閑話 お兄ちゃんと一日デート。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
新春・閑話祭り第4弾です!
今回は、マナエ主観でのお話です。
どうぞお楽しみください!
〜 ユーフェミア王国 王都ユーフェミア 〜
《マナエ視点》
「むむむ……!? これは、なんとも……ッ!」
出されたケーキの見た目の美しさに、思わず唸り声を上げちゃった。
ショーガラスの中のホールの状態でも綺麗だったけど、カットされた物を観ても、クリームの層、スポンジの層、そして間に挟まったフルーツの層のその配置、バランス、粒の大きさまでもが全て計算され尽くして重ねられている。
「ほう……! マナエを唸らせるとは。ユリウスめ、なかなか良い店を教えてくれたものだな。」
なんかお兄ちゃんのテンションも可笑しな事になってるけど、いやでも此処のケーキ、凄いよ?
ベリー系の果物のその物本来の酸味と、それをコーティングする特製シロップ、そして甘過ぎず上品な味わいのクリームの味が一体となって、スポンジの上で絶妙なハーモニーを奏でているの。
控えめに言って、超美味しいっ!!
「凄いねお兄ちゃん。なんて言うか、ケーキの神髄が詰まっているような、正に至高の逸品って感じだよ!」
「悔しいが認めざるを得ないな。そりゃあ王室料理長も絶賛するワケだ。まさかマナエのお菓子を超える味が、この世に存在するとは……!」
いや、それは言い過ぎだよお兄ちゃん。
あたしだってまだまだなんだから。
「これは全品家族分、お持ち帰り確定だな。」
「だね♪」
あたしは今、お兄ちゃんと二人っきりでお出掛け中。
朝にダンジョンを出発してから、途中まであたしの飛行魔法の練習をして、残りはお兄ちゃんにおんぶしてもらってこの国の王都まで来たの。
そう、デートなのだ!
アザミとシュラはお兄ちゃんと一緒に冒険者登録してるから、よく一緒にお出掛けしてる。
アネモネとイチも、この間ダンジョン攻略に一緒に行ってた。
あたしだけ仲間外れって酷いよ!?
それはもう問い詰めたよね!
フリオールお姉ちゃんにもご協力願って、お兄ちゃんを広いリビングの隅まで追い込んで、小一時間問い詰めたよね!
そりゃあさ、あたしだって分かってるよ?
強くなっているとは言っても、あたしはお兄ちゃんのステータスの下位互換で。
戦闘慣れもしてないし、魔法だってまだまだお兄ちゃんはおろかアザミお姉ちゃんの足元にも及ばない。
それに、あたしはダンジョンコアの化身だから、あたしに何かあっちゃいけないと思われているのも解ってる。
だから危険な他所のダンジョンに連れて行かれなくても、仕方がないとは思う。
でも、そうは思っても納得できないモノはできないの。
じゃあ遊んで! デートしてよ!!
あたしの発した【デート】という単語に何故かフリオールお姉ちゃんがダメージを受けていたけど、無事にこうして、お兄ちゃんを一日中独占する権利を得たのであった……!
いや、そりゃあマスターとコアの関係だから、お兄ちゃんとは一生一緒だけどさ。
それとは別に、寂しいもんは寂しいし、構ってもらいたいじゃん。
そんなこんなで、デートなのですっ♪♪
「へぇ〜! お嬢さんも若く見えるのに、随分と鍛えられているんですね!」
お土産を包んで貰っている間に、店員のお姉さん――このお店の店長さんの娘さんだ――とお喋りするお兄ちゃん。
ちょっと……?
あたしとのデート中って、忘れてないかな……?
