閑話 金髪の王子と、白髪の王子。
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〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃】 〜
《ミケーネ第4王子視点》
「だからよ、そこはオレがまず切り込んで、注意を引き付けたところに魔法攻撃、その後にミハエルが【挑発】でまた足止めで、それで行ける筈なんだよ!」
「何言ってんのよ!? それよりも数を減らすためにまず魔法でしょ!? そんな戦法、数が増えてきたら通用しないわよ!!」
僕はミケーネ。
ミケーネ・ユーフェミア。
ユーフェミア王国の国王の息子で、第4王子なんて肩書きを持っています。
第4王子なんて言っても、まだ僕は7歳の子供だし、家族で一人だけ違う見た目のせいで、お城の誰からも疎まれてきました。
家族みんなは金髪なのに僕だけが白髪という、この見た目のせいで。
「俺もミカエラに賛成だな。最初に大火力で損耗させれば相手は冷静さを失うし、有利に戦闘を進められる筈だ。」
「僕もそう思うよ。確かに僕らの中でユリウスは一番強いし速いけど、多数の敵に突っ込んでもし囲まれたら危険過ぎるよ。魔法の誤爆の危険だってあるんだから。」
「動き回るユリウスくんを器用に避けて魔法攻撃なんて、難し過ぎるよ〜。」
「ぐっ……!」
今僕は、ユリウス兄上の部屋にお邪魔してます。
兄上が学園で出来た友人を紹介する、と言ってくれたからです。
この都市の政庁舎の迎賓室に、緊張した様子で集まってきた兄上の学友達。
双子の兄妹で、名誉騎士の方のご子息のミハエルさんとミカエラさん。
王都の商会の一人娘の、モリナさん。
孤児院出身で、治癒魔法の素養のあるマルコーさん。
みなさん平民であるとのことですが、兄上とも普通にお話ししていて、仲の良さが感じられます。
王城では口数の少ないユリウス兄上が、真剣に意見を出して、また聴いて、パーティー戦術? というものを討論しているんです。
ユリウス兄上はだいぶ変わったなぁ、と思います。
以前であれば、僕のこの白髪を気味悪がって、フリィ姉上やマギー姉上の居ない時に悪口を言ってきたりしていました。
それがあの日以降、口調はぶっきらぼうなままですけど、少しずつ、お話をしてくれるようになったんです。
あの日……マナカさんにお会いしてから。
そう言う僕自身も、マナカさんにこの白髪を綺麗と言ってもらえて、とても嬉しかったです。
隔世遺伝という、医学的なお話をしてくれて、僕の見た目は別に変なことではないと、先祖返りだと教えてくれました。
あの日以来、僕はこの白髪のことが少しだけ、好きになれました。
ユーフェミア王国を築いた偉大なご先祖様と、そのどなたかと同じ髪だと言ってもらえて、誇りに思えるようになりました。
初めてお話をした時に頂いた、このクリーピングウルフの牙で造られたチョーカーは、僕の大切なお守りで、宝物です。
真っ黒な、でも綺麗な牙は僕の白髪と真反対で、僕の頼りない見た目を、ほんの少しだけ強そうに見せてくれている気がします。
「なあミケ。お前はどう思う?」
「え、ええ!? な、なにがですか……?」
ビックリした……!
いきなり僕に話を振ってきたユリウス兄上に、慌てて返事を返します。
「こらユリウス、ミケくんにいきなり振らないの! 困ってるじゃないの!?」
「戦いのことは、まだミケーネ君には難しいんじゃないかなぁ……?」
ミカエラさんとミハエルさんが、心配するように間に入ってくれました。
あ、ありがとうございます……
「そんなことはねぇよ。ミケだって男だ。戦記や冒険譚が好きで良く読んでるんだから、知識くらいは持ってるだろ? 何でもいいから、お前も考えてみろよ。」
そんなことを言われても……
実戦と物語は違うんじゃないかな……?
「え、ええと……相手が少数だったら、ユリウス兄上の策が有効だとお、思います……た、ただ同格以上か、大人数の場合は、新たに練り直した方が……例えば、魔法か結界で分断して、各個撃破とか……」
「「「「………………」」」」
え、ど、どうしてみなさん黙ってしまうんですか!?
ぼ、僕、変なこと言ってしまいましたか!?
「……驚いたな。ユリウスよりよっぽどまともな戦術じゃないか。それに相手によってパターンを変えるのは、ある意味常識だよな。」
「そんなに小さいのに、凄いですねミケーネくん〜!」
あ、あれ……? も、もしかしてこれ、褒められてるの……かな?
