閑話 Aランク冒険者の逆鱗
どあーっ!? また日を跨いだ!?
読者の皆様、遅くなりました!!
閑話祭り第4弾、投下です!
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 〜
《ダージル視点》
俺はダージル。ただのダージルだ。
Aランクの冒険者をやっていて、【火竜の逆鱗】っていう同じくAランク冒険者の仲間達と組んだパーティーの、リーダーを務めている。
早速だけど、一つ文句を言わせてくれ。
「ちっくしょおおお!? 全然先に進めねぇじゃねぇかよっ!?」
「うるっさいロイド!! しょうがないでしょ!? フィールドが広過ぎんのよ!!」
ああ、俺より先にパーティーの魔法使いのロイドがキレたか。
窘めている斥候のミュゼも、イライラを隠せない様子だ。
俺達は現在、大海原に浮かぶ小島に居る。
正確には、この迷宮の階層いっぱいに広がる海に無数に点在する小島の一つに……だが。
知り合い――っつーか最早腐れ縁の悪友みたいなもんだが――の迷宮の主の魔族の男、マナカの創った迷宮の35階層に到達したんだが、ここまででも非常に苦労した。
この海のフィールドは、31階層から始まったんだ。
そこでまず発覚した問題が、俺達の仲間である戦士のブライアン。
無口で普段は身振り手振りで意思表示をするこの男が、実は酷い船酔い体質だったのだ。
そこで一時撤退して、どうしたもんかとコレまたマナカが創った道具屋で色々漁っていたら、怪しい【酔い止め薬】を手に入れた。
半信半疑で試してみると、効果は抜群だった。効果中は船上での戦闘も問題ないくらいだった。
これで良しと気を取り直し再び船を漕ぎ出した俺達だったが、次に直面したのが、海を進むことの難しさだ。
俺達は冒険者であって、漁師でもなければ航海士でもねぇ。
太陽と海図、そしてコンパスを頼りに慣れない操舵を熟し、波に紛れて襲い来る水棲の魔物と戦い、何日も波に揺られる日々に、どんどん神経も体力も削られていった。
「マナカさんやアザミさんみたいに、飛行魔法が使えたら楽なのにね……」
やめろシェリー。俺だって何度それを思ったことか……!
だが飛行魔法は、俺達人間族や獣人族には難し過ぎる魔法だ。そもそも消費魔力がデカ過ぎるんだよ。
息を吸うように簡単に扱っているマナカと、その配下の九尾狐の獣人――正確には獣人ではなく、人の姿になった狐らしいが――のアザミ殿がおかしいんだ。
なんか最近になって、正体はドラゴンだっていう女の配下が増えてたが……彼女も飛べるらしいな。
まあ、仮に俺らが覚えたところで、まともに使えるのは魔法の専門家のロイドだけだろうよ。
そんな感じで波に揺られ、点在する島々を巡りながら次の階層への入口を探す日々。
持ち物を大量に運べる魔法鞄の中身は殆どが食糧と飲用水。
回遊する巨大なクラーケン――マナカ曰く、ベティちゃんというらしい。知るか馬鹿野郎!――から逃げ、島に着いては陸上の魔物に襲われ、階層を進む事に海が荒れ波が高くなり、襲い来る魔物達も凶暴性を増していった。
遅々として進まない海エリアの攻略に、俺達は確実に、身も心も擦り減らしていたんだ。
嬉しい誤算が二つほどあったが。
一つは、ブライアンが船酔いを克服したこと。
そりゃまあ、連日連夜船に揺られて、その上戦闘も熟していれば克服もするわな。
薬を飲まなくても平気だと分かった時には、メンバー全員で大喜びしたもんだ。普段喋らないブライアンも、大声を上げて泣いていたな。
本人もみんなの足を引っ張っていたと、かなり気にしていたらしい。
あともう一つは、俺達の基礎能力がかなり上がったこと。具体的には、体幹が強化されて重心が安定したことだ。
揺れる不安定な船上で、何度も何度も足を踏ん張って戦闘していたことで、自然と鍛えられていたらしい。
実感したのは、島での陸上戦の時だ。
普段よりも得物の大剣が軽く振るえ、全く身体がブレなくなった。
シェリーは弓の精度が上がり、ミュゼは動きのキレが増し、ブライアンは攻撃の威力が桁違いになったし、ロイドやコリーの魔法職は、動き回りながら安定した詠唱が出来るようになっていた。
これも、マナカが考えるところの試練だったってワケだ。
この迷宮は冒険者達の育成も兼ねているらしいからな。