〘お兄ちゃん、またナンパ……?〙
念話を使って文句を言う。
〘ナンパじゃありません〜! まあ見てろって♪ ていうか、またってなんだまたって!〙
あ、あの顔はまた悪巧みしてる感じだ。
でもお兄ちゃんがそういう顔をする時は、決まって何か面白い事が起こる。
アネモネはそれに振り回されて大変そうだけど、あたしは実は、結構楽しんでるんだよね〜♪
「実はね、俺の知り合いの街の話なんだけど。まだまだ発展途上でさぁ。ウィール・クレイドルっていう辺境の……ああ知ってる? そう! この国の王女様が治めてる街なんだけど……」
む、この流れ……
もしや、このお姉さんを街に勧誘してる!?
確かにお兄ちゃんの街には料理屋や酒場は増えたけど、嗜好品を扱う所謂お菓子屋さんのようなお店は無いよね。
〘いいぞ、お兄ちゃんその調子!! でも、それを口実にしたナンパにしか見えないんだけどなんでかな?〙
確かにあの街にこんなお店ができれば、とても嬉しいしお菓子作りの研究も捗るね!
やるじゃんお兄ちゃん!
〘おう、絶対に口説き落とすぜ! ……って、やかましいわ! ナンパじゃないの! お店の誘致なのっ!〙
「兄さんよ。さっきから随分熱心に娘を口説いてるみたいだが……?」
げっ!
恐らくはお姉さんのパパさんが、お土産を包んだ袋を持って出現したよ!?
〘お、お兄ちゃん、これ完全にナンパと勘違いされてない!?〙
〘大丈夫だ! 【詐欺師】と【扇動家】の称号が伊達じゃないってところ、見せてやらぁ!!〙
た、頼もしいんだけど悪人の香りしかしないよお兄ちゃん!?
「おお! こちらのお嬢さんのお父様ですか! ということはこのお店のオーナーさんですね! いや、大変美味しいケーキをご馳走様でした!! あんなに美味しいケーキは初めてです! 感動しましたよ!」
うわぁ……! すっごい露骨なヨイショだよ……!
でも、オーナーさんも真正面から褒められて、満更でも無さそうな顔してる。
〘男は単純だからな!!〙
それを同じ男のお兄ちゃんが言うのも、どうかと思うよ。
「お嬢さんにもお話しましたが、俺は王女様の街で顔が効きますのでね。ここは是非二号店として、その街で開業してもらいたいんです! このケーキの味と見た目でしたら、間違いなく天下が狙えますよ!! もちろん店舗の用意も開業資金なんかも、全面的に援助させてもらいますよ!!」
ただの詐欺師にしか見えないよお兄ちゃーんッ!?
「お、お父さん……っ!」
ああ!? お姉さんがちょっと揺らいでる!?
「い、いや待てロレーヌ! そんな美味い話がある訳がねえッ! だいたいアンタ何モンだ!? とてもそんな財力や身分が有るようには見えねぇぞ!」
おお! お父さんはまだ踏み留まってる!
そうだそうだっ! 美味い話にコロコロ乗っちゃダメだぞーッ!
「ふっふっふっ。そう来ると思いましたよ。実は俺は、この国の王家からこんな物を渡されていましてね……!」
お兄ちゃんがどんどん悪役っぽく……!?
取り出したのは……あー、懐かしい短剣だ。
「てめぇ!? 白昼堂々光り物を出しやがるとは、やっぱならずモンの類いかッ!?」
オーナーさんがロレーヌと呼ばれたお姉さんを背に庇い、身構える。
「落ち着いて下さい。今から柄を貴方に持ってもらいます。さあ、鞘から抜いて、魔力を通してみてください。」
そう言って、お兄ちゃんが鞘の下を持って短剣の柄を差し出す。
「呪いの付いた魔剣とかじゃねぇだろうな……?」
オーナーさんは、恐る恐る柄を握り短剣を引き抜いた。そして言われた通りに、刀身に魔力を通し始める。
すると、魔銀で出来た刀身が淡く輝き出し、ある紋章を浮かび上がらせた。
「こ、こりゃあ……ッ!?」
浮かび上がった紋章は、王都に住む人なら誰でも知っている見知った物。
このユーフェミア王国の、王家の紋章だった。
〘お兄ちゃん。これ最後に使ったのって、いつだっけ?〙
〘んー? 確かにエラく久々だよな。えーっと……一番最初の、移民団と合流する時だったかな?〙
一年近く前じゃん。
折角王様がくれたのに全然活躍してないなんて、可哀想な短剣だね……!
