第十四話 クエスト達成、かな?
いつもご愛読下さり、ありがとうございます。
〜 ダンジョン【龍の巣】 〜
これ絶対パーティー攻略の対象じゃねえよな!?
MMORPGとかだと、絶対レイド級のボスだよな!?
「頭! これじゃあ攻めるに攻められやせんぜ!」
イチを始め、アザミもシュラも爆炎の向こうを睨んでいる。
みなさんごきげんよう。
ダンジョンマスターのマナカだよ!
俺は今、都市より巨大な龍が放つとんでもなくデカい火球を結界トーチカに篭って凌ぎつつ、ブラックホークがダウンしたかのような気分を味わっております!
『その程度であるかっ!? この小童があっ!!』
全方位に向けた咆哮に乗せた念話が、頭の中に響く。
奴さんはプンプン丸だ。
まあその要因も責任も、当方に過分に在るという見解も無きにしも非ずなんだけど…………!
◆
『さて、どうしたもんかね……?』
俺達は、眼下に広がる光景を見ながら、思索を重ねていた。
『折角寝ているのですから、このまま強力な攻撃魔法を叩き込んでは?』
アザミ、いつからキミはそんなに物騒なことを言う娘になったの!? マナカさんは悲しいよ!
……あ、割と最初からそうだったね。
『話の分かる奴だったらどうする? 不意打ちかましてから協力しろなんて言えるほど、俺は面の皮が厚くないんだけどな。』
まず不意打ちは却下だな。
次に口を開いたのはイチだった。
『あっしが出向いて、話ィ着けて来やしょうか? なぁに、決裂したらそん時ゃそん時でさぁ。』
うん、にこやかに笑ってるつもりだろうけど、却下だ!
刃傷沙汰になる気しかしないよ、その笑顔は!?
『仲間を独りで行かせられるか。ダメだ、ダメ。』
と、尤もらしいことを言って退ける。
『真正面から行って、声を掛ければ良いのじゃ。話が分かればそれで良し。そうでないのなら、戦さ有るのみよ。』
はあぁ……!
シュラに言われるのはなんだか釈然としないが、結局はそうなるか。
俺達は結局、四人揃って盆地へと降り立ち、未だに眠り続ける巨大な龍へと歩みを進めた。
『んで、どうやって起こす?』
別に気配を殺したりもせずに近付いたというのに、龍に起きる様子は無い。
『やはり魔法で……』
『却下。まずは穏便にいきたいの。』
皆まで言わせずにアザミを留める。
ちなみに俺達、寝息を立てる龍の鼻先から10メートルほどの距離で、普通に喋っております。
『起きるまで話し掛けるかのう。あまり大声では、却って機嫌を損ねるやもしれんが……主様。ちいと鼻先殴っちゃダメかのう?』
『アホかっ! そんなことすりゃ怒髪天だろうがっ!?』
途中までマトモなことを言っていたのに、やはりシュラはシュラだった。
『おい主様よ。お主また何ぞ、失礼なことを考えたじゃろ。』
顔を逸らしてシュラのジト目から逃げる。
ソンナコトカンガエテマセンヨー。
『やはりここは、面と向かって声掛けるしかありやせんぜ。』
やっぱそうだよね、イチ。
『んじゃ、早速起こしてみるか。』
『では、先ずはアザミが。』
念のためもう少し近くまでみんなで近寄り、アザミが一歩前へと進み出る。
『お休みのところ失礼します、【龍の巣】の主殿。起きてください。』
鼻先に立って声を掛けるアザミ。
しかし、ピクリとも反応しない。
『次はあっしが。ちょいとダンナ! 起きてくださいやせんか!』
先程のアザミよりも、大きな声で呼び掛けるイチ。
お? ちょっと身動ぎしたかな?
しかし……起きる様子はない。
『むぅ、寝坊助じゃのう。どれ、儂の番じゃな。』
引き下がったイチと交代で、龍の鼻先に立つシュラ。
『これ、龍王よ! 起きぬか!! 客が来とるのじゃぞっ!!』
結構デカい声でいったな。
おお、動いた動いた!
龍は先程のように身動ぎしたかと思うと、前脚を持ち上げて、それをシュラに振り下ろした――――って、おいおいおいいいッ!?