マナカ曰く、『俺の街を地元にしてくれる冒険者には、強くなってもらいたい』だと。
一つ一つの試練を潜り抜けられれば、確実に実力が上がるように。そう創られているんだ。
迷宮の主が、テメェでテメェの敵を強くしてどうすんだって話だ。
まったく、お人好しめ。
「ですが、実際どうなんでしょう? 海図と見比べても、かなりの距離を進んだはずですよね? そろそろ階層主に近付けているのではないですか?」
僧侶のコリーの言葉に、思考を打ち切って話に戻る。
「そうだな。どうだミュゼ?」
「ダーメ。匂いは潮風に邪魔されるし、気配感知も海の中の魔物が多過ぎて撹乱される。強い魔力は幾つか感じたけどどれも動いてたから、きっと“はぐれ”だね。」
今までに海で遭遇した“はぐれ”……所謂徘徊する強力な魔物は三種。
巨大な烏賊の魔物、クラーケン。
同じく巨大な蛸の魔物、ダゴン。
そして海を漂う海賊船自体が魔物となった、幽霊船。
それ以外にも、島に擬態して獲物を待ち構える島鯨も居たが、それはミュゼの感知能力で回避できた。
人ほどの大きさの魚の魔物の群れが巨大な口に吸い込まれていくのを見た時は、背筋が凍ったぜ。
どこまでも性質の悪い迷宮だぜ、まったく……!
兎に角この海エリアでは、地道に島を辿って探す以外の方策が無ぇ。
このエリアに入ってから撤退した回数は、既に三回だ。
以前みんなと話し合った通り、宿は引き払って住宅を賃貸で借りたし、正式に住民登録もしちまった。
スッゲェ負けた気分だぜこんちくしょう!
移住を決めたことを伝えた時の、あのマナカのしてやったりって顔がムカついて仕方ねぇ!
……まあおかげで、滞在期限に怯えて予定を組む必要は無くなって、本腰を入れて攻略に乗り出せてるんだけどな。
「とは言っても、めぼしい大きな島は粗方巡ったでしょう? マナカさんのことだから、何気ない小さな島こそが正解なんじゃないかしら? 取り敢えずこの如何にもな沈んだ遺跡が描かれた島は、絶対に罠よ!」
この迷宮の攻略に挑戦し始めてから、数限りないほどのマナカの罠に晒されてきた経験上、俺もシェリーの意見に賛成する。
あのマナカが、こんなにも分かり易い出口を用意している筈がねぇ!!
砂漠の時の三角形の墳墓遺跡は、あれ自体がフィールドだったから大丈夫だったけどな。
今回は広い海の上だ。沈んだら一巻の終わりなんだから、慎重に慎重を重ねる必要がある。
「俺もシェリーに賛成。先に小さい島を虱潰しにして、それでも見付かんなきゃ最後にソコで良くねーか? 兎に角一刻も早く次のエリアに行きたい。もう海は飽きた! 魚も暫く見たくねぇ!」
ロイドの意見も尤もだよな。
こうして俺は斥候のミュゼに、小さな島で魔力の大きな所を優先的に巡るよう進路を決めてもらい、再び仲間達と共に大海原へと漕ぎ出した。
「あ、ほ、かああああああああッッ!!??」
「いいいいやああああああああッッ!!??」
「どああああッ!? あ!? おいブライアンが落ちそうだぞッ!?」
「くっそ……! 重いぃぃッ!? ブライアン! アンタ少しダイエットしなッ!?」
「(コクコクっ……!!)」
「「「「いや喋れよッ!?」」」」
いやまあ、なんだ。
当たりを引いたんだが……
「マナカアイツ、絶対攻略させる気無ぇだろおおおおッッ!!??」
波は大荒れ。
豪雨が俺達の身体を容赦なく打ち、暴風が海へと俺達を誘なおうと前から横から叩き付けてくる。
ミュゼは舵取りに掛かりきりで、船が転覆しないように頑張ってくれている。そこらに居る船頭よりもよっぽど上手くなったくらいだ。
ロイドは得意の火魔法を嵐に封じられ、吹き荒れる風と大揺れの船のせいでシェリーの弓矢も安定しない。
クソがっ……!!
必死に甲板に踏ん張って身体を支えて、目指す前方を睨み付ける。
対峙するのは、小島を囲むようにその身体を伸ばす大海蛇。海竜とも呼ばれる、嵐を呼び船を沈めることで恐れられる大型の海棲の魔物だ。
それが鎌首を擡げた先の小島。
その入江には下半身が魚の姿の、見目麗しい一体の人魚姫の姿が見える。
「うふふふ。主が調整してから初めてのお客さんだもの。アタシのペットのドザエモンも、とてもとても大喜びね♪」
暴風や豪雨の中だというのに、ローレライの声はハッキリと伝わってくる。
この声が厄介過ぎるんだ!