「間違いねぇ……王家の紋章だ。アンタ、コイツを何処で……?」
「友好と信頼の証に、国王様に貰ったんですよ。」
うん、嘘は言ってないよね。
まあ、お兄ちゃんは最初から嘘は一切言ってないけど。
「……王家の紋章の偽造や詐称は、極刑モンだ。それが判らない男には見えねぇな。ってことは、本物ってことかよ……!」
「そうですね。他言無用をお約束いただけるなら、もう一つ。俺の一番の秘密を明かしますよ?」
グイグイいくね、お兄ちゃん。
よっぽどケーキが美味しかったんだね。あたしもケーキのお勉強したいから、頑張って!!
「……豊穣の女神ユタ神と、王家に誓おう。秘密ってのはなんだ?」
お兄ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
そして徐に、掛けていた隠蔽魔法を解いて見せた。
「自己紹介しよう。フリオール王女が治める街の創造主、迷宮の主のマナカだ。俺もこの妹のマナエも、アンタ達の作るケーキが気に入った。俺の街で、新しく店を開いてほしいんだ。」
露になった角や尖った耳を見て、呆然とするオーナーさんとお姉さん。
「店も設備も店員も用意しよう。材料だって知り合いの商会に都合を着けてもらえる。どうだ? 娘さんの独り立ちと腕試しに、ピッタリじゃないか? 何だったら、俺がオーナーとして雇ってもいい。余計な事は気にせずに、存分にその腕を揮ってほしいんだ。」
オーナーさんは、開けっ放しだった口を閉じて、真剣な顔つきになった。
「お前さんが、あの話題になっていた迷宮の主だとはな。それに、俺んとこのケーキを、そこまで気に入ってくれたのか……」
「ああ。俺はマナエが作るお菓子が世界一だと思っていたけど、今日はそれを覆すほどの衝撃を受けたよ。なあ、マナエ?」
「うん! あたしも身近にこんな美味しいお店ができたら、とっても嬉しい! お姉さん、是非あたしたちの街に来てよ!」
あたしも追い討ちに参加する。
〘勝ったね、お兄ちゃん!〙
〘いやまだだ。勢いだけじゃあ覚悟が伴わない。俺は、心から街に来たいと思ってもらいたい。と、いうワケでだ。〙
「今すぐとは言わないよ。ゆっくり親子で話し合ってほしい。お金の心配は要らないし、絶対に娘さんのことを守り通すと、約束する。」
お兄ちゃんが無限収納から紙と便箋とペンを取り出して、何かをサラサラと書き出す。
「【アグネルージュ商会】って知ってるよな? ドットハイマー子爵令嬢が代表を務める商会で、王都にも支社が在った筈だ。決心が着いたら、そこにこの手紙を持って行ってくれ。俺の名前での紹介状になってるから。代表のアグネスには、便宜を図って貰えるよう俺から頼んでおくよ。」
おお! 一旦引いて見せるんだね!
その上で有力な商会との繋がりをチラつかせて、話に説得力を持たせてくるとは……やりおる!
〘お兄ちゃん、交渉事にだいぶ慣れたねぇ?〙
〘そりゃあ、王様やらギルド関係者やらと何度も話してりゃあな。まだまだ勢い任せだけど。娘さんにとって今回のデメリットなんて、親と離れることだけだからな。それを上回るメリットくらい、俺なら用意できるさ。〙
“可愛い子には旅をさせよ”、って言うもんね。
さすがお兄ちゃん! 女の子の攻略が上手だよね!