『のわっ!!??』
間一髪。両手をクロスしたシュラの目前に、結界を張ることに成功した。
凄まじい轟音と砂埃の舞うそこに、無事に立っているシュラを確認する。
て――――
『てんめええええええッ!! ヒトの家族に何してくれてんだああああッッ!!!』
結界をピンポイントで拳に纏う。
一足で踏み込み、全体重プラス【魔力纏い】と結界を張り巡らせたその拳を、未だに寝こけるその鼻先に叩き込む。
障壁を破る感覚に続いて肉の塊に拳がめり込む感触が、鈍い轟音と共に俺の身体に伝わった。
『マナカ様!?』
『ぬ、主様あああッ!?』
『ちょいと頭ぁ!? あー、やっちまいやしたね……っ!!』
『…………あっ。』
ピシリと固まる場の空気。
恐る恐るみんなで距離を取るのと。
『グ……グギャアアオオオオオオオオッッ!!??』
龍が痛みで飛び起きるのは、ほぼ同時だった。
◆
はい、俺のせいでした! ごめんなさいっ!!
いやだってアイツ、シュラのことを蚊か何かみたいに潰そうとしたんだもん。
いくら温厚な俺だって、怒ったって無理ないよねっ!
「こら主様! そっぽ向いとらんと、早う何とかするのじゃ!! 主様が怒らせたんじゃぞっ!?」
うぐっ……!
シュラめ、お前を思う俺の気持ちが解らんのか!?
ってもう、はいはい。俺が悪かったですよ!
「ったく。図体デカいくせに、堪え性のない奴めっ!」
さて、この集中弾幕をどう捌くか……
ここは……アレかな。
「【欺瞞工作】!」
普段は魔力や容姿の隠蔽に使っている【欺瞞工作】で、俺たちから離れた位置――奴の背後に魔力を飛ばし、俺そっくりの魔力反応を創り出す。
『ぬっ!? いつの間に背後に!?』
奴の砲撃の矛先が、即座に俺たちから背後の魔力反応に移される。
今だ!
「みんな行くぞっ!」
弾幕が逸れた瞬間に俺は結界を解いた。
仲間たちがすぐさま飛び出し、奴に殺到する。
『ぬうう!? 小童めが、謀ったのであるな!?』
上手くいったな。
俺たちは即座に散開して、奴に的を絞らせないよう動き回る。
一番槍は、アザミだった。
「【雷轟】!!」
収束された稲妻が、一直線に龍の顔目掛けて疾走する。
狙いは正確で、一点に集中した雷魔法が龍の右眼を灼いた。
『グオオオッ!?』
眼球を灼かれた痛みに、龍の顔が背けられる。
「シイィィッ!!」
初撃に続いたのは、イチだ。
龍に比べれば人対蟻よりも小さいんじゃないかとは思うが、イチは刀に魔力を纏わせ、その魔力で刃を形作ってリーチを伸ばし、ガラ空きとなっていた首から下の胸部を袈裟に斬り裂く。
『ガアッ!? お、おのれ小賢しいッ!!』
もたげていた首を堪らず下げ、前脚の爪を振るってイチを追い払うが、首と一緒に頭も下がっている。
そこへ大きく跳躍していたシュラが、拳に全力の魔力を纏って躍り掛かった。
「さっきはようもやってくれたのう! お返しじゃっ!!」
鉄拳制裁。
正にそんな一撃が、再び龍の鼻先に叩き込まれた。
『うごッ……!!??』
その威力と衝撃は凄まじく、龍の頭は一瞬にして大地に叩き付けられ、めり込んだ。
それだけでなく、めり込んだ反動で周囲の地面が逆に隆起し、龍の頭部を中心にして、ゴツゴツとした岩盤の壁が出来たみたいだ。
「【連顎の縛錠】!」
丁度良く頭が地面に降りてきたので、俺は龍の上顎と首を結界で創った巨大なホチキスの針で大地に縫い止める。
もちろん大地に刺さってから変形させて、内側に折り込んで噛ませてあります。
龍の頭のホチキス止め、完了っと。
あとは……
「もいっちょ! 【連顎の縛錠】!」
空に舞い上がって、龍の巨体を視界に収める。
そして、藻掻きのたうち回る長大な尾を、根元から順にホチキス止めして大地に縫い付ける。
「これで仕上げっと。【拘束の輪】!」
忙しなく羽ばたこうとする巨大な二枚の翼を、それも根元から結界の輪で束ね、巻き取り、動きを封じる。
【覇龍王グラシャラボラス】、生け捕ったどー!!