『あらあらお客さん!? 嬉しいわぁっ! 誰も来ないし、配置替えで仲間のマーメイドは居なくなってしまったからアタシ、とてもとても退屈だったの!』
島に辿り着いた時は、波は穏やかだった。
入江で岩に腰掛け、尾ビレで海面を叩いて退屈そうにしていたマーメイドは、そう語りやがった。
『ようこそいらっしゃいませ、アタシの初めてのお客さん。アタシの歌を、是非聴いて行って? ペットのドザエモンとも遊んでくれたらアタシ、とてもとても嬉しいわ。』
アイツがそう言った途端海面が盛り上がり、ドザエモン――巨大なシーサーペントが姿を現した。
青空には分厚い雲が覆い被さり、やがて顔を、雨が打ち始めた。
『アタシは【人魚姫のリリス】。アナタ達をアタシのコンサートにご招待するわ。ドザエモンの踊りはとてもとても激しいけれど、沈まずに最後まで聴いて行ってね。一日歌を聴いてくれたら、そして感想を聞かせてくれたら、お礼に先へ行かせてあげる♪』
そんな宣言から始まった嵐の中のコンサート。
マーメイドだと思っていたその人語を操る魔物は、より上位の個体であるローレライだった。その歌声で様々な魔法を行使する、これもまた船乗り達から恐れられている海の魔物だ。
消耗具合から既に半日は経過している筈だが、この嵐でも耳に届く歌声のせいで、調子が狂ってしょうがねぇ!
力がゴッソリ抜けて慌てて甲板の縁に捕まったり、苦し紛れに放った矢や魔法が弾かれたり、突然の眠気に襲われたり……
耳を塞ごうにも、大揺れの船の上で両手が塞がっちまうとバランスが取れねえ。
リリスとかいうローレライは、上機嫌に振付まで熟して歌い続けている。
歌に合わせて踊っている――ホントに踊っているだけで、まったく攻撃してきやしねぇ!?――シーサーペントのドザエモンが起こす大波と嵐に耐えるという、嬉しくも何ともないオマケ付きで。
「死ぬっ! アタイ死んじゃううううっ!! 海の藻屑はイヤだああああッッ!!??」
「諦めないでミュゼ!! 絶対に耐え抜いて、あの男に私の矢をお見舞いしてやるんだからあああッ!!!」
「ああ……なんだか暖かくて、眠くなってきました……」
「今度はコリーが眠りの魔法に掛かったぞ!? ブライアン、ひっぱたけっ!!」
「(コクコク!! バシーンっ!)」
「ぶふぅッ!? ハッ!? 私は、何を!?」
船体が水面の木の葉のようにクルクル回る。
俺達は転がる仲間を支え、身体を浮かそうとする暴風に歯を食い縛って耐え、暴れ狂う操舵輪を必死に身体で押さえ込み、兎に角耐え続けた――――
陽が差してきた。
いつの間にか嵐は止み、海は先程までの大荒れが嘘のように凪いでいた。
甲板に転がっていた身体を揺れる視界に耐えながらなんとか起こし、周りを見回す。
よかった……! 仲間達も全員無事に、甲板の上に居た。
「みんな……生きてるか……?」
身動ぎは確認できるから生きているのは間違いないのだが、思わずそう口走る。
「お、おおう……!」
「なんとか……ね。」
「アタイもう海キライ……見たくもないよぅ……!」
「ははは……気持ち、分かります……!」
「(コクコク……!)」
いや、生存確認くらい声出せブライアン……!
とはいえツッコむ気力も湧かず、折角起こした身体を再び甲板に倒す。
「なんとか、耐え抜いたな……!」
太陽が眩しい。
あの大荒れの嵐に晒されて、丸一日を船の上で耐え切ったのだ。正直眠りたい。
「みんなぁー! 沢山歌を聴いてくれてありがとぉー!! アタシこんなに気持ち良く歌えたの、産まれて初めてよ! とてもとても嬉しいわッ!!」
と思っていたのも束の間。
船の上に、ローレライのリリスが飛び乗って来やがった!?