「『オレより』は余計だマルコー! いやまあ、確かにミケの言う通りだよな。相手も案山子じゃねぇんだし、先手を取る立ち回りと、相手を分断して機能不全にさせる手筈が必要か……」
「私とモリナで、それぞれ大将と雑魚を狙うってのはどう? 上手く行けば精鋭と雑魚を分断させられるわよ!」
「それで一気に大将首をってか? 発想がおっかねぇなぁ。でもまあ、悪くはねぇな。ミカエラの範囲魔法で雑魚を一掃、モリナの精密な魔法で大将を狙撃……か。」
まさか僕の本で読んだ程度の言葉を、そんなに真剣に考えてくれるなんて……
実戦のことはよく分からないけど、少しでも役に立てたなら、嬉しいな。
それからも、時折僕にも話を振られたけど……ユリウス兄上とその仲間達の戦術会議は、賑やかに続きました。
「それじゃあね! ミケくん、もしユリウスにイジメられたら真っ先に相談しなさいよ! 私が懲らしめてあげるからね!」
「しねーよッ!? ああもう、さっさと宿に帰れ! 今日は休みだったけど、明日はまた兵舎で訓練だからなッ!」
「近々迷宮にも挑戦させるみたいなこと、マナカさんも言ってたもんね。気を抜かないように気を付けるよ。」
「ミケーネく〜ん、また会いましょうね〜♪」
「それじゃあな。」
賑やかなお別れ。
夕方になって、ユリウス兄上の仲間達はこの街の宿屋に帰って行きました。
あんなに賑やかな雰囲気は初めてで、まるで僕にもお友達が出来たみたいでした。
「ふぅ……やっと帰ったか。どうだったミケ? オレの仲間達は。」
「な、仲が良くて、羨ましいなって、思いました……」
怒られるかな……?
あの人たちはユリウス兄上の友人なんだから、僕なんかが割り込んでしまって、不快にさせなかったかな……?
「おう。自慢の仲間達だ。ミケもいつか、あんな風に何でも言い合える友達を作らなきゃな。」
「え……?」
僕に、友達……?
できるのかな、そんなこと。
「何呆けた顔してんだよ? いつかは王族として、国を背負って起つことになるかもしれないんだ。頼りになる仲間は、少しでも居た方が良いだろ?」
そ、そんな先のことなんて……
でも、セイロン兄上は15歳で既に政務を手伝ってるし、フリィ姉上もこの都市の代官として独立していて、この間まで国内の平定任務に就いていたらしいし……
僕にも、そういった仕事が任される時が来るかもしれない。
「で、でも……ユリウス兄上は……? 僕より兄上の方が先に、仕事を頼まれるのではないですか……?」
「オレか? まあ、若返った父上に、オレなんぞの手助けが必要とも思えないけどな。命令が下れば、そりゃあ働くしかないだろうな。今までの行いの償いだと思って、真摯に対応するだけだ。」
兄上のそんな言葉を聞かされて、僕は自分ならどうするのか、どうしたいのか、思わず考えました。
僕はまだ7歳の子供で、ウィリアム兄上やユリウス兄上のように体力に自信は無いし、セイロン兄上のように知恵も働かない。
フリィ姉上のように人望も無いし、マギー姉上のような社交性にも欠けている。
兄弟の誰もが、僕には無いモノを持っている。
「なーにしょぼくれた顔してんだよ? そりゃあな、今までお前に辛く当たって、酷いことも沢山言ってきといて今更だけど、お前は見目も良いし、頭も良い。その髪の色だって、ご先祖の誰かと同じなんだろ? 自信を持てって。」
そう言って、僕の頭を撫でてくれるユリウス兄上。
こんなのは初めての事だったので、僕は思わず、身体を硬くしてしまいました。
「今まで……酷いこと言って悪かったな、ミケ。償いきれるかは分からんが、これから先、何か有れば俺が助けてやる。弟も助けられないんじゃ、マナカに会わせる顔も無ぇしな。だからお前もよ、しっかり前を向いて、歩き出せよな。」
……本当は、怖かったんです。
兄上に呼び出されて、その友人達に囲まれて、また何か言われるかもって……不安だったんです。
僕のことを悪く言って、みんなで笑うつもりなんじゃないかって、そう思ってたんです。
「兄上……ごめんなさい……!」
気付いたら、そう言葉にしていました。
兄上が変わってきていたことは知っていたのに、疑ってごめんなさい……!