〘なんか、失礼なこと考えなかったか?〙
〘いいえなんにも?〙
「……分かった。行かせるとなったら、アグネルージュ商会に出向けば良いんだな? ちぃっと、家族で話し合わせてくれ。」
おお、オーナーパパにも好感触だよ!
ロレーヌお姉さんも、なんだかワクワクしてるみたいっ!
「ああ。急がせはしないし、家族でゆっくり相談してくれ。お互いにとって良い結果になるよう、期待してる。それと、今日はご馳走様。」
お兄ちゃんは再び隠蔽魔法を掛けて人の姿に戻った。
そのまま嫌味にならない程度多くお金を支払って、お土産のケーキを無限収納に仕舞って、あたしと手を繋ぐ。
「それじゃ、ロレーヌさんって言ったかな? 俺たちの街で会えることを願ってるよ。お邪魔しました。」
「ご馳走様でした〜♪」
最後は二人揃ってお辞儀して、手を繋いだままお店を後にする。
そのまま、王都の散策だ。
「来てくれるといいね、お兄ちゃん♪」
「そうだな。あの味は、他所に取られるのは惜し過ぎるもんな。良い結果になることを祈ろうな。」
それからも、色んなお土産屋さんや雑貨屋さん、服屋さんやお酒屋さんを見て回って、沢山お買い物もした。
新しい服や帽子、靴なんかも仕立てて貰っちゃった♪
この世界の衣服だって、高級な生地や糸、それに確かな技術を使えば、お兄ちゃんの前世の現代日本でも、充分通用するような服が作れるんだよ。
受け取りの日にもまたデートするって約束したし、今日は本当に楽しかったぁ♪
帰りには、前にワイバーンの巣が在ったって林を確認しに行って、異常が無いのを確認してから魔法の訓練を見てもらったよ。
お兄ちゃん曰く、魔法はイメージが総て。
お兄ちゃんの付きっきりの指導のおかげで、使える魔法も増えたし、戦鎚を使った接近戦でも応用の目処が立ったの。
やっぱり、お兄ちゃんって凄いね。
その後は魔力切れで気分が悪くなっちゃったけど、お兄ちゃんがずっと抱っこしてお空を飛んでくれた。
夕焼け空が、とってもキレイだったなぁ。
次のデートが、今からもう待ち遠しいよ!
あたしはウトウト眠りながら、お兄ちゃんと家に帰ったの。
お兄ちゃんとのデートから三週間後。
アグネルージュ商会の定期便が到着して、あのケーキ屋さんのお姉さん――ロレーヌさんがあたし達の街、ダンジョン都市【幸福の揺籃】にやって来たの!
あたしはお兄ちゃんと一緒にお出迎えして、早速新しいお店の案内や設備の説明をして、従業員の募集もかけたよ。
ロレーヌさんは、オーナーパパさんに涙ながらに見送られてきたらしい。
その顔はやる気に満ちて、キラキラ輝いて見えた。
一週間程準備して、めでたくオープンを迎えたんだ。
お店の名前は、【スタボーン・パパ】。頑固なお父さんって意味なんだって。
あのオーナーパパさんが怒りそうだね……!
考えたのはお兄ちゃんかと思ったけど、ロレーヌさんが原案を出したみたい。
大人も子供も気軽に入られて、とっても美味しいケーキとお茶を出してくれる素敵なカフェが出来上がりました。
女の人や子連れの家族さんで、連日大盛況だよ!
勿論男の人だって来てるけどね。
あたしもコリーちゃんやクロエを誘って、また行こーっと!
みんなの街のケーキ屋さん、その名は【頑固なお父さん】www
如何でしたでしょうか?
「マナカさんマジで詐欺師みたいw」
「マナエさんもっと活躍して!」
「少女とデートとか許せん、お巡りさん!」
と思いましたら、ページ下部の☆から、高評価をお願いします!
励みになりますので、感想、ブクマもいつでもお待ちしております!
閑話リクエストも、あとひとつでしたら対応しますよ〜♪
m(*_ _)m