力の抜けた身体に鞭を打って、背負った剣を抜いてなんとか起き上がって立ち塞がる。
俺の背後では仲間達もヨロヨロと立ち上がり、各々武器を構え始めた。
「そんな怖いお顔しないでよぉ! アタシはお礼を言いに来ただけ。アタシのコンサートに付き合ってくれて、どうもありがとっ♪♪ ああそれとも、もう一回……しちゃう? そうしてくれたら、アタシとてもとても喜ぶわよッ!?」
「いや、ぜってーしねぇよっ!?」
全力で拒否だ、そんなもん!!
もう丸一日もあんな嵐に巻かれたら、今度こそ耐え切れずに海の藻屑だ! そんなのは絶対にお断りだ!!
「あら〜。とてもとても残念だわ。でも、今度からは転移装置で自由に来られるのよね? 気が向いたら、またアタシの歌に付き合ってほしいわ♪ そしたらアタシ、とてもとても嬉しいわッ♪」
なんなんだ、この魔物は……
調整がどうのって言ってたが、前はこんなのじゃなかったってことなのか?
帰ったら文句を言いがてら、マナカに訊いてみるか。
「この島の中央に、洞穴が在るの。そこに突破のご褒美の宝箱と、転移装置と階段があるからね。ほら、早く行かないとまた歌っちゃうわよぉ〜?」
くっそ!
ちょっとは休ませてくれよ……!
「そいつは勘弁だな!? 仕方ない。みんな頑張って行くぞ!」
「島ぁ〜! 陸ぅ〜!! 地面んんんんッ!!」
「早く帰って、揺れないベッドで寝たいわ……」
船を浅瀬に着けて錨を下ろし、小島の地面へと降り立つ仲間達。
俺も、甲板で笑顔で手を振っているローレライのリリスを一度振り返ってから、飛び降りた。
そしてその小島では戦闘も無く、転移装置に階層を登録して、帰還した。
〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃】 〜
今、俺の目の前にはアイツが……マナカが、いつもと変わらねぇ飄々とした笑顔で座って、ビールを飲んでいやがる。
迷宮の35階層を突破し命からがら帰還した俺達は、毎度の如くコイツに文句を言うために、空いている時間を訊ねて呼び出したんだ。
しばらくの間を迷宮の海の上で過ごし、久し振りに街に帰って来た俺達は、ココ最近の情勢の変化や噂話をギルドや街の人に聞かされて、驚いていた。
神皇国ドロメオとスミエニス公国が戦争しただの、挙句負けたドロメオとメイデナ教会が解体されただの、更には初めて聞く北の大陸の大帝国が攻めてくるだの……
俺達が迷宮に潜っている間に、大陸は、世界の情勢は一変していた。
しかもその大帝国とやらとの戦争は、ユーフェミア王国の号令で各国が連合を組み、俺達冒険者にも声が掛かっていると聞く。
更に国王陛下は、マナカと共に戦うと、世界に向けて声明を発表したらしい。
どういうことだと問い詰めれは、返ってきたのはあっけらかんとした、ヘラヘラとした返事。
『いやね、ここだけの話なんだけど、ドロメオの戦争も大帝国の侵攻も、どっちも黒幕は【邪神】マグラ・フォイゾって奴だったんだよね。ダージルだから話すけどさ、ドロメオの企みを阻止したら邪神が現れたもんだから、喧嘩売ってやったのよ。この世界をオモチャにする前に、俺を倒してみろってさ。』
それが、何食わぬ顔でビールとツマミを口に運んでいる、マナカが話したこと。
あっけらかんと、いつもと変わらねぇ顔で、平然と。
「ヘラヘラしてんじゃねぇ……! なんで……! なんで平然としていられんだ!? お前が世界を背負う必要がどこにある!? なんでお前が戦わなきゃならねぇんだよッ!?」
思わずテーブルに拳を叩き付け、怒鳴っちまった。
シェリーが宥めるように立ち上がった俺の肩を掴んでくるが、その顔は俺と同様怒っているみたいだ。っていうか、他のメンツも一緒か。
みんな、コイツに怒りの表情を向けている。
そりゃあそうだ。
俺達は、何度コイツの迷宮に煮え湯を飲まされたか、正直もう数え切れねぇ。それに対してこんな風に呼び出しちゃあ、毎回文句も言ってきた。
コイツとは腐れ縁で、移民の護衛を引き受けた頃からの付き合いで、時には飲んで騒いで、時には命を助けてもらったりもして……
それに……それによ。
コイツの迷宮の攻略に躍起になるのは……楽しかったんだ。
ペーペーの新人の頃に戻ったように、右往左往させられて、罠に脅かされて、魔物に追われて。
でも一つ一つの障害をしっかりと乗り越えれば、確かに昨日の俺よりも強くなれて、それを実感もして。
この街で日々迷宮に潜り、日々成長できている事が楽しく、充実してるんだ。
悔しかったら攻略してみろと挑発されて奮起して、一歩前に進めばまた意地悪く障害が用意されていて。
俺達はそれらを越えてここまで来たんだとコイツに話してやれば、『やるなぁ』と素直に賞賛もしてくれて、また一緒に飲んで。
ずっとこんな日が続けばいいと、そう思っていた。
迷宮の主と、それを攻略する冒険者という間柄だけど。
俺達は確かにライバルで、俺らが攻略するのが先か、コイツがもっと迷宮を成長させるのが先か、勝手だが勝負している気になっていた。
だというのに……!