『ぬぐおおおおッ!? 放せっ! 放すのであるッ!!』
深く曲がっている四本の脚だけでは力が足りず、それでも必死に身体を持ち上げようと藻掻く、グラシャラボラス。
うん。尻尾の先っちょだけビチビチ動いてるの、ちょっとかわいいかも。
「落ち着いてくれ、【龍王】さん。お互いにもう充分力は振るっただろ? 少し話をしようじゃないか。」
縫い止められた頭の近く、無事な左眼に映るように浮かびながら、そう語り掛ける。
『何を話すことなど有るか!! 吾の居城に入り込み、あまつさえ眠りを妨げよった賊めが!!』
うん。そうド正論で来られると、ちょっと返答に困っちゃうかなー。
だがしかしだっ!!
「だから落ち着いてくれって! そりゃ安眠を妨げたのは悪かったって! でも、そっちが先に寝惚けて攻撃してきたんだぞ!?」
『知ったことかあっ!! ならば起きるまで待っていれば良かったであろうが!! 吾は三度の飯より睡眠が好きなのであるぞッ!?』
「てめっ……! んなことこっちこそ知るか!! 一応優しく声掛けたってのに……っていうか侵入者が来たのに寝こけてる方がおかしいだろうが!?」
『吾は一度の睡眠は100年間と決めておったのである!! それは何より優先すべき事柄なのであるッ!!』
「だったら立て札に『いついつ起きます!』とでも書いとけやこの不精者の不親切トカゲがあっ!!」
『カッチーン!! 小童が、よくもこの古代真龍に向かってトカゲなどと言いよったのであるッ!? この吾の爪の垢よりも矮小な木っ端悪魔が!!』
「ムッカーッ!! てめぇなんかゴロゴロし過ぎてブクブク太ってるだけじゃねぇのかこの超肥満トカゲっ!!」
『なんだとおおおおおっ!!??』
「やんのかこらあああっ!!??」
そしてその時、雷が落ちた。
俺と、龍の両方に。
うん、ガチのヤツ。
「双方、見苦しいです!」
「まったくじゃ! 主様も主様じゃが、龍王も龍王じゃっ!!」
「アネモネの姐さんが居なくて良かったですぜ……危うく血の雨が降るところでやした。」
上顎を縫い止めているホチキス結界の上に立ち、口々に俺たちを非難する俺の仲間たち。
いや、なんでえっ!?
コイツを黙らせるなら解るけど、なんで俺まで一緒に撃ったの!? 超痛いんですけどおっ!?
『アガガッ……! な、なんなのであるか!? 貴様ら、仲間ではないのであるか!? 仲間ごと撃つなど、正気か貴様らッ!?』
おう、言ってやれ言ってやれグラシャラボラス!
「マナカ様の故郷の言葉に、“喧嘩両成敗”というものが有ります。というか、話が進みません!」
「喧嘩は話の後で存分にすればよかろう。というかその時は儂もやるぞ。先に手を出されたのは儂じゃから、主様は儂の後じゃ。」
「シュラの姉御、今はそういう話は置いときやしょうぜ。頭、早ぇとこ、話ィ着けましょうや。」
な、なんて奴らだ……!
主である俺に牙を剥いておきながら、悪びれもしないだとおッ!?
『なあ、こ奴ら貴様の配下なのであろう……? なのにコレって、貴様主としてどうなのであるか……?』
「奇遇だなグラシャラボラス。俺も、主の存在意義を見失い掛けているところだよ……!」
うん。アザミさんって、偶にそういうとこ有るんだよね。
フリオールとの喧嘩の仲裁の時も、二人まとめて水ぶっ掛けられたし。
閑話休題です(By アザミ)。
「――――ってな訳で、ここに転移して来ている筈の魔族達を、保護させてもらいたい。その上で、俺のダンジョンと繋ぎたい。」
両成敗されたおかげで、なんとか俺は目的を伝えることができた。
『ほうほう。吾が寝ている間に、そんな面白い事になっておったのであるか。』
うん。落ち着いてみればコイツ――グラシャラボラスは、なかなかに話せる奴だったよ。
ってか、面白がるんじゃありません。
こっちは必死なんだっつの。
『そういう事情なら、貴様のダンジョンと繋ぐのも吝かではないのである。邪神とはまた、きな臭い話であるしな。』
おお! まさかの協力の申し出か!?
