表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/225

第八話 祈り、願い、想う。

いつもお読み下さり、ありがとうございます。


 

 〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】 冒険者ギルド・クレイドル支部 〜



「う〜ん……特にめぼしい情報は、入ってないわねぇ……」


 新たなダンジョンに関する情報は無いか、俺は街のギルド支部に、コリーちゃんを訪ねていた。


 特に、次の目標であるエルフ達が支配する【ノクトフェルム連邦】。

 そこの脅威度が不明とされているダンジョン【神霊樹の祠】についての、何らかの情報が欲しかったのだが……


 そっかぁ、無いかぁ。


「元々ノクトフェルム連邦は排他的なのよん。排斥とまではいかないけれど、それでもエルフ以外の他種族を見下してるからねん。


 特に人間族への悪感情は根強いわよぉ。まあそれも、一時期、奴隷狩りで多くのエルフ達が酷い目に遭ったから、なんだけどねん。


 アタシも現役の頃行ったことあるけど、寄って集ってヒトを化け物を観るような目で見てくるのよぉ?失礼しちゃうわ、もうっ!」


 ぷんぷんっ、と口で言いながら不平を漏らすコリーちゃんを、俺は無理もないよなぁ、と遠い目をしながら眺める。


 しかし、なるほどね。


 肝心のダンジョンには決して近寄らせてくれなかったから、流石の元Sランク冒険者のコリーちゃんでも名前しか分からないらしい。


 それでも、コリーちゃんに貰った情報をまとめると、次のようなことが判った。



 ・ノクトフェルム連邦は、首長部族である【シルウァ氏族】を中心に、大小13の氏族によって成る。


 ・13の氏族は、【ノクトフェルム大森林】を守護するように、広大な森に散開して暮らしている。


 ・13氏族の中にはダークエルフの氏族も少数であるが存在し、【夜森の眷属】と呼ばれている。


 ・【神霊樹(ウーラ・シエロ)】と呼ばれる超巨大樹を神と崇めており、精霊と大樹が信仰の対象である。


 ・エルフ達は、精霊=大自然を守護し共に生きていると自負しており、非常にプライドが高い。


 ・外来者は厳しく監視され、集落内では武具の類いを持ち歩くことは許されない。入場の際に申告し、預けることになる。


 ・首長氏族でもあり、神霊樹(ウーラ・シエロ)を守護するシルウァ氏族へと面通りを願うには、シルウァ氏族を除く12氏族の内、何れか5つの氏族の、長の紹介が必要である。



 とまあ、排他主義ここに極まれりって感じの内容だな。


「けどさ、外に出ているエルフやダークエルフだって居るだろ?ミラとか、ドルチェとかさ。中に入るのは厳しくて、出るのには寛容なのか?」


 気になる点を訊いてみる。


 Sランク冒険者として活躍していたコリーちゃんは、そういったお国の事情などにとても詳しい。


 そもそもSランク冒険者って、複数国家の推薦が無いとなれないらしいしね。

 まあ心情的には、『この化け物をSランクに推薦するから、ちゃんとギルドで手綱を握っとけよ!?』って感じだろうけど。


 とんでもなく突出した力を持つ個人なんて、国からしたら爆弾みたいなモンだもんね。


 国の縛りの外に居る冒険者に、国として言うことを聞かせるのは難しいため、Sランクという名誉ある称号で縛って協力してもらう、という仕組みらしい。


 あれ?

 でもそうすると、現在の俺の立ち位置である【ギルドの秘匿部隊】って、ギルド固有の戦力って扱いだから……あんまり活動し過ぎると、ギルドごと各国に目を付けられちゃうかも……?


 ううむ……

 魔族の保護が終わったら、一旦活動を控えようかな……?


