


「貴様……! 我等と同じエルフのくせに、そのような悪魔の戯言を信じ敵対するのかっ!?」


「戯言を言っているのはどちらかしらね? あの老エルフは精霊術の達人でしょう? その彼が真偽を見抜く術を行使したというのに、その結果すら信じないの? そんなの、ただ見たくないものに蓋をしているだけの腑抜けじゃないの!?」


 あのいつも冷静なミラが声を荒らげるなんて、珍しいな。

 よっぽど今の同族達の姿に腹を据えかねたのかな。


 詰め寄って来ていた男性エルフが、思わず言葉に詰まり、足を止めた。

 俺はその隙に、もう一度声を上げる。


「アレイシャ・ホルン・シルウァさん。貴女が爺ぃやと呼ぶその御仁は、貴女の相談役とお見受けします。先程からずっと、彼が俺たちの言葉の真偽を計っていたのでしょう?


 俺のことが信用できないのは仕方ありません。所詮は部外者ですし、種族も違いますからね。しかし、貴女の側近である彼はどうなのですか? 貴女は、彼の言葉すら信じられないのですか?」


「ぐっ……!?」


 畳み掛ける俺の言葉に、アレイシャさんも言葉を失う。

 その視線は未だ鋭く、俺を厳しく睨んだままだ。


「大陸全てを巻き込む大戦さです。エルフだからと無関係では居られません。あの神皇国ドロメオよりも巨大な大帝国は、この大陸の様々な種族を滅ぼそうとするでしょう。事実、北の大陸では、人間族以外の種族はそのほとんどが打ち滅ぼされています。共に立ち剣を取れとまでは言いません。どうか、俺が大帝国との戦さに安心して向かえるように、この森を結界で覆わせてください。」


 言い終わってから、深く頭を下げる。

 俺の言葉と行動に、広間の中はシンと静まり返った。


 そのまま待つこと暫し。

 重い、本当に重たい溜め息が、耳に届く。


「頭を上げよ、魔族の男……マナカといったか。妾はどうやら、お前を見誤っていたらしい。あの男と同じ悪魔の類いだからと、視野が狭まっていたようだ。」


 先程までよりも若干険の取れた声を掛けられ、俺は顔を上げてアレイシャさんに目線を合わせる。


「先程のお前が(もたら)した言葉が真実であるならば、確かに我等エルフ族にとっても一大事である。ならばその証を示してもらいたいところだが……爺ぃやの術に間違いは無い。故に、お前の言葉は(まこと)の事なのであろう。」


 じゃあ……と前のめりになりかかった俺だったが、アレイシャさんの手によって制される。


「しかしだ。【神霊樹の祠】は我等この森のエルフ族にとっては神聖なる場所である。森の同胞らでも、成人の儀を行う以外にはごく限られた巫女や戦士にしか、立ち入ることを許可してはおらぬ。


 だが避難して来ているとされる魔族達を保護するためにも、祠に立ち入る必要が有るは明確。我等エルフ族が永きに渡っても成し遂げられておらぬ最深部への到達……お前なら可能だと申すか……?」


「お望みとあらば今すぐにでも踏み入り、踏破してみせます。」


 俺を改めて値踏みするような視線を真っ直ぐに見返し、間髪置かずにハッキリと返す。


 今の言葉で分かった。

 エルフ達は守護をしていると言うけれど、実際にはダンジョンを掌握はしていないんだ、という事が。

 ダンジョンから魔物が溢れないように管理はしていても、言葉の通り最深部――ダンジョンコアまで辿り着けてはいないんだろう。


 聞いた話によればこのシルウァ氏族の集落は、【神霊樹の祠】と共に森の中心部に位置しているらしい。

 そして、それを囲むように、他の十二の氏族の集落が森に点在しているそうだ。


 つまり、彼等ノクトフェルム連邦――【神樹の森】のエルフ達は、森と共に【神霊樹の祠】を封じ込める役割を担っていたんだ。


「必ずや最深部に到達し、迷宮を鎮めてみせます。そして全ての事に決着が着き次第、迷宮の権能を【神樹の森】のエルフ族に返還するとお約束します。俺の命に誓って。」


「ほう……大きく出たな。その言葉、加えて偉大なる精霊達に誓えるか?」


「如何様にも。俺は、俺自身に恥じることの無い生を全うするだけです。四大精霊様にも、我が子である四精霊達にも誓いましょう。」


 そしてその俺の言葉に呼応するように、建物の四方の壁をすり抜けて、俺が産み出した精霊たちが広間に入って来た。

 四元素の精霊たちは、楽しそうに俺の周りの宙を泳いでいる。


「これは……お前達が訪れてからこちら、森の精霊達がざわめいていたが……なるほど。それもお前が……お前とその精霊達のせいであったか。」


 俺の産み出した精霊たちを優しい目で眺めながら、アレイシャさんは言葉を紡いだ。

 と思いきや、ふとその視線が俺から外れた。


「其処な同族の娘よ。」


 急に話の矛先を向けられたのは、ミラだ。

 彼女は目を白黒させて、次いで訝しげな顔をして、アレイシャさんに向き直った。


「観たところ、お前は我等の森で生まれた同胞ではないな? お前は一体何故、その男に付き従っているのだ?」


 突然のそんな質問に面食らった様子を見せたミラだったが、すぐに気を取り直して、堂々と口を開いた。


「お前ではなく、ミラよ。お察しの通り、この大陸の南の森で生を受けたわ。私がマナカに従う理由なんて訊いてどうするのか知らないけど……いいわ。教えてあげる。」


 同じエルフ族として、その不遜な態度に険しい顔をする他のエルフ達だったが、そこは俺が【威圧】を飛ばして押し止めた。

 うん。ミラの言葉は邪魔させないよ。


「私はマナカに救われた。命も、心もね。そしてその強さと自由さに憧れた。私が彼について行くのは、その背中に追い付くためよ。里を出て、己の未熟さのせいで危機も味わったけれど、彼のおかげで力を付けることの意味を、自由のための責任を見い出せた。それが理由よ。


 彼は自由な生を謳歌するためならどんな苦労も、責任をも厭わないわ。こうして貴方達に頭を下げているのだってそうよ。そしてそのために強く在ろうとしている。そんな生き方に憧れたの。だから私は、彼の背中を追い続けるのよ。」


 驚いた。まさかミラに、そんな風に思われていたなんてな。

 見れば彼女以外のメンバー達――ミーシャも、ベレッタも、オルテも揃って頷いている。


 みんな実力もだけど、心も格段に強く成長したみたいだ。

 師匠としても、パーティーリーダーとしても鼻が高いね。


「精霊にも、同胞にも慕われる魔族の男……か。面白い男だ。」


 ミラの答えを聞いて、アレイシャさんがそう呟き、床から立ち上がった。


「良かろう。【神樹の森】のエルフ族を導く巫女の長として、其方(そなた)……マナカ・リクゴウに【神霊樹の祠】の試練を受けることを許可する。」


 こうして長い話し合いの末に、俺はようやく最後の目標まで辿り着くことができたのだった。




真面目な会議パートがようやく終わりました!


次回、【神霊樹の祠】攻略です!

お楽しみに( ✧Д✧) カッ


「面白い」、「続きが気になる」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価をお願いいたします!


励みになりますので、感想、ブクマ、レビューもお待ちしております!


これからも応援よろしくお願いいたします!


m(*_ _)m


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― 新着の感想 ―
[一言] 面倒臭いエルフは物語の定番ですね。 真日さんも頭を下げていましたし、配下と仲間の人たちはまた、相当な鬱憤が溜まったでしょうね。
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