第十一話 裏を返せば、こうとも言えるわけで。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
〜 ダンジョン【愚者の塔】 〜
《それじゃあみんな、この魔法陣に入ってくれ。向こうでセリーヌ王女が待ってるから、慌てずにちゃんと話を聴いてくれよ。》
無事に保護した魔族の避難民達を、転移装置で順番に、俺のダンジョンへと送り届ける。
アザミ、シュラ、イチの3人のおかげで、【愚者の塔】の攻略は、アッサリと終わった。
うん、50階層が終点だったんだよね。
報告を受けて、急いで合流したんだけど、その時には既に守護者を打ち倒して、ダンジョンマスターと対面していたんだ。
聞くとこのダンジョンでは、主に物質系の魔物が多かったらしい。
リビングアーマーやリビングソード、宝箱や扉に擬態したミミック、それに色んな材質のゴーレム達が出て来たそうだ。
守護者は4体のゴーレムで、ミスリルゴーレムが1体と、ゴールデンゴーレムが1体、シルバーゴーレムが2体出て来たらしい。
どんな風に倒したのか説明してもらったけど、思わず相手のゴーレム達に同情してしまった。
いや、うん。
俺が出がけに言った、『くれぐれも気を付けて、安全に攻略を進めるように』という言葉を守った結果なんだけどさ。
先ずシュラが先頭に立ち、ゴーレムを1体殴り飛ばします。
それをイチがバラバラに斬り刻みます。
そして、アザミが極大の雷で消し炭にします。
それを4回繰り返したのだという。
1対3×4回という、傍から見たらイジメのような倒し方をしたそうな。
ゴ、ゴーレムさーーんっ!!
まあ冷静に分析すると、相手の動きが遅いから成り立った戦法ではあったよね。
そして作戦の立案者は、シュラだった。
うん、シンプルだけど良い作戦だったと思うよ。
ただの腕力バカの戦闘狂が、よくぞここまで成長したもんだ。
「主様よ。なんぞ、今儂をバカにしとらんかったか?」
「ははは。まさかそんな。」
危ねぇ。
いい加減この、すぐ顔に出ちゃう癖をなんとかしないと。
1年程の付き合いで、どうも俺の考えていることは、ほぼ筒抜けってくらいに読まれてしまっている。
アネモネさんなんかは、読心術レベルで当ててくるしさ!
「ねーねー、ますたぁ!早く強い守護者ちょーだいよー!」
おっと、そういえば忘れていたな。
俺の周囲をグルグルチョロチョロ飛び回るソイツに、顔を向ける。
「分かった分かった。それで?またゴーレム系で良いのか?」
俺がそう訊ねた相手は、この【愚者の塔】のダンジョンマスター。
妖精族の【ルプラス】だ。
妖精なだけあって、イメージ通りに小さい身体をしていて、背中には4枚の薄羽が忙しなく、しかし不思議と音も立てずに羽ばたいている。
「うん!アタイゴーレムが好きなの!だっておっきくて強いし、カッコイイもんねっ!」
ふむ。
なかなかいい趣味をしている妖精っ娘だな。
「いいだろう。ならばとっておきを見せてやる!」
ついつい俺もノッちゃって、変なテンションでダンジョンメニューを操作した。
この妖精ってば、壊したゴーレムの代わりにもっと強いのをあげるって言ったら、アッサリ俺の支配を受け入れたんだよね。
シュラ達に容赦なくゴーレム達が壊されて、かなり落ち込んでいたらしくて、イチがあやすように『嬢ちゃん、あっしらの頭なら、もっと強ぇゴーレムを創れやすぜ?』って言ったら、コロリと陥落したらしい。
それでいいのか?
いやまあ、簡単に済んで助かるんだけどさ。
さて、素体の選択はコレで良いとして、だ。
「よーしルプラス。今から度肝抜いてやるから、一旦目隠ししてろよー?」
俺はふと思い付いた事を実行するべく、ルプラスに目隠しを指示する。
「えーなになにー?!分かったから早く早くー!!」
ノリノリだな、お前。
ちゃんと目隠ししたのを確認して、俺は選んだゴーレムを召喚。
続けて魔法で、チョチョイとなーっと。
うん、パーペキだ。
「よし!刮目せよルプラス!これが、お前の新たな力だ!!」
「……お、おお!?ぬおおおおおおおおおおっ!!??」
ソロリ、と目隠しの手を退けたルプラスは、身体全部を目一杯に使って驚きを表現する。
「しゅ、しゅごおおおおいっ!!なにこれ、なにこれええ!?ヤバい!キレイ!!カッコイイイイイィィッ!!!♡♡♡」
ふふん!