「ドルチェなんかは、勝手に抜け出したらしいわよぉ。『なんで田舎の森の中で、何百年も過ごさなきゃならないのよ。』って言ってたわねぇ。姓を与えられる前に逃げてやったわ、って得意げに話してたわん。」


 ドルチェ……若い頃から我が道を往くスタイルだったのね。


「ん?姓を与えられる?」


 姓って、生まれつき持つ物じゃないの?


「なんでも、ノクトフェルム連邦のエルフ氏族の子は、35歳で成人を認められて、氏族名を姓として与えられるらしいのよん。氏族の役割を担う者、って意味が有るらしいわん。」


 へぇー。

 エルフの種族的な慣わしってやつかね。


「ミラなんかはどうなんだろう?彼女も飛び出してきたクチなのかな?」


 確か、彼女もエルフの年齢的には若かった筈だ。


「んもうっ!ダメよマナカきゅん!事情は人それぞれ。どうしても知りたいのなら、同じパーティーなんだから、アナタが訊いてあげなさいよぉ。


 んでもぉ、エルフだからって、みんながみんなノクトフェルムの出身とは限らない……ってだけ、教えてあげるわん♡」


 ……うん、ごもっともだな。

 少々コリーちゃんに甘え過ぎていたようだ。


 面倒を見るってパーティーに迎え入れたんだから、他のメンバーも含めて、一度しっかりと向き合った方が良さそうだね。


 あまり詮索されたくなくても、それが判るってのも大事だし。


「それじゃ、早速ウチのメンバーと話しにでも行きますかね。ついでにミラに、ノクトフェルムのこと知らないか、訊いてみるよ。」


「頑張ってねん♡でも、あんまり深く詮索し過ぎちゃ、ダ・メ・よ?」


 へいへい。


 コリーちゃんに礼を言って、俺はギルド支部を後にした。




 〜 冒険者パーティー【揺籃の守り人】拠点 〜



 なんだかんだで、パーティーメンバーが拠点にしている家に来るのは、久し振りな気がするな。


 前はちょくちょく顔を出してみんなの訓練を見てたけど、最近は忙しくて、あまり来られていない。


 そんなことを考えながら、この街の教会であるククルシュカー大聖堂を通り過ぎ、コリーちゃんの自宅も過ぎて、ミラ達パーティーメンバーの住む家へとやって来た。


「お、マナカさんじゃん!最近全然特訓に付き合ってくれないから、寂しかったぜ!」


 家の庭木に背を預けて、昼寝でもしていたのだろう女性――ベレッタが、身体を起こして此方へ駆け寄って来る。


「おう、来られなくて悪いな。色々と忙しかったもんでね。みんなは中で休んでるのか?」


 熊の獣人であるベレッタなのだが、何故か拳を振り回して殴ってくるので、捌きながら訊ねる。


「このっ!そうだな!ミラは地下室で、なんか難しいことやってるけど。とりゃっ!ミーシャとオルテは、せいっ!居間でノンビリしてるぞっと!うおわひゃひゃひゃっ!?」


 ふむ。

 みんな思い思いに過ごしてくれているみたいで、何よりだな。


「ありがとな。あと、大振りが多過ぎるぞ。魔物相手ならそれでも良いけど、対人戦での駆け引きも覚えろよ。」


 大きく振り切った右の拳を掻い潜って、ガラ空きの脇腹を擽ってやる。


 ……一応指導だけど、これってセクハラになるのかな?


「ひぃ、ひぃ……っ!いやあ、やっぱ強えなマナカさん!それに、なんか前と違うっていうか……匂いがなんか違うかも?」


「あー。多分だけど、進化したからかもな。とりあえず、中に入ろうか。」


 そんなに匂うのかな……?