コイツはそんな俺の、俺達の気持ちなど考えもせずに、死ぬかもしれない大戦さに、その身を投じると言いやがる。
邪神だの、大帝国だの勇者だのと戦うのだと、そう言いやがる。
お前が死んだら、俺達はどうなるんだよ?
お前が死んで、お前も、お前の迷宮も消えちまったら、俺達の目標は……お前の迷宮を踏破するって俺達の願いは、いったいどうなっちまうんだよッ!?
「死ぬかも、しれねぇんだぞ……?」
「かもな。でも、死ぬつもりも無ければ負けるつもりも無いぞ。」
なんでそう言いきれるんだ……!
「どうして……あなたなのよ……?」
「邪神の関与に気付いたのは、俺だからなぁ。」
ふざけんなよ! だからってどうして……!
「王国や連合には、任せられないのですか?」
「ダメだな。少なくとも勇者と邪神の相手は、俺じゃないと無理だろ。」
だからどうして……!
「勝てるのかい? マナカさん。」
「さてなぁ。絶対勝つ……とは、言いきれねぇかもな。」
ふざけんな……! だったら逃げろよ! お前は生きたいんだろッ!?
「旦那が背負う必要が、本当にあんのかよ……?」
「じゃなきゃ、邪神によって世界は滅ぶ。俺は、みんなを守りたい。俺と一緒に生きてくれて、一緒に笑ってくれるみんなを、邪神共の手から護りたいんだ。」
「(…………!!)」
「いやブライアン、喋んなきゃ分かんねぇよっ!?」
……ふざけんなよクソがっ……!
一人でイイカッコしやがって、俺らの気も知らずに、どんどん先へ行っちまいやがって……!!
マジでふざけんなよテメェ……ッ!!
「みんな、しばらく迷宮攻略はお預けだ。明日朝イチで、ギルドに参戦を表明しに行くぞ。」
「は? え? ダージル……??」
マナカめ、面食らっていやがる。ざまあみろってんだ。
それに比べて、仲間達は良い顔してやがるな。
「俺達Aランクパーティー【火竜の逆鱗】は、今回の大帝国との戦さに参戦する。竜の逆鱗に触れたこと。その代償を、邪神だか大帝国だか勇者だか何だか知れねえ野郎共に、骨の髄まで思い知らせてやるぞ。」
「「「「おうッ!!(コクコク!!)」」」」
なんだよマナカ? 何困った顔してやがんだよ?
お前が気にすることじゃねぇよ。
俺達は、自由と自己責任がモットーの冒険者だ。
俺達の願いに水を差した野郎に牙を剥くのも、また自由だろうが。
コイツは死なせねぇし、大陸は護るし、俺達も生き残る。
そしていつか必ず、コイツの迷宮を俺達が踏破して、悔しがるコイツを肴にして酒を飲むんだ。
その未来は、俺達の願いは……!
たとえどんなヤツが邪魔しようが食い破って、絶対に叶えてやるよ……!!
「ダージル……バカだよな、お前。いや、お前らか。」
「うるせぇ。お前にだけは言われたかねぇよ。」
本当に、この大馬鹿野郎が。
マナカは、ビールの入ったジョッキを無言で掲げてくる。
俺や仲間達は、黙って各々のグラスやジョッキを掲げて、マナカのそれへと、ぶつけたんだ。
いやはや、遅くなってすみませんです(´Д`;)
久々登場、火竜の逆鱗の皆様のオコ話でした!
「面白かった!」
「リリス……かわいいじゃねぇか。」
「ダージルいいぞ!」
そう思いましたら、ページ下部の☆から高評価をお願いします!
励みになりますので、感想、ブクマ、レビューもお待ちしております!
これからも応援よろしくお願いします!!
m(*_ _)m