第十話 力を束ね、輪とする。
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〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 六合邸 〜
この世界の主神、豊穣神ユタの死(仮説だけど)と、転生神ククルシュカーの降臨によって起きた騒動から、1ヶ月が過ぎた。
この間に、俺の味方をしてくれているユーフェミア王国、冒険者ギルドの一部、そしてユタ教会の一部がそれぞれに連携し、先ずは目下の混乱を治めようと動いてくれた。
先ず、俺はギリアム司教の護衛という名目で、彼を教会本部の在る【スミエニス公国】へと連れて行き、彼の弟子だったという大司教に皆に聞かせた話を説明し、協力を取り付けた。
そして大司教と、かつて大司教であったギリアム司教の連名で、直属の上司である枢機卿へと上申を行った。
ユタ教会の上層部でも今回の異変によってかなりの混乱が起きており、そこに本部からの信頼の厚いギリアム老が持ち込んだ話は、正に渡りに船だったのだろう。
彼ら教会本部は、信徒達の不安を払拭するべく、動き出した。
その決定を後押ししたのが、かつての歴史ではスミエニス公国の主であった隣国、ユーフェミア王国の存在だった。
国王がこの異変に際しての見解を、各国の大使達を集めた場で公表したのだ。
それと同時にユタ教会への、混乱の鎮静化への支援を表明。
更には、公の場で冒険者ギルドに対しても緊急依頼を提出した。
僧侶ジョブの冒険者達を対象とし、ユタ神の加護は健在であると広めさせ、教会へ足を運ばせ、聖職者の話を聴かせるという依頼だ。
奉仕依頼としての側面が強いが、信者をより多く教会へ連れて来させるために、1人連れて来る毎に銀貨1枚を報酬として支払うことになった。
報奨金は一時的に教会に負担してもらうが、後ほど帳簿と照らし合わせ、王国と教会と、そして俺の三者で負担を割り、補填する予定だ。
他国も追随してくれれば良いんだけどね。
そこはまだ判らない。
けど、宗教の持つ力に理解の有る国々は、すぐさま賛同した。
こうして他国の賛同も取り付け、教会が活動し易い地盤を整えた。
ちなみにこれ、世界の目をユーフェミア王国に集めさせるという目的も有る。
特に、俺達が最も警戒している【神皇国ドロメオ】を、釘付けにするためだ。
ドロメオを支配するのは大陸最大の宗教組織【メイデナ教会】で、他種族を目の敵にし、他の神々を邪神と公言する彼等の目を、迷宮や他種族から逸らす目的がある。
勿論、それによって王国に向けられる敵意からは、俺が協力し全面的にバックアップすることを約束している。
すぐに戦争に発展することはないと思うけど、専守防衛の条件付きでなら、俺達の武力介入も視野に入っている。
更には他の貴族達をまとめるために、王家と一部貴族のみに規制してもらっていた交易の門戸を、少しだけ緩めた。
優先度は変わらないが、多少でも迷宮の恩恵に与れるとなった貴族達は、特に反対することも無く、国王の意に沿ってくれた。
そうそう、意外だったのが。
今回の件は、あくまで俺から王国への協力要請という形をとったんだけど、そうするよう提案し、防衛協力や規制緩和の案を追加で俺に出すようアドバイスしてきたのが、あのブ……メドシュトローム侯爵だったんだ。
貴族達の意見が賛同に傾いたのは、はっきり言ってそのおかげだった。
王様の話では実際有能な貴族であったらしく、先の王国の動乱の後には保身と勢力拡大に奔走し、その手腕を見込んで王族派に引き抜いたそうだ。
欲に塗れてなければ有能という、どこか辛辣なコメントではあったけど、その彼のおかげで手早く貴族達をまとめ上げることができたんだ。
王様の右腕がマクレーン辺境伯、左腕が宰相さんなら、今の彼の立ち位置は、懐刀と言ったところか。
俺と会うなり、凄い嫌そうな顔されたけどね。
相変わらず顔に出ちゃう人だったけど、まあお互い様だね。
俺も『げっ……!』って言っちゃったし。
ともあれ、神皇国ドロメオの目が王国に向くということは、隣接するエルフ達の住む森、ノクトフェルム連邦がターゲットから外れるということだ。
これを狙っていたというのが、最も大きいかな。
要は、時間稼ぎだ。
他種族であるエルフが治めているというだけで、ドロメオの手が延びる危険性が有った。
また、ノクトフェルムのエルフ達が、変な気を起こさないとも限らない。
そこにある迷宮も、そこに避難している魔族達も、狙われる可能性が高かったんだ。
けど、騒ぎの前に調べを進めていて、その内に判ったのはノクトフェルム連邦での活動の困難さだった。
プライドの高いエルフ達は、基本的に他種族を信用していない。