見たか!感じたか!!
これぞ【オリハルコンゴーレム Ver.戦乙女】だ!!
魔白金で造られたゴツゴツとした武骨なフォルムを、造形魔法でシャープな八頭身の女性型に形成し直し、流れる柔らかい銀髪は細かく編んだ魔銀製の糸で表現。
そしてそのモデルのような身体にピッタリとフィットする甲冑は、魔黒金製だ。
手には輝きを放つこれまたオリハルコン製の、所謂コルセスカと呼ばれる、穂先が両刃の刃と、翼のような形状の刃で構成される槍を装備している。
「しゅごい……!ますたぁ、大好きっ!アタイますたぁに一生ついてく!!」
うむ、苦しゅうないぞ!
もっと敬うがよい!
「なんじゃこの茶番は……」
こらそこシュラ!
折角の良い気分に水を差すんじゃない!!
とまあ、そんなこんなで無事に【愚者の塔】の攻略は終わり、現地のギルド支部に安定した旨を報告して、俺達はコッソリと、ダンジョンの転移を使って、帰路に着いた。
ちなみにあのオリハルコンゴーレムだけど、ルプラスとの熾烈な言い合いの末に、【ベリオロッサ】という名前になった。
うん、余談だけど。
〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃】 政庁舎 貴賓室 〜
「それでそれで!?どうなりましたの!?」
好奇心に満ち溢れた瞳を輝かせて、身を乗り出して話の続きをせがむ、少女と少年。
マーガレット・ユーフェミア第2王女と、ミケーネ・ユーフェミア第4王子。
その2人に挟まれて、俺は今までにしてきたことをお話ししていた。
ダンジョンをまたひとつ攻略し、踏破してくれたアザミ達を労って休息を取るように言ったら、家族総出で、俺も休めとお達しを受けたのだ。
そこで息抜きがてら、王様から保護を頼まれた彼の幼い家族達の様子を見に来たんだけど。
俺の遍歴に興味津々なマーガレット――マギーと、躊躇いながらも俺の服の裾を引くミケーネ――ミケの2人の手から逃れられずに、こうしてお話を聴かせている、というわけだった。
くっそ!可愛いなぁこんちくしょうめっ!!
「それでな?支部長室に連れて行かれて、初めて【破壊神】に会ったんだ。コイツはただモンじゃねぇなって、直感したよ。ビシバシと、強者の威圧ってヤツを感じたんだ。」
今話しているのは、俺が冒険者になった時、その後のコリーちゃんとの出会いの場面だ。
「ふあぁぁ……!」
「凄いですわ!冒険者となったその初日に、あの元Sランク冒険者である【破壊神】コルソンに、直々にお呼びを受けるだなんて!!」
まあ、ザックリとした話だけどね。
うん。
世の中には、君らみたいな純粋な子は知らなくてもいい事が在るんだ。
特に漢女族とか、オネエさまとか、そういうのには無理に関わらなくて良いからな?
……いや待てよ?
コリーちゃんは漢女だけど、実際化け物レベルで有能なんだよな。
いずれは知る真実だし、いっそのことコリーちゃんと引き合わせて、この子達の教育をしてもらうか?