「なんでお前が謝るんだよ。悪いのはオレだ。兄上達に追い付けなくて、腐って塞ぎ込んで、末っ子のお前に八つ当たりしていたダセェオレが、一番悪いんだ。ミケ、ごめんな?」
僕の頭をポンポンと叩くユリウス兄上の顔は、本当に真剣な顔で。
どことなくその顔に、マナカさんの姿が重なって見えました。
ああ。
きっと、マナカさんに出会ったから。
マナカさんは、本当に凄い人です。
荒れていた兄上をこんな風に変えてしまって、どんどん強くしています。
全てに怯えていた僕に、こんなに優しく声を掛けてくれるなんて、思ってもいませんでした。
僕自身も、マナカさんと出会って変わったと思います。
以前なら、こんな風に兄上とお話することなんて、出来なかったから。
「たくさん……色んなことを教えてください。勉強も、剣も、学園での思い出も……またこうやって、ユリウス兄上とお話が、したいです……」
泣きそうになる。
だけど、我慢しなきゃ。
兄上が、前を向いて歩けと言ってくれたから。
涙で前が見えなくなったら、歩けないから。
「ああ。オレが教えられることなら何だって教えてやる。面白い話も、ムカついた話も、何だって聞かせてやる。だからさ、お前は、オレみたいにはならないでくれよ。」
再び、ポンポンと頭を撫でられる。
うん、やっぱり兄上、マナカさんに似てきてないかな?
「ふ、ふふふ……!」
「あん? なんだよミケ? 急に笑いやがって。」
あはは。
ごめんなさい。なんだか、可笑しくって。
「なんだか……ユリウス兄上、マナカさんに似てきましたね……?」
「んなッ……!?」
あははは!
ダメだ、可笑しい……!
一度そう思ったら、もう完全にマナカさんの姿が重なっちゃって……ふふっ!
「こらミケ!? 取り消せ! 誰がアイツに似てるって!? おい、ミケ!?」
慌てて僕を捕まえようとする兄上の手をすり抜けて、僕は廊下を走り始めました。
無作法ですけど、今捕まってしまったら、きっとユリウス兄上に前言を撤回させられてしまうから。
まるで、兄のようなマナカさん。
そして、マナカさんのような兄上。
どちらも大切な、僕のお兄さんです。
だから、絶対に撤回はしませんよ。
「待てコラ! ミケ!? 誰がマナカに似てるってんだ!? 撤回しろぉー!!」
いやですよー!
あ、あそこはマギー姉上のお部屋ですね! あそこに避難しましょう!
マギー姉上なら、ユリウス兄上相手でも引けを取りませんからね。
「あ゛ぁ!? こらミケ! マギーの部屋に逃げるのは卑怯だろお前ッ!?」
何とでも、ご自由に!
こんな時、マナカさんなら何て言うんでしたっけ?
ええと……あ、そうだ!
「勝てばよかろう、なのです!」
突然部屋に飛び込んで来た僕を見てビックリした顔をした、マギー姉上の後ろに逃げ込みます。
そして続けて部屋に入って来たユリウス兄上から、笑いながら隠れました。
「てめっ!? お前だってマナカの影響受けてんじゃねぇか!? こらミケ! 前言撤回しろっ!」
「いやですー! 良いじゃないですか! マナカさんは強いし、カッコイイじゃないですかー!」
「な、なになに!? 何なんですのいったい!? ユリウス兄上!? またミケをイジメてるんですの!? いい加減になさいましな!!」
「ばっ!? イジメてねぇよ!? ミケがオレがマナカに似てきたなんて言うもんだから、撤回させようと……!」
「そんなことは家族の誰もが思っていたことですわ!! ミケ、今更撤回の必要なんて有りませんわよ!」
「な、なんだとおおおおッ!!??」
「ああもうっ!! 喧しいですわ! レディの部屋ではしたなく騒ぐんじゃありませんの! ほらミケも! こちらへいらっしゃいな!」
あははは!
こんなに笑うのって、何時ぶりだろう?
ユリウス兄上が居て、マギー姉上が居て。
家族とこうして笑い合って、騒いだのなんて……もしかしたら、初めてのことかもしれないです。
マナカさん。
マナカさんと出会ってから、僕の周りは変わったことだらけです。
そして、それがとても楽しいことだって、今日初めて分かりました。
だから、ありがとうございます。
マナカさんのおかげで、僕は少しだけ、強くなれそうです。
「オレはアイツになんか似ちゃいねぇぇえええッ!!」
「お認めくださいな兄上! 最近の兄上は、義兄上様にそっくりですわ!!」
「認めねええええええええッッ!!??」
「あははははははっ……!!」
ミケーネ王子視点でお送りしました、ホッコリほのぼの回でございました!
如何でしたでしょうか?
「面白かったよー!」
「ミケかわいいw」
「マギーが強過ぎるwww」
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m(*_ _)m