 ちょっと気になっちゃうぞ……


 若干の懸念事項を新たに抱え、ベレッタも連れて、家へと入る。


「あ、マナカさん!お久し振りです!」


「マナカさん!?どーしたんですかー?急に来るなんて、珍しいですねー。」


 居間に行くと、虎の獣人女性であるミーシャと、人間の女性であるオルテが声を掛けてくる。


「2人とも、久しぶり。ちょっと話しがてら、様子見にね。ミラにも訊きたいことが有るんだけど、邪魔しちゃ悪いかな?」


 ベレッタの言う通り、ミラは地下室で何やら作業をしているらしい。


「んー。マナカさんなら大丈夫なんじゃないですかー?呼んで来ましょうかー?」


「いや、俺が行くよ。お茶とお菓子を出すから、みんなは先にゆっくりしててくれ。」


 無限収納(インベントリ)からティーセットを取り出し、3人に注いで渡してから、お菓子も取り出す。


 今日はババロアだな。

 深めの小皿に取り分けて、お好みで果汁ソースも掛けられるよう準備をしてから、俺は居間から出て行く。


「よっしゃー!最近来てくれないせいでお預けだったマナエちゃんのお菓子だー!」


「プルプルしてて、不思議ですね!」


「ちょっと、ベレッタ!?取り過ぎですーっ!」


 うん、ちゃんと残しとけよお前ら?

 ミラと俺の分も有るんだからな?


 ババロアの残量を心配しつつ、ミラが居る地下室を目指す。


 勝手知ったる他人の家……というか俺が創ったんだからバッチリ把握しているんだけど、地下への階段を降りて、中に人の気配のする部屋の扉を、ノックする。


『誰かしら?』


「俺だよ、ミラ。マナカだ。お邪魔しても良いかな?」


 中から誰何する声に答えると、何やらバタバタと中で動き回る音と気配がした。


 待つこと数分。


 扉が向こうから開かれた。


「お待たせ、マナカ。久し振りね。ちょっと散らかってたから……」


 息を荒らげ、若干顔を赤くしながら、そう言って俺を招いてくれる、エルフのミラ。


 別に気にしなくても良いのにな。


「お邪魔するね。なんか作業してるって聞いたけど、大丈夫なのか?」


 部屋に入りながら訊ねると、ミラは肩を竦めながら。


「別に、薬草を調合して傷薬を作ってただけだもの。ちょうどキリの良いところだったし、問題ないわよ。それよりアナタ、もしかして、位階が上がった?」


 よかった。

 邪魔をして気分を害してしまっても、つまらないしね。


 けど、なんだって?


「いかい?なんだそれ?」


 勧められた椅子に座って、ミラに質問を返した。

 いかい……位階か?


「位階っていうのは、存在の格のようなモノよ。それが上がるということは、存在の力が増すってことなの。」


「ああ。それなら、この間ダンジョン攻略中に、アークデーモンロードに進化したな。そのことか?」


 先程ベレッタにもチラッと話したが、魔族の姫であるセリーヌを保護したダンジョン【終焉の逆塔(リバースバベル)】で、守護者であるアークデーモンを倒した後に、変なアナウンスのような声が聴こえたかと思ったら気を失って、気が付いたら進化していたのだ。


 そんなことを説明すると、ミラは俺を興味深そうに見詰めて、溜息をついた。


「さらっと凄いことを言うわねぇ。相変わらずね、アナタ。そもそも、生き物の位階が上がるなんて、私達エルフや、アナタみたいな長命の種族であっても、滅多に起きない事なのよ?」


 そうなのか?

 よく分からんが、レベルを上げていけば、いずれは進化するんじゃないの?


「はぁ……アナタに関わっていると、私の中の常識がどんどん壊れていくわね。まあ、いいわ。それで?」


 失敬な。

 これでも俺は、大事なモノのために必死こいて頑張ってきたんだぞ。

 非常識扱いはやめてくれたまへ。


「……ん?」


「ん?じゃないわよ。何か用が有ったんでしょう?どうかしたの?」


 あ!