コリーちゃんの知恵や機転にはいつも助けられてるし、なんなら、家族全員知った仲だし。
それに何より、コリーちゃんは子供にとても優しい。
そんなのは、娘であるクロエの表情を観れば、一目瞭然だ。
子供を真っ直ぐ純粋な子に育て、奥さんを大切にし、そして偶にサボるけど仕事は滅茶苦茶できる、人情味に溢れた漢女。
……マジでコリーちゃんと敵対しなくて良かったわ。
力では今や俺が上を行っているけど、ヒトとして勝てる気が、正直これっぽっちもしねぇぞ……
ふむ。
「なあマギー、ミケ。お前たち、コリーちゃ……コルソンに会ってみたいか?」
本当なら、一国の王族を気軽に部外者に会わせるべきではないだろう。
それが各国から畏怖を込めて、【破壊神】だの【悪人殺し】だのと呼ばれている、元冒険者となれば尚更に。
でもさ。
「会いたいですわ!義兄上さま、会わせていただけるんですの!?」
「怖いけど……僕もお会いしてみたい、です……!」
良い経験になると思うんだ。
そして、本当に頼りになる人を見定める、眼を養うことができると思う。
コリーちゃんほどの人材はそう易々と望めないにしたって、信用出来る人と出来ない人の、線引きくらいはできた方がいいんじゃないかな。
きっと将来の役に立つ。
そんな気がするんだ。
「よーし。今度暇を見付けて、会う機会を作ってやるよ。楽しみにしててくれな。」
2人の頭を撫でて、約束を交わす。
そうとも。
男マナカ、子供との約束は破りません!
モーラ始め孤児院の子供達を、旅行に連れて行ってやる約束もした。
ダンジョンコアでもあり、俺の半身でもある妹のマナエとは、一蓮托生の誓いを立て、必ず護ってやると、約束した。
そして……
幼い姿をした茶目っ気溢れる女神には、貰った生を、精一杯謳歌して、生き抜いてみせると心に誓った。
ああ、そうだとも。
モーラやエリザ、ラッカやノエル達を泣かせることに比べれば。
こんな面倒臭い主に捕まって、それでも俺の力として寄り添ってくれるマナエを、独りにすることに比べれば。
俺の本質を尊いと言ってくれた、あの優しい幼女神を失望させる、そんな一生を送ることに比べれば。
種族差別だ?
勇者だ?
大帝国だ?
宗教がなんだ。
戦力比がどうした。
世界の命運がなんだってんだ。
おうとも。
悪意に満ちた邪神が一体どうしたってんだ。
悪意なんざ、生きていれば誰でも抱くし、身に受けるだろうがよ。
それをちょっとばかし拗らせたからって、俺が大人しく膝を折ると思うなよ?
なんだってやってやる。
とり得べき手段は総てとって、手段が無ければ創り上げ、でっち上げ、場を混ぜっ返して、抗ってやる。
今までもそうしてきた。
それは、これからも変わらない。
胸を張って生き抜いて、胸を張って死ぬために。
俺のまだまだ長い一生を謳歌して、護りたい、大切な人達と共に、笑顔になるために。
争いごとは本当に嫌いだ。
波風立てずに、平穏に過ごしたい。
みんなから狙われるダンジョンだからって、戦わないとダメな訳じゃないんだって、そうして生きるつもりだった。
でもよ?
戦わなきゃいけない決まりはないと思うけど、戦っちゃダメな決まりもまた、無いだろうがよ!
「ところで、義兄上さま?」
心の中でキャッチコピーを改めて刻み込んでいた俺を、マギーが唐突に、現実世界へと引き戻した。
「ん?どうしたんだマギー?」
なんだか神妙な顔つきで、首を傾げ気味にあどけない瞳を向けてくるマギー。
俺は少々昂りつつあった心を鎮めるために、お茶をひと口啜りながら、マギーの言葉を待った。
「フリィ姉上とは、いつになったらご婚姻されるんですの?」
「ゴブッフォオハッ!!!???」
な、ななな何を言い出すんだこの妹っ娘は!?
鼻からお茶出ちゃったじゃねえか!!??
こらミケ!
うんうんじゃないんだよ!
いきなりなんて爆弾投下しやがるんだ、この妹王女めが!!
久々の登場になる、マギーとミケでした。
皆さん憶えていましたか?(笑)
憶えてないという方は、第41部分と42部分を参照なさってくださいませ。
そして新キャラというか……随分濃ゆいダンマスが出てきましたね。
どうぞ、憶えてやってくださいませ。
執筆の励みになりますので、評価、ご意見ご感想、ブクマを、お願いいたします。
2020年も残すところあと僅かです。
悔いなく新年を迎えられるよう、今後も一層、頑張っていきます。
応援よろしくお願いいたします。
以上、クリぼっちだった作者でした。
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