そして、目的であるダンジョン【神霊樹の祠】は、連邦の首長氏族の治める集落が護っている。
そこに到達するには、他の氏族の内5つの長の紹介を受けなければならない、など……
部外者である俺がダンジョンに挑むのは、ほぼ絶望的な条件が並んでいたのだ。
だから、順序を入れ替えた。
ノクトフェルムを最後に回し、他の3つ……いや、【死王の墳墓】はもう攻略したから、あとふたつか。
ドラゴニス帝国にある【愚者の塔】と、惑わしの森を北に抜けた大陸の北端にある【龍の巣】。
そっちを先に攻略することに決めたんだ。
そのための、時間稼ぎだ。
帝国の【愚者の塔】については、実はもう攻略を進めている。
俺が王様やらと忙しくしている間に、アザミ、シュラ、イチの3人に頼んで、階層を進んで貰っている。
脅威度もA級と判明しているし、ある程度の情報はギルドで揃えられたから、あの3人なら大きな危険なく進められるだろうという判断だ。
そして俺は。
「……疲れたぁ……マナエはモーラ達の所かな?」
ダレていた。
今は家に帰って来て、アネモネにご飯を作ってもらっているところだ。
食べたら先ずはフリオールの所に顔を出して、それからダンジョン攻略に合流だ。
ご飯までの時間はマナエに癒してもらおうと思ったら、居ないし。
「……幼女神の様子でも観に行くか。」
俺も働いているけど、みんなも頑張ってくれてるもんな。
あんまダレてもいられないよね。
ククルの身柄は、聖堂から俺の家に移した。
あれからも起きることがなかったため、家の空いている一室に、今は寝かせている。
一応ノックをしてから、そっと扉を開ける。
「まだ、起きないか……」
ずっと眠り続けているククル。
その傍へと行き、ベッドサイドの椅子に腰掛ける。
「なあ。お前、いつ起きるんだよ?ずっとこのまま、寝てるつもりか?」
声を大きくしないように気を付けながら、話し掛ける。
最近は暇さえ有れば、こうして眠る彼女に語り掛け、呼び掛けている。
「俺達はなんとかやってるよ。お前が来てから、ずっとバタバタで大変なんだぞ?今日も、王様達と話し合ってきたんだ。」
人形のように整った寝顔に、独り話し続ける。
「可笑しいよな。やっとこさみんなを守れるくらいに強くなれたと思ったら、この大騒ぎだ。俺さ、そろそろノンビリ、ほのぼの暮らそうと思ってたんだぜ?」
思わず苦笑が浮かぶ。
本当に、おかしな話だ。
俺はみんなとワイワイ、日々楽しく暮らしていたいだけだった。
けど実際は、北の大陸から魔族達が避難して来たので、それを保護して回り。
それに奔走していたら、今度はなんと世界の主神が死んでしまって、邪神が現れた。
ただダンジョンを大きく発展させて、ほのぼの暮らしたかった俺は、今では一国や世界規模の組織を引っ張って、その脅威に立ち向かおうとしている。
「前世の俺じゃ、考えられないよな。まったくキャラじゃないっての。なあ、ククル?」
早く起きてくれよ。
またあの時みたいに、イタズラっぽい笑顔を見せてくれよ。
「転生してから俺、かなり強くなったんだぜ?進化までしちゃってさ。アネモネも、最初に比べたら随分人らしくなったしさ。お前の目で、俺たちの成長を観てくれよ。」
柔らかい髪をそっと撫でる。
フワッフワだな。
「ダンジョンも観てほしいんだ。かなり階層も増えたし、まだ誰一人として、半分も進めてないんだぜ?凄くないか?
ダンジョンの中に街も創ったんだ。仲良くなったユーフェミア王国の人達に、そこに住んでもらってる。人口もかなり増えたんだ。
そうそう、色んな都市を回って、孤児達も集めたんだ。それで、俺の街の孤児院で面倒見てるんだよ。みんな可愛くて、ヤンチャで、元気いっぱいなんだ。俺はいっつも、オモチャにされてるよ。」
呼吸の必要が無い身体なんだろうけど、微動だにしない様子を観ていると、解っていても心配になるな。
頬にそっと、手を触れてみる。
うわ、雪〇だいふくみたいに柔らかいな。
「早く起きろよ。ダンジョンも案内したいし、色んな街に一緒に出掛けよう。大丈夫だって。勇者だろうが、帝国だろうが、邪神だろうが。お前は心配しなくていいから。俺が、なんとかするから。」
未だに情報収集の最中だけど。
世界に比べたら、ほんの小さな集団だけど。
たくさん仲間が出来たんだよ。
みんな優しいし、頼りになるんだ。
俺も、これまで色々助けてもらったんだよ。
そうして、みんなで一緒に、色んな事を乗り越えてきた。
だから、今度も大丈夫だよ。
みんな頑張ってくれているし、勿論俺だって頑張るさ。
「だから、さ。早く目を覚ましてくれ。それで、俺の家族や仲間を、お前に紹介させてくれよ。」
抓ったり叩いたりして起こしてやりたいのは山々だけど、それで何かがあったら大変だから、我慢して、起きるのを待ってるんだぞ?