 会って早々に話し込んじゃったから、本来の用件を忘れてたわ。


「そうそう。ミラに訊きたいことが有ったんだよね。作業を止めて大丈夫なら、上にお茶の準備も出来てるから、飲みながら話さないか?」


 エルフの国のこととか、色々と知りたいことがあるのだ。


 それに、折角パーティーに望んで加入してくれたのに、大してコミュニケーションも取れてなかったからね。


「あら、準備が良いのね?作業も一応キリはついてるし、ご相伴に預かろうかしら。」


「ありがとう。それじゃ、みんなはもう始めてるから、俺達も居間に行くか。」


 俺はミラを連れて、他のメンバー達がお茶をしている居間へと戻った。


 しかしそこで、とんでもないものが目に飛び込んできた。


「……君たち。あれだけあったババロアがもう無いというのは、一体どういう事なのかな……?」


 そう。

 多少のお代わりも想定して多めに出しておいたババロアが、綺麗サッパリ消失していたのだ。


「いやぁ〜!マナエちゃんのお菓子は、いつ食べても美味しいな!いくらでも食べられるぜ!」


「ごめんなさいー!ついつい、手が止まらなくてー!エヘ♪」


「い、一応は止めたんですけど、力不足で……」


 ふむ。

 大体の事情は把握した。


「ミーシャ。ベレッタ。」


 我ながら低い声が出るもんだな。


「は、ははははいいいいっ!?」


「ん?どうした?マナカさん。」


 フリオールよ。

 今なら、いつかお前がマナエのお菓子をアザミに取られて落ち込んだ気持ちが、良く解るよ。


 辛かっただろうなぁ。

 悲しかっただろうなぁ。


 これは、お仕置き案件だな!!


「2人とも、部屋の隅で正座!!今から出すお菓子は、お前らには一切やらん!!」


「そそそそんなああああっ!!??」


「な、なにいいいいっ!?ズリィぞマナカさん!!オレも食いたい!!」


「黙らっしゃい!!ミラも俺もまだ食べてないのに、遠慮せずに食い切りやがって!食い物の恨みを!マナエの手作りお菓子の恨みを!!反省しながらとくと思い知れいっ!!!」


 と、いうわけで。


 居間のソファに俺、ミラ、オルテの3人が寛ぎ。

 その部屋の隅では、足の痺れに悶え苦しむミーシャとベレッタが正座で座らされるという、奇妙な空間が出来上がった。


 まあそれも、ミラとオルテが気になって仕方がないと言うので、慈悲をくれてやって参加させてやる迄のお仕置きだったけどな。


 2人とも涙を浮かべて謝ってきたから、まあ反省したということにしよう。


 まあそんなこんなでちょっとしたトラブルは有りつつも、俺はミラに訊きたいことを質問しながら、パーティーメンバー達とのお茶会を楽しんだ。


 結論としては、ミラもノクトフェルム連邦の内部のことは、あまり詳しくは知らないようだった。


 というのもミラは、コリーちゃんが示唆した通りに、ノクトフェルムとは別の森のエルフの集落出身だったからだ。


「あまり力になれなくて、悪かったわね。その代わりと言っては何だけど、ノクトフェルムに入る時は私も協力するわ。エルフが居た方が、彼等も多少は警戒を緩めてくれる筈よ。神霊樹(ウーラ・シエロ)も、一生に一度は観てみたいしね。」


 有り難い言葉だ。

 ダンジョンには流石に危険過ぎて連れて行けないけど、ノクトフェルム連邦に連れて行くくらいなら、大丈夫だろう。


「うん、その時はみんなで行こうか。偶にはパーティー全員で活動しないとね。」


 お代わりのチョコババロアもそろそろ無くなりそうで、穏やかな雰囲気のお茶会も、終わりに差し掛かってきた。


 しかしそんな時に、頭に直接、声が響いた。


『マスター、緊急事態です。今どちらですか?』


 アネモネからの念話だ。

 緊急事態……?