「それならっ――――」
『ただし、であるッ!』
えーなんだよー遮るなよー。
そこはアッサリいってくれよー。
『何か、吾に貢ぐのである。宝物でも良いし、食べ物でも良いぞ。それに吾が満足出来たなら、吾は貴様の軍門に降るのである。いつか戯れに世界を焼こうとして以来、少々運動不足気味であるからな。』
ほほう。
これは、面白いことになったな……!
「良いだろう。その勝負、受けて立つ!」
あ、その前にお前って、【人化】できるよな?
そうそう。やっぱお楽しみは、人間サイズでこそ楽しめるってもんよ。
そして……
「な、なんなのであるかこの甘露はああああッッ!!??」
はい俺の勝ちー。
まあ正確にはマナエのお菓子の勝ちだけど。
良いんだよ! 仲間の力も俺の力だもん!
「これ! これは、なんという食べ物なのであるかッ!?」
「ふっふっふっ。それは、【マナエ特製マカロン】だ! どうだぁ〜? 大人しく我が軍門に降れば、毎日こんな美味しいお菓子が食べられるぞぉ〜?」
「降る! 降りまくるのであるッ!! 約束であるぞ!? ちゃんと毎日食べさせるのであるッ!!」
覇龍王さん超絶チョロイン。
人の姿になった……とは言っても、角と翼と尻尾は引っ込められないみたいだね。
しかしその姿は……ヤバい程の美女!
見た目の年齢は、19〜22歳くらいかな……ってか、お前雌だったのかよッ!? そっちにビックリだわ!!
濡れ羽色の艶やかで真っ直ぐな長髪の中から、捻れた角が二本天を衝き、俺とどっこいな女性にしては長身の細身。
控えめな胸をしているが決して貧相に見える訳ではなく、むしろそれが流れるようなスレンダーなモデル体型の要になっている。
身を包むのは深紅のドレス――マーメイドタイプって言うのかな?――で、肌にピッタリとフィットしたデザインが、余計にその体型の美しさを引き立てている。
アザミに灼かれた右眼は【再生】スキルで既に完治しており、匠が綿密な計算の下に配置したかのような整った顔は……だらしなく蕩けていた。
「おい。食い終わったならまずは支配させてくれ。そしたらお代わりもあげるから。ダンジョンコアは何処だ?」
マカロンを粗方食い尽くしたグラシャラボラスに、そう訊ねる。
コイツ……菓子だけでなく、ちゃっかりアネモネのお茶も堪能してやがる。
まあ、美味いよなぁ。
アネモネのお茶の信者が増えて、俺も嬉しい限りだ。
「んん? おお、そうだったのである。こっちである。」
キリの良いところまでお菓子とお茶を堪能した彼女は、ついて来いと言ってから、盆地を囲む山の一角に足を向ける。
ついて行くとやがて岩の山肌が剥き出しになった場所に辿り着き、そこの一部に、ポッカリと穴が開いているのが確認できた。
「どのくらい前だったか、貴様が話した魔族の男が来てな。国宝をくれてやるから、ダンジョンを使わせろと言ってきたのである。この穴はそ奴が新たに創り、ダンジョンコアや吾の収集品を安置したのである。避難した魔族達とやらは、更にその奥に居るようであるな。」
恐らくはダンジョンメニューを開いて確認しているのであろう。
そんな彼女の先導で、俺達はその穴に踏み入った。
そこは、宝物殿という名前がピッタリな空間だった。
整然と陳列された数多の宝物が、ダンジョンの薄明かりを強調して反射し、色とりどりに煌めいていた。
そしてその部屋の中央に、豪奢な台座に安置されたダンジョンコアが在った。
覇龍王と口喧嘩する公爵級悪魔。
字面だけ見ると、凄いパワーワードですね!w
「戦ってねぇwww」
「アザミさんェ……www」
「覇龍王チョロ過ぎん?www」
と思われましたら、ページ下部より★★★★★評価を下さい……!
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本業の仕事納めって、今日なのかなぁ……と辟易しつつ、皆様の応援を励みに、更新頑張りまっす!!
m(*_ _)m