早く目を覚まして、話してくれよ。
何かしてほしいんなら、ちゃんと言ってくれよ。
独り言もやめ、ただ無言で頬を撫で続けていた。
そんな俺の耳に、控え目なノックの音が聴こえた。
「マスター、お待たせしました。お食事の用意が整いましたよ。」
「うん。ありがとう、アネモネ。」
アネモネが、食事の支度ができたことを報せに来た。
俺はそっとククルから離れ、部屋を出る間際にもう一度彼女の顔を観てから、音を立てないように、ドアを閉めた。
「街のみんなはどうしてる?混乱は落ち着いたかな?」
アネモネが作ってくれた料理を頬張りながら、訊ねる。
「教会の関係者達が上手く説明して、なんとか混乱は抑えられています。街の有力者の方々も協力的で、治安等にも影響は出ていません。フリオール殿下が住民を集め、演説してくれたのも効果が大きかったですね。
それから、壊れてしまった御神体や個人の持つ祭具等も、回収し預かっています。事が解決したら、修復して返却すると触れを出し、今のところスムーズに行えています。」
うん、それでいいね。
今回破損した御神体や祭具は、俺が勝手に創った転生神の物を除けば、全てユタ神の物だ。
神様の復活なんて本当に可能かどうかは判らないけど、もしそれが叶ったのなら、全部直して、返してやらないとね。
ちなみに、一度修復を試してみたけど、ダメだった。
礼拝堂のユタ神の御神体は、首が落ちてしまったんだけど、魔法で繋いでみても、ダンジョンの機能で創り直してみても、またすぐに首が落ちてしまった。
うん。
あれは、いつまでも信者さんの目に触れる所には置いておけないよね。
だからこその回収、というわけだ。
「それと、アザミからの定時連絡が届きました。現在、【愚者の塔】の48階層まで進行したそうです。更に、出現する魔物の傾向から、終わりが近いと思われるそうです。」
早いな。
そろそろ終点って言うなら、先にそっちに行った方が良いかもな。
フリオールには悪いけど、上手くやってくれてるみたいだから、先にダンジョンに行かせてもらうか。
「了解。予定をちょっと変えて、先にアザミ達に合流しよう。悪いけど、フリオールに伝えておいてくれるか?」
「承知しました。食後のお飲み物は、どうしますか?」
いつもながら、嬉しい気遣いだね。
お腹が膨れて、正直ちょっと眠くなっちゃったからね。
「ありがとう。アイスコーヒーを、ブラックで頼めるかな?先に支度してくるから。」
返事を返して、食器を片付け始めるアネモネ。
自分の部屋に行こうとしていた俺は、一度足を止めて、アネモネに声を掛ける。
振り返ったアネモネに、俺は。
「アネモネ。いつも、美味しい食事やお茶をありがとう。それに、それだけじゃなくて支えてくれて、力を貸してくれて、助けてくれて、本当にありがとう。心から、感謝してるよ。」
正直な、感謝の言葉を伝える。
そんな俺の言葉に、アネモネは目を丸くして、そして頬を薄らと赤く染めた。
「最初は、ただ与えられた役目としてお仕えしていただけでした。ですが、今はそうしたいから、しているのです。どうか、お気になさらずに、このアネモネを、存分に頼ってくださいませ。」
嬉しい言葉だ。
俺は本当に恵まれていると、そう感じる毎日だね。
「うん。まだまだ大変だろうから、力を貸してもらうよ。それで落ち着いたら、ククルも目を覚ましたら、沢山話をしよう。アイツにアネモネの作った料理を腹いっぱい食べさせて、みんなでお酒も飲んで、今までのこと、これからのこと、いっぱい話をしような。」
微笑みを返してくれるアネモネにそう話して、俺は自室へと戻った。
支度を済ませたら、先ずはダンジョン攻略だ。
大丈夫だろうけど、アザミ達、怪我とかしてないよな?
早く合流してやらないと。
頭に、先程アネモネに語った光景が思い浮かぶ。
我が家の食卓をみんなで囲み。
お誕生日席にはククルが居て。
美味しい料理やお酒に舌鼓を打って。
笑いながら、騒ぎながら、沢山話をする。
そんな光景をイメージと、自然と顔に笑みが浮かぶ。
「絶対に、実現させるからな。」
独り言だけど、誰も聴いていないけど、そう宣誓する。
さあ。
頑張りますか!
ちょっとした説明回になりましたが、如何でしたでしょうか?
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「次はどうする?」
「これ無理ゲーじゃね?」
「お巡りさんロリコンはコイツです!」
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Xmasプレゼントだと思って!(笑)
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m(*_ _)m