『今はミラ達の家に居る。何があった?』


 急に黙り込んだ俺を不思議そうに眺めるミラ達を手振りで宥めながら、俺はアネモネに返事を返す。


『中に居てくださって良かったです。すぐに大聖堂までお願いします。そこで異変が起きたと、フリオール殿下の下に急報が入りました。私もこれから、急ぎそちらに向かいます。』


 何やら只ならぬ雰囲気だな。

 アネモネの思念にも、緊張が入り混じっている。


『分かった。すぐに向かうよ。』


『お願いします。』


 アネモネとの念話を切り、俺はミラ達に向き直る。


「何だか分からんけど、大聖堂で何かが起きたらしい。俺はそっちに行くけど、君らはどうする?」


 一応ダンジョンメニューのマップは確認したけど、大聖堂周辺に敵性体の存在は確認できない。


 何が起きているかは判らないが、事態が把握出来ていない以上近くに居てもらった方が、危険から護り易い。


「私はついて行くわ。」


「オレも!」


「わたしも行きますー!」


「わ、私もご一緒しますっ。」


 よし。


「それじゃ、行こうか。」


 俺はミラ達を引き連れて、ククルシュカー大聖堂へと走った。




 〜 ククルシュカー大聖堂 〜



「おお、マナカ殿!!よくぞ来てくださりました!」


 閑静な教会周辺の住宅地を駆け抜け、俺達が辿り着いた時には、聖堂の扉は閉じられ、その前には信者達や教会関係者達が、人集りを作っていた。


 それを掻き分け扉に近付いた俺に、聖堂の責任者であるギリアム司教が、声を掛けてきた。


 その顔は緊張で、強ばっている。


「ギリアム司教、何があった?どうして扉が閉められているんだ?」


 聖堂の扉は、誰でも参拝できるように、日中は常時開放されている筈。


 警備に当たっている俺の配下の(さとり)と鬼も、どうしたものかと困惑している様子だ。


「それが……儂にも良くは理解できないのですじゃ。一先ず、中へ入りましょう。」


 信者達を宥めるために数人を残し、俺は教会関係者のみんなと共に、関係者の通用口から中へと入った。


 足早に通路を先導され、辿り着いたのは中央礼拝堂。


 俺が幼女神(ククル)や、ユタ教会で崇められている御神体を創り、安置した場所だ。


 そこに連れて来られた俺は、()()を観て思わず息を飲んだ。


「先程行っていたミサの最中に、突然()()なりましたのじゃ。先にユタ様が、次いでククルシュカー様の御神体が、このようなお姿に……」


 ギリアム司教が、あらましを説明してくれる。


 俺の目の前には、転生神ククルシュカーが中央に立ち、それを後ろから抱いている豊穣神ユタの御神体が在る。


 しかし、豊穣神ユタの首から上は、まるで斬り落とされたかのように頭部を失い、ククルシュカーの顔には、大きく亀裂が入っていた。


「なんで……こんな……」


 俺は呆然となり、ヨロヨロとした足取りで、俺をこの世界に転生させてくれた幼女神(ククル)の御神体に近寄る。


「分かりませぬ。それだけではないのですじゃ。信者達個人々々の持つユタ様の御神体や護符も、このように……」


 ギリアム司教が、大きなトレイに載せられた様々な物を見せてくる。


 首の取れた像、割れたロケット、破れた絵画……


 ユタ神にまつわる品々が、そのどれもが損壊して、そこに載せられていた。


「何か善からぬ事の前触れかと、祈りを捧げてはみたのじゃが……常と違い、祈りが神に届いていないような感覚に襲われましたのじゃ。もしや、神の御身に何事かが……」


 言葉は暈しているが、ギリアム司教はこう言いたいのだろう。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。


 俺の建てた御神体含め、ユタ神を祀る品々のそのどれもが。


 首が落ち、頭部が割れ、身体が真一文字に破け……


 人であれば死は免れない様子で、壊れているのだ。


 それが意味する事が神の死であるなら、ククルは……?


 もう一度、転生神ククルシュカーの御神体を観察するが、観られる損壊は顔の亀裂のみだ。


 これは何を暗示している?


「一体何が……お前に何があったんだよ!ククル!?」


 思わず声が出る。


 俺の上げた声は礼拝堂に反響して、虚しく木霊する。


 信者達は膝を折り、涙を流しながら必死にユタ神に祈っている。


「マスター、お待たせしました。」


「マナカ、待たせた……なっ!?こ、これは、一体……!?」


 遅れて来たアネモネとフリオールも、礼拝堂に入って来る。


 けど俺は、それを気に留める余裕も無く。


「おい!なんとか言えククル!何があったんだ!!」


 ただひたすらに、ククルシュカーに向かって呼び掛けていた。


「マナカ!落ち着け!皆の前だぞ!?」


「マスター!どうかお気を確かに……!」


 2人に羽交い締めにされ、ククルの前から引き戻される。


「落ち着けマナカ。お前がそんな様子では、皆の動揺も治まらん。」


 フリオールに落ち着いた声で諭される。


 だってよ……

 約束、したんだ。


 また会おうって。

 俺が生き抜いて、そして死んだ時には、また会って酒を飲みながら話そうって。


 なのに……!!

 ククルお前……一体どうしちまったんだよ……!?


「マスター……」


 アネモネがそっと、抱き締めてくれる。

 その服が、ポツリポツリと濡れていった。


 その時初めて、俺は自身の身体を震わせ、涙を流していることに気が付いた。


 俺だけじゃない。


 周りでは、教会の修道士達も動揺し、恐れ、涙を流して、口々に祈りの言葉を唱えていた。


 ……頭が冷えてくる。

 昇った血が下がり、身体の震えも治まり、涙も止まった。


 みんなごめん。

 不安を煽るようなことをして。


「ありがとう、アネモネ。フリオールも。もう大丈夫だ。みっともない姿を見せて、悪かった。」


 俺を抱いていたアネモネに支えてもらい、立ち上がる。


「もう一度だけ、ちゃんと呼び掛けさせてくれ。今度は取り乱したりしないから。」


 2人に離してもらい、気を落ち着けて、改めてククルの御神体の前に立つ。


(なあ、ククル。どうしたんだ?お前と、ユタ神に何かが起こったんだろ?教えてくれ。何があった?俺は……どうしたらいい?)


 目を閉じて、祈るように、想う。


 あの幼い姿をした、人をおちょくるのが大好きな、無邪気な女神を、思い描く。


 瞼を強く瞑り、願うように、想う。


 その時だった。


 ふと、目を閉じているのに、目の前が明るくなったような感覚を覚えた。


「なっ!?なんだ、あれは……!?」


 俺の後ろから、フリオールの驚愕するような声が聴こえた。


 俺は目を開き、慌てて後ろを振り向いた。


 そこには、声を上げたフリオールだけでなく、アネモネも、ギリアム司教も、ミラ達や信者達も、皆一様に顔に驚きを浮かべ、一点を見上げている姿があった。


 俺もその視線を辿ると。


「あれは……」


 ちょうど俺の真上。


 礼拝堂の宙空に。


 光を纏った幼い少女が、横たわるように仰向けで、浮かんでいた。


 見間違えるわけがない。


 あれは。

 あの子は。


「ククル!!」


 俺をこの世界に転生させ(導い)てくれた、幼い姿の女神。


 転生を司る神、ククルシュカーだった。




ここでクロスしました!


まさに急転直下!


「面白い」

「幼女神キタ━(゜∀゜)━!」

「いや、ラピ〇タかよ!?」


そう思いましたら、ページ下部の☆から、評価をお願いいたします!


物語はどんどん動き出します!

どうか、これからも見守っていてください!


感想、ブクマもお待ちしております!


m(*_ _)m


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] コリーちゃん支部長の情報管理 ミラさんの情報を守る、それは適切ですが、それだけではなく、主人公がまわりとよりわかりあえるようになるためのアドバイスまでしている。 その状況でしたら「信頼の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